音楽評・分析
宇多田ヒカル楽曲が今もなお愛されている理由とは、「間」の存在
読了時間:約9分
衝撃的なデビューを飾った宇多田ヒカルの「First Love」。写真は「First Love -15th Anniversary Edition-」
感情を多彩に表現できる繊細さ
そして、緩急もまた彼女の魅力の一つである。生身に近しいアレンジのバラード曲「Flavor Of Life」やロックバラードの「Be My Last」では、感情の塊を飼いならしているかの様な緩急で、悲壮感というよりかは決して暴力的破壊的でない狂気の種類の情念がなぜか伝わってくる。
その奇妙で美しい情念が最も感じ取れる楽曲「Prisoner Of Love」。音楽で表現する感情とは....などと歌い出しの第一声を浴びた瞬時に考えさせられてしまう。
文化を通して他者から自身から「イイ」と受け入れられる。それは決して簡単な事ではない。それには人間の根底にある幸福や不幸と真正面から向き合う必要がある。
宇多田ヒカルは、歌を通して、教養や体験から言葉を決定し作詞し、数多の感動や楽しみ、悦びから音を選び作曲し、誰よりも深く、恐れず逸れずに「情念」と向き合っている人間なのではないだろうか。
感情を様々な手法で操る彼女の音楽や表現から、それらをはっきりと感じとる事が出来る。
「宇多田ヒカル」の知性、愛嬌、色気、陰、無邪気な振る舞い、その全てをもって彼女の音楽。愛くるしくも深い人間性を備えた、色鮮やかなアーティストである。それが永きも渡り慕われ続けている理由ではないかと考えるのである。 (文・平吉賢治)