澤野弘之「人とは違う方に行った方が自信にも繋がる」気鋭の作曲家の思考に迫る
INTERVIEW

澤野弘之

「人とは違う方に行った方が自信にも繋がる」気鋭の作曲家の思考に迫る


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年06月10日

読了時間:約10分

 作曲家・澤野弘之のボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]が6月9日、10thシングル「Avid/Hands Up to the Sky」をリリース。澤野弘之はアニメ『進撃の巨人』やドラマ『医龍 Team Medical Dragon』などの劇伴を手掛け、6月11日に公開予定の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』の本編オープニングで使用されている「Mobius」(oはウムラウト付き)も作曲。[nZk] として通算10枚目となる今作はTVアニメ『86―エイティシックス―』のダブルエンディング曲として制作され「Avid」にはmizuki (from UNIDOTS)、「Hands Up to the Sky」にはLaco (EOW)をボーカルとして迎えた。その2曲に加え過去にリリースされた「A/Z 」、「Tranquility」、「Into the Sky」をリアレンジした「MODv」(みなさんのおかげです version)の全5曲を収録した。インタビューでは、音楽にのめり込むようになったきっかけから、「Avid/Hands Up to the Sky」の制作背景、ハイレゾなど音楽のフォーマットによる考え方など、多岐に亘り話を聞いた。【取材=村上順一】

澤野弘之の音楽のルーツ

「Avid/Hands Up to the Sky」通常盤

――音楽を好きになったきっかけは?

 幼少期は母が井上陽水さんや安全地帯さんの曲を車で流していて、それを聴いていました。小学校の時のオーケストラ鑑賞とかも嫌々行っている人も多かったと思うんですけど、僕は楽しんで聴いていたのを覚えています。より音楽に興味を持つようになったのはASKAさんの音楽でした。そのあと、僕が知った時には解散してしまっていたんですけど、TM NETWORKの曲、特に小室さんの作るインストにもすごく惹かれました。

 そして、高校生の時に『もののけ姫』が劇場で公開されて、久石譲さんの曲を聴いて映像音楽に惹かれました。もともと僕は歌ものをやりたかったんですけど、これをきっかけに映像音楽の作曲をするようになったんです。

――澤野さんの音楽ではストリングスが印象的ですが、もともとオーケストラに興味があったんですね。

 もともと弦楽器は好きなんですけど、おそらくジブリ音楽の影響はあったと思います。あと、僕が初めて自分から欲しいと買ってもらったCDが『ドラゴンクエスト』のオーケストラのサントラでした。まあ、ゲームのドラクエは当時遊んだことはなかったんですけど。

――珍しいですね。

 僕はRPGが苦手で、アクションゲームばかりやっていて。でも、ドラクエの曲はもちろん知っていて、知り合いの家で流れていたドラクエの音楽がすごく良くて、その時の印象が強かったのでCDが欲しくなって。あと、ゲームのBGMは昔からすごく気になっていて、格闘ゲームのサントラなどをよく買って聴いていました。

――どんな格闘ゲームがお好きだったんですか。

 僕はSNKさんのゲームが好きで『餓狼伝説』や『龍虎の拳』をよくプレイしていました。『龍虎の拳』に登場する藤堂竜白のBGMとかすごく良いんですよ。いまだに聴きますから。『餓狼伝説』もテリー・ボガードやアンディ・ボガード、ダック・キングの曲もよく覚えています。『ストリートファイターII』ではバルログとか四天王の曲を聴いてました。

――ご自身の音楽を作る時もそのサントラの影響もあるんですか。

 あると思うんですけど、割と僕はその時のトレンドのサウンドを自分なりに取り入れることが多いです。それらをうまく吸収したいなと思っていて。

――澤野さんは映像作品や音楽を聴く時はどんなところに着目していますか。

 映画を観るときは割と楽しんでみていて、職業柄BGMに尖った音が流れてくると反応してしまうときがあります。でも、細かいディテールを見ているというよりは、全体を見て何がカッコいいのか、というのを探っている気がしています。それは、みんなが思うエンターテインメント性というのを感じ取りたいからなんです。僕は音楽で重視しているのは歌声、メロディ、サウンドで、それらを特に大切にしていて、そこからグルーヴだったり細かいところを詰めていくんです。

――アレンジはどのように勉強されていたんですか。

 高校の時に作曲家の先生のところに通っていました。でも、手取り足取り教えてもらうというわけではなく、作った曲を評価してもらうみたいな感じで、作曲もアレンジもほとんど独学に近い感じです。でも僕は勉強するのがあまり好きじゃなくて、楽しみながらという感覚でやっていて。

――やりたくないことはやらない、みたいな?

