INTERVIEW

山田杏奈

難しかったバランス 『HOMESTAY(ホームステイ)』撮影裏側


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:22年03月03日

読了時間:約5分

 山田杏奈が、Amazon Original 映画『HOMESTAY(ホームステイ)』(配信中)で主人公の幼馴染を好演している。小説『カラフル』の実写映画化。魂を導く管理人に突然死を告げられ、高校生小林真(まこと)の身体に乗り移ることになった主人公のシロが、100日間という制限時間の中で真の“死の理由”を探るミステリー。山田は、長尾謙杜(なにわ男子)が演じる真の幼馴染・藤枝晶(あきら)を演じる。山田は、主演映画『ミスミソウ』や『ひらいて』など若者特有の感情の機微を見事に表現し、高い評価を得ている。本作では突然別人格になった主人公の幼馴染という難役を好演しており、改めて演技力の高さを示す形となっている。そんな山田に本作撮影の裏側を聞いた。【取材・撮影=木村武雄】

山田杏奈

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意識した視聴者の視点

 亡くなった真の身体に乗り移ったシロは以来、真として過ごすがそれ以前の記憶はない。周囲は記憶喪失の真として接するがこれまでとは何かが違う…。そんな真を演じる長尾も大変だったと思うが、それを受ける山田らも難しかったはずだ。

 「それが一番大変でした。観て下さる方は、シロが真の身体に入るという流れを観ていますが、晶としては当然その経緯は知らなくて、一緒にいた真が何かおかしいけどよく分からないという感じで進めていかなければなりません。でも、分からないだけで進めてしまうと視聴者の方との視点がずれてしまうと思い、そのバランスが難しかったです。真を視聴者の方はどういう視点で見ているのか、そういうことをずっと考えていました」

 ただ、晶という人物の軸がしっかりなければ成り立たない。山田は彼女の人格とも向き合った。

 「もちろん記憶喪失の真に対してどう演じていくかということは考えましたが、まずは晶をどう作っていこうかと思いました。シロが入っている真に対してもドンと構えて見ている子なので、揺らがないで真っ直ぐにいてあげた方がいいと思いました。晶としてはきっと、今まで真が危うい状況になったとしても、母のような目線、立場でいてあげるところがあったと思うんです。その一方で、女の子の一面もあって。記憶喪失というのはありますが、真との付き合い方に関しては一貫したものを持とうと思いました」

山田杏奈

 晶にとって真は幼馴染であり特別な存在。しかし、終盤に辛辣な言葉を浴びせられる。演じる山田の心情も相当きつかったはずだ。

 「真から初めて尖った言葉を投げかけられた、というのももちろんありますが、晶としては真と話しているつもりなのに、『え!? なんで!?』と思うような言葉を言われていているんです。その困惑と、その尖った言葉そのものにショックを受けるその両方の塩梅をどう表現するのかがすごく難しかったです」

 その両方を受けた晶は心が乱れビンタする。

 「演じるのもきつかったですが、でもあそこでガツンと喰らわないとその先の物語が成立しないという思いもありました。なので真にビンタするシーンは、長尾さんも『当ててください』と言って下さったので、しっかりやらさせて頂きました」

 真と晶は幼馴染で、晶はこれまで通り母親のような目線で接するが、それまでとは異なる真の人格、そして気づく特別な感情、心の距離はこれまでとは違う。その絶妙な距離感を表現しようと臨んでいた山田だが、カメラが回っていないところではどうだったのか。

 「『どういう音楽聞くの?』とか。長尾さんは現場でもずっとヘッドホンを持っていたので、『音楽聞くんだね』というところから音楽の話をしたり、たわいもない話をしていました。実際の年齢は私より少し下なので、一枚あるような距離感がちょうど良かったのかなって思います」

山田杏奈

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スッと入り込めるように

 そんな山田は難しい役が続いている。感情表現は山田の真骨頂ともいえるが、役者としての現在位置はどう捉えているのか。主演映画『ひらいて』では好意を寄せる男性の彼女をも自分のものにする難役を演じ切った。

 「『ひらいて』は、『こういう作品が見たい』と能動的に劇場に足を運んで観て頂く要素が強いと思いますし、私たちもそういう意識で撮影に臨みました。でもこの作品は、スマホやテレビで観られるので、キャストを知らなくても『面白そうだから』と気軽に観て頂けるものだと思うんです。それこそ小中学生が観るかもしれない。そう考えた時に、そういう環境で観て頂けることを意識してお芝居の方向を少し変えていかなければいけないのかなって思いました。もちろん作品の根本は変わらないんですけど、『ひらいて』の時よりも良い意味で普遍的で視聴者の方も入り込みやすいキャラクター、感情移入しやすいお芝居をしなければいけないと思ったので、この作品の晶に対しては、観て下さる方がスッと入り込めるように意識しました。全体を見て演じる役がどういう役割を持っているのかはいつも考えていますが、今回はシロがメイン。そのなかで晶がどう見えたら一番いい映画になるのかは視聴者の環境も踏まえすごく考えました」

 趣向性と大衆性、そのバランスを今回の作品では特に考えたという山田。過去には、主演映画『樹海村』に臨むにあたって視聴したホラー映画で、恐怖よりもどういうアングルで撮っているのかが気になった、とも語っていたが、一つの作品を細部まで考える山田の研究熱心さが伝わってくるエピソードだ。

 その大衆性がより強く出ている本作は、「命と向き合う」という観点でも社会的な役割が大きい。学生時代に担任の教師から勧められ原作を読んだことがあった山田は改めて原作を読み、気づくことがあったという。そんな本作に参加した経験は自身にとってどういうものになったのか。

 「この作品を観て救われる人がいたらいいなという大きなことは私の口からは言えませんが、この作品を観た後にちょっとでも意識が変わることはあると思いますので、道徳心ということだけではなく、少し元気が出る映画になってくれたらいいなと思います。実際に私も作品を観た時に、みんなが持っている芯の強さに元気をもらいましたので、良い影響を与えられたらいいなと思います」

 もちろん役者としても「すごく大事な作品です」

山田杏奈

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(おわり)

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