ザ・コレクターズのギタリスト・古市コータローが8日と9日、東京キネマ倶楽部でソロツアー『古市コータロー SOLO BAND TOUR “東京”』の東京公演をおこなった。3月27日にリリースされた約4年半ぶりとなるニューアルバム『東京』を引っさげて、5月30日の大阪・梅田CLUB QUATTROを皮切りに6月15日の仙台・LIVE HOUSE enn 2ndまで5公演をおこなうというもの。多様な音楽性と生々しく光るギタープレイ、そしてゲストとして登場した内海利勝、ウエノコウジ、古市健太を迎えてのセッションも光る盛りだくさんの内容となった。古市と仲間達とオーディエンスの生きるこの時間、この空間を存分に味わえる、そんな血の通った体験を持ち帰らせてくれた東京公演2日目の模様を以下にレポートする。【取材=平吉賢治】

けたたましく吠えるR&R・ブルースギター

撮影=岩﨑真子

 大人びたゴージャスな空間の東京キネマ倶楽部は開演時間ピッタリに暗転。SEが流れると同時にオーディエンスは拍手でメンバーを迎えた。颯爽と笑顔で表れた古市コータローは愛器のギブソン・ES-335を構え、「かわいた世界に」をブルージーに奏でる。古市のストレートなギターサウンドの息づかいからシャウトまで、開始曲からフルパワーで全方位に広がった。

 バンドメンバーと顔をにこやかに合わせつつ、シャッフル・ビートのなかでリズミックに「愛に疲れて」を演奏すると、オーディエンスはゆらゆらとハッピーな反応を見せる。古市のロックで紳士な、そして包み込むような温かさを表した楽曲が会場を優しく熱く盛り上げた。

 ここまで太くたくましい芯のあるリードプレイを見せてきた古市だが、この日のライブでは色とりどりのギタートーンを奏で、楽曲を彩った。清涼感のあるボーカルを聴かせた「Slide Away」ではクリーンなトーンのギターソロで繊細な空気感を生み出し、グッとテンポを落とした「ROCKが優しく流れていた」でソフトに起伏をつくり、ロックンロール・ナンバー「それだけ」で“これぞR&Rギター!”といわんばかりのプレイを叩き付け、オーディエンスは大歓声と拍手で応えた。

撮影=岩﨑真子

 MCで古市は「このメンバーで飲みに飲みまくった」と、日付を跨ぐほど飲み明かしてツアーを楽しんだことを、はにかみながら語る。「歌を歌う人であんな時間まで飲む人、あんまいないんですよ」と会場の笑いを誘った。飲みまくってちょっとハスキーになった古市のボーカルもまた彼の持ち味ではないだろうか。「それくらい気分が良いってことですよ」と、プレイからもトークからも“楽しみ”が伝わってくる、本ツアーと、今この瞬間の好感触をリラックスした様子で語っていた。

 MC明けではミドルテンポの楽曲をじっくりと披露。オレンジの照明がドリーミーに射すなかでの「泣き笑いのエンジェル」の3声コーラスはまばゆく光り、会場をシンフォニックに彩る。三連のリズムでブルージーに流れる「ホンキートンクタウン」ではトラディショナルな渋いギタープレイをじっくりと味あわせてくれた。力強さと滑らかさのギターの運指、華麗なピッキングの波動が生み出すギタープレイに目も耳も釘づけだ。

 シティポップをイメージしたという「シティライツセレナーデ」では、そのタイトルを表したようなオシャレなサウンドで会場を輝かせる。ギターカッティングが映えるプレイのなか、しっとりと楽曲を聴かせた。ロック基調のセットリストのなかでこういった楽曲がひとつあるのとないのとでは全体の味わいがまた大違い。スパイシーで実に嬉しいアプローチだ。ここまでR&Rにバラードにブルースにシティポップと、多種多様な楽曲の彩りを見せたが、古市のギタープレイのスタイルにはどっしりとした一貫性がある。それこそ、彼の存在感を如実に示していた。

大御所ゲスト・内海利勝との“ギターでの会話”

撮影=岩﨑真子

 さて、ここでゲストが登場。誕生日が古市と同じという内海利勝がドーンとステージに姿を表すと割れんばかりの歓声に包まれた。日本のロック・レジェンド「キャロル」のメンバーでもあった大御所の登場に会場の期待感は大いに膨らむ。