 そうです(笑)。映像音楽をやりたいと思った時も、周りからは音大に行かないとダメだという空気感があったんですけど、いかんせん僕は勉強するのがすごく嫌で。何とか音大に行かずに映像音楽の作家になれる方法はないかと探っていたら専門学校があることを知ったんです。それで親に「自分は音大よりも専門学校の方が合っていると思う」とか話して、納得してもらって(笑)。

 人によってはやりたくないこともスキルアップのために我慢してやっている人もいると思うんですけど。例えば聴音という音感のトレーニングがあるんですけど、僕は苦手でほとんどやらなかった。なので僕は絶対音感や相対音感がちゃんとあるわけではないんです。鍵盤がないと楽譜を書くことも出来ないですし。

――絶対音感とかあるのでは、と勝手に思ってました。

 きっと僕の曲でオーケストラが入っていたりするので、音感やアカデミックな教育を受けてきたと思われるかもしれないんですけど、全然そういう訳ではないんです。アマチュアの頃はそれに悩まされた事もありました。音大に行かないとやっぱり無理なのか...とか。でも、それを逆手にとって、そんな奴がオーケストラの曲とかを書いてたら面白いんじゃないかなって。人とは違う方に行った方が自信にも繋がると思いました。まあ、楽器がなくても頭の中で曲が作れるというのは羨ましい部分もあるんですけどね。

――DTMに関しては流石に勉強されたんですか。

 DTMも自分がやれる範囲でしか使ってないです。ソフトの参考書とかあるけど、すごく分厚いものが多いので読むの大変じゃないですか。なので、必要最低限といった感じで、自分ではプロ並みに扱えているとは思ってないですね。自分がこういうことがやりたいと思った時に、調べることはあるんですけど、それは意外と苦ではないんです。そうやって自分なりに使えれば良いかなと思っています。

繰り返しがドラマチックになっていく

――さて、今作の制作の流れをお聞きしたいです。

 まず打ち合わせがあって、その中でバラードなのか明るい曲なのか、と方向性を決めていくんですけど、今回はダブルエンディングという事で、対比となるような曲にしたいというオーダーがありました。物悲しい曲と少し明るい感じのする曲というところで取り掛かりました。僕は時間がある時はボイスレコーダーに鍵盤と鼻歌で録音していくことがあるんですけど、「Avid」はまさにその方法で作っていたデモの中にあった曲なんです。頭からサビまでツルッと作ってあったんですけど、それがすごくアニメのイメージに合うなと思って、そこからアレンジしていきました。

――この曲はmizukiさんがボーカルを担当されていますが、澤野さんとのコラボはお馴染みですよね。

 [nZk]の最初から歌ってもらっているので長いですね。この曲はmizukiさんがより世界観を広げてくれるだろうなと思ってお願いしました。透明感に加え強さも欲しかったので、その両方を兼ね備えているのはmizukiさんかなと思いました。

――以前と比べて、mizukiさんの歌の変化というのも感じていますか。

 芯の部分は良い意味で変わっていないと思うんです。きっとこういう風に歌ってくるだろうなとイメージするんですけど、毎回そのイメージを超える、期待を超えてくるという凄さもあります。

――歌詞はcAnON.さんが書かれていますが、澤野さんが書く時もありまよね? どのように決めているんですか。

 cAnON.さんは劇伴の時や今年リリースした4th album『iv』の曲で書いていただいてました。[nZk]を始めた頃は自分が日本語の詞を書くことにも意味があると思っていたんですけど、僕の場合、曲が変わっても言葉の選び方を変えているだけで言っていることは大体同じなんです。なので、他の人が歌詞を書いたらどうなるのか、というのが知りたかったのと、cAnON.さんは自分にはないものを持っているという点が大きいです。

――cAnON.さんの歌詞の特色はどんなところにありますか。

 僕は歌詞のグルーヴを気にするので意味よりも響き優先だったりするんですけど、cAnON.さんは歌詞のグルーヴもすごく長けていて、日本語を英語のように聞かせる技術とか流石だなと。そういう要素が欲しい時にcAnON.さんにお願いすることが多いです。そこまでグルーヴを気にせずに言いたいことがあれば自分で書くという感じなんです。

――アレンジでこだわったところは?

