「僕の中の希望」森山直太朗『素晴らしい世界』で見せたリアルと矜持
INTERVIEW

森山直太朗

「僕の中の希望」森山直太朗『素晴らしい世界』で見せたリアルと矜持


記者:村上順一

撮影:

掲載:22年03月19日

読了時間:約9分

 2022年10月にメジャーデビュー20周年を迎える森山直太朗が3月16日、ニューアルバム『素晴らしい世界』をリリース。本作のテーマは“光と影” 。先行配信された新曲「愛してるって言ってみな」をはじめ直近2年の間にドラマや映画のタイアップ曲として発表したオリジナル曲、さらに代表曲「さくら」や提供曲「花」などタイアップなどをきっかけに再度、レコーディングやセルフカバーし直した全12曲を収録。表題曲の「素晴らしい世界」は約7分という大作で、森山のリアルな歌声で表現した壮大な一曲に仕上がっている。インタビューでは、「改めて原点に帰れたような感覚もある」と話す森山に、今感じている音楽への想いを聞いた。【取材・撮影=村上順一】

生きていることを感じられた体験

『素晴らしい世界』通常盤ジャケ写

――今年10月にメジャーデビュー20周年を迎えられますが、直太朗さんは周年ということは意識されていますか。

 僕はそんなに気にしていなくて。それって自分がデビューしてからのカウントなので、僕自身は20歳そこそこで路上に出て歌っていたから、歌手としてはトータルで25年くらい経ちます。なのでデビュー20周年と言ってもどこか他人事のようで、「もうそんなに経ったんだ」みたいな感覚です。でも、みんなで推進していった活動でもあるので、周年というのは大きなお祭りみたいなものだということは理解しています。

――10周年というのも一つの節目だと思うのですが、そこからさらに10年、直太朗さん自身の変化はどのように感じていますか。

 10年前からだと、僕自身はそんなに変化していない、変わっていないと思っていて。ただ、この10年で天変地異もたくさん起きて、社会的には変わっていったなと感じています。季節の変化や、空気を生身の身体で感じて、今回のアルバムでも少しずつ変わっていってるのではないかなと思っています。まだ、そんなに客観視は出来ていないんですけど。

――今作はコロナ禍で出来上がった作品でもあり、直太朗さん自身も感染してしまったことで、よりリアルな一枚になったのではと思いました。

 すごく辛い時期でした。40度くらいの熱が5日間くらい続いて。医療もひっ迫していたので、病院にも行けず完全に社会から分断されたような感覚がありました。当時は毎日のように悪夢を見るようになって。それは漆黒の森の中に自分が取り残されて、命からがら森を抜けた先にある扉を開けるんですけど、また森があるみたいな。それでずっとうなされていたみたいで。

――アルバムの表題曲「素晴らしい世界」の歌詞もその感じが出ていますね。

 フィジカルを追い込まれたことによって、自分の中にある闇と戦っている感じで、なかなか出来ない経験をしました。社会から分断や断絶の先にあったのが、資本主義の中で生きている自分の尊厳や問題で、さらにそこから先にあったのは解放でした。宇宙には行ったことはないけれど、森を抜けると真空の静けさみたいな、無の世界が広がっていて。それは人間という感覚もなくて、ただ生きている、というエネルギーの塊みたいな感覚になれた気がして。生き物としての原点を改めて垣間見る、生きていることを感じられた貴重な体験でした。

――その体験が本作に収録されていて。

 20周年というタイミングでアルバムを作ることは決まっていたけど、既に5曲くらい収録する曲は決まっていて、物件で例えるとまっさらな部屋を見に行ったけれど、既にある程度家具が置いてあったみたいな。もちろんそこにある曲に疑いはないんだけど、今の気持ちを真空パックするには、ちょっと古いかなと感じる曲も出てきてしまうわけで。

――2年前の曲もありますから。

 そうなんです。でも、自分の幹さえしっかりしていれば、過去のことなんてなんでもないし、嫌なら収録しなければいいわけで。今回のコロナを経験して「素晴らしい世界」が生まれたんですけど、それは体験した闇と、その先にあった真理でした。なんでもない景色に光を感じたり。この曲の最後に「素晴らしい世界はここに 懐かしい我が身の中に」とあるんですけど、それは外側ではなく自分の内側を探求していくことが生きていく、ということなんじゃないかと思いました。

