“浅羽”中村倫也、「強さ」と「脆さ」の両立
『この恋あたためますか』の見どころ
中村倫也
森七菜主演のドラマ『この恋あたためますか』(TBS系)が10月20日にスタートした。本作は、夢破れたコンビニアルバイトに業界最下位のコンビニチェーン社長が、急接近…「1番売れる」コンビニスイーツを開発しながら恋が生まれていくラブストーリー。
今年だけでも、『恋はつづくよどこまでも』、『私の家政夫ナギサさん』、『おカネの切れ目が恋のはじまり』とヒットが続いているTBS火曜ドラマ。そんな同枠が新たに打ち出した本作は、何かと暗い気分になりがちな現状に、スイーツを食べた時のような幸せをもたらしてくれる。
主人公の井上樹木(演・森七菜)は、アイドルグループをクビになり、夢破れた21歳。現在は、コンビニで無気力にアルバイトをする日々を過ごしている。水道の蛇口のセンサーが反応しないだけで、自分が存在していないような気分になったり、「モブキャラ」という言葉に反応してしまったり…強気な物言いの裏に、大きな喪失感を抱えるキャラクターに、感情移入する視聴者も多いのではないだろうか。
そんな彼女の前に現れたのが、コンビニチェーン社長・浅羽拓実(演・中村倫也)だ。樹木がやっているスイーツ批評アカウント「キキかじり」の的確さに目をつけた浅羽は、彼女と一緒に「1番売れるスイーツ」を作ることを企む。
しかし、樹木はアイドル時代に“味のなくなったガム”と例えられたことをきっかけに、自信が持てないでいる。期待してもらっているのに、もしガッカリさせてしまったらどうしよう…そんな思いから一歩を踏み出せないでいる彼女に、浅羽は、「君が必要だ」と声をかける。
この言葉が、自分は“いらない存在”なのかもしれない…と思い悩んでいる樹木に、「やっと選ばれた気がして嬉しかった」と思わせた。樹木は、1番欲しかったであろう言葉を投げかけた浅羽と共に、「社運をかけた特別なシュークリーム」の開発を始めるのだ。
挫折から自信をなくしたヒロインの前に、突然現れて差し伸べるツンデレ社長…浅羽は、ラブストーリーの王道キャラのように見えるが、それだけではない。東京大学卒業後、Eコマースを扱う外資系企業で活躍。そこから、業界シェア最下位のコンビニチェーンの改革を託されて社長に就任と、誰もが羨む輝かしい経歴を持っているように見えるが、実はネット通販会社『エクサゾン』からの出向。左遷だったのだ。
その理由は、“使えないから”ではなく、“驚異だから”。学生時代にも、“上手すぎて”サッカー部のスタメンを外されるなど、上から目線で無敵そうに見える浅羽は、学生時代から世の中の不条理と戦っていた。高校の後輩で、現在も共にスイーツ開発をしている新谷誠(演・仲野太賀)が言うに、浅羽は、天才肌ではなく誰よりも努力をして実力をつけてきた。そんなところも、より彼の切なさを引き立てる。
また、「甘いものは好きじゃない。仕事だから食べたりするけど一口で十分だ」と言いながら、樹木が作ったシュークリームを完食。帰り道に相合傘をするシーンでは、樹木の方に傘を向けるあまりに自分の肩を半分以上濡らしていたりと、さり気ない優しさを見せる。
「強さ」と「脆さ」、そして「厳しさ」と「優しさ」を併せ持つ浅羽。今はまだ、樹木の前で強い部分しか見せていないが、これから脆さを出していくシーンもきっとあるはずだ。カメレオン俳優・中村が、どのように表現していくのか期待が募る。
1話では、「今年はいろんなことがありました。甘いものは、人を幸せにします。」というキャッチコピーの通り、「甘いもの」が人を幸せにする姿が描かれていた。「このスイーツを食べたら、ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ心が軽くなって」と話す樹木を見ていると、「甘いもの」が持つ力の大きさを感じる。
うれしいことがあった時のご褒美に。イライラとした時のストレス発散に。気付けばスイーツは、私たちに笑顔をもたらしてくれていた。本作もきっと、人々の心をそっと包み込んでくれるスイーツのような作品になるはずだ。【かなぴす】
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