亀田誠治「日比谷音楽祭」なぜ無料開催にこだわるのか
INTERVIEW

亀田誠治

「日比谷音楽祭」なぜ無料開催にこだわるのか


記者:村上順一

撮影:

掲載:21年04月17日

読了時間:約6分

 亀田誠治が実行委員長を務める『日比谷音楽祭2021』が5月29日・30日の2日間にわたり、日比谷公園とその周辺施設で開催、その模様をオンライン生配信することが決定した。「日比谷音楽祭」は、東京・日比谷公園を日本の新たな音楽文化発信の拠点としたい、素晴らしい音楽を生の演奏で聴く機会を提供したいという、音楽プロデューサー亀田誠治の想いから、多様性を受容し、世代・国籍・障がい・経済格差などを超えて、“フリーで誰もが参加できるボーダーレスな音楽祭”として2019年に初めて開催された。

 2021年第一弾出演アーティストには、昨年出演が発表されていたDREAMS COME TRUE、桜井和寿、MIYAVI、三味線演奏家の上妻宏光に加え、Little Glee Monsterやギタリストの山岸竜之介、初年度に続きKREVA、新妻聖子、11歳のドラマーYOYOKAなどが出演することが決定している。2021年の開催が発表になったことを受け、3月22日には亀田誠治が緊急生配信トーク「日比谷音楽祭2021 開催宣言!」をYouTubeで行なった。その配信終了後、取材をおこない、改めて『日比谷音楽祭2021』開催への想いや、無料イベントへのこだわりについて話を聞いた。【取材=村上順一】

このコロナ禍で何を思い感じたのか

「日比谷音楽祭2021」

 亀田はこの1年間に「人間の様々な面が見え、人間はハードな時間を経てやっぱり進化していくんだと痛感した」という。それは自分自身も昨年のイベント中止などを受けて体感した部分だった。

 その中で掴んだのは動くことによって新しいページが開かれる。ダメなことが見え、できることが分かってきたという気づきで「昨年、一番悔しかったのはコロナ感染拡大によりイベントが中止になってしまったことです。その時に我々は色々考える時間を持ちました。 イベントを開催しないという方法は一番安全で気持ちも楽で、何もそこまで意気込まなくてもいいんじゃないかという思いもありました」。

 星野源が「うちで踊ろう」を発信したり、音楽だけでなくミュージカルや演劇といったさまざまな分野のアーティストが、自ら出来ることを発信していたことも要因にあるという。
「このアクションを形にできる場所というものが必要だなと思ったんです。そして、日比谷音楽祭がボーダーレスを掲げていることもあり、様々な人の気持ちを汲み取って開催するということが最善なんじゃないか、音楽が響いていくことで皆さんの心の固まってしまった部分を溶かしてあげたいという気持ちが募っていきました。ゆっくりとなんですけど、このゆっくりがコロナ禍に対して雪解けを起こしてくれると感じています。足を止めないということがすごく大事なんだなと」。そして、「リアルで開催ができるのであれば生音で届けられる感動、アーティストが目の前にいる、音がそこで鳴っている空気感、全ての波動を感じるというリアルのライブ体験をやりたい」という確固たるものが生まれたと話す。

 その中で課題となっているのがコロナ感染症への対策だ。アーティストや観客、スタッフの気持ちを考え「不寛容な気持ちになるような状況を作らないよう、徹底したい。それを踏まえ政府のガイドラインに沿ったうえ、このイベントでの最善の方法を模索し実行していきたい」という強い信念のなか、同時にオンラインで生配信を行うことを決めた。 そこには、万が一リアルが開催できなくなったとしても、オンラインでしっかりと感動を届けたいという思いもあった。

無料開催へのこだわり

亀田誠治

 このイベントの特色として、トップアーティストが集まるなかでの無料開催だろう。そこにも大きなこだわりがあった。

 亀田は、資金繰りというのも課題の一つだと話した。 企業からの協賛金、クラウドファンディング、助成金の3本柱で無料での開催を目指す。クラウドファンディングは昨年、元々実施予定だったが開催中止が決定したあとにスタートすることになった第二弾をコロナ禍で仕事を失ったスタッフ支援に変更し、目標としていた金額を大きく上まった。

