INTERVIEW

三吉彩花

初監督作で描いた身近にある「未来の選択」、『inside you』制作秘話
『MIRRORLIAR FILMS Season1』


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年09月15日

読了時間:約9分

 短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season1』が17日公開される。その一編『inside you』の監督を務めたのは女優・三吉彩花。今年25歳を迎えた彼女は「いろんなことに挑戦して特別な一年にしたい」と語っていたが、ミュージカル初出演を『The PROM』で実現させ、そして、本作で監督初挑戦とその言葉が示す通りとなっている。三吉と言えば抜群のスタイルにファッションモデルとしても活躍するなどその美的センスは業界内外から注目を集めている。本作では、豊かな色彩で人物の感情を表現した。彼女ならでの世界観をどのようにして形にしていったのか。その裏側を聞く。【取材・撮影=木村武雄】

主人公を演じる山口まゆ。『inside you』シーンより。(C)2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

 ◆あらすじ 自分のしたいことが分からない主人公(山口まゆ)。「幼い頃、何を夢見ていたのか?」と自問自答する彼女は、移動中のバスの中から、河川敷でクラシックバレエを踊る女性(飯島望未)の姿を見つける――。

伝えたい思い、人生の分岐点

――なぜ監督をやってみようと?

 この作品のプロデューサーの一人に、映画『Daughters』(2020年9月公開)で製作総指揮を執っていた伊藤主税さんがいます。『Daughters』の時に「自分の作品を作ってみたい思いはあります」とずっとお話していて。こんなにもすぐに作品を作る機会を頂けてすごく嬉しかったです。

――クランクインを迎えるまでどのように進められたのですか。

 脚本は募集して何名かお会いして、そのなかで相羽咲良さんにお願いしました。彼女の持っている独特な言葉のセンスや、人生観の捉え方がすごく美しくて。一緒に作ったらお互いに何か得られるものがあるのではないかと思いました。一緒に台本を作っていき、その中で「もう少しこういう世界にしたい」など意見交換をしながら直してきました。セリフがほとんどないので、演じて頂く方の表情や動き、画面に映るものの色味などで感情や変化を表現しようと思いました。基本は相羽さんが書いた脚本をベースに作っていき、そうした物語の展開や映像の色味はスタッフの方と話しながら決めていきました。

――物語の着想は?

 私自身、出演した作品から大きな変化を与えられ人生の分岐点になることが多いんです。20歳の時もそうした体験があって。写真集『わたし』をインドで撮影しましたが、あの時インドに行ったことが今の自分の思考に繋がっていると感じることが多いです。人生の中で、大小はあるにしても、ある出来事によって、明日どういうふうに生きていくか、そこでどういう人生を歩んでいくかという選択されていくかを、この作品で伝えたいと思いました。

――それをどうストーリーに落とし込まれましたか。

 ストーリーは、主人公にしか見えない白い服を着た少女がいて、幼い頃からその少女をカメラで撮り収めていて、その主人公が大人になり、再び彼女を見かけて撮っていきます。河川敷でクラシックバレエを踊る女性がその少女ですが、赤い飛沫が上がるシーンも実は現実ではなく主人公の頭の中で起きていて。そういう意味もあって個展で展示される写真は人物が写っていないものを使用しました。それと心情を、大きく青と赤で表現しました。

三吉彩花

心情を色、衣装で表現

――「三吉彩花=美」という印象もあり、どう描写表現されるのだろうと期待していたなかで、本編では美しい世界が広がっていました。でも、あれは絵ではないのですか。

 絵ではないですよ! それを意図して撮ったわけでもないので「そのような観られる方もいらっしゃるんだ」と新たな発見をした感じです(笑)

――人物がいない絵に主人公が同化して、そしてそのカット全てが絵になっていく。実際は絵ではないのですが、その絵画的な美しさに三吉さんの真骨頂が表れているような気もします。

 そういって頂けて嬉しいです! この作品はいろんな捉え方が正解で「これです」というものを与えたい訳ではなく、みんなが日常的に感じている変化や人生の選択とか、何が美しくて、何が自分には必要なのか、何に影響されているかということを、観ている人も自分に置き換えて考えて、感じてくれたらいいなと思ってこういう表現にしました。

――誌的なナレーションも印象的です。<眩しい光に焦がれていた>など言葉のセンスが良いですね。それと河川敷で踊っているシーンは1日で撮られたのですか?

 撮影自体は半日ですが、準備を含めるとほぼ1日です。撮影期間が2日と短く、1日目に山口さんのお家や、職場、ギャラリーのシーンを撮りました。踊るシーンを一番美しく撮りたくて「このシーンが綺麗に撮れたらこの作品は絶対に大丈夫」と思っていました。なので、そのシーンを撮れる時間、余白をたくさん欲しくて。それで午後から準備して、日が暮れる短い時間に本番を狙って撮りました。

――最初は青みがかった景色、やがて陽を浴びて赤く染まるという色彩になっています。三吉さんが監督するという良い先入観がこの色の変化にも意図があるのではと思わせてくれます。

 人の心情に合わせ時系列も考えて撮りました。前日に雨が降って、ロケ班も「夕焼けが出て素敵にならないかな」と願いも込め一か八かで準備をしていたら急に晴れてきて。「やばい! 急いで撮らないと!」って。それで撮り始めたら景色の色味がどんどん変わっていって。後に素材を見たら赤くなったり、黄色い夕陽っぽかったり、急に青くなったり、変化が激しく映っていて、「これ、どうやって時系列を繋げたらいいのか」と…。彼女が一瞬の時間だけあそこにいた、というのではなく、何時間もあそこにいて夢中で撮り続けたという流れにしたかったので、なんとか編集しました。