 こうやって言葉にしてしまうと難しく感じるかもしれないんですけど、潜在的、無意識に思っていることを歌にできたと思っています。この曲が出来てやっとアルバムに対して能動的に動けるようになった。

――レコーディングは割と最近のテイクですか。

 歌詞が変わったところは録り直しましたが、ベースとなっているのは病み上がりのテイクなんです。当時は声もまだ上手く出ないんだけど「この感じだよな」と思えて。綺麗に歌わなくても良くて、今のリアルな感覚で歌うということがレコーディングなんだよな、と思いました。すごくか細くて頼りなくて不安定なんだけど、それをスタッフのみんなも理解してくれて、この曲を指針にアルバムを制作していくことになりました。

――以前インタビューさせていただいた時に、良い歌の定義についてお話しされていたこととリンクしました。この曲で歌うことに対する考え方が変わったのかなと。

 うん。きっと自分が上手いと思って歌っている歌手はいないと思うんですよね。歌のことを良く理解すること、しっかり俯瞰して考えることが重要だと思っていて、どれだけ情感を乗せられるか、赤ちゃんや鳥のさえずりに近づけるかみたいな。それらは考えてやっているわけではなく自然で、言葉が乗っていなくても何か感じるものがあるじゃないですか。でも、今回は理想や完璧主義とは真逆のところに位置する作品になったと感じています。そういった執着から解き放たれたもので、正直恥ずかしいんですけど、自分が変わっていかないと思っています。

――歌詞に<手に負えない心の声 元の木阿弥>とあってここの間に「うるせえなぁ」というセリフが挟まれていますが、これは?

 ここは最初もう少しメロディックな感じでした。それは造形としては美しかったのですが、どこか僕が経験した恐怖と純粋さみたいな生々しさがないなと思って。今までの僕だったら選んでいなかった言葉かもしれないです。

自分の中で面白いと思えるものを作り切ることが大事

――今いただいた資料では「素晴らしい世界」を1曲目に持ってきていますが、強い意志を感じました。

 曲順は変えました。「素晴らしい世界」は4曲目になったんですけど、気持ち的には1曲目で、いの一番に聴いてほしい曲ではあります。今はサブスクやダウンロードなどアルバムとしての曲順はあまり重視されない時代だと思うんですけど、そこはアルバムというものを意識して考えました。大袈裟ですけど、何百年も聴いて欲しいという想いがあるわけです。

 そう考えた時に「素晴らしい世界」を1曲目に持ってきたら若干生き急いでいるような気持ちになって。この曲の本質が何度も聴いた時に重たくなってしまうのではと思いました。今の気持ちだったら1曲目にしたいけど、長期的にこのアルバムを捉えた時に「カク云ウボクモ」が1曲目で4曲目に「素晴らしい世界」が来るのが良いのかなと思って。

――最後は「それは白くて柔らかい」で締めくくられます。

 最初は「されど偽りの日々」という曲で終わる予定だったんですけど、ちょっともう少しフワッとした感じで終わりたいなと思って。この曲はドラマ『スナック キズツキ』(テレビ東京系)のエンディングテーマで、エンディングとして流れるのがすごく良いなと思って、このアルバムのエンドロールとして、「それは白くて柔らかい」が流れているイメージです。

――曲順にも意思が反映されているんですね。表題曲の「素晴らしい世界」は約7分という大作で、今の音楽シーンで曲の長さが5分以上というのは割と珍しくなってしまいました。

森山直太朗

 僕がポップスや商業音楽に対して、バランスを取れる人間だったらもっと上手くやれていると思うんです。皆さんが僕のことを認知してくれた曲は「さくら」だと思いますが、今だと開始15秒でみんなの心を掴まないといけないとか、そういうものもあると思います。それは結果であって、それをやった人がたまたま時代と合った。それが後々コピペされていくと僕は思っていて。自分はそもそもそういったことを考えていないから、時代に対してショートカウンターみたいな曲を作れたと思っています。

