ソロデビュー30周年を迎える古市コータローが3月30日、3年ぶり5枚目となるアルバム『Yesterday, Today&Tomorrow』をリリースした。元SMILEの浅田信一がサウンドプロデュースを務めた全10曲入りのアルバム。レコーディングにはその浅田信一に加え、平畑徹也(Piano)、高間有一(Bass)、吉池千秋(Bass)、古市健太(Drum)が参加。さらに「サワーの泡」は、the LOW-ATUS(細美武士、TOSHI-LOW)が詞を提供するなど、古市コータローと親交の深いミュージシャンが参加。今作は一体どんな作品に仕上がったのか、自身にとってのライブとは何なのか、話を聞いた。
自然に出てくるものに対して素直になろうと思った
――去る3月13日にザ・コレクターズでの日本武道館公演が行われました。ステージ上ではどんな気持ちでプレーされていたのでしょうか。
2017年に初めて立った時はヒストリー的なものを意識したステージでした。でも、今回は通常のツアーファイナルという意識で臨んだので、特別なことは特になかったんです。よく皆さん武道館なのにいつもと一緒ですごい、と言ってくださるんです。それはすごく嬉しいんですけど、実際はちょっと違って、小さいハコでも武道館くらいの大きさを意識して演奏しているんです。
――古市さんから見たハイライトは?
今回のセットリストは本編の最後にバラード、「虚っぽの世界」で締めるというのがありました。そこはすごく自分で演奏していても充実感があったし、それが武道館でどういう見え方、聴こえ方をしていたか、ということは俺も興味があって。ライブを観ている方もその曲に到達するまでの流れみたいなものを感じてもらえたら嬉しいです。
――今年ソロデビュー30周年ですが、周年という節目は古市さんは意識されていますか。
全く意識していなくて。去年、ファーストソロアルバム『The many moods of KOTARO』をアナログ盤としてリリースしたんですけど、その時にスタッフが「2022年はこのアルバムからちょうど30年だよね」みたいな話になって。それでメーカーの方からありがたいことに「じゃあアルバムを出そうよ」とお話をいただいて。
――今回もアナログ盤がリリースされますが、古市さんにとってのアナログ盤というのはどういう存在なんですか。
自然なものですね。レコードを聴かない時期もあったんですけど、アナログは素直に音楽に入れるし、レコードをひっくり返すというのも俺にとってはすごくいい作業なんです。レコードを聴いていると、自分は懐かしさもあるのか、ちょっと豊かな気持ちになれるんです。
ザ・コレクターズのデビュー当時はCDとアナログ盤の両方で2ndアルバムまで出しているんです。それでファーストアルバムのときは、まだCDよりもアナログ盤の方がプレス枚数が多かったんですよ。それが2ndアルバムで逆転して。
――アナログ盤とCDではサウンドも違いますが、CDしかプレスされなくなった時に寂しいとかありましたか。
当時CDというものが初めて登場した時、前評判として、今まで聞こえなかった音が聞こえるとか、ものすごくいい音という刷り込みがあったので、俺は割とCDはウェルカムでした。ただジャケットは小さくなってしまったので、そこはやっぱり寂しかったかな。
――今回の『Yesterday, Today&Tomorrow』は、アナログで聴いたらよりいいなと思いました。今作はどんなビジョンがあったんですか。
前作『東京』が日本の70年代の終わりから80年代初頭ぐらいの世界観を意識して作ったんですけど、今回はそういうのは何にもなかった。自然に出てくるものに対して素直になろうと思ったくらいです。
――自分からこんな曲が出てくるなんて、みたいな曲もありましたか。
「笑いとばせ!」みたいな曲が、自分から出てくるとは思っていなかったです。この曲は打ち込みなんですけど、最初はギターの弾き語りで作っていました。コードも4つぐらいしか出てこないロックンロールで、ちょっと自分でもビックリしましたね。
――浅田さんのプロデュースワークはどう感じていますか。
単純に浅田くんのプロデューススキルは上がっていると思います。たぶん浅田くんも「コータローさん、ちょっと良くなったな」とか、そういうのもあるかもしれないけど、特に確認し合ってるわけでもないんですよ。
――Analog Monkeysとしての活動の延長線上にあるような感じですか。
Analog Monkeysは最初、昭和歌謡のカバーだけでライブをやるというコンセプトでやっていて、ちょっと冗談みたいなところがあります。ソロの時は真面目なAnalog Monkeysみたいな感覚かな(笑)。
――アルバムとして、こだわっていたことは?
