INTERVIEW

小川紗良

「私が救われた気持ちだった」、ドラマ『湯あがりスケッチ』で主演


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:22年02月23日

読了時間:約10分

 小川紗良が、ひかりTVオリジナルドラマ『湯あがりスケッチ』(毎週木曜日よる10時配信/全8話/監督・脚本=中川龍太郎)で連続ドラマ初主演を飾った。銭湯ブームの火付け役となった『銭湯図解』著者・塩谷歩波さんの体験をモチーフに描く、8人の女性と銭湯の物語。小川は、憧れだった建築事務所の仕事に就いたものの日々の業務に追われ自信を失う主人公の穂波を演じる。穂波は、親友の朋花(伊藤万理華)に誘われて入った銭湯で心が洗われていく。小川自身は過去に、少女たちが未来へと踏み出す姿を、俳優としても、映像作家としても、文筆家としても追い続けたいとも語っていたが、このドラマは「私自身の心が救われた気持ちになった」という。自身に重ねた本作の主人公、そして様々な挑戦を試みた撮影。その舞台裏を聞く。【取材・撮影=木村武雄】

自然と重なった

――連ドラ初主演ともあって責任もより強く感じられたのではないかと思いますが、その辺りも含めてのお気持ちは?

 連ドラ初主演という気持ちもそうですが、中川監督の作品を映画館でよく観ていたので、その世界でお芝居できることが嬉しかったです。銭湯という場所の良さと、そこで生まれる人の関係性などいろんなものが詰まった物語になっていましたので「これは絶対に楽しくなる!」という思いでした。すごく良い機会を頂きました。

――澤井穂波をどう捉え、演じようとされましたか?

 原案の塩谷さんがいらして、その塩谷さんが持っている価値観や歩んできた人生を基盤にしつつも、私が演じる穂波ならではのオリジナルの部分もあり、どこがどこまで私で、どこまでが塩谷さんなのかという感覚はありました。そもそも塩谷さんとお話したときに、何か根底にある価値観が似ているなと親近感がありました。無理に寄せようとしなくても自分らしくこのドラマの中にいられると思い、自然体で演じさせて頂きました。

――その価値観とは?

 銭湯もそうですが、古い建物や、受け継がれてきたものを大切にする気持ち、そこで生まれる人との交流、それからものづくりに対する姿勢などです。

小川紗良

憧れ温泉宿で執筆

――銭湯は古くは江戸時代にあり、時代を経て今になりますが、このドラマを通して感じた魅力は?

 住宅街など身近な所に銭湯があって日常の延長線上ではありますが、入ってみると家風呂とは違う非日常が感じられます。高い天井もそうですし、知らない人と一緒に湯に浸かることもそう、色んな種類のお風呂もあったりと。だからこそ楽しめますし、ホッとできる。一人で入っても一人ではない感覚を味わえるその塩梅が良い場所だと思います。

――木造も含め建物としてはいかがですか?

 メインになるタカラ湯は、本当に立派な宮造りで、外観からワクワクしますし、入ると木のいい匂いがして、日中は高い天井からは光も差し込みます。あと縁側も良いです。立派な縁側で湯上りにちょっと一息つけたり。建物が持っている力は大きいと改めて思いました。

――文筆家の立場でみた場合は?

 森崎ウィンさんが演じられた熊谷多喜は劇作家の役ですが、銭湯の待合室や縁側でアイデアを練ったり脚本を書いているんです。確かにあの場所は創作や作業するのに向いていると思いました。私も喫茶店とかで書いていますが、銭湯は自然もありますし、人の声も聞こえてきますし、ほどよく刺激的な場所ですので創作に向いていそうだなと思いました。

――文豪は温泉宿に籠って執筆活動をしていましたからね。

 温泉宿、憧れますね。温泉宿に一週間ぐらい泊まりこんで書くのは憧れですし、都内にあるちょっとしたスペースのある銭湯ならそれに近いこともできるなと思いました。

小川紗良

アドリブから生まれる展開

――先ほど中川監督の作品を観ていたという話もされましたが、中川監督の撮り方が独特と思いました。小川さんご自身も監督されていますが、撮影はどう進められたのですか?

