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歌手の丘みどりが17日、シングル「明日へのメロディ」をリリース。2005年8月に「おけさ渡り鳥」でデビュー。2017年には『第68回NHK紅白歌合戦』に初出場し「佐渡の夕笛」を歌唱。紅白には2019年まで3回連続で出演した。昨年はデビュー15周年というアニバーサリーの年で、予定では多くのコンサートを行うはずだったがコロナ禍により中止。思い通りの活動ができず苦汁を飲んだ1年でもあったという。しかし、そこで立ち止まることなく彼女は新たな一面をニューシングルで届けた。それは演歌歌手・丘みどりではなくアーティストとしての丘みどりの姿だった。インタビューでは「明日へのメロディ」をリリースすることになった経緯から、今の丘みどりの歌手としての姿勢に迫った。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】
『プラダを着た悪魔』で女子力を取り戻す
――お名前の由来はどこからついたんですか。
事務所の社長さんが本名の美里だと言いづらいとのことで、「みどり」にしたほうがいいと。その流れで本名の苗字が岡なんですけど、こっちの「丘」の方がいいって(笑)。「丘の上の緑」という爽やかなイメージもあっていいという理由からなんです。
――名前を変えると運勢も変わるとよく聞きますが、この芸名になってから人生はどのように変わりましたか。
そんなに変わっていないかもしれないです。ただこの名前になってから15年経って、ようやく自分の名前っぽくなってきたなと感じています。本名はプライベートの友達ぐらいしか呼んでくれないんです。
――ちなみにお父さんからどんな風に呼ばれているのでしょう?
父は私のことをみーちゃんと呼んでるので、みどりでも美里でも変わらないんです(笑)。
――どちらでも大丈夫なんですね(笑)。さて、先日テレビ番組で密着されていたのを拝見させていただいたのですが、興味深かったです。
ありがとうございます。密着していただく中で、自分では気づいていないこともたくさんあってすごく新鮮でした。新しい自分を知る機会にもなりました。
――どのような気付きがありましたか。
客観的に見て楽しそうで、「この子すごく幸せそうだな」と思いました。もちろん自分は幸せな気持ちで歌っているんですけど、改めて映像を見てそう思ったんです。
――その密着の中でも触れられていましたが、今作「明日へのメロディ」を歌うにあたって葛藤があったみたいですね。
はい。昨年から来年に出す曲はどういう曲にしようかと悩んでいました。ここまで演歌歌手としてやってきたので、もちろん演歌は大切なんですけど、演歌ということで扉を開けてくれない方もいるんです。これまで扉を開けてくださらなかった皆さんにも、開けていただけるようなチャレンジがしたいと思いました。
――悩みというのは?
やっと「着物を着て演歌を歌う丘みどり」というものを知ってもらえるようになってきて、それを捨てることになるのではないか、という不安がありました。でも、演歌歌手というよりも、一人のアーティストとして何かを表現したいという思いがあったので、ジャンルをとっぱらって今回のような楽曲にも挑戦しました。
――「着物を着て演歌を歌う丘みどり」を捨てることへの不安とのことですが、丘さんにとって着物とはどんな存在なんですか。
私はヘソ出しの衣装でデビューして、演歌歌手なのに10年間着物を着ることができなかったんです。東京に出てきて『紅白歌合戦』に初出場した年に初めて着物を着させていただいたので、その時にようやく演歌歌手としてスタートラインに立てたなと思えたんです。そこからまだ4年間ぐらいしか経っていないんですけど、着物を着て歌うということに人一倍執着がありました。でも今は着物も着れるし洋服も着て歌うことができるので、それも楽しみの一つになってきました。
――考え方が柔軟になったんですね。さて、「明日へのメロディ」はポップス要素もありますが、歌詞の内容は強いメッセージ性があります。丘さんはドロドロしたドラマを見て歌の世界観を作り上げるとお聞きしたのですが、ちなみに映画ではどんなの見られるんですか。
特に人の感情をえぐるような作品が好きなんですけど、恋愛ものもよく見ますし、サスペンスも好きです。ツアーなどで毎日スケジュールに追われて旅をしている時って、どんどん女子力が低下しているなと感じる時があるのですが、そういう時に定期的に見る映画があって、それは『プラダを着た悪魔』なんです。この映画を見ると背筋が伸びると言いますか、「ちゃんとしなきゃ」と思えるんです。
――女子力が低下するのはなぜですか。
