世界最高峰を走り続けるバイオリニスト五嶋みどり(43)の音楽観や活動に迫った模様が、3日放送のNHK総合『プロフェッショナル 仕事の流儀』(毎週月曜午後10時)で放送された。

 11歳から世界の舞台で活躍する五嶋。自身が参加したCDが米最高峰のグラミー賞を受賞するなど高い評価を得続けている。番組では密着取材を通して、栄光と挫折、絶望と希望の中で育んだ音色、五嶋が愛用する280年前に作られたバイオリンの名器グァルネリ・デル・ジェス、そして音楽への想いなどを明かした。

 活動拠点の米国では大学教授を務めている。その若手演奏者とのやり取りで音楽に対する想いがうかがえるシーンがあった。レッスンでオーディションを経て選ばれた若手たちに五嶋は次のような言葉をかけた。

 「曲の感情はどういうものだと思う? それを感じてますか? 音楽の流れに身を任せていますか」。

 重視するのはミスをしないテクニックではない。自らが曲をどう感じ、どう語っていくか。音楽に対する「自分と向き合う姿勢」が大事であることを以下のように語った。

 「自分がどのように音楽に対して反応するかが大切だと思います。私としては、何かを、外から持ってくるより、中からどうやって出せるか、中には何があるのか、そういうことを考えていくこと。それが本物の何かの感じ方だと思います」。

 五嶋本人も日夜練習に励んでいる。数えきれないほど演奏してきた楽曲を初めて弾くかのように同じフレーズを何度も弾き、その感触を確かめ、音を探す。コンサートでは本番直前まで音のチェックを行っている。その理由を以下の通りに語った。

 「常に解釈によって、また色々な事が見えてきて、見えてくるとまた聞こえてくる事も違ったり、出てくる音も変わってくる。例えば小説でも何度も読むとその時によって感じる事が大変違ってくると思う。生きている。演奏している事は生きている事。その曲が生きているので、その時その時で変わっていく」。

 五嶋は8年前から日本の養護学校などで楽器の指導を行っている。この秋、日本を代表するクラシック専門コンサートホールで、知的障害や身体障害がある高校生と共に1時間に渡って演奏することを打ち出した。この試みのなかで「本物の音楽というものがどういうものかなって出てくる機会に繋がれば」とも語っていた。

 番組では、その高校生との練習の様子も紹介された。

 7分程の楽曲だが、なかなか合わずに30秒で演奏が止まってしまう。それでも五嶋は生徒を優しく見守る。それを7回繰り返したとき、はじめて五嶋が参加した。五嶋は背中でものを教えるように、音色で生徒たちの音を導いていく。30秒過ぎても演奏は止まらない。自然と続いた。生徒たちの表情も明るかった。

 五嶋はこの時を以下の通りに振り返った。

 「音が純粋。子供たちが努力していてそこから出てくる音。そこから何かを感じる。子供たちのエネルギーを」。

 頂点を極めた音楽家だからこそ感じる音楽の本質。この番組を通じて、人間の「心」がいかようにも音楽や作品、表現のカタチを変える、あるいは変えてしまう、その”性質”を浮かび上がらせている。この番組から音楽の奥深さを感じるのである。

 なお、同内容は11月7日午前0時40分にNHK総合で再放送される予定。

この記事の写真

ありません

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)