INTERVIEW

枝優花×横田真悠

憧れの人物像を作り出した横田真悠の「無垢さと輝き」、『petto』制作秘話
『MIRRORLIAR FILMS Season1』


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年09月12日

読了時間:約12分

 短編映画制作プロジェクト『MIRRORLIAR FILMS Season1』が17日公開される。その一編『petto』は、夢を抱えながらも親が希望する進路を目指そうとする高校2年の主人公・春乃(吉田美月喜)の心の葛藤を描く。その幼馴染・めっちゃんを演じるのは『non-no』専属モデルの横田真悠。春乃とは対照的に、自身が選んだ道を堂々と突き進む役どころだ。脚本も手掛けた枝優花監督は、横田がもともと備わっている無垢さは、春乃の憧れの眼差しを受ける役どころにぴったりと絶賛する。実は、横田のモデルデビューの頃に一度会ったことがあったという。8年ぶりの再会はどのようなものだったのか。撮影秘話とともに対談で振り返る。【取材・撮影=木村武雄】

横田真悠演じる“めっちゃん”(左)と、吉田美月喜演じる春乃。『petto』シーンより。(C)2021 MIRRORLIAR FILMS PROJECT

まわり巡った縁

――出演が決まった時は、どのような心境でしたか。

横田真悠 枝監督の『放課後ソーダ日和』を観たことがあり、一緒にお仕事出来る事が素直に嬉しかったです。枝監督の作品は映像がすごく可愛くて。私の友人が出演していたのですが、お芝居がすごく自然で役自体がその世界で生きているような、役だけど本人のような不思議な感覚がありました。なので、枝監督の作品に出演できると聞いて嬉しかったですし、今回も自然体でいられたような気がしました。

――枝監督、この作品の構想は?

枝優花 この作品を書こうと思った時に、テレビで、ある政治家が問題発言でバッシングされ謝罪しているところを観ました。でも、私としては、そもそもその方は昔からそういう思想という印象だから「今さら?」というのがあって。

 私も最初はイラっとしましたが、だんだんと哀れに思えてきて。次第に叩いている国民に興味が出てきて、「彼のこの20年間を今までどう捉えていたんだろう」って。「彼を選び、居続けさせたのは周り巡れば自分たちなのだけども」と。きっと、みんなは叩けるものを求めているんだろうなと思いました。

 若い子からSNSなどでメッセージを頂きますが、多いのが「将来やりたいことがないです」「自分の事が分かりません」「何でやりたいことがあるんですか」ということ。でもそれは自分と向き合わないで、人の事ばかり気にしているからだと思うんです。向き合うのはしんどいですから。先程の政治家を叩くのは簡単ですが、その問題発言に至るまでの経緯を自分にフィードバックして考えていない。それと一緒だと思うんです。

 そう考えた時に、実家で飼っている犬を思い出して。ご飯を食べて、寝て、甘えてをずっと繰り返して平和に生きているけど、私たちがいなくなったら果たしてこういう生活はできるのかなと。与えられて生きている。まあそれがペットでというものなので、彼女は全く悪くないですが。ただ、そんな彼女をみていてふと思ったことは、私たちと大して変わらないのではないかと…。与えられたものだけで生活し、いつの間にか自己喪失している気がする。そういう現代の気持ち悪さを作品に落とし込めないかなと。

 それと、この作品は半分が実話で、幼馴染が友達を紹介したいというので付いて行ったら、川の端に段ボールがたくさん並べてあって、そこでホームレスが住んでいたんです。そのホームレスと幼馴染が友達になっていて、紹介されたんですけど、この作品みたいに2人の世界が出来上がっていてました。向こうはめちゃめちゃ私に警戒していて、その輪には入れなくて、ただただ遠くから様子を見て帰ったんですけど、その記憶を思い返して、ああいう作りにしました。

枝優花監督

――監督から見た横田さんの印象は?

枝優花 本人は覚えているか分からないんですけど、横田さんが14歳ぐらいの時に一度会っているんです。

横田真悠 えー! どこでですか?

枝優花 当時、演技のレッスンを2回くらいしていて、その時の印象がずっとあって。

横田真悠 その頃はまだ演技に対して抵抗があった時期です(笑)

枝優花 モデルさん15人ぐらいいて、芝居を学ぶという感じでしたが、その中で一番向いていると思ったのが横田さんでした。柔軟で素直というか、相手が投げたボールを受け取れるし、投げられる。芝居を楽しめ、相手を斜めに見ることもなく無邪気にやっている印象があって。

 今回、横田さんが演じためっちゃんには、無邪気さ、素直さ、みんなが大人になるにつれて捨てていくもの、例えば、「無邪気さを持っていると傷つくから」「分かっている風を装ってしまう」みたいな。それが常識となってしまうなかで、彼女だけは無垢でいてほしいという思いがありました。