私はスナックとか大衆居酒屋とか焼肉屋さんとか、おじさんが行くようなところがすごく好きなんです。そうするとメイクさんから「最近みどり、おじさんみたいになってきてるよ」と言われるんです(笑)。
――しっかりと吸収されてくるんですね(笑)。
吸収しちゃうんです。そういったお店で出会ったおじさんに「今どういう人にはまっているんですか」と質問するのが好きで。今おじさんたちはどんな人を求めているのか気になってしまって。趣味の話とか聞いていると影響されやすいので、私の喋り方もどんどんおじさんぽくなってきちゃったりして。そうなった時に『プラダを着た悪魔』で女子力を取り戻します。
もっと殻を破れるはず
――「明日へのメロディ」はどんな意識でレコーディングに臨んだんですか。
コモリタミノル先生からは「音を外してもいいから思いの丈をぶつけるような感じで歌ってほしい」というアドバイスをいただいたので、素直な気持ちを持って歌わせて頂きました。レコーディングは通常1日で終わるんですけど、最後のテイクがすごく良かったので、もしかしたら別日に取ったらもっと良いものが録れるんじゃないかと思ったので、もう1日レコーディングの日を用意していたんです。それでもう一回レコーディングしたんですけど、その時にコモリタ先生から「もっと殻を破れるはずだ」と叱咤激励を受けまして。それを何時間も繰り返していました。自分では上手く表現出来たのか不安なところもあったんですけど、最初にレコーディングしたものと最後にレコーディングしたものを聴き比べたら全然違っていて、自分でも気づかないうちに殻を破れていたんだなと思いました。
――おそらく凄く集中力を要するレコーディングだったと思うのですが、そういった時は“ゾーン”に入る、というのを聞いたことあるのですが、丘さんはゾーンに入ったことはありますか。
コンサートではたまに入ります。集中して演じながら歌うコーナーがあるんですけど、ゾーンに入るのは大体そのコーナーで、自分一人だけの世界になることがあります。その時はいつも近くで見て下さってる方が「今日は何か違ったね」と言っていただけるんです。自分では意識していなくても周りから教えて頂いて「やっぱり違うんだ」と気づくんです。
――さて、同曲はミュージックビデオを撮影されていますが、すごい場所で撮られていますね。
千葉県にある展望台なんですけど、早朝だったこともあってすごく寒かったです。ミュージックビデオでは2人の自分が出てくるんですけど、赤い服を着ている私は希望、黒い服は絶望を表現しています。希望と絶望が見え隠れする楽曲なので二人を演じました。
――ミュージックビデオで注目してほしいポイントはありますか。
初めて運転しているシーンを撮ったので、そこに注目していただきたいのと、展望台のシーンは何往復もして撮影したので、ぜひ見ていただきたいです。16回ぐらい駆け上がったので(笑)。
――大変だったんですね。ビデオではピアノを弾かれていましたけど、普段からピアノは弾かれるんですか。
ピアノはほとんど弾いたことがなくて、今回の撮影の為に練習しました。これは監督さんからのリクエストだったんです。この撮影をしてみて、もしピアノがちゃんと弾ければコンサートで弾き語りとかできるなとか思ったり、楽器演奏にも興味が湧いてきました。表現の幅が広がるんじゃないかと思いました。
――楽器を弾きながら歌う丘さん、楽しみです。今回のような歌詞の世界観になったのはどういった経緯があったのですか。
スタッフさんやマネージャーさんが大柴広己先生とお話ししていただいて、今の時代や環境、いろんなものを重ねていくなかで、もがきながらも自分だけには負けず、強く一歩を踏み出すような主人公であってほしい、という想いでこの世界観になりました。
――丘さんはこの曲からどんなシーンが思い浮かびますか。
昨年はデビュー15周年でコンサートがたくさんできる予定だったんですけど、それが全て中止になってしまいました。もちろん悔しい思いをしたのは私だけではないと思うんですけど、そこへの悔しさだったりとか、何かをしたくても思い通りに活動できないことがこんなにも悔しいものなんだ、ということを思い知った1年だったんです。その時の想いが思い出されます。
――「明日へのメロディ」はどんな時に聴いてもらえたら嬉しいですか。
この曲は苦しい時や思い通りにいかないことがあった時に聴いていただいて、その思いの丈をおもいっきりカラオケとかで歌って頂けたら嬉しいです。
――ちなみに丘さんはカラオケでどんな曲を歌われるんですか。
浜崎あゆみさんとかあいみょんさん、色々歌います。ストレス発散するためにカラオケに行くことが多くて、コンサートが終わってからカラオケに行って歌うんです。周りからは「喉が壊れるからやめた方がいい」と言われるんですけど、それが私のリセット方、ストレス発散の仕方なんです。
――ストレス発散に適した曲は?
