INTERVIEW

藤木直人

村上春樹氏『ねじまき鳥クロニクル』朗読に挑戦 その舞台裏とは


記者:村上順一

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掲載:22年04月25日

読了時間:約6分

 俳優の藤木直人が朗読した村上春樹氏の小説『ねじまき鳥クロニクル』が25日、世界最大級のオーディオブック及び音声コンテンツ制作・配信サービスAmazon オーディブル(以下、オーディブル)でオーディオブック化され配信が開始。オーディブルはいつでもどこでも気軽に音声でコンテンツを楽しむことができる、世界最大級のオーディオエンターテインメントサービス。プロのナレーターや俳優、声優が読み上げる豊富なオーディオブックや、ニュースからお笑いまでバラエティあふれるプレミアムなポッドキャストなどを取り揃えている。今回、村上春樹氏の『ねじまき鳥クロニクル』がオーディオブック化され、「第1部 泥棒かささぎ編」が4月25日より配信が開始。「第2部 予言する鳥編」は6月1日、「第3部 鳥刺し男編」は7月15日に配信が予定されている。インタビューでは『ねじまき鳥クロニクル』の朗読を行った藤木直人に、朗読に挑戦した心境から、村上春樹氏の作品の魅力、この長編小説にどのように向き合ったのか、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

カルチャーショックもあった

藤木直人

――今回、朗読のお話をいただいた時の率直な感想を教えて下さい。

 想像もしてなかったオファーだったのでビックリしました。過去に一度、朗読劇というのをやったことはあったのですが、それは登場人物になって自分が送ったメールを読む、という一人称で話すだけのものだったので、今回のように物語を頭から最後まで朗読するというのは初めての経験で、難しいだろうなとは思いました。以前、蜷川幸雄さん演出の舞台『海辺のカフカ』で村上春樹さんの物語の登場人物をやらせていただいたこともありましたし、どこか運命みたいなものも感じて、思い切って挑戦してみようと思いました。

――今回、Amazon オーディブルで配信されるわけですが、こういったコンテンツに親しみはありましたか。

 僕は知らなかったので、今回こういうコンテンツがあると知ってビックリしました。それで周りに聞いてみたらこのコンテンツを聴いている人も多かった。活字を読むのが大変だと感じている人や、小説を読みながら聴いたりしている人もいるみたいです。僕もなかなか最近は本を読まない、いわゆる活字離れになっていますが、中学高校のときはそこそこ小説は読んでいたので、小説を読む楽しさを知っている人間からすると、こういったコンテンツはちょっとカルチャーショックもありました(笑)。

――村上春樹さんの作品は過去に読まれて?

 村上春樹さんの作品に触れたのは僕は割と遅くて、『1Q84』の発売が話題になっていたときに初めて読みました。今でも村上春樹さんの中で大好きな作品の一つですけど、エンターテインメント性が高くて、非常に読みやすい作品だなと思いました。

――今回担当された『ねじまき鳥クロニクル』もその後に読まれて?

 過去に購入して途中まで読んだことはあったのですが、今回オファーをいただいて最後まで読みました。朗読をするために何度も読みましたし、結果的にこんなに何回も読んだ小説はこれまでなかったです。なので、すでに読んで録った気持ちになっていた部分もあって、録音するときに「あれ!? まだ読んでない? 今からか録るのか」みたいな(笑)。

――それぐらい読み込まれて。村上春樹さんの作品は藤木さんから見て、どんな特色がある作家さんだと思いますか。

 僕はそんなにたくさん小説を読んでいる方ではないので、大したことは言えないのですが、淡々とした文体で、人間の暴力だったりエロスみたいなものを書き切るというところが村上さんの特徴だと感じています。僕は独特のユーモアセンスが好きです。独特な比喩、メタファーとでも言いますか、明言しない感じがすごく良くて。この『ねじまき鳥クロニクル』もそういう部分がたくさんあります。

――さて、さまざまな作品がある中で朗読で聴いてみたい、と思う作品はありますか。

 最近読んだ本ですごく面白かったのが『嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか』です。それがすごく面白かったので、朗読で聞いてみたいかな。章によってその選手の目線で読むことになるので、もし自分が朗読することになったら、人物が多すぎてちょっとお手上げなんですけど(笑)。

――今作は15日間かけて録音されたとのことですが、朗読する中で楽しさを感じた部分は?

