2021年7月にclub asiaを拠点にスタートしたPaledusk主催イベント「KOUBOU」が3回目にしてPaledusk史上最大規模となる会場、豊洲PITで11月5日に開催された。Paleduskがリスペクトする、バンド、ヒップホップのアーティストが入り混じりシーンやジャンルの壁を壊して新たなカルチャーを生み出していこうという本イベント。今回は、ツアーを共にするなど親交の深いバンド、アーティストから若い気鋭のアーティスト、そしてリスペクトする先輩など全11組がラインナップされた。「KOUBOU」をスケールアップし、未来へとつなげていきたいという思いが滲む刺激的なアクトが揃った。

 コロナ禍でまだまだフェスやイベント開催は少ないが、だからこそオーディエンスが新たな音楽に出会う場所、音楽を通した居場所を作る意義は大きい。会場には椅子が置かれ、声出しは禁止などコロナ禍のライブにおけるルールに則りながら、アーティスト、オーディエンス共に、この時間を存分に楽しみ、会場は熱気で溢れた。

 その1番手を担ったのは、Paleduskと同郷、福岡発の気鋭のヒップホップクルーDeep Leafだ。「KOUBOU」には初回から出演する8人が、イベントの幕をあける。高い期待感を軽々と超えるように8人8様のスタイルでのラップで魅せ、アグレッシヴに叫びあげる分厚いステージングでフロアに迫る。その熱量は、凄まじい。“今日はかましにきた”、“お前らの熱い情熱と、ソウル、魂を俺にぶつけてくれ”というMCに、オーディエンスもまたコブシを掲げて応えるなどフロアもいいムードだ。「LALALA(Hip Hop Musical)」や「KOBURA」など、タフでいてファニーな面も見せるスペクタクルなステージで、短い時間だが、インパクト抜群の存在感で会場の士気をあげた。

Deep leaf

 続く登場はAge Factory、ENTHとバンドが続く。Age Factoryは、感情を一気にバーストするハイエナジーで引力のあるアンサンブルを響かせ、オーディエンスを掌握していく。エバーブルーなパンク精神を真ん中にUSオルタナティヴロックの香りを漂わせたドラマティックなサウンドを奏で、また“ここにいる全員と踊りたい”と「Dance all night my friend」ではオーディエンスの体を揺らせる。「AXL」「Kill Me」ではJUBEEをゲストに迎えた。タフなエンジンを搭載したバンド・サウンドを豪快に乗りこなすパワーで、会場の温度をあげていった。

Age Factory

 そこに続いた3ピースバンドENTHは現在、ニュー・シングル「BOW!!」を携え全国ツアー中。アクセル全開状態なのは、鍛え上げたタフな音塊でガッチリとオーディエンスの心と体を掴んでいくアンサンブルはもちろん、サウンドチェック時の(本人曰く)“爆笑”トークでオーディエンスを沸かせるサービス精神にも表れている。 “はじめて観る人も多いと思うけど、ENTHのこともよろしく!”と、緩急自在なメロディック・サウンドとナイスな人柄で送る陽性のステージは、とことんキャッチーで楽しい。

ENTH

 この後はどんぐりず、釈迦坊主、ralphとそれぞれキャラクターの濃い3組が続いた。森とチョモによる幼馴染で結成したどんぐりずは、そのほんわかとしたネーミングやゆるりとした佇まいとは裏腹に、スキルフルなラップと様々な音楽を横断する変幻自在なトラック、ポップで中毒性の高い音楽で魅せる。この日1曲目に披露した「NO WAY」は中南米でもヒットしているという。日本語詞の曲だが、軽々と国境を超えるのも納得のユニークで、万国共通のノリの良さやいつの間にかクセになっている中毒性が抜群だ。“今日楽しくない?”“まじで楽しい”とオーディエンスと空気を分かち合うような無邪気さもまた、ファンの裾野を広げるステージになったはずだ。

どんぐりず

 釈迦坊主は、「Hideout」「Supernova」、そして「Thanatos」へと続き、万華鏡のごときポップでめまいのするようなコラージュ感がふんだんなサウンドとラップで冒頭からダイナミックに飛ばしてく。クールに自身の世界観を作り上げながらも、MCで“久々に家を出たから…息切れが…”と肩で息をしながらはまっているゲームの話をしたりと、なかなかキャラを掴ませない。後半も“友だちを呼んできた”と言ってOKBOY&Dogwoodのふたりをゲストに呼び込み、「piro piro mo ai」で再び高揚感たっぷりに駆け抜けていった。

釈迦坊主

 続くralphは「sun of siva」の激しい咆哮でスタートした。その迫力に会場から大きな拍手が湧き、その興奮にさらに燃料を注ぐように高速ラップを叩き込んでいく。圧巻はその重低音。低音がブーストされ、“声”でありながら床をビリビリと震わせるように轟くのがわかる。その重低音マシンガンラップとリリックは鋭くも、ずしりと重くオーディエンスに刺さり、会場のテンションがぐっと上がっていくのがわかる。“ヒップホップ・ファンだけでない場所でできるのは嬉しい”と語り、だからこそその存在を深く刻みつけるように「piece of cake」「Selfish」を届けた。

ralph

 イベントも後半に折り返し、登場したのはThe BONEZ。“声は出せなくても、跳ぶことはできるだろ”というJESSE(Vo)の声を合図に「We Are The BONEZ」で会場一体でジャンプしてスタートしたライブは、「Louder」から7月にリリースした新曲「Rusted Car」へと、その爆音をクレッシェンドしていき、頭から興奮のピークを更新し続けるパワーだ。オールドスクールな骨太さとスピリットが詰まった「Jump Around」は、本来なら大合唱が起こるところだがコロナ禍の現在はオーディエンスはその声をコブシに込め高く振るう。JESSEは、“今日は、バンドもラッパーも、先に進もうと頑張っているアーティストが揃った。みんなも、手を貸してほしい。ライブに行ってほしい”と語り、こういう状況だからこそアートや音楽が起こせる奇跡をオトナたちにも見せてやれ、という。「KOUBOU」のコンセプトを形にするライブだ。

