INTERVIEW

秋田汐梨

嘘のない芝居。注目の若手女優の素顔。
『目頭を押さえた』で初舞台。


記者:木村武雄

写真:木村武雄

掲載:21年06月08日

読了時間:約5分

 秋田汐梨(18)が、現在上演中の舞台パルコ・プロデュース『目頭を押さえた』で筒井あやめとW主演を務めている。『Seventeen』の専属モデルとして輝きを放つ一方、『惡の華』や『賭ケグルイ双』など役者としても頭角を現している。魅力は、混じりけのない素直な演技と言える。中学校1年生の時にモデルの活動を始め、俳優としては今年5年目。そんな彼女が見る現在地とは。初舞台となる本作への想いとは。※取材は初日前に実施。【取材・撮影=木村武雄】

パルコ・プロデュース『目頭を押さえた』

周囲から高評価

 『惡の華』では、容姿端麗の優等生ながらも他者からの印象と本来の自分との乖離に悩むヒロインを好演した。この演技が評価され『第44回報知映画賞新人賞』にノミネート。ほか『賭ケグルイ双』など話題作で唯一無二の存在感を放っている。周りからの評価は高い。

 「演じているときは手応えを感じることは全然なくて、撮影現場の雰囲気に飲まれて付いていくのがやっとです。毎回不安はありますが、完成した作品を見るのは楽しいですし、周りの方から感想をいただけるのは嬉しいです。いろんな役をやらせていただいていますが、すごくありがたいことだと思っています。普通ではない役を演じられるというのは、みんなが経験できることではないですし、そうした積み重ねがあって今があるとも思っているので、充実しています」

 そんな彼女に巡ってきたのが、表情などが求められる舞台だ。

 「先日、初めて通しの稽古をしました。撮っていただいた映像を見たのですが、自分で出来ていると思っていたことが全然出来ていなくて。もっと声を出した方がよかったなとか、もっと間を置いた方がよかったなとか、反省点ばかり。自分の中で思っていることをちゃんと形にして見てる人に伝わる表現をするということが課題になっています。少しずつ良くなっている気がしますが、まだまだなのでしっかり稽古できればと思ってます」

 初舞台『目頭を押さえた』は彼女を開眼させる機会となる。

秋田汐梨

初舞台で収穫

 『目頭を押さえた』は、伝統的に林業を生業としてきた関西圏の山間のとある集落が舞台。写真家としての才能を開花させていく高校3年生の遼と、その仲良しの従姉妹で同級生の修子の2人を軸に、その家族や教師たちの人間模様を描く。

 「実は…今まで舞台を観たことがなくて、自分が舞台に出させていただくとは想像もしていなかったので、出演が決まった時は『え! 私が!』とびっくりしました(笑)。勉強のために、作家の横山拓也さんが演出をされている舞台を観に行かせていただきました」

 舞台出演は想像もしていなかったが、このタイミングでの出演は芝居の神が与えたチャンスとも言える。今回演出を手掛ける寺十吾(じつなし・さとる)から言われたことがある。

 「言われたことは忠実にやるし、対応力があり、長い稽古なのに集中力を切らさないで持続ができていると言っていただけました。初舞台ともあって分からないことだらけなのですが、その言葉に勇気付けられて、少し安心して稽古に臨むことができました」

 それでも不安はある。

 「稽古している今は『楽しい』というのが勝っていますが、いざお客さんの前に立ったら緊張すると思いますし、セリフが飛ばないか不安。でも練習した分だけ自信に繋がると思いますので、とにかく稽古を頑張ります」

 名俳優、名スポーツ選手が口々にする「不安を払しょくするために努力する」。それを知ってか知らずか、秋田は弱冠18歳にしてそのことを実践している。

 そんな秋田は修子を演じる。本作で描かれるのは日常ともあってセリフ量も多い。しかし「そうですか?セリフを覚えるのは苦手じゃないんですよ!」と笑う。だが、役どころとしては等身大の女子高生だ。変わった役ならば脚色を付けやすいが、普通の女子を演じるのは難しい。ただ、それと向き合う過程に得るものはある。

 「癖がある役の方が演じやすいです。普通の女の子を演じるのは大変ですが、寺十さんにいろいろ教えていただきながら挑んでいます。一度、自分が思うままに演じてみて、それを見た寺十さんが気になったところを指摘してくださいます。行動や言動のひとつひとつに対して、何を思ったからそうなるのか。その動機や気持ちを全部私に問いかけてくださるんです。それは修子という役について考えるきっかけにもなりますし、深く考えられていなかったんだなと気付かされる時もあります。舞台に限らずどんな作品でも考えなければいけないことなので、とても勉強になっています」

秋田汐梨

■これからが楽しみ

 そんな彼女は中学生時代、吹奏楽部に所属していた。フルートを担当していたが、仕事が忙しくなり辞めた。同じ時期、ギターにもハマっていた。バンドを組む女子高生たちの姿を描いた『DISTORTION GIRL』では、バンドでベース演奏にも挑んだ。

 「ベースは地味に見えるかもしれませんが、テンポを崩してはいけないので、周りをみながら演奏するのが難しくもありましたが楽しかったです」

 ギターをやっていたとはいえ、ベースは全く異なる。ドラムとともに、バンドの屋台骨とも言われているベース。練習は大変だったに違いない。しかしそれを表には出さない。

 「大変、辛い、しんどいというのが分からないと言いますか、あまり感じることがなくて。あまり悩まないタイプです。『なんで出来ないんだろう』と考えることはあっても、ずっと頭抱えて悩むことはないです。とりあえず目の前のことを頑張ろう、みたいな感じです(笑)」

 画面の向こうも、取材で話している姿もどこか自然体。彼女にみる嘘がない芝居は、そうした秋田の人柄が表れているのかもしれない。役として生きる、嘘がない演技が試される舞台。気は早いが、終わった先に見えるのは…。

 「寺十さんに演出していただいたことで自分が想像していたものと違う芝居が生まれ、毎日たくさんの発見があって勉強になっています。舞台に限らずこれからのお仕事で活かせる事ですし、他にもたくさんの事を教えていただいているので、今後演じさせていただく役も、きっとこれまでの私が演じていたものとは違うものが生み出せると思っています。この舞台を経て、今後のドラマや映画でどういう役作りをしていけるのか、自分でも楽しみです」

(おわり)

パルコ・プロデュース『目頭を押さえた』

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