 話が面白いので、読んでいくということ自体が楽しかったです。そして、すごい長編ですが少しずつですけど、着実にゴールに近づいていくじゃないですか。それも達成感があって良かったです。

――朗読していく中での気づきや発見は?

 沢山ありました。小説の最後で主人公が一周して同じところに戻ってくるような、一つ階が上がる、成長していくみたいな感覚が読み終わってありました。それで、「自分も成長できたのかな」と思うんですけど、改めて録った音源聴いて、そう簡単に自分は変われないんだなと気付いたり。ただ、朗読の難しさというのを知れただけでも貴重な経験でした。

――役者や朗読、ナレーションなどは何かを伝える、届けるというところで共通する部分もあると思います。藤木さんはご自身が普段やっているお仕事とどのような違いを感じていますか。

 役者はその登場人物になることだと思います。その人の言葉としてどう伝えていくか、ということです。例えば感情が激しく動くシーン、そうではない逆に淡々としたシーンもあるので、如何にその人になりきるかというところで、観てもらう人に届くか届かないかということを、自分はやっているのかなと思っています。でも、朗読はどこか俯瞰的なというか、朗読劇とも違うし、ラジオドラマでもないと思っていたので、どこまで気持ちを入れるのか、というところはすごく難しい所でもありました。

藤木直人が印象的だったシーンは?

藤木直人

――朗読に臨むにあたって準備されたこともあったんですか。

 他の方が朗読している作品を資料としていただいて、それは聴きました。わりと淡々と読むんだなという印象があったんですけど、改めて考えると朗読だし、そういうことなのかと腑に落ちて。あと、ネットで「朗読」「コツ」と検索したんですけど(笑)、わりと基本的な内容しか僕は見つからなかったのですが、基本は大事だと思いながら、そういったサイトを見てました。

――淡々と読むというのがいいんですね。

 あまり感情を乗せすぎて、主観が入りすぎると聞きづらいのかもしれない。登場人物がたくさん出てくると、そのキャラクター同士の掛け合いのところで、誰がしゃべっているのか判別できないと、聞いている人が物語がわからなくなってしまう。なので、そこだけはしっかりわかるようにしなくてはいけないと思いました。そのさじ加減はなかなか難しかったです。

――読むスピードというのも重要だと聞いたことがあります。

 絵本の読み聞かせはやったりするけど、絵本ぐらいの文章の長さだと、キャラクターのセリフだったり、展開、スピードの強弱はある程度コントロールしやすいんです。でも、小説は長いので、あまりそこにこだわってしまうと、たぶん永遠に終わらないだろうなと思いました(笑)。自分ができること、自分がしなければいけないこと、自分がこれから取り入れていきたいことというのは、いつも考えていたと思います。

――今回、朗読していく中で印象的なシーンをあげるとしたら?

 全てのシーンが重要だと思うんですけど、登場人物の山本上官が敵兵に全身の皮を剥ぎ取られる、というシーンは読むのは難しそうだなというのもあり、印象に残っています。あと、『ねじまき鳥クロニクル』は戦争についてリアルに描写している作品で、ちょうど小説を読んでいるときに、ロシアのウクライナ侵攻があったので、現実とすごくリンクしたのも印象強いです。

――最後にリスナーの方にメッセージをお願いします。

 かなりの長編なので聴くのも大変だと思うんですけど、一生懸命頑張って読み切ったので、最後まで聴いていただけると嬉しいです。

――目ではなく耳を使ってしっかりこの作品と向き合いたいですね。

 でも、嬉しい反面、そうやって真剣に聴かれるというのも、ちょっとプレッシャーかな(笑)。僕は車の中で今回朗読したものを聞いていたんですけど、ウォーキングやドライブしながら聞いてもらうくらいがちょうどいいと思うので、そのくらいの軽い気持ちで楽しんでいだけたら嬉しいです。

(おわり)

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