Anonymouz、ミステリアスなシンガーの素顔に迫る
INTERVIEW

Anonymouz


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年05月19日

読了時間:約11分

 Anonymouz(アノニムーズ)が17日、3rdEP『Greedy』を配信リリースした。2019年3月に突如YouTubeに現れたAnonymouzはJ-POPを英語でカバーすることで生まれる独特な世界観と、トランスペアレントな歌声が印象的なシンガーだ。YouTube登録者数は14万人を突破(※2021年5月現在)。昨年4月にリリースされた1st EP『No NAME』はiTunesオルタナ1位、総合4位を獲得した。インタビューではほとんど素性が明かされていないミステリアスな彼女の生い立ちから、歌と自身との関係性、3rdEP『Greedy』の制作背景などAnonymouzの素顔に迫った【取材=村上順一】。

Anonymouzのルーツに迫る

『Greedy』ジャケ写

――幼少期はどんなお子さんでしたか。

 小さい頃は元気で明るくて、友達もどちらかというと多い子だったと思います。引っ越したというのもあって中学生くらいから場に馴染めず引っ込み思案になってしまって。人間関係を難しく感じてしまって大人しくなってしまったんです。当時は明るく振る舞うことに疲れてしまって、仲の良い友達1人ぐらいに付き合うようになって。今は幼少期と中学生の時の中間にはなれたんじゃないかなと思います。

――その中でディズニー作品が歌うことへの接点になっているようですね。

 そうなんです。ディズニー・チャンネルで『シークレット・アイドル ハンナ・モンタナ』や『ハイスクール・ミュージカル』とか観ていました。あと、母がよく映画『サウンドオブミュージック』を観ていたのも大きくて、私も10回以上観ていると思います。そういったミュージカル作品を観ていたので歌う人への憧れがありました。

――シンガーではどんな方を?

 テイラー・スウィフトさんを好んで聴いていて、中学に入ってからは邦楽も聴くようになって、YUIさんやRADWIMPSさんも聴くようになりました。邦楽は共感できる要素が沢山あってそれが楽しくて。あと、母がピアノの先生で、よくクラシックやオペラを流していて、小さい頃から常に音楽が身近にありました。

――邦楽を翻訳してカバーされているのもAnonymouzさんの特徴だと思うんですけど、それも自然なことなんですか。

 母が外国人で英語で会話することも多かったので、それは割と自然なことでした。

――翻訳する中で大変なところは?

 メロディの数が決まっているところに英語を日本詞と同じ意味ではめることです。すごく難しかったんですけど、ニュアンスなど感覚的にわかるところもあったので、難しいと思いながらも楽しかったんだと思います。

――私のイメージだと英語はニュアンスのバリエーションが少ない感じがしているのですが、その辺りはどのように考えて翻訳していますか。

 極端な例だと、「好き」と「愛してる」という言葉は英語だとほぼ一緒なんです。歌詞の最後に「愛してる」とあって、最初の方で「恋してる」とかあると、なるべく同じ言葉は使いたくないので、訳すのが大変な時もあります。あと、韻を踏むのもこだわりがあって、オリジナルの歌詞で韻を踏んでいたら英語で翻訳したときも韻を踏みたいと思っています。それが気持ち良いと思って書かれている言葉だと思うので、私もそこはなるべく崩したくないと思っています。

――オリジナルの歌詞に対する敬意でもあるんですね。ところで、音楽を生業にしたいと思ったのはいつ頃から?

 幼少期から音楽は身近にあったので、自然とそういう気持ちは最初からあったと思うんですけど、14歳の時にギターを買ってもらってから、色んな音楽を聴くようになって「絶対に歌手になるんだ」と決めたのを覚えています。

――決心したらやり切るタイプ?

 それが割と飽き性なので、一つのことが続いたことがあまりなくて。昔はケーキ屋さんになりたいと思ってケーキを作ってみたこともあったんですけどすぐに飽きちゃいましたし、宇宙飛行士になりたいという夢もあったんですけど、星の勉強が大変そうだな…とやめてしまって。一時期、プラネタリウムにハマっていてよく行っていたんです。星のこともいつかちゃんと勉強したいと思ってはいるんですけど。歌だけは練習も苦ではなくて唯一続けられているものなんです。

Anonymouzに込めた想いとは

――そして、匿名性という意味を持つAnonymouzというお名前で活動していますが、どんな想いが込められているのでしょうか。

 「名前のない少女」というコンセプトがあって、匿名にあたる言葉が良いなと思っていました。他にも色々調べたんですけど、自分のイメージに合うのがAnonymousしかなくて。最後のSをZに変えてAnonymouzにしました。Anonymousだと色んな人がすでに使っていたのと、AからZという最初と最後いう意味、英語で色んな表現が出来たらいいなと思いつけました。

――コンセプトの中には絶望や落胆というワードも入っているのですが、Anonymouzさんもそれらを感じていて?

