シンガーソングライターのchayが28日、自身初となるベストアルバム『Heart Box』をリリース。本作には新曲2曲に加え、デビュー前に路上ライブをおこなっていた頃から現在まで歌い続けている「Together」を初CD音源化するなど彼女のこれまでの歩みを象徴するような全16曲を収録。デビュー8周年を迎えたchay。家族、恋人、友達、大切な人へ贈りたい楽曲を集めたという初めてのベスト盤について話を聞くとともに、今年5月に結婚を発表するなど大きな変化を迎えたプライベートのことやこれまでの歩みについて語ってもらった。【取材=平吉賢治】
音楽はみんなを勇気付ける力がある“あるべきもの”
――デビュー8年を経てのベスト盤リリースですが、心境はいかがでしょうか。
長いようで短いような不思議な期間でした。どちらかというと長かったですね。
――その間でターニングポイントと感じたことは?
一つはTV番組の『テラスハウス』があると思います。曲で言うと「あなたに恋をしてみました」は自分にとってはだいぶガラッと世界が変わったような感覚でした。
――途中でくじけそうになってしまったことはなかった?
何度もありましたね…でも、歌うことをやめようと思ったことは一切なくて。つらい時期や心に余裕がなくなっちゃっている時期はあったんですけど、だからといって歌うことに対して嫌気がさすということは全くなかったです。その都度前向きに解決していきました。モチベーション面でも8年間保つのが大変だった時期もあったんですけど、それを奮い立たせてくれるのは何よりライブだと思っています。直接歌を届けることによってファンのみなさんの笑顔を見て、それが原動力になって8年間やってこれたなと感じます。
――そうすると、現在のライブ開催がやや難しいという時期はつらいのではないでしょうか。
そうなんですよ…こんなことになるなんて誰も想像してなかったですよね。自粛期間中も色んなアーティストの方々が音楽の力を再認識したと思うんです。リスナーの方も音楽に触れる機会も凄く多くなったと思いますし、みなさん無料でライブ映像を配信したり、私もInstagramで弾き語りライブをしたり、いつも以上にギターをたくさん弾いた期間でした。ライブができなくて直接歌を届けられないのは凄くもどかしいし寂しいですけど、アーティストのみなさんは配信ライブなど臨機応変に対応して、リスナーの方もその流れに乗って、そうやって時代は変わっていくんだなというのを目の当たりにしている感じがしました。ついこの間まで有料配信ライブとかありえなかったじゃないですか。
――確かにそうですね。今は一つの公演スタイルとして定着しつつあるというか。
そうですね。そうやってみんな変化に対応していくんだなと。やっぱり音楽はあるべきものだし、みんなを勇気付ける力があるとこの期間で再認識しました。
――困難な時期ではあっても、ポジティブな心境なのですね。
私自身も4、5月あたりは相当落ち込んだというか滅入っていました。お仕事も少なくなってしまって、みなさんも大変な時期だったと思うんですけど。でも、みんなが音楽を求めている中で歩みを止めちゃいけないと思いました。ベストアルバムを出すのは本当はもうちょっと前の予定で、コロナの影響で伸びちゃったんですけど、元々ベストアルバムはずっと目標でした。ベストだから普通に過去の曲を収録するアルバムにしてもよかったんですが、普通のベストアルバムというよりは、今だからこそハートフルな気持ちを呼び覚ますようなきっかけになってくれたら嬉しいなという想いで“Heart”というコンセプチュアルなアルバムに変えていった感じです。
――コロナ禍でのアルバム制作途中で変化があったのですね。
ありました。世間的な私のイメージって“陽”なところがあると思うんです。そういうイメージや求められているものがあるということを知っていたので、それを発揮するのは今じゃないかという使命感みたいなものを感じたんです。だから“Heart”に特化したようなベストアルバムに変更しました。
――『Heart Box』は「恋のトキメキを歌った曲から、深い愛を歌った曲まで、chayの“ハート”を詰め込んだ、あなたの“幸せの場所”に寄り添う一枚」というコンセプトとのことですが、chay さんの“ハート”の核にあるものとは?
