INTERVIEW

バズ・ラーマン監督

「自伝映画は作りたくなかった」:映画『エルヴィス』


記者:村上順一

写真:村上順一

掲載:22年07月15日

読了時間:約5分

 現在公開中の映画『エルヴィス』の監督を務めたバズ・ラーマン氏。若くして謎の死を遂げたスーパースター、エルヴィス・プレスリーの“誰も知らなかった”真実の物語を、『ムーラン・ルージュ』『華麗なるギャツビー』のバズ・ラーマン監督が映画化。現在54ヵ国で公開し、全世界の興行収入は212億円(※世界 155,123,000ドル/Box office Mojo 調べ/1ドル=136円換算)を突破している。アメリカの映画評論サイト「ロッテントマト」の観客評価ではバズ・ラーマン監督作品史上最高となった。MusicVoiceでは、来日を果たしたバズ・ラーマン監督にインタビューを実施。『エルヴィス』で魅せたかったもの、作品が完成し気づいたこととは?【取材・撮影=村上順一】

自分の映画にいつも自信はない

――どういうところに焦点を当てて、世界に発信したいと思われましたか。

 エルヴィスはいつも、「エルヴィス・プレスリー」というキャラクターを作り上げることによって、彼の心の中にある大きな穴を埋めようとしていたんだと思っています。そのほとんどは、人を観察することでした。しょっちゅう転校している子供たちは、とても若い時に、それを解読しようとします。だから、彼らはとてもよく観察する。そして、その特徴をとらえるんだ。彼はそういう感じだったと思います。

 彼はそれを、パフォーマーとして、そしてキャラクターとしてやりました。でもそれに、素晴らしい人間性を足した。彼はスピリチュアルな人だったんです。だから、彼の最大の愛は、何よりもゴスペルに向いていたんです。僕たちはこれら3つの時期にフォーカスしました。エルヴィスだけをすごく掘り下げるのではなく、これら3つの時代のアメリカも掘り下げるために。エルヴィスはある意味、50年代、60年代、70年代のアメリカを描くためのキャンバスなんです。

――具体的にどのような映画にしたい思っていましたか。

 僕は自伝映画は作りたくなかった。でも、先ほど話したように、アメリカには2つのことがある。(1つは)新しいことの発明です。間違いなく50年代、60年代、70年代にね。それからもう1つは売る人、セールスマン。巨大なキャラクターであるトム・パーカー大佐がいる。トム・パーカーみたいに大きなキャラクターを十分な勇気を持ってやってくれたトム・ハンクスがいてくれて、すごく感謝しています。パーカーがどれほど巨大で、度を超えたキャラクターだったかを、どれだけ言っても言い過ぎることはない。

――作品が完成してどんな気づきや発見がありましたか。

 リサーチを5年間ほどしている中で、グレースランドに住んだり、エルヴィスを知っていた方達にも会って制作を進めていきました。自分でも驚いたんだけど、その中で僕とエルヴィスの人生で共通する部分が多いなと感じました。まず、僕もエルヴィスも田舎町で育ったということ。そして、エルヴィスはトラウマを抱えていて、自分がスーパーヒーローになって、家族はもちろん色んな人を集めたいという想いがあったんです。彼には音楽がありアイドルになっていくんですけど、常に愛に飢えていて、人々から愛をもらいたいという孤独感も持っていました。それらは自分とも共通するところだと感じました。

――ご自身の映画に自信はありますか。

 僕は自分の映画にいつも自信はなくて、誇りというのも実はあまりないんです。映画作品は大事にはしているんだけど、自信を持つこととはちょっと違います。評論家は作品に対して色んなことを言います。それが仕事なのでしょうがないのですが、作品が世に出る前から叩き潰すような事をする人もいます。それはすごく寂しいことで、僕は観客の皆さんにこの作品を観るかどうか決めてほしいですし、できるだけ観てほしいんです。

――バズ監督にとって映画とはどのような存在ですか。

 僕には子供が2人いるんだけど、映画も僕の子供のようなものなんです。例えば映画『ロミオ+ジュリエット』では砂漠に行ったなとか、思い出がたくさん蘇ってきます。あと、自分の作品は完成したらほとんど観ません。カンヌ国際映画祭に行った時も僕は映画を見るわけではなく、お客さんの反応をずっと観ていましたから。

今の時代こういう逃避するような映画が必要なんじゃないか

――映画を作るに当たってエルヴィスに深く入り込んだと思いますが、一番好きな曲は?

 年代によって好きな曲があります。50年代のエルヴィスは反骨心に溢れていたし、60年代はハリウッドでムービースターにもなりました。そこから少し衰退するんですけどカムバックします。最後はラスベガスに閉じ込められ動けなくなってしまうエルヴィスがいますよね。50年代の曲では「Heartbreak Hotel」、60年代だと「A Little Less Conversation」、「Suspicious Minds」も好きですね。全体的に捉えると社会的なメッセージがある「In the Ghetto」かもしれない。本当に好きな曲はたくさんありますよ。

――バズ監督は『エルヴィス』オリジナル・サウンドトラックも監修されていますが、どんな想いで作られましたか。

 若い世代のリスナーは音楽から入ると思います。サントラにはオースティンが歌ったエルヴィスの曲も収録されていますし、マネスキンなど若い世代のアーティストに参加してもらっています。映画を観た後でこのサントラを聴いて、その後にまた映画を頭の中でプレイバックして欲しいと思います。

――エルヴィスを演じたオースティン・バトラーは今作で大ブレイクしますね。

 僕は映画『タイタニック』でレオナルド・ディカプリオがブレイクしたのを目撃していて、これと同じようなことがオースティンにも絶対に起きることです。なので、レオナルドに頼んで、この先どういう事が起きるのかオースティンに教えていました。ロンドンに行った時に女の子たちがものすごい黄色い声を上げるんですよ。僕はBTSのライブを観に行ったことがあるんですけど、その声援はBTSのファンと同じような感覚でした。350万人がこの映画を観てくれたので、その中の300万人は彼のファンになるでしょうから、これからもっと増えると思いますよ。(取材時)

――最後にこの映画が公開されて期待していることはありますか。

『エルヴィス』が、さまざまな国でどのように受け取られるかをとても楽しみにしているんだ。僕は日本にとても興味があって、なぜなら、日本に行くことは、エルヴィスにとって大きな情熱だったからなんです。そして(パーカー)大佐は、エルヴィスが決して国を離れないようにたくらみました。彼の深くてダークな秘密のためにね。(日本には)今でも、若者文化も含め直接的なエルヴィスの影響がたくさんある。それは、ある意味とても興味深いことです。そして、今の時代こういう逃避するような映画が必要なんじゃないかと思っています。エルヴィスは人類の統一という事を大事に思っていましたし、アメリカでこの映画が興行収入1位になった時に、エルヴィスのような人を見て方向性を見出したいという人がいると思うんです。なので、こういうアーティストを見ることは大切なことだと思います。

(おわり)

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