INTERVIEW

比嘉愛未

一生変わることのない私の原点。
小田和正「ダイジョウブ」は“人生の主題歌”


記者:鴇田 崇

写真:鴇田 崇

掲載:21年05月06日

読了時間:約9分

 女優の比嘉愛未が映画『大綱引の恋』(5月7日公開)に出演する。本作は鹿児島で400年以上の歴史と伝統を守り続けている川内大綱引を題材に、主人公・有馬武志の家族や彼自身の愛の物語を描く物語だ。『半落ち』(04)『ツレがうつになりまして。』(11)『八重子のハミング』(16)など数多くのヒット作を生み、昨年3月31日に62歳で急逝した名匠・佐々部清監督の遺作であり、渾身のラストストーリーでもある。

 比嘉は主人公・武志(三浦貴大)の妹・敦子役を演じる。「残したい、伝えたい、失くしてはいけない日本映画だと思いました」と本作の印象を語る比嘉は、故・佐々部監督の映画への愛情や、俳優たちへの熱い想いを改めて感じた現場だったと述懐する。その比嘉に本作のこと、NHK連続テレビ小説「どんど晴れ」のヒロイン役から14年、女優として日々大事にしていること、そして“人生の主題歌”まで、さまざまな話を聞いた【取材・撮影=鴇田崇】

(C)2020映画「大綱引の恋」フィルムパートナーズ

(C)2020映画「大綱引の恋」フィルムパートナーズ

「誇張せず、演じようとせず」監督から学んだ心得

――完成した映画を観ていかがでしたか?

 世界観が本当に素晴らしくて、佐々部清監督のワールドになっているなと思いました。邦画らしい邦画で、しっかりとした人間ドラマがある作品です。佐々部さんは映画に賭ける想いや人に賭ける想いが純粋で真っすぐで、今の作品にはない懐かしさも感じるような、まるで基本を見させていただいているような気がしました。

――撮影現場ではどのような感じだったのですか?

 撮影中は監督によく怒られていました。それはもちろん愛あるお叱りであり、わたしは今までドラマが多かったので、リアクションが誇張され強めになってしまうことがあったんです。セリフも強弱で伝えないといけないというクセができていましたが、監督にそれをすぐに見抜かれました。「愛未は演じようとしてしまうから、それをなるべく考えないようにしなさい」、お芝居のテストでも「愛未、また演じているぞ」と丁寧に演出していただきました。

――“演じないようにする”表現は難しそうですね。

 難しいですよね。演じなければいけないのに演じてはいけないんです。でもそれは監督の映画人としてのこだわりであり、確かにお芝居をしているのだけれど、カメラの前に立ったら存在しないといけないことを学びました。でも、その監督の言葉通り、完成した映画を観たら、それぞれみなさんが存在している。誰一人、わたしがわたしがと自分をアピールしている人がいない作品になっていました。

――良い意味で俳優のみなさんの個性が、それぞれのキャラクターに同化しているような印象を受けたので、ストーリーがよりわかりやすく伝わると思いました。

 へんに押し付けてこない自然体の世界観がここにはあって、こういう家族いるだろうなとか、幼なじみの関係や過去、バックボーンまでも見えてきますよね。それゆえの温かさもあるなという感じもします。なのであの時、監督が言われていた言葉の意味が、初号を観た時によくわかりました。今後も誇張せず、演じようとせず、そういうことを大事にしていこうと改めて思いました。

比嘉愛未

比嘉愛未

「人間力がすごかった」佐々部監督

――ドラマのような時間的な制約もある中で一気に作り上げることも技術が要ると思いますが、存在することを求められる映画は、ある意味贅沢な時間ですよね。

 ドラマの作り方もすごいことなのですが、それとはまた映画は違いますよね。映画は完成したものを一年後にようやく観られたりするものなので、モノづくりのプロセスがまるで違います。とても贅沢です。仙台の環境も素晴らしかったです。2週間くらい現地に行きっぱなしで、当時は毎日のようにみんなでご飯を食べていましたし、地元の人ともお酒を飲み仲良くなりました。今思えば、そういうことも役作りの一環だったなと思うんです。

――たまに見かけるこういう日本映画こそ多くの方々に観てほしいです。

 なくしちゃいけないものだと思いますよね。わたしもそういう感覚です。伝えたいし、残したい、多くの方々に観てほしい作品になったと思います。

――改めて、故・佐々部監督との想い出についてうかがってもよいでしょうか?

 先ほどもお話ししましたが、映画に対する情熱と、それから役者をひいきしないですね。役者にもスタッフにも平等に愛情を注いでくれる方。だからみんなも佐々部さんに着いて行きたいと思うんです。その愛に応えたいと思わせる人間力がすごい方でした。なかなか真似しようとしてもできない、根っ子から愛の深い方でした。

――人間、好き嫌いはありますからね。そうそうできることではないですよね。

 キャストのみなさんにも聞いたんです。どういうふうにオファーをもらったの、と。ほぼみなさん、お酒の席で直々に出てほしいとお願いされたそうです。この作品に出てほしい愛情でお声がけされていたけれど、でもそれは難しいことだと思います。みんなを平等に扱い、調和という言葉も当てはまる。佐々部さんがいると、みんながまとまる。わたしも佐々部組にさせていただいた、偉大な人だなと思いました。

比嘉愛未

「勘違いしないように」心掛けていること

――俳優の仕事についてうかがいますが、役作りの努力がある一方で、撮影以外での日々の努力はどうされているのですか?