 それでキャスティングするにあたり、横田さんを思い出して。「8年前の記憶だけど、きっと今も無垢でいるはず」と思って。画面上のお芝居しか観ていないので全ては分からないけど、それに賭けてお願いしました。

――横田さん、当時のことは覚えていますか。

横田真悠 褒めてくださいましたけど、当時はレッスンが本当に嫌いだったんです(笑)。確か、芸能界に入りたての頃だったと思います。当時のことはあまり覚えていないのですが、枝監督が良い印象で覚えていて下さったのは良かったです(笑)

――初めて連ドラへの出演が決まった時は「今は演技が面白い」と言っていましたが、その頃からだいぶ気持ちは変わったんですね(笑)

横田真悠 気持ちは変わりました。というのも、私自身が「30年後はこれをやっていたい」「この役がやりたい」というビジョンを持つタイプじゃないんです。長くこの業界でやっていけるのか分からないなか、時間が限られているなら、お芝居にも挑戦してみようと思えて。もしやってダメだったら諦めるし、やって楽しかったら続けようと。そう思ってお芝居に挑戦したら私の感覚が変わったのか楽しくなっていきました。

横田真悠

期待した無垢さと輝き

――監督は無垢という話もされていましたが、ご自身はどう思いますか?

横田真悠 年を重ねていくにつれて、周りから自分はどう見られているのかということを知っていくと思うんです。その過程で、人から見た自分の印象に、知らず知らずのうちに影響されてしまっている自分もいて。例えば、これをやりたいけど周りからなんと言われるのかを気にして一歩引いてしまうというか、そういう気持ちが生まれたとしてもあまり行動に移せなくなっている気はします。

――監督は、横田さんの無垢さを期待したと言われましたが、現場に立った横田さんはどうでしたか。

枝優花 大人になったんだな、いろいろ覚えたんだなって(笑)。14歳からの8年は、20代に過ごす8年と比べはるかに学びがあると思います。いろいろなことを覚えた期間だったんだろうなと一瞬で思いました。でも根っこには無邪気さがあって、この8年で学んだことを現場で剥がしていった方がいいのか、それを保ったまま演じることを任せた方がいいのか、迷いながら撮影に入りました。この役は、無邪気さももちろんですが、強い意思というか存在感も必要で、そうした頭で計算するところと動物的な感覚が良い塩梅でできていて良かったです。

枝優花監督

横田真悠

――横田自身は、役に対してどうアプローチされましたか。

横田真悠 めっちゃんは思う事に素直に反応する女の子だと思っていたので意識して演じたつもりでしたが、枝監督のいう14歳の時の無垢さは、当時私は何も考えていなかったからそう感じられたかもしれないと思うんです。もし、今の私がそれを意識して演じようとしたら難しいと思います。枝監督がさきほど話されたことは今初めて聞きましたし、もし現場でそれを言われていたらどう演じるか迷っていたかもしれないです。

――短編は短い分、存在感を凝縮させないといけない難しさがあると思いますが、普段はどのように臨まれていますか。

横田真悠 台本をしっかり読んで、その時は「こうしようかな」「こういうのもあるな」と考えますが、「これをやろう」と演技プランを決め込んで現場には行かないです。共演の相手がどう来るかも分からないですし、想像したことと違うものがきて焦りたくもないので。

――今回はさらに柔軟に、感じるままをそのまま出した?

横田真悠 そうですね。劇中に出てくる総理大臣の林為三(はやし・ためぞう/演・渡辺哲)もどんな感じか分からなかったので(笑)。

枝優花 私も分からなかった。みんなで「こうなるんだ」とか言っていて(笑)。

――衝撃的ですよね。でも楽しんでいる感じが出ていました。横田さんの人柄がそのまま出ているような。優しさや純粋さカリスマ性というか。監督の狙い通りだったわけですよね。

枝優花 そうです!

――めっちゃんのシーンは太陽光を取り入れたものが多い気がしました。それは意識されて?

枝優花 そうです。めっちゃんだけにはずっと陽を当たっていて、春乃にはラストシーンしか当たらないように構成しました。台本にも「後光が差している」と書いて。撮影期間が短かったので、スタッフに「曇りの場合はどう作りますか」と言われましたが、ギリギリ晴れてくれて、さらに照明を足していただきました。

横田真悠

責任持って生きている

――横田さん、吉田美月喜さんとの共演はいかがでしたか。

横田真悠 すごく喋りかけてくれました。こんなにいっぱいおしゃべりしてくれる子なんだって思って、バスの待ち時間とか楽しかったです。お芝居している時に、目にすごく意思を感じて心を掴まれました。