 中川監督は今回、これまでと違う挑戦をしていると話していました。これまでは脚本に沿ってしっかり画角も決めて撮ることが多かったようですが、今回はドキュメンタリータッチといいますか、ワンシーンを一連の流れで撮るような感じでした。脚本にないことも話しますし、かなり自由度があるなかで撮っていて、そのなかで話の流れをうまく作っていくその塩梅を、他の役者さんとも意見を出し合いながら現場で調整していきました。一度自由にやってみて、広がり過ぎたらまとまらなくなるので削ったり、試しに動きを変えてみたり。アドリブをやってそこで偶然出てきたセリフもあって。それは私に限らず他の役者さんにもあって、それをきっかけに次の展開が少し変わることもありました。基本的な流れはもちろんありますが、その間を埋める言葉とかは撮りながらみんなで考えてやりました。とても新鮮で面白かったです。

――となると、役にちゃんと入り込めていないとできないですね。

 そうなんです。特に伊藤さんとは親友役でしたが、それまで一緒に過ごした時間があるわけではなく「はじめまして」だったので、準備段階で一度会う機会を頂きました。2人で散歩しながら喋ったり。そうした事前に距離を縮める時間があったからこそ、川沿いを歩くシーンや居酒屋のシーンは自然な形で入れたと思います。本当に良かったです。

小川紗良

個性的キャスト

――伊藤さんと小川さん、お互いが持っている空気が似ている感じがしますね。伊藤さんも個展とかなさっていて、感覚も合っていたのかなと。

 クリエイティブな話も結構しました。そもそも共通の知り合いがけっこういて、作り手もそうですし、共演者も多かったんです。たまたまですが、お互いに初めての映像作品でお芝居をしたときの監督が一緒でした。そういう話で盛り上がって、結構近いものを感じました。本当に仲良くなれましたし、すごく楽しかったです。

――それが画からにじみ出ています。伊藤さんもそうですが森崎さんや村上淳さん(「タカラ湯」の3代目・氏子愛之助役)とのやりとりも自然でした。

 森崎さんはすごく周りを見ている方でした。アドリブはいろんなものが急に飛んできますが、それをキャッチして返すのがとても上手。その瞬発力みたいなものにすごく助けられました。村上さんは本当にチャーミングな方で、びっくりするようなアドリブを度々挟んでくるんです。しかも毎カット毎カット違うことをやるんですよ(笑)。みんなも面白がりながらやっていましたが、すごいアイデアマンだなと思いました。ゆづ葉(愛之助のひとり娘)を演じた(新谷)ゆづみちゃんはとてもいい子です。設定上はギャルなので、撮影日にすごいギャルになってやってきて、見た目も世代も違うから面白くて。本当に楽しいメンバーといい時間を過ごしました。

小川紗良

細部のこだわり、ネイル

――それと第1話で気になったのは、穂波のネイルです。

 あっ! そうですね! 序盤、設計事務所に勤めているシーンで穂波のネイルが剥げているんです。私もそれすごく分かるんです。ネイルをたまにしますが、だいたい最後の方はひどい状態になっていて。疲れや何か追われている感じは手先に出ると思っていて、穂波は忙しさのあまりにちゃんとケアできなくてカサカサになったり、爪が剥げたりと、そういうディティールにもかなりこだわりました。

――それはもともと脚本には書いてあったんですか?

 それは書いてありました。でもメイクさんと現場で、どのぐらい剥げているのか話し合いながらああいう形にしていきました。細部に気づいてもらえて嬉しいです。

――そういう細かいところが随所に見られます。その第1話の印象的なセリフに「適当でいいんだよ」というのがあります。これはどう思いますか?

 「適当」はいい言葉だと思うんです。穂波もそうですが、この時代、スピードがどんどん速くなって情報過多で疲れるじゃないですか? みんなもいろんなものに常に追われていて。でも本当はいろいろとパッと手放してみても何とかなると思うんです。適当な気持ちでいいだよなと本当に思わされて、自分自身もその一言で背中を押された感じでした。

――「適当」は本当はいい意味なんですよね。それに絡めて、小川さん自身が気持ちを切り替える方法は?