素直に正直、カッコつけないみたいな感じかな。ここまで素直でいたいと思うのは、ちょっと初めてかもしれないですね。
――そういう想いになったのも、何かきっかけがあったのでしょうか。
年齢的なところですね。急に何かきっかけがあってというわけではないんです。俺らは幸せなことにステージに立ったり、レコードを作ったりできるから、よりそう思うんですよ。今までだったらちょっとカッコつけちゃうところも、今回はこのままでいいみたいな感覚がありました。
――すごくナチュラルなアルバムなんですね。
本当にナチュラルという言葉がピッタリかな。
――1曲目に表題曲「Yesterday, Today&Tomorrow」というのも、それを象徴している気がします。
アルバムを作るときに、まず俺はジャケットをイメージするんです。今回は明確に海で撮りたいと思いました。例えば自分が海のジャケット写真のレコードを買ってきて、針をのせたときにどんな曲で始まったらしびれるかと考えた時に、少しスローなバラードが始まったらいいんじゃないかなと思い「Yesterday, Today&Tomorrow」を1曲目にしました。
――「Yesterday, Today&Tomorrow」は浅田さんが作詞作曲を手がけていますが、これは古市さんがリクエストされたのでしょうか。
浅田くんにリクエストしました。そのバラードが自分が書くタイプのバラードではないイメージがあったんですよね。今回のアルバム作りはこの曲から始まって、まだ歌詞もなかったんですけど、曲ができてジャケットも撮ってという流れでした。
――歌詞も完成して、またMVを撮るために同じ場所に行かれたんですか。
MVは俺がずっとカメラマンさんに写真を撮ってもらっている時に撮影した動画なんです。スチールカメラマンさんのアシスタントさんがずっと動画を回してくれていたので、これを編集してMVにしようと思いついて。通常MVを作るんだったら、ちゃんとスケジュールを決めて作るわけじゃないですか。でもラフ画、動画があったからMV作っちゃった、という感じなんですけど、そういうのも俺は好きですね。
――ニオイバンマツリという花の英名が「Yesterday, Today&Tomorrow」という名前なのですが、関係性は?
それは知らなかったんだけど、それでサビの歌詞に花という言葉が出てくるのかもしれないですね。もともと浅田くんからは「曲ができたから、歌詞はコータローさんが書いてください」と言われていたんですよ。
――どんな世界観だったんですか。
昔を思い出して、何かいろいろ変わってしまったよね、という内容の歌詞を書いていました。ちょうど書いているときに池袋のマルイが閉店しちゃって、俺の青春、人生の象徴みたいな場所だったので、それがもうショックすぎちゃって、そこから全く書けなくなってしまって。それで、浅田くんに「ちょっともう歌詞は書けない」と話して変わってもらって。途中まで歌詞のやりとりはしていたので、俺の想いも汲んでくれて、歌詞を書いてくれたと思うので感動しましたね。俺があのまま作っちゃうと、“さようならマルイ”という曲になっていたと思います。
自身にとってのギターとは?
――7曲目の「サワーの泡」はthe LOW-ATUSからの詞の提供ですが、どんな流れがあったのでしょうか。
たまたま去年TOSHI-LOW君と細美(武士)君がやっているthe LOW-ATUSのCDをいただいて聴いたら、それが素晴らしくて。それでthe LOW-ATUSで1曲書いてくれないかなと思いついたんです。
――歌詞でthe LOW-ATUSらしさが出ているなと感じる部分は?
