小室哲哉ブーム再来はあるか

TKブームの一時代を築いた小室哲哉。再び香りが漂い始めた

 先月、鈴木亜美(32)のデビュー15周年記念シングル『graduation』で、初期からプロデュースを手掛けていた小室哲哉(55)が再び楽曲提供したことで話題を集めた。小室といえば、TM NETWROKだけでなくヒットメーカーとしての顔も持つ。バンド再結成、ガールズロック再興など80年代から90年代にかけて流行した音楽シーンが再び注目を集めているなか、当時、社会現象にまでなった“TKブーム”は再び到来するのであろうか。当時を振り返ってみたい。

 90年代から00年代までの音楽シーンは、小室哲哉を筆頭とする小室ファミリーがその時代の象徴的な存在だった。小室と手を組んだエイベックスもこの時から頭角を現し、今は音楽業界の覇者とも言われるようになった。エイベックスブームやTKブームとも称されたこの時代、活躍した歌手で代表的なものに安室奈美恵がいた。そのブームの火付け役を担ったのがTRFだった。

 ■ダンスとカラオケの戦略がハマる

 小室は1994年、TMNとしての活動を終了する以前から手掛けていたTRF(当時は小文字の「trf」)を筆頭にプロデュース活動を始めた。「Tetsuya Komuro RAVE FACTORY」の頭文字を取って「TRF」という名をつけた。

 海外では割とポピュラーであった「1人のプロデューサーが多数のアーティストを抱えてヒットチャートに送り出していく」。このスタイルを日本でも試みようとエイベックスとともに動いた。

 そして、ダンスとカラオケの両方をコンテンツとして意識したサウンドを構築していった。その戦略は見事にハマり、CDのミリオンヒットだけでなくカラオケブームも沸き起こした。

 楽曲提供はTM NETWORK時代から始まっていた。有名な曲では、渡辺美里の『My Revolution』。初めて他アーティストに提供したのは1985年の岡田有希子の『Sweet Planet』だったとされている。

 基本的に女性アーティストのプロデュースが主で、特徴の1つに「ハイトーンな楽曲」があげられる。とにかく歌い出しからキーが高かった。

 素人が歌うにはかなり厳しいものがあった。カラオケでは、キーを下げて歌えば良いものの、そこはオリジナルと同じキーで歌いたいという心理が働き、下げる人はほとんどみられなかった。歌いきった時の気持ち良さ、達成感が良かったのであろう。この気持ち良さが“中毒性”を生み、新しい新譜を購入するという流れができた。

 カラオケのマーケットを視野に入れた楽曲製作をしていたことが売り上げの伸長にも貢献したと一部では言われている。

 ■驚異の制作ペース

 小室が主にプロデュースしていたアーティストはglobe、安室奈美恵、TRF、華原朋美、hitomi、そして鈴木亜美(当時は鈴木あみ)などがいる。1曲限りの単発ものを含めるとその数は100組超にものぼり、専属プロデュースは20組ぐらいだったと言われている。総称して小室ファミリーと呼ばれていた。

 小室の制作ペースは異常なほどだった。作詞、作曲、編曲の全てをこなしている楽曲もある。手掛けた楽曲のうちミリオン超えが20曲、そのうち4曲がダブルミリオンを記録。正直なところ「まずこのペースでは身が持たない。。。」というのがエンジニアの心境ではなかろうか。

 小室が過去に受けた他媒体のインタビューで「1時間程で大体の曲の骨組みは完成する」と述べていた。これには驚きだ。調子が良ければそのくらいで出来ることもあろうが、おそらく常にそれぐらいのペースで曲づくりをしていたのであろう。それならば当時の制作ペースも納得がいく。

 多くの楽曲をリリースするにあたり、一部からは「似たような曲を量産している」との声も聞かれた。筆者の私見では、「TK」というジャンルを確立していたし、楽曲が「一つのジャンル」として成り得る音楽性は賞賛すべき点だと思う。少なくとも誰かの曲に似ていると言われるよりかはマシだ。

 ■再ブームの可能性は

 筆者はTM時代のアグレッシブな楽曲が好みだが、ねらいを定めたこのプロデュース時代のものも嫌いではない。安室や華原に提供していた楽曲は今聴いても良いと思える。メロディ事態は今も色あせていない。当時と比べるとレコーディング環境も電子楽器のサウンドもかなり良くなっているので、リアレンジしたものをぜひ聴いてみたいと思っている人も多いはず。

 最近発売された安室のバラードベストアルバム『Ballada』にも小室プロデュース時代の『CAN YOU CELEBRATE』『SWEET19 BLUES』が収録されている。アルバムを紹介するニュースなどをみても、この2つの楽曲を指して「これも収録されています!」と強調していた。街中でも同曲を良く耳にする。このように小室の楽曲に触れる機会が多くなれば、TKブームの再燃も期待される。

 先月、鈴木の新曲として14年ぶりに楽曲提供をした。タイトルは『graduation』(6月4日配信リリース)。作詞は鈴木本人。メロディアスなミディアムバラードでスっと耳に入ってくる。久々の組み合わせであったため、もっとノスタルジーを感じさせてくれても良かったと思うが…。

 ちなみに昨年3月、デビュー20周年を迎えたTRFがtrf名義でリリースした『WATCH THE MUSIC』で再びプロデュースを行っている。

 ■再び漂い始めた“小室音楽”の香り

 鈴木への楽曲提供、華原との再共演などで再び脚光が浴びている“小室ファミリー”。つい先日もフジテレビ系『僕らの音楽』で「僕らの小室哲哉」という特集が組まれた。ここには小室のほかにTM NETWORKの宇都宮隆と木根尚登、そしてTRF、華原朋美、鈴木なども出演。当時の貴重なエピソードや小室の音楽性などが垣間見え好評だった。

 また、この番組で、ともに出演していたE-Girlsに楽曲を提供するならどいう曲かと質問され、「ダンスありきなのでダンスミュージックになると思う。でもジュリアナが流行ったころのコテコテのユーロビートみたいな曲も歌ってほしいな」とも語っていた。

 一度は落ち着いた感があったものの、小室のサウンドを求めている人は少なくない。全盛期のような売れ方は今の音楽業界の状況では難しいがそれ故に、じっくりと練った楽曲を望んでいるファンも多かろう。

 この人なら何かやってくれそうな期待感はファンの中にはある。小室自身も先日、ツイッターで「ASIAのフェス開催を目論んでいろいろな方と話しています」とつぶやいていた。

 また、小室自身の音楽活動は依然活発だ。今年でみるとTM NETWORKのデビュー30周年記念ツアーの前半戦となる“1984~ the beginning of the endツアー”を終え、そして後半戦の“WINTERツアー”を行うことがつい先日発表された。また、ソロでは4月2日にアルバム『TETSUYA KOMURO EDM TOKYO』を発表。この作品ではゲストボーカルに玉置浩二を招いている。

 どこかしら“小室音楽”の香りが漂い始めているなかで、日本で再びTKブームは起こるのか、それともアジアへと広がりをみせるのか、今後の動向が気になるところだ。(文・上村順二)

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