 まず、偏見を持って歌を聴いて欲しくない、たくさんの人に声だけを聴いてもらいたいという想いがあり、そこから「名もなき少女」というコンセプトに繋がりました。絶望というのは自分も中学時代に悩んで落ち込むことがありましたし、Anonymouzとして活動を始める直前にも落ち込むことがあったんです。その中で歌が唯一の救いだったので、その絶望から抜け出すために歌うことが自分に合っていたので、このコンセプトが生まれた背景にあります。私は歌うことで気持ちを切り替えることが出来たんですけど、歌ではなくても山に登って叫ぶのも良いと思います。

――Anonymouzさん、山がお好きなんですか。

 今、東京に来てから2年くらい経つんですけど、田舎に引っ越したいなと思うことがあって。もともと山の近くに住んでいたのもあって、また山に登りたいという気持ちもあります(笑)。

――はは(笑)。そういえばボイトレも歌うことへの大きなきっかけになったと聞いています。

 はい。部活も何もやっていなかったので歌を頑張ってみようと思いました。その中で喉を壊さない歌い方とか知りたいことが沢山あったので、「ボイトレに通ってみたい」と母にお願いして通い始めたんです。レッスンは2週間に一回ぐらいのペースなんですけど、先生に歌を聴いてもらえることでモチベーションが上がって、もっと上達したいと思いました。それがあったのも飽きなかった要因かも知れないです。

――先生からはどんな言葉を掛けてもらっていたんですか。

 具体的なことではないんですけど、「良い声をしているから、安心して」みたいな(笑)。第三者に褒めてもらえたことが歌い続けることへの原動力になったんじゃないかなと思います。

――ご家族は褒めてくれないんですか。

 母は親バカなのかな? と思うくらい私の歌を褒めてくれるので、あまり信用していなかったんです(笑)。

――ちなみにご自身では自分の声はどう感じていますか。

 あまり癖がない声だなと思っています。個人的には素直で真っ直ぐな歌しか歌えていなかったことで、どうにかして歌い方に癖をつけたいなと思っていたんです。でも、その癖がないことが逆に曲にハマることがわかってからは、気持ちが楽になりました。

全て欲張りな曲だった『Greedy』

――『Greedy』というEPのタイトルはどのような想いが込められていますか。

 最後にタイトルは決めたんですけど、この4曲を改めて見た時に、「良い欲」と「悪い欲」どちらも入っていると思いました。全て欲張りな曲だったんですけど、自分で合わせたわけではなく自然とそうなっていました。

――全曲、最近書かれた曲ですか。

 「足りないよ」以外はこのEPに向けて書き下ろした曲です。

――「足りないよ」はいつ頃書かれた曲なんですか。

 中学生の時に書いた曲で、当時からほとんど変わっていなくて、変わったのはアレンジだけなんです。

――男性目線で書かれていますね。

 この曲が初めて男性目線で書いた曲で、女の子の方が「足りない、足りない」とよく言っているイメージが私にはありました。でも、逆に男性がもっと愛されたい、愛が足りないと思っていたとしたら、というのをテーマにして書いてみました。実体験も交えて書いたんですけど、想像の部分が多いです。人見知りだった頃の私はみんなから認めてもらいたいと思っていたこともあって、その気持ちからこの曲が出来たんだと思っています。

――「In Our Hearts」はどんなイメージで制作されたのでしょう?

 コロナ禍の状況などを重ねているんですけど、一旦壊れてしまったものをまた積み上げて行く過程、向上心みたいなものを応援できる曲になればいいなと思いました。その中で優しくて光が差し込むような歌詞が書けたらいいなと思い、そこはこだわりました。

――この曲はTemmaさんと共作になっていますが、どんな制作の流れでしたか。

 この曲と「4D」はトラック先行で作ったんですけど、Temmaさんにトラックを作っていただいて、そこに私がメロディを乗せていきました。キャッチボールをするような感じでブラッシュアップしていただきました。

――自分でアレンジしたいという欲求は?