 私は結構、一人カラオケに行くんです。今の時期はなかなか行けないのですが、例えば執筆を午前中にガッツリしてちょっと疲れたなっていうときに30分だけでも一人カラオケに行ってハロプロとかを歌って。それだけでも気持ちが楽になるんです!

――歌ったり、大声を出すのは良いことですからね。ところでなぜハロプロが好きなんですか?

 物心ついた頃から好きだったのでその頃の懐かしさもありますし、今のハロプロのカッコよさもあります。女の子たちが輝く姿に日々パワーをもらっていますね。

小川紗良

「私が救われた」

――そういえば、作品を通してさまざまな女性に寄り添いたいという話も以前されていましたが、穂波を救ってあげたいと思ったり?

 救いたいというよりも、今回は穂波という役が自分自身にもリンクしている状態でした。タイミング的にもやっぱり去年は舞台が中止になったり、役者業で行き詰ることが多くて、そういうなかでこのお話を頂いて、なんとか前に進んだなという実感がありました。穂波も自分の好きな仕事に就きましたが行き詰ってしまって。そんなときに銭湯に入って心が開かれて。私もこのドラマに出会ってそういう感じがしました。何かを救うというよりも自分自身が救われた物語だったと思います。

――穂波を通して前向きになれる人は多いと思いますよ。

 そうだと嬉しいです。あとは穂波だけではなくて、毎回いろいろな女性が出てきますので、いろんな生き方が見られると思います。

――伊藤さんだけでなく安達祐実さん、成海璃子さんら多彩なゲストが毎話登場するということは、主演として受ける立場ですね。

 そうなんです。主演と言いつつも穂波という役はすごく聞き役なんです。自分が何かを伝えるよりも、銭湯に行って取材をして、そこで出会った人の話を受けて成長していきます。ですので毎話出て下さるゲストの方はもう一人の主人公。私はその合わせ鏡のように話を聞きながら、前に進んでいきます。

小川紗良

無心、自然体の姿

――それと銭湯でスケッチしているシーンも気になりました。無心になって描いている姿もすごく自然で。

 もともと私自身が物作りが好きなので、何かに黙々と打ち込む気持ちは自然と分かりました。

――メジャーで測るところも長回しのように見えますが…。

 そうですね。流れで撮っていて、それを切り取ったような感じです。塩谷さんがやっている様子を見させて頂いてそれを真似してやっていきました。楽しかったですね。ああいうところを測ることはないですからね(笑)。

――それと入浴のシーンではすっぴんも披露されています。

 そうです。オープニングの映像に入っているのも私ですが、完全にメイクを落とした状態でした。ドラマはすっぴんといってもすっぴん風が多いと思いますが、がっつりすっぴんでしたから(笑)。このドラマは本当にそういうところにも妥協がなくて。エキストラの方も本当に肌が見えていますし、でもすごく堂々となさって楽しんでいて。本当に銭湯に来たような情景が広がっていたので、私も自然体で癒される時間を過ごしました。

――でも入浴のシーンは大変だったんじゃないですか?

 いやそれがお風呂のシーンに本当に救われました。撮影が12月だったこともあって寒くて。でもお風呂のシーンがこの後あるから大丈夫と思えたり、撮影の合間で交互浴をしたりしながら楽しんでリラックスしていました。

――それが画にも表れていますね。さて、穂波は銭湯の出会いが活力になっていきますが、ご自身の原動力は?

 日々の暮らしを大事にしたいと思っていて、ご飯を食べることと、ちゃんと寝ること、そういう暮らしがあっての仕事だと思っています。少しでも居心地がいい暮らしを作るために、俳優業や文筆家としての仕事があるんだと思っています。

小川紗良

(おわり)

スタイリスト
武久真理江

衣装協力
ISSEY MIYAKE
l'oro

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木村武雄

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