 クラウドファンディングは開催への重要なファクターになっているが、一番の目的は参加者がこの取り組みに「参加している」ということを意識してもらうことだという。それによって、文化へのリスペクト、エンタメは不要不急ではない、ということの表れになると語った。亀田は「ステージに立つアーティストだけでなく様々な人達が関わってワンチームなんだ、その音楽祭をみんなで応援して行こうという気持ちを持ってもらいたい」という願いを込めている。

 さらに『日比谷音楽祭』の目標の一つに、「新しい音楽の循環」を作り出すことだと続けた。「音楽業界の中だけで作品を売る、コンサートの券売、グッズ販売などでお金を回すのではなく、様々な業界、企業であったり、いろんな音楽を愛する人たち、個人からも応援していただいて、未来へ広がっていく可能性という芽に水やりをしたい。それによってお互いが助け合っていく世界が生まれるんじゃないか、様々な仕事がクロスオーバーし、お互いの良いところを引き出し、そこから人間の心が未来へ向かって優しくなっていく、そういう時代を迎えて行くというきっかけになりたい」。さらに、「これから未来を作っていく若者、もしくはこれまで素晴らしい音楽を作ってきた先人たちに対してリスペクトを持つようになって、新しいお金の循環を生み出すことへのきっかけになれば」と述べた。

 このイベントを行う根幹にはアメリカ・ニューヨークのセントラルパークで開催されている「サマーステージ」や、亀田の幼少期の音楽体験も関係している。その幼少期について亀田は「両親に連れられて観に行ったポール・モーリア・グランド・オーケストラのコンサート、そして、家にあったビートルズのレコードに影響を受けて音楽が好きになりました。なので、このイベントをご両親に連れられて観にきた子どもたちが体験して『ラップってかっこいい』、『バイオリンっていいなあ』とか、 他にも、楽器テックの仕事や、音響を調整するPAだったりとアーティスト以外の音楽のプロフェッショナルにも目を向けることができるので、様々な仕事があって全ての喜びが巡り巡って人々の彩りになっているということを伝えていきたい。だから無料というものにこだわりたい」と語った。

双方向で成長していく音楽イベント

 そして、今回初めて同イベントに導入されるオンライン生配信について亀田は「自分自身がこれまでいくつか配信ライブをやっていく中ですごく希望を持てたんです。それもあってリアルとオンライン両輪で動かしていくということを、いま音楽のフロントラインに立っている僕らがやって行く、動かしていくということが重要なんじゃないかと思いました。みんなが音楽を待っているんじゃないか、音楽が必要なんだと、その確信を去年の7月ぐらいに持つようになりました」。

 どのような生配信への構想があるのだろうか。

 生配信自体は昨年、コロナ禍になる以前から構想はあったという。トークショーや様々なイベントがある『日比谷音楽祭』には配信は不可欠だと感じていたことを明かした。配信への展望として亀田は「色んな試みをここまでやってきたことで、作る側のモチベーションも格段に上がってきています。今はVRを使った演出もあるんですけど、『日比谷音楽祭』は色んなものと交わりたいと思っています。でも、大事なのはアーティストが何を伝えたいか、なんです。それによって最新技術を使うのか、音にこだわりたいのであれば最善の音響環境を整えて届けていければ良いと思います。コロナ禍を超えた後でも最高のライブ配信があるんだ、ということを作り上げていきたい」と、生配信への意気込みを話した。

 「希望をお裾分けしたい」その想いも詰め込まれた『日比谷音楽祭2021』。

 最後に亀田は「コロナ渦であっても誰もが安心して良い形で沢山の人に届けることが出来る、一つのモデルケースになれたら良いなと思います。どれだけ受け止めてくれる方たちに届いていくか、ということを大事にしたいです。双方向で成長していく音楽イベントがあっても良いんじゃないかなと思っています」と、展望を笑顔で語った。

(おわり)

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