the LOW-ATUSっぽいかどうかわかんないけど、歌詞の<哀れんでちょうだい>という使い方は、やっぱり彼らは面白いなと思いました。
――<俺とギター>という言葉は古市さんっぽいと思いました。
これは逆に身近すぎて自分では思いつかない、書けないと思います。似たような感じだと「俺と酒」とか、「俺とバイク」とか、そういうのは自分でもありえるけど、ギターはなかなか書かないと思う。
――ちなみに古市さんにとってギターはどういう存在なんですか。
ギターは大好きです。でも、どこかで仕事の道具だと思ってます。そう思わないと、ちゃんとした音が出せない気がするんですよ。昔からそういう気持ちはあったけど、それがよりどんどん強くなってます。
――古市さんは長いキャリアの中でギターに飽きた、ということはなかったのでしょうか。
基本ないですね。もしかしたらちょっと飽きていた頃があったかもしれないですけど、その時期はあまり弾いていなかったかも(笑)。若い頃は1日弾かないと上達が遅れるとか、そういった恐怖感があったから、どんなに忙しくても意地で5分だけでもギターを触ったりしていました。コロナ禍では時間があったから、今まで以上にギターをよく弾くようになりましたね。
――今作で新しい試みはあったのでしょうか。
ソロがザ・コレクターズと違うところは曲によりますけど、1曲目の「Yesterday, Today&Tomorrow」は同録でギターソロもアドリブで一気に録ったことかな。2〜3テイクは録ったと思うんですけど、使用したのはワンテイク目でした。ザ・コレクターズはバッキングとソロでレコーディングは分けてますから。
――新しい機材を投入されたりも?
俺はいつも使っているアンプがMarshallとVOXなんですけど、Fenderの方が合うなと思った曲は、浅田くんのアンプを借りました。確かTone Masterというアンプを使用したと思います。
――3曲目の「Fall in Love Again」のアンプはVOXですか。
これはMarshallをキャビネットシミュレーターで鳴らしています。なので、ライン録音なんです。「Yesterday, Today&Tomorrow」最後の「ウイスキー」はさっきお話したFenderのアンプで「せーの」で録ったと思います。
――アルバムは「ウイスキー」という曲で締めくくられるわけですが、どんなイメージでこの曲を書いたのでしょうか。
この曲は詞から書いたんですけど、俺の日常というかある日のお昼に「あれ、今日夜のお酒あったかな?」と確認したところから歌詞書き始めて。
――日記みたいな感じですね。
まさにそう、日記みたいなものです。
――「ウイスキー」はドラムのカウントから入りますよね。すごくライブっぽさがあって良かったです。
音質もこの曲だけちょっとアンビエントが強いんですよね。だからよりそう感じると思います。
アルバムは2021年下半期の俺の気分
――ところで昨年出された「SMOKERS/夏の午後の向こう」は収録されなかったんですね。
俺はボーナストラック的なのは好きじゃなくてね。例えば外タレのCD、その日本盤にはボーナストラック付きとかってよくあるじゃないですか。でも、いま思えばCDの方には入れても良かったのかな、とちょっと思います(笑)。
――アルバムという1枚の作品として捉えた時に、何かが崩れてしまうところがあるんですね?