 しばし和やかにトークを交えた後、内海はジェントルな所作でテレキャスターを抱え、キャロルのカバーである「コーヒーショップの女の娘」を意気揚々とプレイ。貫禄のギター捌きに圧倒されるなか、次曲「そんなに悲しくなんてないのさ」では古市もテレキャスターにギターを持ち替え、ソロのシーンでは内海と向き合って弾き合い、ギターで楽しげに会話をしていた。「俺もそっちに行きたいくらいだよ!」と、古市は客席を指し笑顔でオーディエンスを羨んだ。ゴージャスなコラボレーションは惜しまれながらも2曲で幕閉じとなった。

 内海とのプレイで更に火が点いたのか、古市は「Heartbreaker」で紅く燃え上がるような激しいギターソロを魅せ、激熱のテンションのまま「ハローロンリネス」と続き、これでもかというくらいの拍手に包まれた。最高潮の熱気のまま迎えた終盤、「みなさんに捧げます」と言葉を添えて披露された「Oh! My Dear」、ベースのリフがオーディエンスと同期してヒートアップした「いつかきっと」、そして最終曲は「夏が過ぎてゆく」へと連なる興奮はこの曲のブレイク部で一瞬だけ息を飲ませた。刹那のブレイク直後のギターソロは圧巻の一言だ。生々しく魂の鼓動と旋律を全放出するかのようなプレイで、本編は高速運転が綺麗に急停止するように、華麗に終了した。

 アンコールではベーシストのウエノコウジ(the HIATUS)と、愛息・古市健太がドラマーとして登場。ウエノコウジの「本来であれば先輩である我々が引っ張っていかないといけないんだけど、引っ張ってもらっていいかな?」と、古市健太に声をかけた。古市健太はプレイ前、少々緊張気味の表情にも見えたが、プレイは堂々と、大人びた表情で男らしくビートを刻み、ウエノコウジの骨太のロッキン・ベースプレイと力強く噛み合った。この日限りであろう、古市バンドメンバー×ウエノコウジ×古市健太のアンサンブルは東京キネマ倶楽部に大きな爪痕を残した。

撮影=岩﨑真子

 「Song Like You」「MOUNTAIN TOP」と2曲のアンコールに応えた古市だが、鳴り止まぬオーディエンスの想いに応え、再度ステージに姿を表しアコースティックギターでの弾き語りを披露。実に綺麗な締めくくりとなった。

 古市のニューアルバム『東京』からの楽曲を軸にパフォーマンスされた東京キネマ倶楽部公演だったが、その内容は豪華盛りだくさんであった。古市のギタープレイ・ボーカルはもちろん、様々なカラーの楽曲に豪華ゲストとのセッション、そして大先輩に囲まれるなかでの愛息の堂々たるプレイ。古市が作り出す和やかでありつつもロックな空間。古市コータローのソロライブは、彼のプレイから新作、そして周囲の温かい人間、それら全てを音として、空気として表すものであった。古市と我々の生きるこの時代、この時間、この空間を、輝かしい時を存分に味わう。そんな体験を得たオーディエンスの歓声と拍手は、ダブルアンコール後もしばらく鳴り止むことはなかった。

セットリスト

『古市コータロー SOLO BAND TOUR “東京”』
2019年6月9日@鶯谷・東京キネマ倶楽部

01. かわいた世界に
02. 愛に疲れて
03. Slide Away
04. ROCKが優しく流れていた
05. それだけ
06. 泣き笑いのエンジェル
07. モノクロームガール
08. ホンキートンクタウン
09. シティライツセレナーデ
10. Baby Moon
11. 青い風のバラード
12. コーヒーショップの女の娘(キャロルのカバー with 内海利勝)
13. そんなに悲しくなんてないのさ(with 内海利勝)
14. Heartbreaker
15. ハローロンリネス
16. Oh! My Dear
17. いつかきっと
18. 夏が過ぎてゆく

ENCORE

EN1. Song Like You(with ウエノコウジ&古市健太)
EN2. MOUNTAIN TOP
EN3. 君がいたら

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