AKB48G“ミューズ”の軌跡:Nona Diamonds

岡田奈々(AKB48/STU48)

「歌の先にあるもの」


記者:木村武雄

掲載:21年07月01日

読了時間:約10分

<AKB48G“ミューズ”の軌跡:Nona Diamonds(8)>

 AKB48国内6グループから最も魅力的な歌い手を決める『第3回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦』のファイナリスト、池田裕楽(STU48)、野島樺乃(SKE48)、岡田奈々(AKB48/STU48)、秋吉優花(HKT48)、古畑奈和(SKE48)、矢野帆夏(STU48)、三村妃乃(NGT48)、山内鈴蘭(SKE48)と、審査員特別賞の山崎亜美瑠(NMB48)によるユニット「Nona Diamonds」が「はじまりの唄」でデビューした。作詞・作曲は決勝大会の審査員を務めたゴスペラーズ・黒沢 薫。「9つのダイヤモンド」を意味する造語を冠したユニット名には「一人一人の歌声がまるでダイヤモンドのようで、これからも磨いていき、まわりの楽器と共にキラキラと輝いてほしい」との思いが込められている。今回、MusicVoiceでは9人のインタビューを連載。歌に見出された“ミューズ”はどのようにして輝き出したのか、その軌跡を辿りつつ「はじまりの唄」、そして歌への想いを聞く。【取材=木村武雄】

岡田奈々、歌のはじまり

 誰もが認める歌唱力の持ち主だ。安定したピッチ感と、起承転結に合わせ抑揚をつける。感情を乗せるところと、サッと引き冷静に歌い上げる緩急。音楽のストーリーテラーのようだ。

 歌がもともと好きで「将来歌手になれたら…」とAKB48のオーディションを受けた。だが、加入前からボイストレーニングを受けていたわけではない。AKB48として歌番組に出演したことをきっかけに受け、レコーディングで声質などを知っていった。もともと備わっていた能力はAKB48の活動を通して磨かれ、そして、今もなお磨かれ続け、新たな輝きを放つ。

 そして、第3回大会の決勝予選でLiSAの「炎」を歌った。「緊張します。手が震えています」という岡田だが、力強さ、儚さ、切なさと様々な表現力が求められるこの曲をしっかり落とし込んだ。審査員を務めた黒沢 薫も「完璧」と太鼓判を押した。

 本戦は米津玄師の「アイネクライネ」。「迷いに迷って行き着いた曲です。ある一人を浮かべて歌いたい。皆さんはそれぞれ大事な人を思い浮かべて聴いて欲しいです」と優しく、そして、力強く歌い「出し切りました」。そんな歌に黒沢は「緩急があり低音はきついぐらいですが、うまく処理した」と高く評価した。

 それから約半年が経った6月。都内で行われた『AKB48 Group Asia Festival 2021 ONLINE』。そこで「涙の表面張力」をパフォーマンスした。歌い出しは岡田が担当。明らかに声量と歌声の響きがこれまでと違った。岡田は『はじまりの唄』で学びがあったことを明かしている。

 「黒沢さんにもう少し口を縦に開けて歌ってごらんとアドバイスを頂き、実践したら響きが全然違っていました。口の開け方とか発声の部分も教えて下さいました。今も活かされています」

 常に高みを目指す、それは岡田自身の個性でもある。ただ、グループになると自身を二の次にする。それも岡田の個性だ。第1回大会から優勝候補で3大会連続ベスト5入りという快挙を成し遂げているが、第2回大会で5位という自身の悔しい思いを隠し、涙する矢作萌夏を優しく抱き寄せた。池田裕楽が優勝した時には「池田ちゃんが見つかって良かった」と喜んだ。

 歌唱力決定戦は、誰にでもチャンスがある。自身の歌唱力、努力次第で日の目を見る機会を得ることができる。それはAKB48版アメリカンドリームだ。

 だが一部では今のアイドルに歌唱力は必要なのかという問題提起もなされた。ファンは必ずしも歌唱力を求めていないのではないかという考えだ。これに岡田はこう答えた。

 「歌がただ上手ければ良いということではなく、誰でも上を目指すチャンスがある、熱い気持ちや個性を大事にしているグループです。その考えは今も変わっていないです」

 そもそも、アイドルに限らずエンターテインメントの本質は、その能力の高さではない。観る者、聴く者などがそれに触れて「心が動くか」にある。何かを聴き、何かを見て胸がときめいたり、涙を流したり、心が安らいだり、笑ったりする。そのための能力だ。岡田も「いかに感動して頂くかが大事だと思っています」とうなずく。

 感動する、楽しんでもらう。そのために、作品を作り上げる、歌唱力やダンス力を高める、トーク力などを高める。そして、AKB48においては、先のコンサートでその答えが出ている。