――戦略的な部分ですね。

 そういうことを考えた時期もあるかないかと言われたらあるんですけど、それを気にしていたら、気にしているような曲にしかならないから。歌を歌ったり舞台表現をするという中で生かされているとすれば、自分の中で面白いと思えるものを作り切ることが大事なんじゃないかな。

――少なくとも直太朗さんにはそれがあっているわけですね。

 今作は20年メジャーでやってきて改めて原点に帰れたような感覚もありますから。矢吹(申彦)さんが描いてくれた1stアルバムは『乾いた唄は魚の餌にちょうどいい』という変なタイトルですけど、それは僕はフォークソングが好きだから、というところから出てきたものだと思うんです。これしか出来ないと言いますか、アルバム『素晴らしい世界』も当時の感覚に似ているところがあったと感じています。

――さて、MVも公開された「愛してるって言ってみな」は「素晴らしい世界」とのギャップがすごいですね。

 この曲はニコイチで、二卵性の双子みたいな感じです。アルバム制作というのも念頭にあったので、過去の自分の曲を探るような作業をしていました。「愛してるって言ってみな」 は10年ぐらい前に作った曲なのですが、すごくポップなので当時作った時は「こんなの俺じゃない!」とか思っていたんですけど、「素晴らしい世界」が出来て、「愛してるって言ってみな」も自分自身じゃないかと思えて。それでこの曲をリリースしよう、と思いました。

 自分がそれでも世界は素晴らしいと現実を受け入れられた時に、心が「愛してるって言ってみな」に追いついていった感覚がありました。それで急いで、まだ僕はベッドで療養していたんですけど、いつも僕の曲をアレンジしてくれている櫻井大介くんに、編曲をお願いしました。そうしたら2〜3日くらいで上がってきて。

――めちゃくちゃ早いですね!

 そのアレンジを聴いた時に僕自身コロナですごく辛かった時期だから、自分の曲だけど、“イチ”リスナーとしてすごく勇気づけらました。「素晴らしい世界」と違う意味で物悲しい、切なさもあるんですが、イントロもすごくポジティブで。本当に大ちゃんには感謝しかなくて、感覚的に仕上げてくれたものに始まりを感じましたから。明日どうなるかもわからない中でこの曲を聴いて、身体が回復したら絶対レコーディングしよう、という自分の目標にもなりました。「素晴らしい世界」と「愛してるって言ってみな」は、僕の中の希望でしたね。

(おわり)

作品情報

森山直太朗

20周年オリジナルアルバム「素晴らしい世界」
2022年3月16日発売

CD購入サイト
 https://lnk.to/subarashii

配信サイト
 https://lnk.to/subarashiisekai

森山直太朗 20周年記念特設サイト「素晴らしい世界」
 https://sp.universal-music.co.jp/naotaro/20th/

ツアー情報

森山直太朗 20thアニバーサリーツアー『素晴らしい世界』<前篇>
2022年6月5日(日)東京 LIVE HOUSE 曼荼羅
2022年6月10日(金)北海道 利尻町交流促進施設どんと
2022年6月12日(日)北海道 富良野演劇工場
2022年6月14日(火)北海道 新冠町 レ・コード館 町民ホール
2022年6月17日(金)鳥取 境港シンフォニーガーデン(境港市文化ホール)
2022年6月19日(日)香川 土庄町立中央公民館 大ホール
2022年6月23日(木)神奈川 大さん橋ホール
2022年6月26日(日)兵庫 淡路市立しづかホール
2022年6月27日(月)大阪 大阪市中央公会堂
2022年7月3日(日)宮城 七ヶ浜国際村 国際村ホール
2022年7月5日(火)愛知 千種文化小劇場
2022年7月6日(水)静岡 浜松市天竜壬生ホール
2022年7月8日(金)熊本 八千代座
2022年7月10日(日)長崎 壱岐の島ホール
2022年7月16日(土)沖縄 石垣市民会館 大ホール
2022年7月18日(月・祝)沖縄 宮古島市マティダ市民劇場
2022年7月30日(土)鹿児島 奄美市市民交流センター マチナカホール

ツアー特設サイト
https://naotaro.com/subarashiisekai/

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