最近はあいみょんさんの「裸の心」とか歌うんですけど、5年くらい前は西野カナさんの「トリセツ」の歌詞を変えて、その日の私の“トリセツ”をスタッフに伝えるということをしていました。例えば<朝イチはスタバのソイラテが飲みたい>とか。なかなかストレートに言えないことを曲に乗せると伝えやすいんです(笑)。
歌へのこだわり
――Type-Bに収録されている「あなたと、君と」は三田村邦彦さんとのデュエットですが、どのような経緯で実現したんですか。
デュエットは三田村さんからのリクエストだったんです。 三田村さんが大阪でやっている番組で『おとな旅あるき旅』という番組があり、その番組に私は5回ほど出演させていただいたんですけど、初めて出演させて頂いた時に三田村さんから「一緒にデュエットしたい」というお話をしていただいたんです。番組に出演する度に「そろそろ曲作ろうよ」とお話ししていて、「いつか叶えばいいですね」というお話をしていたのが2〜3年越しにいま実現したという形なんです。
――レコーディングはご一緒されたんですか。
はい。三田村さんはテレビで見たまま気さくでお優しい方なんです。三田村さんはこれまでに100曲以上リリースされているので、レコーディングも慣れていらっしゃるのかなと思っていたんですけど、レコーディングの当日は「あー、みどりちゃんにデュエットしようなんて言わなければよかった」とプレッシャーを感じているようなことをおっしゃっていたのが印象的で。三田村さんもこういう風になるんだなという意外な一面を見れました。
――丘さんがデュエットで心掛けていることはありますか。
デュエットの場合は寄り添うように、あまり主張しすぎないようにというのは意識していて、一歩引いてという気持ちを持ってレコーディングしていました。
――そして、プレミアム盤に収録されているカップリングの「雨のなごり坂」はサビの最後の伸ばすところの消えぎわがすごく美しいなと思いました。
そういったところはすごくこだわっています。この曲だったらあまりしつこく伸ばしすぎないようにしようとか。基本的には1曲1曲、その主人公になりきって歌うので、「私の歌はこうだ!」というよりは、歌の主人公を演じることに対してこだわっている部分はあります。
――逆に歌い出しというのはいかがですか。
すごく大切です。今回も「明日へのメロディ」の歌い出しは何回も録り直しました。歌詞の最初の<私>の“わ”がなかなか良い感じにならなくて、コモリタ先生に相談しながらいろんなパターンを試したんです。なので歌は出だしが一番難しいなと感じています。
――こだわりが詰まっているんですね。最後に2021年、歌手活動への意気込みをお願いします。
演歌歌手の殻を破った丘みどりの活動を見ていただきたいです。今まで出来なかったこともこの「明日へのメロディ」と一緒だったら飛び込んでいける、そんな可能性を持った曲だと思うので、新しい一面を見ていただきたいです。
(おわり)
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