ロックやヒップホップ、エレクトロ、そしてダンスはそれぞれ異なる次元のジャンルという認識があるかもしれない。しかし、パンクロックの歴史や変遷を追っていくと現代音楽に大きな影響を及ぼしていることがうかがえる。日本における現代ロックの流れをくむオルタナティブロック、そしてその源泉であるパンク。自由を求める一つの手法として米国で生まれ、そして英国で育ち世界へと波及した。その後の音楽シーンに多大なる影響を与えた世界的一大ムーブメント発生から約40年。火つけ役となった伝説のロックバンド「Sex pistols」を追いながらパンクロックの歴史と誕生の背景、意義などを考察したい。

パンクを信じるな。自分を信じろ(Anarchy said that be free)

 パンクロック、ポストパンク、メロコア、スカパンク、エモコア、ポップパンク、青春パンク。パンクロックの中でも細分化すると、このように呼ばれるジャンルに棲み分けができる。実際、パンクと聞いて上記のどれかをイメージする人も多いのではないだろうか。

 「俺は今の連中のパンクってのは服装のことだと思うのさ。そしてそのユニフォームに収まるだけで、何もわかっちゃいない」(Sex pistols /ジョニーロットン)

 パンクロックとは1960年代にアメリカ・ニューヨークNYのアンダーグラウンドシーンで始まり、1970年代にイギリスでセックスピストルズ、やクラッシュたちを中心に、世界中に衝撃を与え一瞬にして広がった。巨大で且つ過激な“ムーブメントだった”ことを知らない人は少ないだろう。

 いや、パンクとは “ムーブメントだった”では終わらせることのできない、音楽シーンにおける絶対的なパラダイムの転換点だったこと、そして今もなお、影響力を保ったまま、現在進行形で存在する“自由”そのものであると言える。

一般の人々にとっては理想としての自由を、一部の限られた人間にのみ許された自由を、理想を否定し、条件を破壊して、自ら創造する自由として実践してみせたのが、パンクなのではないだろうか。

 「誰かの真似をするわけでもなく、何かに縛られるのではなく、自分自身に忠実に自由であれ」ということである。

 その表現は結果として、音楽だけにはとどまらず、数多くの分野にまで影響を与え、パンクが叫んだ「本来あるはずのなかった未来」は、パンクの基本理念によって現代を作り上げたと言っても大げさな物言いではないだろう。

 ザ・クラッシュのジョーストラマーはこう言った。

 「クラッシュを信じるな。自分を信じろ」

ポジティビティとしての否定、破壊、構築

 パンクの本質として、もう一つ提示しなければならないものが、先鋭性である。

 パンク・ムーブメントは反社会的な衝動によって、若者たちの間で起こった。その根底には、若者たちの社会へのフラストレーションが事実としてある。「自分たちは納得していない」という、社会や組織にがんじがらめにされた、不満である。

 だが、反社会的で、お行儀が悪く、大人には理解しがたいそのフラストレーションの伴ったムーブメントは、決してネガティブなものではなかった。不器用な若者たちが自由を獲得するために必要な直接的な表現であっただけなのである。

 規定のものを否定し、既存のものを破壊する、そして、自らで新しいものを創造し、構築していく、というやり方はとても合理的でポジティブである。

 「セックス・ピストルズの客が、みんなお揃いのパンク・ファッションで現れることに俺はムカついていた。こっちの真意からはずれてるよ。俺たちがやってることを理解してない。俺たちは"みんな一緒"なんて真っ平御免と思ってたぐらいだぜ。俺たちのポリシーは、みんなで同じ恰好をして、同じ人間になる事じゃない。パンクとは自分自身に忠実であることだ。そもそもファッションてのは、追いかけるんじゃなく先走るもんだろ」(ジョニーロットン)

 そして、先鋭性が発生する。

 ピストルズ脱退後のジョニーロットン(ジョン・ライドン)が結成したP.I.L、音楽的にはパンク・ロックではない。しかし、後の世代にとっては、パンクとして認識されていることが多い。

 そこには、自分に忠実に行動した結果、先鋭性を伴っているからではないだろうか。むやみやたらで自暴自棄なネガティブなものではなく、フロンティア精神をもったあまりにもポジティブで、自由を目的とした否定、破壊、構築だからである。

 しかし、冒頭に上げたパンクのカテゴリーを改めて見ると、全てとは言えないがパンクとして許容できるモノは少ない。そこに、先鋭性はないのだ。パンク特有の否定、破壊はあっても、構築を忘れているのである。

 パンクという言葉を借りた、楽観性、もしくは商業性を目的とした真似事なのである。自分自身に忠実に、自由な表現を目的とした音楽でもない。みんなとお揃いではないパンクは、目的を達成するための道具としては不向きで、大衆受けしづらいやり方なのであろう。

 逆に即効性のあるスピード感やポップ感を使用したほうが、コンビニやファーストフードのように、目的を達成するためには簡単なのである。後に、ジョン・ライドンはピストルズ再結成時のインタビューで、こう答えている。

 「再結成は金のためだ」

 しかし、人々はパンクを忘れることができず、時代はパンクを無視することができずに、後に違った形で出現するのである。

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