INTERVIEW

大西沙織

「私はこれでいいんだ」声優デビュー10年間での気持ちの変化


記者:村上順一

写真:

掲載:22年10月19日

読了時間:約8分

 声優の大西沙織が、10月12日よりTOKYO MXで放送が開始されたアニメ『ある朝、ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生』に出演。ダミーヘッドマイクに転生してしまった“俺クン”と“ASMR部”に所属し、“ASMR甲子園”を目指す高校生の浅草ゆりを演じる。同作のストーリーはASMR甲子園出場を目指す高校生、浅草ゆりと、そんな彼女をどこか冷ややかに見守る蔵前ぱんだ(CV.鬼頭明里)。そんな2人を取り巻く友人たちと突如ダミーヘッドマイクに転生した“俺クン”と繰り広げる“新感覚ASMRドタバタコメディ”作品。インタビューでは浅草ゆりに臨む姿勢から、ASMRへの興味、いま声優として追求していることなど話を聞いた。【取材=村上順一】

自分の声にコンプレックスを感じていた

『ある朝、ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生』キービジュアル(C)俺クンの人生製作委員会

――2012年に声優デビューされましたが、改めてこの10年を振り返ると、どんな時間でした?

 大変な10年でした。好きなことをお仕事にすることは素晴らしいことなのですが、「もし嫌いになっちゃったらどうしよう...」という不安がありました。他にもなぜ私はこんな表現しかできないのか、あの人みたいにお芝居できないんだろうとか、そういったことが大きかった10年でした。でも、徐々に「私はこれでいいんだ」と思えるようになったことで、その鬱々とした気持ちから抜け出すカギになりました。

――この10年で自分の声の持ち味みたいなところは変化も?

 私は声に特徴があるわけではないので、初期の頃は、「この声が欲しい」や「この役にしたい」と思ってもらえないのではないか、と自分の声にコンプレックスみたいなものを感じていました。でも、色々な作品に出演させていただいて、「この声は大西沙織じゃない?」と言ってくれる方が増えてきたことも、自信に繋がったのかなと思います。徐々に自分の声は特徴がなくて寂しいと思うことがなくなりました。

――さて、この作品の参加が決まった時の心境は?

 ASMRはすごく好きなんです。アニメとASMRがコラボするとどうなるのだろう? というドキドキとワクワクがありましたし、ダミーヘッドマイクに魂が宿るというのは斬新だなと思いました。

――ということは、プライベートでもASMRを活用されているんですか。

 最初はスライムのASMRから入りました。それを聞くと落ち着くんです。そこから様々なものを聞きました。何かを食べている音、木と木をこ擦り合わせた音、聴いている人をメイクアップするようなASMRなど、癒しを求めて聞いていました。

――特にハマったASMRは?

 ちょっと特殊なんですけど、口紅を板で潰す音にハマりました。昔ながらのリップを木の上で潰して捏ねていくASMRは、私のツボでした。

――様々なASMRを聞いていく中で、発見や気づきはありましたか。

 空気を通して耳に入ってくる音だと食べている音も不快に感じることがあると思いますが、ASMR作品として録音されたものだと不快ではなくなると言いますか。日常にある音がこんなにも心地良い音になるんだという発見がありました。

――今回、アフレコでダミーヘッドマイクを使ってみていかがでした?

 アフレコの現場で使うのは初めてでした。普通のマイクも使いつつ、ASMR用としてダミーヘッドマイクを使う収録は新鮮でした。

――ちなみに、ダミーヘッドマイクは自宅に持ってます?

 持ってないですよ(笑)。

――もし、もらえるとしたら?

 家にはいらないかも(笑)。ダミーヘッドマイクって顔の形をしてるので、家にあったらちょっと怖いかなって...。もしいただいたら事務所に寄付すると思います。事務所の後輩とかがダミーヘッドマイクを使って練習できるようになったら素敵ですよね。

――大西さんがダミーヘッドマイクに転生したら、どんなことをやられてみたい?

 猫の喉の“ごろごろ”の収録や、マイクに猫用のごはんをつけてそれを猫が舐めるASMRがあるんですけど、それをやられてみたいです!

――台本を読まれて興味深かったところは?

 俺クンはダミーヘッドマイクとして最後まで進んでいくものだと、最初思っていたのですが、2話からはダミーヘッドマイクではない、別のものにも転生するんです。「こんなものにも転生するんだ!」という驚きがありました。

――浅草ゆりはどんなキャラだと思いました?

 ゆりちゃんはASMRに青春を注ぎ込んでいる女の子です。私からするとその注ぎ込み具合は狂気と言いますか、ここまでASMRへ執着心があるのかと(笑)。でも、ここまで熱中できることがあるのは、素晴らしいことだなと思います。

 あと、脚本の言葉選びは、私が出会ったことがない感じで面白いなと思いました。ゆりちゃんは受動的というよりは、割と自分から仕掛けていく方なので、一人で収録していても、「みんな受け取って」という気持ちで投げることができたので良かったです。これが誰かの影響を強く受けるキャラクターですと、相手の声が入っていない状態で一人でやるのは難しかったなと。なので、他のキャラクターは難しそうだなと思いました。

――役作りはいかがでした?