 まだチャレンジ出来ていないんですけど、機材を揃えてやってみたいという気持ちはあります。今の目標の一つでもあるんです。

――では「Homesick」はどのような作り方を?

 この曲はフィンランドで行われているクリエイターが集まるキャンプがあって、今回はコロナ禍ということもありZoomを使用しての開催でした。キャンプを紹介していただいて、やってみたいと思い参加しました。そこで海外の方と一緒に楽曲制作をしたんですけど、歌も考えてくれたり色んなアイデアが飛び交って、「Homesick」は私一人では絶対に作れない曲になりました。私の日本語から英語にしているような感じの話し方だとなかなか伝わらないところもあり、アイデアを伝えるのも難しかったんですけど、すごく貴重な経験でしたし楽しかったです。

――「Homesick」というタイトルになったのは?

 コロナ禍で当たり前だったことが当たり前じゃなくなってしまって、それがホームシックのような感覚に近いな感じました。それを大切な人と置き換えて考えた時に、その人と離れてしまった時に元の自分には戻れないというのが、ホームシックと似ているなと思って書いた歌詞なんです。

――そして、ラストは「4D」ですけど、これは“次元”のことですか。

 はい。映画館で4Dの映画を観ると、席が動いたり、匂いがしたり、風が吹いたりと色んな感覚を味わえるんです。例えば別れてしまった人の香りが街ですると振り返ってしまったり、その時に触れた時のことを覚えているというのが、「4D」という言葉に当てはまるなと思いました。

――匂いには敏感?

 香りは忘れない方だと思います。

――どんな香りがお好きなんですか。

 私は特に柑橘系が好きで、フルーツ系の香りを自分で選ぶことが多いです。

――映画館にもよく行かれるんですか。

 今はNetflixとか動画配信サービスで観ることが多いんですけど、高校生の時は週一で映画館に観に行っていました。ミステリー系やヒューマンドラマが大好きで割と何でも観るんですけど、特に好きなのは音楽のドキュメンタリー映画が好きなんです。クイーンさんの『ボヘミアンラプソディ』は映画館に観に行って刺激をいただきました。

ミステリアスな部分が少しでも取れるようなライブに

――レコーディングで今回新しい試みとかありましたか。

 「足りないよ」は日本語詞ということもあり、グッと心を掴むような歌にしたいなと思ったので、今作で一番録り直した曲でした。特にAメロは話しかけるように歌いたかったので、“歌う”ところに入るまでの境目や、サビでどれくらい盛り上げたら良いのか、というところはこだわりました。最初のテイクでOKにしてしまっていたら、皆さんに刺さらない曲になっていたかもしれないです。

――ちなみにレコーディングはお好きですか。

 はい! レコーディングは大好きで何時間やっても大丈夫です。休憩もほとんど取らなくて、6時間ぐらいやったり(笑)。

――すごいですね! レコーディング前にやっているルーティンはありますか。

 歌の先生から教わったリラックスする方法だったり、歌う前にやると効果的な筋トレ、スクワットなどをやったりしています。それらをおまじないのようにすべてやってからレコーディングに向かうんです。一個でもサボってしまうと「良い歌が録れないかも」と思って全部やってしまうんです(笑)。

――ジンクスになっているんですね。さて、5月21日に初のワンマンライブ『Anonymouz 1st Special Live ~Daybreak~』も行われますが、ご自身が観に行ったライブで印象に残っているものはありますか。

 坂口有望さんの弾き語りライブです。感情の込め方とか含めて「人間からこんな声が出るんだ!」とすごく衝撃を受けて、年齢も近いこともあり私も頑張らないといけないなと思いました。

――刺激を受けたんですね。最後にワンマンライブに向けて、今どんな心境ですか。

 初めてのワンマンなので緊張しているところもあるんですけど、YouTubeのコメント欄では何歳ぐらいの人が聴いてくれているのか、どんな心を持った方達なのかまでは見えていないので、ライブで直接お会い出来るのがすごく楽しみなんです。タイトルにある『Daybreak』に込めた想いは、ずっと私を覆っているミステリアスな部分を少しでも取れるようなライブにしたいと思い付けたタイトルなんです。応援してくださっている方たちと少しでも近づけるようなライブになったらいいなと思っています。

(おわり)

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