三吉彩花

使用楽曲の裏側

――でもそれが結果的に幻想的な空間になったわけで。それと選曲はどなたがされたんですか。

 みんなで話した気がします。飯島さんが、プロバレエダンサーですので、彼女にどういう曲だと踊りやすいかを聞いて。劇中で、最初に飯島さんを発見するときと、飛沫が上がるときの2曲を使用しましたが、1曲はすごく緩やかで柔らかく、もう1曲は劇的に変わるものを探していました。

――そのうちの1曲がショパンの「エオリアン・ハープ」ですね。

 そうです。テレビをつけたらこの曲が流れていて、「これだ!」って。夜中の2時でしたが、それから目が冴えてしまって眠れなくなりました(笑)

――調べたら、ショパンが門下生に「洞窟で暴風雨から避難している牧童が、外では風や雨が吹き荒れるなか、笛を取り静かに美しい旋律を吹いていることを思い浮かべて聴きなさい」と伝えたそうです。そのエピソードと妙に映像が合うなと。

 それは意図しませんでした。でも、この現場では、周りから「持っているね!」と言われることも多くて、特に天気なんかも。

――有名な監督でも「あの人は持っている」と言われることがあるので、三吉さんも持っていたのでしょう。

 嬉しいです!

三吉彩花

繊細だった、山口まゆ起用理由

――主人公に山口まゆさんを起用した理由は?

 オーディションでしたが、お芝居が繊細でした。すごく細かくて、直観で「山口さんだな」って。

――現場に立った時の山口さんの印象は?

 台本が、私が話した言葉やそのニュアンスを簡潔に書いてもらったものなので、あまり描写が丁寧ではないというか。私が演じるとなったら「なんでこうなっているんですか?」「なんでこういう行動になるんですか?」と聞きたくなるような、あまり役者さんには優しくない台本です。でも山口さんは、こちらがこうして欲しいことを汲み取って下さって、演じていてもこちらが「ちょっと違うかな」と思うことが全くありませんでした。私が思い描いたことをそんなに伝えていたわけではないのに、汲み取り細かく繋げてお芝居して下さって、凄かったです。本当に感謝しています。

――山口さんがかかる光の加減もそうですが、雰囲気が次第に明るくなっていくような印象もありました。

 主人公の心情に合わせてメイクや衣装も変えていきました。違って見えるのはその影響かもしれません。特に衣装はそうですが、最後に着ているのは、白地にカラフルな羽が入っている衣装で、その羽の部分をこだわって、いろんな色を入れることで感情も表現しました。例えば、青はネガティブ、赤は感情の爆発、それから一つ抜け出して新しい色鮮やかな世界が広がっていく、その未来を衣装に込めました。スタイリストさんが頑張って集めて下さって、スタッフが『Daughters』のチームで、すごく信頼している方々。分からないところも丁寧に教えて助けて下さいました。

三吉彩花

感情は大切なもの

――本作では感情を色彩豊かに表現されていますが、セリフでも<私の中で渦巻く感情そのすべてがこの世界を見せている>と印象的に響きます。三吉さんにとって感情は大切なものですか?

 大切だと思います。感情の幅は人によって違っていても、この飲み物が美味しいとか、この絵が素敵、私は好きじゃないという感情は、一日の中に本当に色々と生まれると思うんです。

――感情に振り回されないのが美徳とされる考えもあります。特に歳を重ねれば重ねるほどそれが求められるといいますか。

 時と場合によって、私も感情を殺さないといけない場面があります。特に演じる役によってそれを求められる時もあります。でもプライベートの私は違うというか。女優とモデルのお仕事も誰かを演じる時は私自身を完全に消そうとしていますが、その作品から離れて家に帰ったら自分というのがあるわけで。その切り替えは、自分自身はっきり出来るタイプだと思っています。ただ仕事柄、感情をフラットにしないとけないときは今までもこれからも長いスパンで続いていくことが考えられると思います。小さい感情の自分の動きに気持ちを傾けてみるというか、そういう変化みたいなものは私自身すごく大事にしています。

――さて、監督という体験はご自身にとってどういうものになりましたか。

 非常に収穫が多い経験でした。今回思ったのは、自分が監督として思っていることを、女優さんにどういうふうに伝えればいいのか。聞かれたことに対してどういうふうに答えたらいいのか。何となく「こういう事」というのはありますが、今回のように正解が一つじゃない作品ですと、明確に答えるのはすごく難しいと思いました。この作品を終えて、女優として作品に携わった時に、自分が思っていることをどう監督に伝えたらいいのか、監督が思っていることをどういうふうに受け入れるのかというのは、コミュニケーションを取ることにも繋がり、それがスクリーンや画面を通して、観ている方にすごく伝わると思いました。それはすごく勉強になりました。

(おわり)

ヘアメイク:牧野裕大
スタイリスト:岡本純子
撮影協力:Fogg Inc.

<衣装>

・ジャケット¥73,700
・パンツ ¥52,800/ともに ディウカ(ドレスアンレーヴ)
・ピアス ¥286,000/Ted Muehling(YAECA HOME STORE)
・タンクトップ
・靴/ともに スタイリスト私物

※価格は税込み

▽問い合わせ先
・ドレスアンレーヴ/03-5468-2118
・YAECA HOME STORE/03-6277-1371

プレゼント情報

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・9月17日〜9月26日23時59分まで。

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木村武雄

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