台湾の室内楽アンサンブルCicadaが、映画「ある男」(全国公開中)の劇伴音楽を務めた。第70回読売文学賞を受賞、累計35万部を超える平野啓一郎のベストセラー小説「ある男」を、『蜜蜂と遠雷』の石川慶がメガホンをとり映画化、11月18日より全国公開中。主演の妻夫木聡をはじめ、安藤サクラ、窪田正孝、清野菜名、眞島秀和、小籔千豊、仲野太賀、真木よう子、柄本明ら日本を代表する豪華俳優陣が集結し贈る「愛」と「過去」をめぐる、珠玉の感動ヒューマンミステリー。

 第79回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門への正式出品をはじめ、第27回釜山国際映画祭のクロージング作品として上映され話題に。さらに、アジアから唯一の出品となった第44回カイロ国際映画祭のインターナショナル・コンペティション部門では、最優秀脚本賞を受賞するなど世界から注目を集めている。公開初週末には邦画実写作品で第1位を獲得、映画やドラマ、アニメのレビューサイト「Filmarks(フィルマークス)」では初日満足度ランキング1位を獲得(11/21 Filmarks調べ)し、SNSなどの口コミでも「今年イチ良かった!」と絶賛の声が続出。

 本作で、登場人物の心の揺れ動きを強く印象づける劇伴音楽を務めたのは、台湾の室内楽アンサンブルCicada。石川監督の「“アジアの音色”を反映させたい」という強い思いからオファーを受け、日本映画に初参加を果たしたCicada。今回、松竹の秋田周平プロデューサーと、Cicadaで作曲とピアノを担当するJesy Chiangに、楽曲に込めた思いや、コロナ禍での制作秘話、影響を受けたという日本の音楽について聞いた。

――楽曲提供のオファーを受けた時の感想はいかがでしたか。

Jesy Chiang 楽曲提供のお話しをいただいた時は、すごくびっくりしました。嬉しい気持ちもありつつ、海外からのオファーは初めてだったので、すごく緊張しました。石川監督の「蜜蜂と遠雷」は台湾でも上映されていて、メンバーと観に行ったのですが、とても好きな作品だったのでご一緒できることが嬉しかったです。「ある男」のテーマはとても繊細で、自分がそのような音楽をやりたかったということもありますし、私は本の編集もやっているので、小説が原作の映画に携われることも嬉しかったです。

――コロナ禍での楽曲制作ということで、リモートで作業されたそうですが、苦労された点を教えてください。

秋田周平プロデューサー 元々、今までの楽曲がこの作品に合うと感じてオファーさせていただいているので、Cicadaさんらしさを出して欲しい、という話を前提に、細かいテーマについて打ち合わせを行いました。最後のレコーディングも、演奏・録音している台湾とリモートで繋ぎながら監督にチェックしてもらうなど、コロナ禍ならではのやり方でしたが、 Jesyさんが監督とそれまでに細かくやり取りしてくれたのでとても良い音楽になったと思います。

Jesy Chiang 今回のリモートでの制作では、監督がシンプルな言葉ではっきりと、伝えたいことや欲しい音楽を伝えてくれたので、やりやすかったです。対面の打ち合わせであればお互いに話す時の気持ちを把握しやすいですが、石川監督の場合はリモートでも分かりやすく意思を伝えてくれました。打ち合わせ中に監督が編集画面を見せてくれたので、シーンごとの音楽もぴったりはめることができました。劇中に、大祐が倒れるシーンがあるのですが、そのシーンの音楽の入れ方は何回も話し合いました。元々は倒れた瞬間に音楽を入れることを考えていたのですが、監督から「少し間を空けて音楽を入れた方が、大祐の心境を観客に想像させることができる」ということで、役者さんたちの繊細なお芝居が引き立つように工夫しました。

Jesy Chiang

――そうして完成した楽曲について、とくにこだわった点など教えてください。

Jesy Chiang 監督からは「一番欲しいのは、Cicadaらしい音」だと言われました。今回の楽曲は“他人の人生を生きている”というテーマなので、二つの音をあえて7度ずらして使い、他人なんだけどまだ自分が残っている、ということを意識して作りました。

――完成した映画をご覧になっていかがでしたか。とくに注目すべきポイントがあれば教えてください。

Jesy Chiang 制作中に何回も映像は見ていましたが、初めて完成版を見た時はすごく感動して、映画の世界に入り込んでしまいました。 今までも映画の仕事はしてきましたが、観終わってから2、3日も余韻が残るのはこの映画ならではのことで、キャラクターごとの日常的な部分もすごく共感できるものがありました。役者さんたちの目線のぶつかり合いなど、繊細な演技も注目すべき点だと思います。

――先日登壇された台北金馬映画祭で初めて監督とお会いしてみていかがでしたか。

Jesy Chiang リモートでやりとりする中で、とても親切な方のイメージがありましたが、そのイメージ通りすごく親切な方でした。一緒に食事をした時も、アウトドアの話題で盛り上がりました。監督はサーフィンをされるということで、バイオリンを担当しているメンバーもサーフィンが好きなので共通点がありました。

――普段、インスピレーションはどのような物事から得ることが多いでしょうか。

Jesy Chiang Cicadaの初期は、個人の経験や活動など自分の物語をベースに音楽制作をしていたのですが、この3、4年は大自然からインスピレーションを受けることが多く、メンバーで海へ行ったり、最近は山にも登ります。(日本の山や海に行ったことがありますか?)石垣島に行きました。富士山も登ってみたいです。

――好きな日本のカルチャーを教えてください。

Jesy Chiang 台湾では小さい頃から日本の音楽に触れているので、特にこれというのが難しいのですが、学生時代はLʼArc〜en〜Cielが好きでした。今は、坂本龍一さんが好きです。映画は、是枝監督の作品が好きでよく観ます。菅田将暉さんのドラマ「コントが始まる」は、芸人を目指す話ではありますが、私たちアンサンブルの活動にも通ずる点があるので共感できる部分が多く、第一話から泣きながら見ていました。

――劇中では、別人の人生を生きた「ある男」について描かれます。もし別人になれるとしたら、どんな職業につきたいですか。

Jesy Chiang ビジュアルアーティストとして活動してみたいです。大学院ではビジュアル芸術を専攻していました。キキ・スミスという芸術家の作品がすごく好きなので、卒論も彼女を取り上げました。

――今後どのような活動をしていきたいですか。

Jesy Chiang 来年の頭に新しいアルバムが発売されます。日本が大好きなので、来年は日本でライブをやりたいとメンバー全員で願っています。

Cicada

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)