例えば恋心や愛情、温かい気持ちなど色んなハートがあると思っているんですけど、やっぱり根源は愛だと思っています。無償の愛というか見返りを求めないで誰かを想う気持ちは凄くハートを感じます。そういうことをしてもらった時は愛を感じるし温かい気持ちになれるので、自分もそういう風にできたらいいなというのはよく思います。
――無償の愛というのは凄く大切なことだと感じます。
どうしても見返りみたいなものってどこか片隅にあるんじゃないかなとも思うんですけど、そういうのを本当に度外視して。特に今まで私を支えてくれた方々って本当にそういう風に支えてくださって、凄く恵まれていたなと今回振り返って思ったんです。みなさんが無償の愛を注いでくださってなんとか8年今までやってこれているなと思えます。もちろんファンのみなさんからも無償の愛を感じたので、やっぱり私にとってのハートはそこかなと思います。
――本作コンセプトからもう一点、chayさんにとっての“幸せの場所”とは?
そもそも歌を始めたきっかけは歌うことが好きで音楽が大好きというところなので、8年経った今でもレコーディングとかライブとか、歌っている時が本当に幸せで心からそう思うんです。そういうことを職業にできていることが本当に幸せなことだなといつも思いながらやっています。
とにかく歩みを止めない
――今作1曲目はCD初収録の「Together」ですね。
これは私にとって凄く大事な曲なんです。デビュー前の路上ライブ時代からずっと大切に歌い続けていて、ライブでは必ずと言っていいほど歌っています。「Together」は凄くまっすぐでピュアなラブソングなんですけど、私にとってはファンの方と繋がっていることを感じさせてくれる曲でもあって。「Together」もみなさんと一緒に成長しているような曲だと思っています。元々のまっすぐでピュアなラブソングというところから、徐々に歌に込める想いも変わってきているので、いつかこういうベストアルバムみたいなタイミングでリリースできたらいいなと思っていたので今回収録できて凄く嬉しいです。
――2曲目「花束」は新曲ですね。この楽曲はどのような想いを込めて歌いましたか。
結婚を5月に発表させて頂いて、今作の新曲2曲はその後に発表した曲なんです。それこそまっすぐなほっこりするラブソングにしたいなという想いもあって、私が常日頃思っていたことが歌になっています。どんな綺麗な花束よりも、どんな輝きよりも、あなたとの何気ない日常とか時間というのが私にとっては凄く大切で幸せなことなんだということを歌にしたいと思っていて、それを形にして頂きました。
――もう一つの新曲「永遠の針」はchayさんが作曲ですが、どのようなことを意識して作りましたか。
ウエディング感を意識してメロディを作りました。私は自曲のバラードをリリースしたことがあまりなくて、バラードを作るのは時間がかかるんですけど、今回はコロナ禍ということもあっていつもより時間をかけることができた曲です。壮大なバラードをイメージしながら、アコギでコードを鳴らしながらサビからメロディを作って、という感じです。今までにないバラードになったかなという感じがします。
――ウエディング感を意識されたと。chayさんはご結婚されてからの日々はいかがでしょうか。
幸せです。結婚してからは生活面でもけっこう変化があったので、毎日あくせく過ごしていますけど、そこには凄く愛があって楽しい日々を送っています。
――ご結婚発表前には「chay LAVENDER TOUR 2020」がありましたが、こちらの感触はいかがでしたか。
コロナ禍の前だったので、ギリギリみんなに直接歌を届けられたのはよかったと思いますけど、その後は結婚もみなさんに直接お伝えできずにSNSやホームページでしか発表できませんでしたし、ベストアルバムの発表もそうでしたし…今回もライブをすることはできないんですけど、初めての試みの特典としてオンラインライブやZOOMお話し会を企画しました。直接会えなくても繋がっていられるのは凄いことだなと感じながら、今はそうするしかないですし、とにかく歩みを止めないように頑張っていきたいなと思います。
――これからZOOMなどのリモートでのやりとりは、ある種スタンダードになるのかとも感じます。
私は靴や服などもデザインさせて頂いているんですけど、今発売している靴のデザインのやりとりもリモートでやっていたんです。さすがに靴のデザインとか細かいニュアンスは会わないと伝わらないんじゃないかと思っていたんですけど、最終的にいつも以上によいものが出来て。だからなんでもできるのかなってびっくりしました。