 「よし、可愛い女子高生を演じるぞ!」とまず一段階スイッチをいれました(笑)。やってみて改めて大変だなと思ったのですが、ASMRは耳元やリスナーの顔周りの近くで音を出すことが多いので、張るような声を出すよりも囁くような癒しボイスで喋らなければいけないんです。ゆりちゃんの声を保ちつつ、ウィスパーにしていくのが意外と難しくて。小声になった途端、ゆりちゃんの声がいなくなってしまうこともありました。

――大西さんは高校生の時、クラブ活動してました?

 いえ、声優の養成所に通っていたので、部活には入らなかったんです。

――もし部活に入るとしたら何部に入ってました?

 小中の頃は吹奏楽をやっていたので、もしコンクールで強い高校だったら、そのまま吹奏楽部に入っていたかもしれないです。

――音楽はお好きなんですね。

 好きです! 今はやっていないのですが…。中学生の時に親に「一生吹くから買って!」とおねだりして、かなりいいサックスを買ってもらったんですけど、大学生の時に落として壊してしまったんです。それを今年の春に楽器屋さんに持って行って直しました。今のところ吹く予定はないですが、青春時代をともに過ごした楽器なので申し訳ないなと思って。綺麗な状態で持っていてあげたいなと思いました。

もしダミーヘッドマイクに転生したら...

――浅草ゆりを演じるにあたって大切にしていたことは?

 可愛さです。寝息のASMRを録るシーンがあったのですが、皆さんに寝息を楽しんでいただくという前提があったので、「現実だと少し不自然だよね」というくらい可愛いらしい寝息になっています。可愛い寝息がしっかりとマイクに乗るように気をつけて収録しました。

――台本はどのように読んでいきますか。

 私の場合は、まずセリフだけを全部バーッと読んで、2周目でト書きを反映しながら読んでいくことが多いです。あとは山場をどこに持ってくるのか、など全体像を把握していくという流れです。

――今回、印象的だったト書きはありました?

 『news zero』(日本テレビ)の「ゼーロー♪」の感じでお願いしますという指示は新鮮でした(笑)。

――現場ではどのようなディレクションがありました?

 ダミーヘッドマイクに向かって演技をするところは、自分では音を聞かずにやっているんです。スタッフルームで音を聞いていただいているのですが、その時に「ちょっと遠く感じるとか、近すぎる」など、マイクとの距離感は指示を受けながらやっていました。

――自分が演じたキャラ以外で気になるキャラは?

 全員気になっているんですけど、蔵前ぱんだちゃん(CV.鬼頭明里)が一体何キャラなのか、いまだによくわかっていなくて。クールで大人しいのかなと思ったら、罵倒したりするシーンもあったので(笑)。私の中では、妹の浅草ととちゃん(CV.久保田未夢)が一番まともに見えると言いますか、可愛いなと思いながら手放しで見れるキャラです。

――完成した映像を早く観たいと思っているシーンは?

 ザージーパイを食べている回があるんですけど、すごくザクザクしていて心地よい音だと思うので、ゆりちゃんがもぐもぐしているのを早く観てみたいです。

大西沙織のリラックスアイテム

――声優として、いま追求されていることは?

 肩の力を抜くことです。すごい緊張しいで肩に力が入りながらやってきた10年でした。ようやく肩の力を抜いて、楽しんでお芝居をしていいんだという感覚に、ここ1、2年でなれたんです。自分が完璧だと思って出したものと、周りが気に入ってくれたものって必ずしも合致してるわけじゃないんです。それならば肩の力を抜いて、楽しくやりながらも指摘していただいたところを修正していければ、それがいいのかなと思いました。

――そんな大西さんのリラックスアイテムは?

 アイテムではないんですけど猫です。むぎまるという名前の猫を飼ってるんですけど、むぎまるのかわいい写真を眺めています。あと、少し疲れたなと思った時は、スマホのカメラロール見てしまいます。この時すごく楽しかったとか、この料理、美味しかったなとか思い出してリフレッシュしています。

――思い出がリラックスアイテム。

 けっこう振り返ることが好きかもしれないです。

――そんな大西さんの原動力になっているものは?

 私は推しがいまして、その推しが笑顔でいてもらうために見守っていることが、私の生きがいで原動力になっています。推しがいてくれれば、私は一生頑張れますから(笑)。

――『ある朝ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生』は、どんなところに注目して欲しいですか?

 ASMRの醍醐味ってヘッドフォンやイヤホンをして、距離感や臨場感を楽しめるのですが、これをテレビで放送するのはすごいなあと思いました(笑)。ヘッドフォンで一回はこのアニメを聴いてみてほしいです!

――最後に、『ある朝ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生』は、大西さんにとってどんな作品になりましたか。

 異質な作品です。業界の中でもあまり多くはない作品だと思っていて、10年やってきた中でも初体験でしたから。そんな珍しいアニメに出会えて嬉しいです。

(おわり)

■番組情報

『ある朝、ダミーヘッドマイクになっていた俺クンの人生』

2022年10月12日~12月28日
毎週水曜日25:00~25:05
放送局:TOKYO MX

この記事の写真

記事タグ 

コメントを書く(ユーザー登録不要)