TK from 凛として時雨が10月23日、『egomaniac feedback tour 2021』のファイナルとなる東京公演を東京国際フォーラムホールAで開催した。今年ソロ活動10周年の節目を迎え、初のベストアルバム『egomaniac feedback』を発表したTK。今回のツアーは7月にWOWOWライブで放送された『TK from 凛として時雨 10th Anniversary Session presented by WOWOW』同様に、ベース、ドラム、キーボード、ヴァイオリンに、チェロを加えた特別編成で行われ、10年の重みを感じさせる濃密な一夜となった。

 ベストアルバムの1曲目に収録されているお馴染みのSE“kanazawan”にのせて、まずは吉田一郎不可触世界、BOBO、ちゃんMARI、須原杏、内田麒麟というサポートメンバーが登場し、最後にTKが姿を現すと、ライブは“katharsis”からスタート。楽曲にはライブアレンジが施され、4つ打ちとヴァイオリンによる抑制の効いた序盤から、途中でバンド全体が加わる展開が原曲のアレンジ以上のカタルシスを呼び起こす。トリッキーなギターフレーズと性急なビートの組み合わせがスリリングな“Abnormal trick”、アコギから始まり、途中でエレキに持ち替える“flower”と、一曲ごとに異なる世界観を立ち上げるような楽曲、それを再現する鉄壁のアンサンブルはやはりTKのライブならではのものだ。

(PHOTO:河本悠貴)

 「いつのまにか10年経ちましたが、今日はよろしくお願いします」という短い挨拶に続いて、再びアコギに持ち替えての“haze”では青い照明が澄んだ空気感を演出しつつ、後半ではアコギを歪ませてグッと熱量を上げ、エレクトロニックなシーケンスから“Secret Sensation”へ。さらには、ヴァイオリンとチェロによる幽玄なインタールードから、重厚なミドルテンポの“Signal”、ピアノのリリカルな旋律を挟んで、ミニマルなフレーズの繰り返しが切迫感を生む“Fu re te Fu re ru”と、曲間に生楽器が静謐な空気を作り上げることで、バンド演奏とのコントラストを生んでいるのも印象的だった。

 ピアノとストリングスで始まるバラードナンバー“memento”は、後半で転調を繰り返しながらスケールを広げていく展開と、TKの痛切な歌声が大きな感動を呼ぶ。さらに、ギターを置いて、椅子に座り、エレピから始まった“罪の宝石”でもじっくりと歌を聴かせて、曲の後半では雲の隙間から降り注ぐ光のような照明が、神々しい雰囲気を作り出す。TKの歌を軸とする「静」の表現を、「動」の表現と同等の熱量で届けられるようになったのも、アコースティック編成でのライブを含めた、この10年の歩みの成果と言えるだろう。

(PHOTO:河本悠貴)

 TVアニメ『東京喰種』のテーマ曲として国内外で幅広く聴かれ、ソロにおけるターニングポイントとなった“unravel”から始まったライブ後半戦は、圧巻のシーンの連続。ダンサブルなビートと伸びやかなハイトーンによる“Fantastic Magic”のラストでは、ストロボがトランシーな高揚感を生み出し、そのままアッパーな“Shandy”を畳み掛けて、カオティックな雰囲気を作り上げる。そして、本編の最後に披露されたのは、現在放送中のTVアニメ『コードギアス 反逆のルルーシュ』のために書き下ろされた最新曲“will-ill”。ストリングスによる大陸的なイントロに始まり、間奏ではダブばりにリヴァーブの効いたドラムがさらに空間を広げ、その後も息つく暇なく展開を繰り返すことにより、一曲だけで短編小説を読み終えたかのような充足感を与えるこの曲は、やはりTKの真骨頂だ。

 ここで本編が終了したものの、“will-ill”の途中でギターにトラブルがあったようで、もう一度ステージに戻ってきたTKが「最終日なので、新曲をもう一回やります」と話すと、急遽2回目の“will-ill”を、今度は完全な形で演奏。こういったライブならではのハプニングも、オーディエンスからすると嬉しいもの。さらに、こちらもベストアルバムに収録されている新曲で、音源では阿部芙蓉美がゲストボーカルとして参加している“Super Bloom”では、巨大なミラーボールが場内を照らし、開放感のある曲調と合わさって、10周年のセレブレーションのような雰囲気に。最後はもう一度ダンサブルな“P.S. RED I”を演奏し、フィードバックノイズとともにアンコールが締め括られた。

(PHOTO:河本悠貴)

 長いノイズが鳴り止み、もう一度場内が拍手に包まれると、再度メンバーがステージに登場。TKが「10年間ずっとこんな感じですが、来年はまた時雨が結成から20年になります」と話し、さらなる拍手が巻き起こるなか、「10年前に突然ソロプロジェクトが始まって、こんな景色が見れるようになるとは考えもしませんでした。僕は先が見えないことには飛び込まないタイプで、飛び込んだ結果、不安に駆られるときもあるけど、こうやってみなさんが聴きに来てくれることがとても嬉しいです。まだまだこれからも音楽を続けて行くので、いつでもステージで待っています」と語りかけ、演奏されたのはソロ活動の始まりの曲である“film A moment”。最後に煌々と輝いた照明は、真っ白になるまで燃え尽きたTK自身のようであり、これから先の晴れやかな未来を映し出す光のようだった。

 なお、この日のライブの模様が11月26日の20時から配信されることが決定。東名阪の3公演のみだった貴重なライブを、ぜひ配信で体験してほしい。【金子厚武】

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