 なるべく勘違いしないようにしようとは思っています。ありがたいことに、わたしはみなさんの力できれいにしていただいて、きれいな衣装を着させていただいて、人の前に立つ仕事です。表に立つ仕事ではありますが、芸能人という感覚ではないというか、何者でもなく、ひとりの個人としての感情を忘れないようにしています。

――それも難しそうな心がけですよね。

 ただそれは、親の教育やまわりの友人たちの協力もあるのですが、少し間違うと、上から目線になってしまいがちだと思うんです。目立つ仕事だったりするので、まわりからヨイショされることもあるから、そういう時に勘違いしないようにと、つねに思っています。

――なぜそう思うのですか?

 それは今までご一緒してきた先輩の俳優がた、監督、素晴らしい人ほど謙虚なんですよね。先ほども言いましたが、対等で、平等で、謙虚であることが大事。自分がどこにいるか見失わないで、ブレない人でありたい。わたしが素敵だなと思う人は、みんなそうなんですよね。なのでわたしもしっかりと地に足を着けて、忘れずにいきたいなと思っています。

――目標とされる方がたがいたわけですね。

 わたし自身があこがれているんでしょうね。なので地方の居酒屋さんに行った時も、わたし個室じゃなきゃだめなんで、みたいな感じではなく、ありのまま、謙虚に過ごしたいんです。そういうところを忘れずにフラットにいれば、演じる役の幅も広がるのかなと思います。

比嘉愛未

人生のエールとなる「ダイジョウブ」

――ところで音楽についてなのですが、日々の生活に音楽はありますか?

 毎日のように聴いています。その日の気分で朝聴く音楽、夜寝る時に聞く音楽など、わけています。

――お気に入りの曲は何でしょうか?

 自分の人生のエール、原点的な曲なのですが、15~6年くらい前の朝ドラ「どんど晴れ」で本格的にデビューさせていただいて、その時の主題歌が「ダイジョウブ」という曲なんですね。この曲は当時と今ではまったく印象が違いまして、今聴くと深みがグッと増しているんです。小田和正さんは本当に素晴らしいと改めて思います。小田さんが曲を作る際に、朝ドラの脚本を参考にしたそうなんです。ヒロインのイメージを歌詞に投影したと、以前おっしゃっていました。

――それは思い出深い曲ですね。

 当時ヒロインを演じることができなくて、演出やプロデューサーさんには「比嘉愛未を全力でぶつけてください」とよく言われてました。だからわたしにとっては朝ドラの朝倉夏美がわたし自身ですし、その役に当ててくださったその歌詞は、わたしの人生の主題歌だと思っているんです。

――素敵なエピソードだと思います。

 小田さんのファンに怒られちゃうかなと思いながら自分のインスタグラムにも書いているのですが、みんなそれぞれの主題歌があってもいいと思います。わたしにとっては小田さんが作った「ダイジョウブ」という曲がそれであり、一生変わることのない原点であり、人生の主題歌。これからたくさん経験して、想い出となる曲や主題歌たちと出会うとも思うのですが、最初は一度きりなので落ち込んだ時に聴いたり、「どんど晴れ」の撮影をしていた4月が来ると、いろいろなことを思い出します。なので、聴くと細胞から活性化されるというか、元気になっていく感じがします。

――まるで原点に立ち戻るような?

 ありますね。それを忘れてはいけないというか、原点回帰していると思います。

――SNSもすごい人気ですが、今日はその理由がわかったような気がしました。

 ありがとうございます。できる範囲でコメントを返したりもしています。先日うれしかったことがあり、10年前に「コード・ブルー」の1をやった時に、あの作品を観て看護師になりたいという夢を追いかけ、ようやく今年の4月から看護師として働けます、という方のコメントがあったんです。ものすごくうれしくて、思わずコメントをお返しました。それはほかのみなさんも喜んでくれたのですが、そういうキャッチボールができることもSNSが普及したおかげですよね。いつも感じていることは伝えたいので、今後も続けたいですね。

――最後になりますが、映画を待っているみなさんにメッセージをお願いいたします。

 綱引きはみなさんなじみがないかもしれませんが、このタイトルのとおりだなと思うんです。男たちが綱を引っ張りあい、勝ち負けを競うお祭りがあり、それを主軸にした中で家族の関係や恋愛模様などだったり、ライバルだったり、さまざまな人間模様があるなかで紐解けば一本の糸になり、紡げば太い綱になる、まさに人間模様の象徴なんです。この紆余曲折ある時代に、絡めば絡むほど強くなる、人とのつながりを綱にもたとえているのではないかなと思いました。その世界感が、そこに集まっています。恋と書いてありますが、それ以外の人間模様もたくさん描かれているので、幅広い人たちに、この日本の映画を、その素晴らしさを観ていただきたいです。

比嘉愛未

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