The BONEZ

 続くアクトは、首都圏中心に活動し、「Majinahanashi」が海外でも大きなリアクションを得たラッパー、HideyoshiがDJ NORIOと共に登場。その「Majinahanashi」はこのステージでもオーディエンスを引きつけ、ビートやラップはゆっくりだが加速度的にフロアのテンションや空気が高揚させる。グッと掴んだフロアの空気を一息でねじ伏せたのは、ralphを迎えた「Jitsuryoku」。ふたりの言葉の馬力が凄まじい。また中盤ではHideyoshiが所属するヒップホップクルーTokyo Young Visionから、Young Dalu、OSAMI、Big Mikeを呼び「EDO」「TOKIOKI」を披露した。パワフルなステージから、ラストのエモーショナルな「New Day」へという流れも珠玉だ。

Hideyoshi

 次にステージへと飛び込んできたのは、日・英・韓の言語を操る大阪・生野区出身トリリンガルラッパー、Jin Dogg。長身で、そのラップ同様に強烈な存在感を爆音で打ち鳴らすようにステージを跳ね、怒気を含んだ咆哮を響かせ、オーディエンスをアジテーションする。呆然とする者のコブシをも突き上げさせる迫力だ。拍手を送るオーディエンスに、俺のライブに拍手はいらん。恥ずかしいからとぶっきら棒ながら笑みを見せ、その分盛り上がれと煽る。コリアンタウンで生まれ育った自身のバックボーン、魂を刻みつけた「街風」にオーディエンスのボルテージが上がる。ラッパーJin Doggを生んだ、ハードな環境とそこで培った姿勢を、街の空気感もろとも伝える説得力が、この会場の空気をも震わせる。

Jin Dogg

 残るアクトもいよいよ2組。そこで登場したのは、今やワールドワイドに活動をするCrossfaith。Koie(Vo)はMCでPaleduskについて、彼らが高校生の時からCrossfaithのライブに来てくれていたといい、いつか一緒のステージに立ちたいと言ってくれたのを覚えていると語った。多くの若いバンドに影響を与え、日本のラウドシーンを盛り上げ、また世界へと道を切り開いていったその矜持を証明するようなステージだ。「Catastrophe」でスタートしたライブは、終始ハイボルテージ。オーディエンスも生で、Crossfaithの爆音を浴びるのは久々と見える。内臓をも揺らすようなリフにブラストビート、グロウル、そしてどの角度から見てもエンターテインメントなプレイにオーディエンスの興奮が重なる。“今日はこれが聴きたかったんじゃないか”とJin Doggをフィーチャーした「None of Your Business(feat.Jin Dogg)」も披露し、「Freedom」から「The Perfect Nightmare」へと天井知らずに熱気を上げていくパフォーマンスに、生の“ライブ”が持つ力の大きさを感じた。

Crossfaith

 Crossfaithはもちろん、この日10組がつないできたものを受けてPaleduskはステージに立った。1曲目「NO!」からアクロバティックなプレイでフロアに風を起こし、“踊れ、豊洲”というKaito(Vo)の叫びでグルーヴィでラウドなロックンロール「PALE HORSE」へと突入し、きらびやかなギターソロでも魅せる。長丁場となったイベントにKaitoは“こんな時間までありがとう”と言い、また“時代作りに来たやつ、どれだけいる?”とオーディエンスを挑発しながら、続く曲「HAPPY TALK」では福岡の後輩でこの日のトップバッターを務めたDeep Leafの8人を呼び込んだ大所帯のステージで“HAPPY”を増幅させていった。続く「9 SMILES」「WIND BACK」と凶暴なハードコアにストレンジなポップさも混じり合ったハイブリッドなサウンドでオーディエンスを撹乱すると、オーストラリアのレーベルGreyscale Recordsからの第2弾シングル「BLACK ICE」を披露し、自由で縦横無尽なバンドのスピリットを届ける。

Paledusk

 MCで何度も来場者やステージを彩ったアーティストに感謝を伝えたKaito。どのステージを見ても感動したといちキッズに戻って語り、またジャンルや仕切りを壊して、次へもっと上を見て進むしかないと感じたと興奮交じりに宣言する。そして“大きなユースカルチャーを作るための第一歩になったと思う”と力強く宣言した。そこからのアンセミックな「Q2」、そしてスマホのライトがフロアを満たすなか“俺たちは、何も失っちゃいない”と高らかに声をあげ「LIGHTS」で、バンドのシンガロングを響かせた。“また、遊ぼう”と締めくくったPaleduskの姿には、会場を大きくしたこの日はまだまだ通過点だという、前だけを見据えた頼もしさがあった。コロナ禍でのライブのあり方、ルールも徐々に変化をしている現在。まだ制限されている部分も多いが、そこで試行錯誤し、アーティスト同士賛同を得ながらできることを一歩一歩押し進めていることを感じる。

Paledusk

 それはまた、限られたなかでも最大限の楽しみを追求したいという、オーディエンスの思いがあるからこそできることでもあると改めて思ったイベントとなった。この意志ある「KOUBOU」の次の挑戦にも期待したい。【吉羽さおり】

Photo:かわどう、KEIJU

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