INTERVIEW

吉田羊

「代償を今せっせと払っている」役者として追求していることとは


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:22年11月22日

読了時間:約5分

 女優の吉田羊が、11月23日よりBunkamuraシアターコクーンで上演される阿部サダヲ主演舞台COCOON PRODUCTION 2022『ツダマンの世界』に出演。津田万治の妻・津田数を演じる。作・演出を務めるのは、シアターコクーン芸術監督松尾スズキ。2 年ぶりとなる新作『ツダマンの世界』では、 日本の昭和初期から戦後を舞台に、主人公「ツダマン」を取り巻く人々の濃密な愛憎劇を描く。インタビューでは、津田数にどのように向き合い演じていくのか、松尾スズキの作品の魅力や役者として追求していることなど、吉田羊に聞いた。動画では活動の原動力について語ってもらった。【取材・撮影=村上順一】

阿部さんは私が目指す俳優の理想形

村上順一

吉田羊

――脚本を読まれて、どのような作品だと感じ取られましたか。

 松尾さん作品と言えば、時と場所を限定しないファンタジックな作品が多い印象でしたが、今回は史実に基づいた戦時を背景に描いているため、リアルな世界観が新鮮でした。とは言え、松尾さんらしいユーモアや優しさも健在で、言葉の美しさや切なさなどはやはり心を掴まれグッと来てしまいます。

――作・演出を担当される松尾スズキさんの凄みを感じるところは?

 松尾さん作品の魅力は、本音や弱さを必死に取り繕って生きる人間の滑稽さを、ユーモアで包んで笑い飛ばし寄り添ってくれるところだと感じています。笑いながらも、観終わったあとには小さな石がずっと心でコロコロ言っているような、妙な余韻と優しさに満ちている。また、登場人物たちに自分を重ね、「君も不完全でもいいよ」と言ってもらえたような気持ちになるのがとても好きです。

 今回まず驚いたのは、アドリブのように見えていた部分が、ほとんど台本通りだったことです。ユーモラスなセリフであっても、根底に流れる役の感情をきちんと認識させて生のセリフにして笑わせますし、偶発性は意図的に作り、全てが緻密に計算されています。松尾さん作品の凄みは、そうした繊細さの積み重ねではないでしょうか。

――吉田さんが演じられる数という女性は、どのような考えを持つ方ですか。共感できるところもあったのでしょうか。

 この時代を象徴するような、非常に健気ながらも芯の強い女性だなと感じました。ツダマンと再婚し、無学であることや戦争未亡人という身の上に引け目を感じつつも、新聞を読んだり料理の腕を磨いたりして、小説家の妻として相応しくありたいと努力している人。純粋にツダマンに惚れているのだなと感じるセリフも多く、嫉妬したり、嫌われまいと我慢したりといった姿は何ともいじらしいですし、物語後半、感情が変化していく様は、切実で胸がキュッとなります。

 数を演じていると自分と重なる部分もあり、例えば、自信がない故に、求められると喜んで自分を差し出してしまったり、そんな自分を客観視して、前向きに腹を括っていたり。松尾さんが私の性格をご存知で当て書きしてくださったのかなと思うほどですが、松尾さんが求める数さんになれるようがんばります。

――数を演じるにあたって難しいと感じているところはありますか。

 松尾さんの作品は、シリアスとユーモアが複雑に入り組んでいるので、デフォルメするところとリアルに演じるところの判断が難しいなと感じています。しかもところどころ笑いを生み出すものですから、正攻法が正解でない場合もあってなお難しい。ひとまず、数さんならどうするかと考えるようにして、表現できていないところは、松尾さんの演出に助けて頂いています。

――役にアプローチするにあたって、事前に準備されていることはありますか。

 太宰治の短編を読んだり、戦時中の女性の服装や、基本和装なので着物の捌き、所作などを学びました。ただ、戦時中の話ではありますが、そこにいるのは現代の私たちと変わらず、悩みを持ち、ままならぬ人生を生き抜いている人々。いま自分が抱えているものを投影しながら、等身大で演じられたらと思っています。

――共演される阿部サダヲさんはどのような役者さんだと感じていますか。

 阿部さんは尊敬する俳優さんのお一人で、今回阿部さんが役を立ち上げる様子を間近で見られることを楽しみにしていましたが、結果、毎日稽古場で爆笑し、唸っております。シリアスもコメディも、子どもからおじいちゃんまで変幻自在、演出家の求めに200%で返す感性と存在感。なのに、舞台を降りると気配を消す。それも含めて阿部さんはやはり別格でした。そして私が目指す俳優の理想形だなと改めて。

――『ツダマンの世界』を通して、どのようなことが伝わったら嬉しいですか。

数を含めた登場人物の多くが、人生に不満足だったり自信がなかったり、理不尽に振り回されているんですよね。うまくいっている人は一人もいない。でも、みな必死で生きていて、よりよい場所へ行こうとしていて。人生だいたい苦しくて辛いけれど、不格好でも死ぬまで生きようぜ、というようなメッセージを私は受け取りました。例えばそんな部分が伝わったらいいなとは思います。

自分の不足を補い、弱さを克服していくこと

村上順一

吉田羊

――吉田さんがいま思う舞台の醍醐味、魅力はどこにあると思いますか。

 お客様の存在は大きいです。映像だとお客さまの反応を頂くまでに時差がありますが、舞台はリアルタイム。怖さもありますが、反応があれば嬉しいですし力になります。またお客さまの反応に教えて頂くこともあります。

 そして、反応も含めて毎日進化していくのが舞台の魅力とも思うようになりました。舞台をやり始めた頃は、毎日同じ物を、同じ合格ラインで見せなければならないと思っていたのですが、生身の人間がやる醍醐味は、同じものが二度とないということだなと。回数やるからこそ気付けることもあるんですよね。

――ご自身がいま役者として追求されていることは?

 自分の不足を補い、弱さを克服していくこと。私は、「やってこなかった」ことが多い人間なので、その代償を今せっせと払っているところです。

――最後にこの舞台を楽しみにされている方へメッセージをお願いします。

 命の危険と隣り合わせの戦時下に、愛憎にまみれ嫉妬とプライドに身をやつす人間の愚かさをユーモアで包んで笑い飛ばす、今回も松尾さんらしい作品です。2022年の締めくくり、どうぞ楽しみにご来場ください。

(おわり)

村上順一

吉田羊

ヘアメイク:赤松絵利(ESPER)
スタイリスト:石井あすか

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