INTERVIEW

酒井祐輔氏

ももクロはどこへ向かうのか、酒井祐輔監督が語る女性アイドルの可能性


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:22年08月18日

読了時間:約8分

 映画『ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~<特別上映版>』が、8月19日に全国公開される。今回公開される特別上映版は3月に上映された作品に未収録のインタビュー映像や新たに撮り下ろされた追加映像を収録。同作はTBS系『A-Studio』のプロデューサーを長年務めてきた酒井祐輔氏が監督を務め、TBS DOCSがももクロに密着したドキュメンタリー映画。2022年3月に東京・ヒューマントラストシネマ渋谷で開催された「TBSドキュメンタリー映画祭 2022」で上映され、反響を受けて全国公開となった。(※「TBS DOCS」とは、TBSが新たに立ち上げたブランドで、テレビでは伝えきれないドキュメントを発信。“DOCS”はDOCUMENTARY FILMS の略称)

 本作では、ももクロの4人が人生観や将来などについて赤裸々に語るトークパートや、ももクロのチーフマネージャー・川上アキラ氏などへの関係者インタビューを通じて等身大の4人に迫るものとなっている。インタビューでは、本作の監督を務めた酒井祐輔氏に、ドキュメンタリーのテーマについて、ももクロのようなトップスターが持っている姿勢や、本作を通して感じてもらいたいことなど、ドキュメンタリー制作の舞台裏に迫った。【取材・撮影=村上順一】

女性アイドルの可能性を見たい

酒井祐輔氏

――「ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~」を制作しようと思った経緯はどんなものだったのでしょうか。

 もともと僕がモノノフ(ファンの呼称)ということもあるんですけど、「TBS DOCS」としての映画制作を視野に入れたドキュメンタリー『解放区』(令和の今と未来を感じる新時代のドキュメンタリー番組)というのが、日曜の深夜枠にあります。そこで放送するドキュメンタリーの企画募集があり、報道局の記者以外からも広く企画を募るということだったので、僕はバラエティのプロデューサーでしたが参加しました。その中で自分が撮ってみたいドキュメンタリーの題材として企画を8つぐらい提出したんです。そのうちの1本がももクロで、その企画を報道局に採用してもらい実現に至りました。

――酒井さんはご夫婦でももクロのファンだとお聞きしています。

 妻がももクロに対してすごく興味を持ったのをきっかけに、2人でライブDVDを観ていたら、そのまま2人して“沼”に落ちました。最初は会場の盛り上がりとか「すごいね」といった感じでDVDを見ていたんですけど、気がついたらもうモノノフになっていました(笑)。

――ドキュメンタリーのテーマも面白いですね。

 彼女たちは一体これから先どこへ向かうのかという、自分がももクロにずっと抱いていた疑問というか興味があったので、それをテーマにドキュメンタリーを撮ってみたいと思いました。でも、今さらももクロのドキュメンタリーを撮るのに、「ステージの裏でこんなに努力している」とか、「汗と涙があるんです」というものを作ってもしょうがないという思いがありました。

――確かにそういったシーンはないですね。

ももいろクローバーZ(C)TBSテレビ

 今の彼女たちのことを見つめるんだったら、このテーマだと思いました。男性は40代50代になっても、アイドルで居続ける道というのはジャニーズの皆さんが切り開きました。でも、女性でまだそこまでアイドルを全うできている人がいない中で、彼女たちはひょっとしたら今まで日本の芸能界にはいなかった、30代40代になっても女性アイドルという道を確立する…その道を切り開いていく存在になるんじゃないかと思い、その可能性を見たいという企画にしました。その中で結婚観など、プライベートにも踏み込んでいくわけです。企画書の段階で、そういった質問を本人たちに投げかけて、何を考えているのかを直接聞きたいという思いを入れ込んでいました。

――そのシーンも印象的でしたが、なかなか聞きづらい質問でもありますよね?

 なので、報道局は最初に「本当にこんな取材が実現するのか」「トップアイドルの人たちがこんな取材を受けてくれるのか」と言ってましたね(笑)。それで、企画を通す前に内々にそのあたりを聞いてみて欲しいと言われたので、チーフマネージャーの川上(アキラ)さんにお会いして、その旨を伝えました。そうしたら川上さんは面白がってくれて、「自分たちが目指してきた方向とズレた企画ではないのでやります」と言ってくださって。それで報道に「受けてくれるみたいです」と報告したら、「すごいね」みたいな感じになって。

――酒井さんの情熱もすごかったんだと思います。

 僕がももクロのことをよくわかってくれている人だという認識は、川上さんにもメンバーにもあるし、酒井が撮るんだったら変なものにはならないだろう、というのは多分あったと思います。

――信頼ですよね。

 いま思い出したんですけど、川上さんと打ち合わせをした時、ディレクターさんとももクロを事前に会わせた方が良ければ、そういう場を作りますよと仰っていただいたんですけど、「僕が自分でカメラ回すかもしれないです」と話したら、川上さんが「えっ酒井さんが直々に撮るの?それだったら安心」と言ってもらえたんです。だから信頼というのはあったと思います。なので、踏み込んだ質問をすることも本人たちには事前に伝えなかったんです。

――もう突発的に。

 そうです。現場で初めてガンガン聞く感じですね。当然本人たちも「えっ! そんなことまで聞かれるんだ」という戸惑いもあったと思うんですけど、それを聞いているのが僕だったので、おそらくそこは信頼感で、誤解されることを恐れずしゃべってくれたと言いますか、僕に委ねてくれたというのはあったんじゃないかなと思います。