 この曲はイントロで流れているピアノのフレーズがずっと繰り返されているんです。でも、リズムなどが変化していくことでその繰り返しがドラマチックになっていきます。ミニマルミュージックとかもそういう作り方なんですけど、その繰り返しがこの曲の面白いところだと思っています。それを意識して作っていたわけではないのですが、今思えばそれが重要なことだったのかなと思います。

一つの曲を色んな聴き方が出来る

「Avid/Hands Up to the Sky」初回生産限定盤

――そして、「Hands Up to the Sky」は「Avid」とは対称的な曲ですね。

 アニメのストーリーの関係もあって、ちょっと明るい感じで終わる時の曲です。リズミカルでボーカルのLacoさんにもアグレッシブに歌ってもらっています。この曲の特色としてシンセのサウンドを強めに出しています。

――「Hands Up to the Sky」で注目して欲しいところは?

 Lacoさんのボーカルなんですけど、僕の作品、特にサントラでは彼女は英語詞の曲が多かったんです。なので今回のように日本語が散りばめられた曲をLacoさんに歌ってもらうというのは僕の中では珍しいので、これまでの彼女の歌声とは違うものになったんじゃないかなと思います。

――これまで英語詞を歌ってもらっていた意図は?

 アニメ『進撃の巨人』のサントラで初めて歌っていただいた時に、英語詞に対するアプローチの仕方に圧倒されたんです。そこから多々お願いするようになりました。

――英詞もそうなんですけど、澤野さんはサウンドも海外を意識されていますか?

 海外のトップチャートに入っている曲はよく聴いていて、それをどうやって自分のサウンドとしてアウトプットするのかというのは考えています。最近だとデュア・リパの新しいアルバムとか、ワンリパブリックというバンドが昔から好きなので、お気に入りにいれて良く聴いています。

――その中で海外サウンドのスケール感というのはどう捉えていますか。

 そこは僕も追求しているところでもあるんですけど、それはリズムの取り方だったり、色んなものが作用していると思うんです。最初は海外のスタジオ環境やエンジニアの技術とか、電圧の違いとかあるんじゃないかと思っていたんですけど、それも少しは作用していると思いますが、結果的にはトータルなんですよね。

――その中で日本人の作る音楽の良さはどこに感じていますか。

 我々はなんだかんだ、歌謡曲で育っている部分が大きいじゃないですか。なので、サビに向かって盛り上がっていく感じやメロディの抑揚というのは日本人の武器だと思います。その反面、そのままトレースして作るのではなく時代と共にバージョンアップしていかなければなと思っています。あと、海外でも歌詞を重視する人はいますけど、より重視しているのは日本人の特徴かもしれないです。

――澤野さんの書かれる歌詞はすごくサウンドと一体となっているイメージがあります。

 僕は歌詞も音の一部だと捉えていて、昔はそんなに内容は気にしていなかったんです。歌詞を読み込むようになったのは割と後で、作曲家というスタイルになったのも音を重視しているからだと思います。

――ところで、澤野さんはハイレゾやmp3、アナログレコードなどフォーマットによる音の違いというのはどう感じていますか。

 音質は良いに越したことはないですけど、楽曲の持つ良さと音質というのは、必ずしも関係しているのではないのかなと思っていて。昔はカセットテープで擦り切れるくらい聴いていて、音が良かったわけではないと思うんですけど、それでも感動出来ていたわけで。一般的にはそれが普通で、プロになっていくと自分が作った音にこだわりがあるからより良い音質で、となりますけど、それは作っている側の感覚であって、皆さんには好きな形態で聴いていただければ良いかなと思います。

 ただハイレゾが出てきて良かったことはあります。通常CDのマスタリングではファイナルミックスの時よりも結構音圧を上げることがあり、それは格好良さに繋がるからなんですけど、そうなると皆さんはファイナルミックスの状態を知らないんですよね。ハイレゾではそこまで音圧を上げずにダイナミックレンジが確保された音を皆さんに提供出来るというのは利点だと思います。色んなフォーマットがあることで、一つの曲を色んな聴き方が出来るというのはすごく良いなと感じています。

――そうなると楽しみ方が増えますよね。最後にこれからチャレンジしていきたいことはありますか。

 僕は飛行機が苦手なんですけど海外でのライブの機会も増やしていきたいですね。一昨年に上海でライブを行ったんですけど、中国の方たちが僕の音楽に共鳴してくれたことにすごく感動しました。もし別の場所でも僕の音楽に需要があるのなら、そうした機会を増やしていけたら嬉しいです。

(おわり)

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