INTERVIEW

嵐莉菜

演じる楽しさを知った 『マイスモールランド』映画初出演で初主演


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:22年05月03日

読了時間:約4分

 端麗な顔立ちと、時折見せる屈託のない笑顔。周囲を自然と明るくさせる愛嬌のある人柄は撮影現場で助けになった。

 完成披露試写会で川和田恵真監督がこう振り返っていた。「初主演で大変だったと思いますが、それを感じさせず天真爛漫な姿でいつもカメラの前に堂々と立ってくれました。シリアスなシーンも多く入り込めば入り込むほど精神的に辛かったと思いますが自分が感じたことを伝えてくれました」

 映画『マイスモールランド』(5月6日公開)は、在留資格を失い普通の高校生としての日常が奪われてしまった17歳の在日クルド人の主人公サーリャが、理不尽な社会と向き合いながら自分の居場所を探し成長していく物語。

 撮影時、サーリャと同い歳で現役高校生の嵐莉菜(※5月3日で18歳になった)。女性ファッション誌『ViVi』専属モデルなどファッションモデルとして活躍するが芝居経験はほとんどない。だが川和田監督は大きな期待を寄せていた。「最初から彼女は堂々としていましたし全然違った表情を見せてくれたので、彼女とであればこの作品はやっていけると思いました」

嵐莉菜演じるサーリャ(C)2022「マイスモールランド」製作委員会

 嵐莉菜は5カ国のルーツを持つ。日本語を話し、日本の学校に通い、日本で暮らすサーリャに共感できる点は多い。だからこそ演じるのは大変だった。「サーリャの心情を考えるだけで辛かったです。特に入管のシーンで流した涙は本物でした」

 『第72回ベルリン国際映画祭』で日本作品初の「アムネスティ国際映画賞」特別表彰を受けた。先日行われた日本外国特派員協会での記者会見では外国人記者から「素晴らしい芝居だった」と賞賛を受けた。

 そんな彼女、撮影後に気付いた思いがある。それは演じることの楽しさ。「クランクアップの時に『もう終わっちゃうんだ』と寂しく感じました。現場が楽しくて私ってこんなにも演技することが好きなんだと気づきました。機会があったらぜひやらせて頂きたいです」

 屈託のない笑顔でそう答える嵐莉菜。芽生え始めた芝居への思い。世界三大映画祭からの評価という旗を揺らし、女優としての船出を切った。

嵐莉菜

 ここからは一問一答。

サーリャとして過ごした時間

――率直にこの作品での体験はご自身にどう影響を与えそうですか?

 これからの人生で大きく成長できる大切な機会になりました。たくさん支えて頂きましたし、演技も教えて頂きました。本当に光栄でした。

――役に入り込むのが大変だった分、終わるのが寂しかったそうですね。

 思い入れのある作品なので「もう終わっちゃうんだ、もうサーリャになれないんだ」とすごく寂しく感じました。現場も楽しくて、私ってこんなにも演技をすることが好きなんだと気づきました。こうして取材を受けると当時を思い起こして、またやりたいという気持ちがこみ上げてきます。機会があればまたやりたいです。

――演じている時は辛くなかったですか。

 辛かったです。特に入管のシーンで流した涙は本物でした。自分と重ね合わせたところもありますが、サーリャになりきっていたのでサーリャの気持ちとしてすごく辛かったです。ただ演技という点では成長出来たシーンでもあるので良かったです。あのシーン以外にも素敵な場面はたくさんあるので本当に良かったです。

――監督にも「サーリャだったら、こういう風に演じるのがいいと思います」と提案されたそうですね。

 自分がサーリャ自身なんじゃないか、と思うほど役に入っていました。なので、サーリャとして「私だったらこういう気持ちです」と監督に伝えました。監督は毎回「サーリャはこういう状況だからこういう気持ちになっているのでこうやってほしい」と丁寧に説明して下さいました。監督と私それぞれが思っているサーリャ像を整えた上で、そのアドバイスをもとに演技をしていったので、とてもやりやすかったです。

嵐莉菜

――サーリャの境遇とご自身が似ていると感じるところはありますか?

 日本で育ってきて日本人として生活していきたいけど、外見とかで外国人に見られてしまうところは共通していると思います。コンビニのシーンである言葉を言われますが、自分の過去の経験を思い出して感情が出てきました。演技は演技なんですけど、自分と重なる部分は自分の感情を素直に出しました。

――お芝居をする上で特に大事だと思ったところは?

 台本をしっかり読むことだと思いました。撮影中もすごく緊張していたんですけど、自分の空き時間にずっと台本を読んでいました。すると自然と言葉が出てくるようになったので、台本を読むことは本当に大事だと気付きました。それと、スタッフの方や共演者の方とのコミュニケーションは大事で、演技もそうですし、人柄などいろんな面で吸収できたので、お話を聞くのは大切だと思いました。

――「アムネスティ国際映画賞」から特別表彰を受けてどう思いますか?

 皆さんと作り上げた作品が世界で評価されたことはすごく光栄ですし、素直に嬉しいです。こうして頑張ってきたことが、監督への恩返しに繋がっていったらいいなと思います。自分自身ではなく、周りで支えて下さった皆さんへの評価だと思います。そのなかで演じることができて本当に光栄です。

嵐莉菜

(おわり)

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木村武雄

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