――この映像は酒井さんにしか撮れないと思いました。

 嬉しいです。当然のことながら、ドキュメンタリーを作るにあたって取材対象者と信頼関係を築くというところから普通はスタートするんですけど、今回に関してはそれを何年間もかけてすでにやってきていたので、今回、僕が撮らせてもらうというところで、上手く入っていけたというのは大きかったような気がします。

――酒井さんは『A-Studio』などを通して様々なトップスターの方々を見られてきています。そんなトップの方々が絶対持っているものはありますか。

 押し並べてトップに立つ人は、こういうものを持ってるってのは一概には言えないですね。ただ「A-Studio」のゲストにお迎えできるまでになる方はやっぱり何か理由がある。それは僕が「A-Studio」に2009年からディレクターやプロデューサーとして長いこと関わってきて、番組開始当初からすごく感じていました。漠然と芸能界で生き残ってここまで上り詰めてくる人っていない。何か理由がある。その何かは正直分からないのですが、生きることや仕事に真摯なんだと思うんです。ひょっとしたらそれは共通しているかもしれないです。

――確かにももクロも仕事に真摯というのは強く感じます。何を目指すか、何をやりたいのか、信念みたいなものでもあるんですよね。

 それに対してどれだけ真摯に向き合うかっていうことだと思います。それこそ本当に感謝を忘れないとか。ももクロは本当に裏表がなくて嘘がないんですよね。

ももクロは信じるに値する存在

『ももいろクローバーZ ~アイドルの向こう側~<特別上映版>キービジュアル(C)TBSテレビ

――今回撮影していく中で、監督が一番驚いたことは?

 ライブのリハーサル現場を撮影、見学させてもらっていた時のことです。僕はものすごい曲数の振り付けが全部彼女たちの体に入っているものだと思っていました。でも、ライブのリハを見ていると、普段は忘れているんですよ。でも、体のハードディスクにはちゃんと入っていて、奥の方に眠っている振り付けを呼び出し直す作業ということをしていました。その作業を毎回しているんだということを知って本当にびっくりしました。まあ、このシーンはドキュメンタリーには入っていないんですけど。

――なぜお蔵入りに?

 その一連の流れがわかるように撮っていないですから。それがわかるように撮るとなると、長い尺も必要だし、そもそも今回のテーマとは違ったからです。ステージの裏側を描くようなドキュメンタリーだったら、それはすごく面白いシーンだと思うんですけど。

――ズバリ監督がこの映画で、ファンの方にどんなことを感じ取ってもらえたら嬉しいですか。

 ファンの方、ファンじゃない方、あるいは一回だけでもライブに行ったことがある方、テレビを観ていてちょっと興味持った方…皆さんに観ていただいて、本当にこの子たちの可能性みたいなもの、将来どこへ向かうのかというものを感じてほしい。それをご自分の目で確かめていただきたいというのが、僕からのメッセージなんです。ファンの方に向けて話すと、ご覧になった方は今まで自分がももクロを応援してきたことは間違いじゃなかった、信じてきたももクロは信じるに値する存在だったということを感じてもらえるんじゃないかなと思います。

――ももクロは「終わり」を考えていないですよね。それもすごく嬉しいですよね!

 うん、考えてないですね。3月から4月に開催された「TBSドキュメンタリー映画祭 2022」で、この作品をご覧になった方は全国で1300人くらいしかいないんですよ。その方たちがSNSで感想をつぶやかれているのをいくつか見たんですけど、やっぱり彼女たちのこの先何があっても、ももクロを続けていこうという思いを知れて、そう思ってくれていることがありがたいとおっしゃってる方がたくさんいたので、やはりファンの方が気になるところは、そういうところなのかなというのは僕自身の感想としてあります。

――私は“生涯現役”という文字が強く浮かびあがりました。

 映画の中のインタビューで、お笑い芸人の永野さんが仰っていたんですけど、「初の、ずっとアイドル」…そういう存在になれるんじゃないかという永野さんの言葉が、まさに僕の思いと重なりました。永野さんにはそういうテーマの映画だとは一切お話していなくて、素でインタビューを撮らせてもらった中で出てきた言葉だったので驚きました。

――ももクロを見られてきた人に、きっとそう感じさせてくれる部分があるんですね。

 そうなんですよね。ももクロは今年5月にアルバム『祝典』をリリースして、そのアルバムツアーを行っていたんですけど、初めてももクロのライブに来たという人が結構いるんですよ。新規のファンがこれだけいるんだと驚きました。いま新たにももクロに興味を持っている方が確実にいるので、皆さんぜひ映画をご覧になって、いろいろ確かめてもらいたいと思います。

(おわり)

ももいろクローバーZ(C)TBSテレビ

【作品情報】

出演:百田夏菜子 玉井詩織 佐々木彩夏 高城れに
監督:酒井祐輔
撮影:中島純 酒井祐輔 編集:伊藤圭汰 MA:飯塚大樹 サウンドデザイン:松下俊彦 企画:大久保竜 チーフプロデューサー:藤井和史 プロデューサー:松原由昌 津村有紀/樋江井彰敏
2022 年/DCP/ステレオ 製作:TBS テレビ 配給:SDP (C)TBSテレビ

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村上順一
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