 先日開催された峯岸みなみの卒業コンサート。1期生らが次々とサプライズで登場した。驚きの連続で観客の興奮は拍手となって伝った。そして、創世記メンバーの気概は卒業後も衰えず会場を飲み込むほどだった。

 と同時に、今のAKB48に果たしてそれがあるだろうかと不安もよぎった。しかしその翌日に行われた新生AKB48としての最初の単独コンサートでそれは消えた。岡田奈々らを中心にメンバーが叫んだ。これまで以上の気概や覚悟が表れていた。創世記メンバーのイズムがしっかり伝承された証でもあった。その後の48曲ノンストップパフォーマンス。歌で魅せ、ダンスで魅せ、笑顔で魅せ、涙で魅せ、気概で魅せる。予想を超えるステージに感動の波が押し寄せる。

 「今までで一番良いライブだったと思います」

 ここにAKB48としての本質があった。

 顧みて歌唱力決定戦の決勝大会。1回勝負のトーナメント制。歌唱力の基にあるのは、歌を届ける歌い手の想い。想像を超える歌唱力の高さに驚き、なおかつ、彼女達のその思いに触れて心が動く。歌唱力決定戦もその本質が表れている。

「第3回AKB48グループ歌唱力No.1決定戦 ファイナリストLIVE」より

ここからは一問一答。

歌唱力決定戦の舞台裏

――まず峯岸みなみさんの卒コンとAKB48単独コンを振り返っていかがですか。

 みい(峯岸みなみ)さんがたくさんのレジェンドメンバーや卒業メンバーを呼んで下さったお陰で同じステージでパフォーマンスすることが出来ました。ただ、オーラと自信に満ち溢れた先輩方を見ると、自分や今のグループに自信が足りていないとか、ネガティブな気持ちに一瞬なりました。でも単独コンサートでは『今の私達がAKB48なんだ!』と胸を張ってステージに立ち、48曲完走することが出来ましたので、今のAKB48を見てもらえたと思いますし、一人一人が心から楽しんでいたので、今まで一番良かったライブだったと思います

――さて、この大会の決勝大会本戦で「アイネクライネ」(米津玄師)を選曲した理由は。

 何を歌うか迷ったときに最終的にメッセージ性で曲を決めさせて頂きました。「アイネクライネ」は自分の中で刺さるものがあって、聴く人によって解釈が変わりそうだな、聴いて下さる方が自分の中で解釈して響いて頂けるかなと思い、選びました。私が誰を想い歌ったのかは秘密です(笑)。

――歌っている時に一番大事にされていることは?

 練習通りに歌おうとしない事です。こういうふうに歌いたいと思って練習していますが、それ通りに出したらその場の雰囲気を壊してしまうと思い、その場の感情や空気感を大事にして、自由に歌おうと意識しています。

――場の雰囲気や観客有無でも変わってくると思いますが、決勝大会では自分で空気を作らないといけないのは大変ですね。

 すごく緊張しました。1曲目の「炎」で緊張し過ぎて、あまり自分の中では満足に出来なかったんです。その分、「アイネクライネ」はその世界観に浸ることができ、自分の世界を見せられたと思います。一番気持ちよく歌えました。

――曲に入れる瞬間はありますか。

 時と場合によります。歌い出しから自分の世界に浸れる時と、緊張で現実を引きずっている時と。「アイネクライネ」は歌い出した瞬間からすごく楽しくて、自分の世界に入り込めました。「炎」は序盤の方で緊張が勝ってダメでした。

――「炎」はファイナリストライブでも歌っていました。

 この曲はフル尺でこそ伝わると思っていて、それをその尺で歌わせて頂いたので良かったです。『鬼滅の刃』の煉獄さんを思いながら歌いました。

――やっぱりアニメが好きなんですね(笑)。

 劇場版『鬼滅の刃』無限列車編は何回も観に行きました! やっぱり曲を選ぶ基準は、アニメやドラマなどに影響されている部分はあって、自分の中で思い入れのある曲にしています。

――黒沢さんが「炎」は「完璧」、「アイネクライネ」は「緩急があり低音が難しいが上手く処理した」と絶賛していました。

 黒沢さんは本当に優しくて、褒めて伸ばして下さるんです。私の歌はまだまだなのにあえて良い所を言って下さって。そこに優しさと愛情を感じます。Nona Diamondsでの「24時間TikTok LIVE」出演が決まって、歌練習があったんですが、その時もダメだしは一切なく褒めて下さって。伸ばして下さいます!

――あの大会での表現力が一番だと思いましたが、伝え方が少し変わったのかなと思ったんですが。

 今までは感情のままに歌っていましたが、ここ一年は感情だけではなくて、強く歌う、弱く歌う、囁くように歌うなど歌のバリエーションを増やせたかなと思っています。

――きっかけは。

 YouTubeでボイストレーニングの動画を見あさるようになって、感情云々じゃない強弱の付け方というのを学びました。

――見あさり始めたのは「ゆうなぁもぎおん」をやってから?

