all at onceが、1月27日にCDデビューとなった1st EP『JUST BELIEVE YOU』のリリースを記念して、2月7日に初の無観客ワンマンライブ「all at once ONLINE LIVE 〜Zero to One〜」を無料配信した。

 2019年に倉木麻衣の「20th Anniversary Live東京公演」で抜擢されたオープニングアクトとゲストコーラスをはじめ、数々の大きな舞台を経て、昨年の春にCDデビューを予定していた、北海道出身のITSUKIと、宮崎県出身のNARITOによるヴォーカルデュオ・all at once。デビュー曲予定だった「12cm」は、亀田誠治がアレンジ、及びサウンドプロデュースを担当。彼らについて亀田が、「初めて二人の歌声を聴いた時、“歌を聴かせる音楽”の本質を久しぶりに聴くことができ、鳥肌が立った」とコメントするなど、そのピュアで、不器用だけど愚直なまでに真っすぐと称された歌声に、デビュー前から注目が集まっていた。しかし、予期せぬコロナ禍における緊急事態宣言によりCDデビューは一旦延期され、音楽配信やストリーミング配信を重ねながら、ヴォーカリストとしての地力を養ってきた二人。

 定刻19時。ステージに設置された巨大スクリーンに「all at once ONLINE LIVE 〜Zero to One〜」のライヴロゴが映し出されると、上手からITSUKI、下手からNARITOが向かい合わせで登場。伸びのあるダイナミックなヴォーカルフェイクのハーモニーを響かせ、一瞬にして会場全体を生命力に満ち溢れた空気に変えると、1曲目「雨上がりに架かる虹」へ。高純度なNARITOのハイトーンヴォイス、縦横無尽に広がるITSUKIの豊かなコーラスと、それぞれの持ち味を存分に発揮しての幕開けとなった。続く「Take mo’Chance」は、ジェームス・ブラウンやブルーノ・マーズをルーツに持つITSUKIの音楽性志向が現れたファンク調のナンバー。カラフルな映像で彩られたスクリーンをバックに、気負いや緊張を全く感じさせないリズミックなヴォーカル、伸び伸びとしたパフォーマンスから、彼ら自身心底楽しんでいる様子が伝わってきた。

 「こうしてライブを届けられることが素直にすごく嬉しいです。今持っている最大限、今できる全てをお届けできたらと思っています。」(NARITO)

NARITO(撮影=高田梓)

 短い中にも初ライブが開催できた喜びをにじませたMCの後は、今回のEPのリード曲「JUST BELIEVE YOU」を披露。この曲は約20年前にリリースされた、歴代の「名探偵コナン」のテーマソングの中でも人気が高い、倉木麻衣の「Secret of my heart」をサンプリングした楽曲で、原曲同様、作詞を倉木が、作曲を大野愛果が手掛けたことでも話題の作品だ。情緒溢れる美しいメロディに乗せた、思い合っているのになかなか会えず、でもきっといつかまた会える日が来ると信じ合う主人公達の想いを、時に切々と、時にエモーショナルに、表情豊かに歌い上げた。特に、今作の大きな聴かせどころでもある、倉木の「Secret of my heart」のヴォーカルにフェイクコーラスを重ねるセクションでは堂々たる名演を披露し、ポテンシャルの高さを見せつけた。

 余韻が残る中、ステージ上には無数のキャンドルに火が灯され、シックで温かな雰囲気にセットチェンジ。ここからはこの日のスペシャルゲストとして迎えた、ピアノの高島ユータの伴奏によるアコースティックコーナーへ。

 「コロナ禍の昨今、僕達に何ができるのか?……。やはり歌を届けるしかないと思って、ずっと楽曲制作を行ってきました。そこで生まれた、僕達の想いが詰まった楽曲から何曲か披露したいと思います。」(ITSUKI)

ITSUKI(撮影=高田梓)

 そう真摯に語り、心に染み入るバラードチューン「Make It Better」、“百年先も君と生きていたい”というストレートな歌詞が印象的なラブソング「Two of us」をチェアに腰掛けながらゆったりと、さらに開放感溢れるサビがたまらなく心地よい「オーバーライト」と、三曲の未発表曲を届けてくれた。

 高島を送り出した後は、もう一曲この日初披露となる楽曲「Mission to the moon」をスタンドマイクでスタイリッシュにアクト。まるで大勢のオーディエンスが目の前にいるかのように、両手を掲げ頭上でクラップをしてみたり、客席を煽る仕草を見せるなど、思わず無観客であることを忘れさせる臨場感溢れる躍動的なパフォーマンスに自然と心が躍らされた。

 終盤は、昨年「名探偵コナン」のエンディングテーマとしてOAされ、Spotifyの「日本バイラルトップ50」にランクインなど、各ストリーミングサービスでも250万回を超える再生回数を達成し話題になった「星合」。七夕を表す季語がタイトルになっているこの曲は、大切な人に会えないもどかしさや切なさを、織姫と彦星に重ねて歌ったドラマティックな一曲だが、この日のall at onceにとっては、「一日も早く日常に戻って多くの観客の前で歌いたい」……そんな切なる想いも相まって、より感情がほとばしるエネルギッシュな歌声へと昇華していったように感じられた。

 「星合」が終わると一瞬暗転、すぐに流れ出したイントロに乗って、ITSUKIが「次に歌う曲は本来であれば僕達のデビューシングルになるはずだった楽曲です。大切に歌いたいと思います。」と話し、その言葉を受けNARITOはカメラに向かって深くおじぎをし、そして目を閉じながら静かに「12cm」を歌い出した。6分を越える壮大なバラードソングを、一語一語噛み締めるように言葉を紡ぎ、丁寧にコーラスを重ねる二人。万感の想いが画面越しからでも十分に伝わってくる歌声は多くのリスナーに深い感動を与えただろう。

 歌唱後は、感極まったNARITOが思わず涙を流す場面も。ITSUKIは、「歌えていることは当たり前じゃないんだという事を実感しました。僕達の力じゃなくて、こうしてライブが出来ているのも沢山のスタッフ、そして何より観てくれている皆様のおかげです。all at onceという名前に込めた“全員で作り上げていく”という想いを大切に、皆さんと共に歩んでいきたいと思っています。これからもよろしくお願いします。」とメッセージ。

all at once(撮影=高田梓)

 そして最後は、当初、共にステージに上がりコラボレーションを予定していた群馬県立樹徳高校ダンス部の映像と共に、再び「JUST BELIEVE YOU」を熱唱。映像の中では生き生きと踊るダンス映像と共に、「素敵な曲でこの作品を踊れて楽しかったです!」「コロナの中、私達に頑張れる力をくださりありがとうございます!」といったall at onceに向けてのメッセージも紹介された。all at onceもまた、「僕らはまだ諦めていません。いつかきっと一緒にステージに立ちましょう!」とエールを送り、渾身の歌声を響かせて、およそ1時間のライブは晴れやかなエンディングを迎えた。

 今回は10曲とコンパクトなセットリストだったが、聴く者に幸福感をもたらす真っ直ぐなヴォーカルや、新人らしからぬ巧みなコーラススキルが際立つ、鮮烈な輝きを放った充実の1stライブだったと思う。

 我慢が強いられる困難な時代だからこそ、彼らの音楽に対するひたむきさや謙虚な姿勢こそが、明るい未来への確かな道しるべとなるだろう。今後の活躍に大いに期待したい。【松原由香里】

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