そうそう。せっかくアーティストが考えた曲で綺麗に終わって、いきなりその世界観に合っていない曲が流れに入ってくるのは俺の中で最悪ですよ。そういうのは解散した後にやってくれって感じで(笑)。
――曲順はどのように決めたのでしょうか。
曲を並べるときも、歌詞というよりはビートだったり、曲のムードで決めます。あんまりそのときに歌詞がどうとかは考えない方なんです。
――前作の『東京』のときは、歌モノのアルバムとして聴いてほしいと、メッセージをお話されていたんですけど、今回も意識は同じですか。
『東京』は完全にコンセプチュアルに作ったので、全く違うものだと思います。作品的には今自分が自然にアウトプットしたものですから、今の俺の気分なんだろうね。2021年下半期の俺の気分ということになっちゃうのかな(笑)。もしかしたらそのジャケット先に思い浮かんで写真も撮ったというお話をしましたが、そのジャケットイメージがもしかしたらコンセプトなのかもしれないね。
真夏のカンカン照りの海というイメージはまったくなくて、「ウイスキー」にも出てくるんですけど、真夏の後ろ姿、ちょっと楽しいことが終わっちゃったあとみたいな。それがもしかしたら知らぬ間に俺はそこに飲まれていて、裏コンセプトになってるかもしれない。
自分がそういう気持ちでいられるのは奇跡
――このアルバムを引っ提げて5月にツアー「SOLO BAND TOUR “Yesterday, Today&Tomorrow”」が開催されますが、どんな姿を見せたいですか。
まだツアーのモードに入れていないので、なんとも言えないのが正直なところです。これからアイデアだったり、選曲だったりというのは始まるのかなと。(※取材日は3月下旬)
――ソロの曲数もすごいたくさんありますから、選ぶの大変ですね。
今回のアルバムの曲がもちろんメインになるのですが、難しいですよね。自分が好きなアーティストのライブへ行って、ニューアルバムのツアーだからねと言って、そればっかりじゃちょっと寂しいですから。きっとみんな懐かしい曲も聴きたいよね、みたいなものもあると思うので、選ぶのは本当に難しい作業です。
――ちなみに古市さんが今まで見てきたライブで印象に残っているものは?
たくさんありますよ。ローリング・ストーンズ、ポール・ウェラーも良かったし、選ぶのは難しいね。
――では、初めて見たライブはなんだったんですか
ピンク・レディーです。
――ピンク・レディーとは意外でした。ロックバンドじゃなかったんですね。
小学生の時に友達と観に行ったんですよ。
――チケットを取るのも大変だったのでは?
いま考えるとそう思うんですけど、当日券で観たんですよ。確か『チャレンジコンサート』というタイトルで、もちろん人気はありましたけど、そのコンサートの時は、チケットが取れないという感じではなかったと思います。
――ロックの初ライブは誰でしたか。
アマチュアバンドだと池袋の楽器屋のステージで見たものが、たぶん初めてのロック体験かもしれないです。それ以外で言ったらチープ・トリックかな。
――古市さんがライブに臨む姿勢で大切にしていることは?
ピンク・レディーを観に行った時もそうだったけど、家から会場に行くまでの道中だったり、帰り道も含めてコンサートだったんですよ。自分のライブでもそこは意識したいと思っていて、そこを考えてやるのと考えないでやるのは、やっぱり違うと思っていて。例えばリハーサルをやっている時に、「もうみんな家出たかな?」とか考えているだけで、俺も盛り上がりますから。
――今、古市さんの音楽をやるモチベーション、原動力となっているものは、どんなものなんですか。
アルバムの収録曲に「I’m a Dreamer」という曲があるんですけど、昔の自分を思い出して書いていて、相変わらず夢を見始めた頃と何ら変わってないなと思ったんですね。なので、質問の答えとしては初期衝動ということかな。初めてセックス・ピストルズを見たときのショック。それでギターを手にして自分もやってみたいと思ったし、あの時の感じが原動力になっています。
大人になって、幼い頃に見た仮面ライダーやウルトラマンの話を飲みながらしてすごく熱くなれる人と、もうそんなこといいよ、という2つのタイプがあるとしたら、もう俺は前者の徹底的に熱くなるタイプなんですよ。
――その時の思いはずっと続いていて、冷めることがないんですね。
俺はそう思えるマインドがあってラッキーだと思います。俺らみたいな職業の人がロックはもういいや、となったらおしまいでしょ? でも、今でも音楽が好きで、暇があればレコードを掘りにいったり、今でも自分がそういう気持ちでいられるのは奇跡だよね。
――古市さんから若い人たちにメッセージ、アドバイスなどありますか。
アドバイスというわけではないけど、例えば音楽でもスポーツでも、もし熱中するものにいま出会えているんだとしたら、それは大事にした方がいいよと言いたいです。やっぱり若い人のエネルギーというのは見ていてすごく眩しいし憧れるよね。これは自分が歳を取ったから憧れるわけではなくて、彼らのいろんなものが新しくて魅力的に映っているからだと思うんです。俺も若い人から盗みたいし、教えてもらいたいから。
(おわり)



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