 そうです。それを始めてから他のチャンネルを見るようになって、そこで出会ったのがボイトレの先生の動画なんです。なので、YouTubeを始めて良かったです。

――決定大会は村山彩希さんが応援に駆け付けました。

 安心感がありました。絶対に褒めてくれるだろうし、温かく見てくれているのがすごく伝わったので、安心して歌えました。裏では「みんなすごくて涙が出たよ」って。メンバー一人一人の歌に感動していました。

はじまりの唄、吸収と自信

――最初に聴いた時の印象は?

 これまで歌ってきたアイドルらしい曲じゃないなって。とても難しいですし、AKB48には今まで無かったメロディなので、自分がちゃんと歌えるのか心配になりました。

――歌割を知った時は?

 「少なっ!」と思って(笑)。「9人で歌う場所ってほとんど無いんだ」と不思議で。AKB48ってユニゾンが多いので今回の歌割りは新鮮ですし、個人的にはAKB48もこういう歌割でいいんじゃないかと思うぐらいソロパートが多くて、ハモリが多いというのは最高に良いです。

――歌えるか不安と言っていたが、意識した点は?

 全員で歌う部分が頭と終わりにあるんですけど、唱和したほうがいいなと思ったので、あえて個性を消して歌うように意識しました。それと、ソロの部分は個性を出したいと思ったので、思うままに表現させて頂きました。

――黒沢さんからアドバイスは?

 私のパートのAダッシュを、もう少し口を縦に開けて歌ってごらんと言われました。具体的にアドバイスされることがほとんど無いのですごく分かりやすくて。口を縦に開けて歌うだけで響きが良くなって感動しました。表現する気持ちも大事ですけど、口の開け方とか発声の部分も教えて下さいました。今も活かされています。

――「はじまりの唄」で得たものは?

 Nona Diamondsのメンバーや黒沢さんから歌に関して学ぶ事がたくさんありましたし「『はじまりの唄』を歌える自分すごいじゃん」と思えて歌に対する自信がつきました。これからどんな歌がきても、きっと歌いこなせるだろうという謎の自信がついたので、第3回大会に参加して良かったなって思います。

――学ぶことが多かったのは技術面や向き合い方?

 どちらもです。歌に対する姿勢では、リハーサルの時間じゃなくてもそれぞれ練習している熱心な姿を見て刺激をもらったり。みんな歌い方が違うので、真似みたいな事をしてみると、こういう声も出せるんだとか、こういう歌い方をしようと思えば出来るんだとか。今、他のメンバーから吸収途中で、みんなの個性をいろいろ吸収すれば、もっと歌えるジャンルの幅が広がると思うので、勉強させてもらっています。

ファイナリストライブ

――ファイナリストライブで古畑奈和さんと「革命デュアリズム」(水樹奈々×T.M.Revolution)を歌いました。

 魂がぶつかり合ってすごく気持ちよかったです。2人とも気付いたら似たもの同士になっていて(笑)。歌唱力に関しても古畑さんの表現力はすごく勉強になるので、今回歌えて良かったです。

――今後もやってみたいですか。

 やりたいです! 次回ファイナリストライブやNona Diamondsとかでライブが出来たら、また2人で激しいデュエットがしたいです。

――さて、この大会はどう思いますか。

 良いイベントだと思います。最初参加したときは、自分がナンバー1になることにこだわっていたんですが、出続けると、優勝を目指すだけじゃなくて、AKB48、STU48の後輩達が目立てるチャンスに立ち会える事も先輩としては嬉しいですし、傍で見て支えてあげられる環境というのがすごく有難いと思っています。この大会に参加して、歌も成長したと思いますし、人として一つ大きくなったかなと思います。シンデレラストーリーで輝いていく後輩達を2回も見ていて、傍で盛り上げられることが幸せだなと感じるようになったので、これからもナンバー1は目指したいと思いますが、それ以上にメンバー一人一人が輝いて、ストーリーを作っていけたらいいなと思います。

――峯岸さんみたいな立場を感じますね。

 このイベントでは、STU48の存在が自分のなかで特に大きくて、やっぱりグループ立ち上げ当時からずっと見てきているので、頑張ってほしいなと思います。

――AKB48はどうですか。

 逸材はたくさんいるんです。歌の素質を持っている子はたくさんいるんですが、なかなか発揮できていないんです。ファイナリストにはAKB48では私しかいないので、今後、浅井七海ちゃんや田口愛佳ちゃん、小田えりなちゃんとか、きっともっと成長して出てくると思うので、AKB48にも期待していただけたら。ダンス上手い子も多いので、歌だけじゃなくて、パフォーマンスもやれたらいいですね。

(おわり)

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