今回の「花束」も「永遠の針」も、アレンジなどをリモートでやって頂いたんです。本当は生でみなさんと一緒に“せーの”で録るはずだったんですが、リモートでのレコーディングでも凄く素敵なアレンジになっていると思います。そういったことも新しい様式としてスタンダードになっていくとは思いますけど、やっぱり生直接会って作業することに勝るものはないのかなと思っているので、早く直接会えるようになることを信じて、今はできることをしなきゃだめだなって思います。自粛期間中も凄く思ったんですけど、ここで歩みを止めちゃうと本当に止まっちゃうという恐怖心のようなものがありました。
――chayさんは歩みを止めなかったのですね。
Instagramなどでの弾き語りでは、今まで自分のルーツミュージックをカバーすることは多々あったんですけど、今流行りのJ-POPをカバーする機会が今まであまりなかったんです。しかし自粛期間中は、Official髭男dismさんとかKing Gnuさん、あいみょんさんなど、リクエストが多かったんです。自粛期間中でなければやらなかったかもしれないので、今観て頂いている間だけでもどうやったら楽しんでもらえるんだろうと考えた時に、自曲ではなくてもどんどんリクエストにお応えしていきたいなと思ってカバーをしました。
――普段はやらなかったカバーをしてみて、いかがでしたか。
すごく勉強になりましたし色んな発見がありました。カバーをする前に聴き込んで楽譜に書いて分析するんですけど、「自分だったらこのコードを」という部分が別のコードだったりして「ここにいくんだ、凄い」とかカバーをしたからこそわかる発見がありました。楽しかったし、さすがみなさん凄いと思って脱帽しました。
ここからまた新たなスタート
――chayさんのこれからの展望としては?
ベストアルバムを出すことや、結婚って、それぞれ一つの区切りでもあると思うんですけど、全然ここで終わらないし、まだまだ歌い続けていたいということをちゃんと伝えたいです。
――結婚、ベストアルバムリリースで一旦止まるというわけではないと。
そうです。これからも歌い続けていくことが今の目標です。今回ベストアルバムを作って改めて思ったんですけど、私は“今”ということを凄く大事にしていつも曲を書いています。今しか書けない気持ちや言葉があると思っているんです。今しか感じられないこと、そういう瞬間を切り取って作っていたので、それこそベストアルバムで聴き直して「こんなこと悩んでいたな、こんなこと当時思っていたな」とすごく懐かしい気持ちになりました。年齢を重ねていけばこれからも色んなことがあると思うんです。
環境や状況が変わっていくと、人の考え方や価値観とかは変わってくるものだと思っています。私もデビュー8周年を迎えて、デビューしてからどんどん考え方とかも変わってきていて、それをそのまま背伸びもせず、等身大な今の気持ちを大事にしながらこれからも曲作りを頑張っていきたいです。同世代の女性のファンの方が多いんですけど、ともに歩んでともに成長していっているような感覚でもあります。
――ここからなのですね。
そうですね。ここからまた新たなスタートだと思っています。コロナ禍という誰も想像していなかったことを経験して、音楽ということにもっとフォーカスされたと思うのですが、今までけっこう気を張って曲を作っていた気がして。やっぱりメジャーでやるには売れるような曲を作らなければいけないという思いもあったんですけど、今の流れとか音楽シーンをみていると、今まで自分が勝手に思っていた、いわゆるヒットソングのセオリーみたいなものって全然ないに等しくて。今は作り方も捉え方も自由で「もっと自由に作っていいんだな」と思ったんです。
それはカバーをしてもそう思ったし、よいものは評価されるよい時代だと思っています。今は自発的にどこでも音楽を発信できて、どんな人でも凄く広く知られて聴かれるというチャンスがあって。実際にTikTokとかでどんどんバズったりしていますし。そこに関しては私も負けていられないし、発信することを止めず、もっと肩の荷を下ろして自由に自分の伝えたいことや届けたい想いを曲にしていければなと思っています。今までとはちょっと考え方が変わったんです。
――これが区切りではなく、これからと。では、読者の方々にメッセージをお願いします。
今は直接歌声を届けに行くことも会うことも難しい中ではありますけど、また笑顔でみんなで会えることを信じて一緒に頑張って乗り越えて行きましょうということを一番言いたいです。今回のアルバムも、少しでも心を癒してもらいたくて作ったアルバムでもあるので、聴いてハートフルな気持ちになってくれたら嬉しいですし、改めて大切な人を思い浮かべながら聴いて頂きたいです!
(おわり)