――引き出されたものはありますか。役柄的には、吉田さんの感情を引き出す方だったと思いますが。

横田真悠 私が春乃を導く役ではあったと思いますが、春乃自身は意思が強いというか、自分の夢があるけど、親に言われた方向に向かっている、でもその合間で揺らいでいるという子。何も考えていなかったり、意思がなかったら「まあいいか」となると思うんです。それを行動に移す、行動力の源になるのが私が演じためっちゃんであって、彼女自身は強い意思があると思って演じていました。

――バスの中で、春乃が「自分の事を知らない人に言われたらどう思う?」と聞かれ、めっちゃんは「なんと思わない、自分の人生を責任持って生きているから」と答えます。ズシっとくるセリフですが、どう思いましたか。

横田真悠 私もズシっときました。この仕事をしていると、知らない人にいろいろ言われて…、みんなもあると思うんです。それを私は頭では分かっていても受け止めてしまうというか、気にしてしまって。言葉はSNSが盛んな分、良くも悪くもいろんな人に届くものだと改めて感じました。

横田真悠

――監督、この言葉に込めた思いは?

枝優花 そこが総括というか。支え合っていくことは必要だと思いますが、実際は支え合えていなくてペットみたいになっている感じがします。誰かに導いてもらう事とか、自分の意思を誰かに委託しているというか。他者に何かを投げてしまっているのはどうなんだろうと思っていて、そういう中で横田さんが演じてくれためっちゃんはなかなかいないと思って。そういう子にこのセリフを言ってほしくて。

 私もこういうのを作っていると、知らないところでいろいろ言われたり、直接言われて嫌だなと思う事もあります。でも割と「私の人生だし、楽しいと思っているからいいし、知らん」って。自分の意思で選択している事が一番だと思うんです。でもそうじゃない人が大半を占めていることは、こっち側(制作や発信側)になって分かったというか。でもその難しさも分かります。だからこそ自分が作れるものはあるなと。

 それと、過去の自分もちょっと救いたくて。過去の自分は周りを気にしてやりたいことを選択できなかったり、自分の幸せを考える力が足りなかった。それがずっと苦しかったんです。過去の私のような人がたくさんいるのも分かっています。でもその人たちを救いたいです!なんていう大それた事は言えないし思えないから、等身大で考えた時にこういう子がいてくれたらどうだったんだろうと思い、過去の自分のために作りました。

枝優花監督

――観る人は、横田さんが演じためっちゃんにそういう希望を抱くかもしれないですね。それは役を離れた横田さん自身にも感じられるかもしれないです。

枝優花 そうかもしれないですね。

――監督は過去に「やりたかったらやればいいじゃん」と話されていますが、生活と夢のバランスは大変だと思います。

枝優花 生活と夢の両方を追いかけたいと思うのは「ワガママですか」とか、「どっちか捨てないといけないですか」とよく質問されるんですけど、私からしたら「どっちもやればいいじゃん」って。やってみて出来なかったら考えればいいし、やっていないのに、どうしようと考えるのは変だと思う。大体の人は、夢を追いかけず生活をとって、夢を追いかけている人に対して「いいよね」って言っている。

 それはそれでいいんですけど、一番嫌なのは、そのまま大人になって、自分の子供とかに、やってもいないのに「夢を追いかけるのはさ…」って言うこと。私、学校の先生に言われ続けたんです。「無理だ」とか、「あの世界は、ほんの一握りの人間しか掴めない」って。でも先生は、その世界にいたわけではないからわからないじゃないかって思って。

 そして、今その世界にいる身として言えるのは、「両方とも一生懸命やって、何度も失敗しています。どっちも成功するとは思わないけど、やりたいからやっている。だから、やりたいんだったらとりあえずやってみたらいい」という事です。でも、みんなやりたいというよりも、何かになりたい方が強いんじゃないですかね。「映画を撮りたい」じゃなくて、「映画監督になりたい」とか。正直、やりたかったらもう映画を撮ってると思うし。

 夢は叶えるものじゃなくてやるもの。よく「限界を感じて辞めました」とか、「自分には才能がないと思って諦めました」と聞きますが、なんで自分で自分に才能があるかないかを、自分でジャッジメントするのかがよく分からない。いや、なんとなくはわかるんですけど、絶対わかりたくないというのがある。それを理解することは自分に言い訳をすることに近いから。

 この業界の人はみんなやりたいことを一生懸命にやっている。やりたいことをやっていたって辛いことはあります。でも、やりたくないことをやっていても辛いことはありますよね。ならば、今やりたいことをやればいいと思います。それこそ、めっちゃんのように「自分の人生に責任を持って一生懸命生きてみればいい」と思います。

(おわり)

ヘアメイク:北原 果(KiKi inc.)
スタイリスト:石田綾

枝優花監督、横田真悠

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