プライドと潔さ

 決して全ての音楽活動からの引退ではなく、創作活動はこれまで通り続けるというものだ。「体力の衰え」が原因であるという報道もあるが、全50公演というロングツアーを行っていれば身体への負担は大きくなる。加えて氷室はかつて出演したラジオ番組で以下のことを語っている。

 「ミックジャガーやスティーブン・タイラーがいるわけだから、自分がそこにどこまで切迫できるか。プロとして25年やっていると最初はいい加減にやってきてもキャリアに対するプライドというのが出てくる。どこまで自分の身体に鞭を打っていけるかだよね」。

 また、ソロデビュー25周年を迎えた昨年、日本テレビ系報道番組『NEWS ZERO』のインタビューで、自身の価値観について以下のことを語っていた。

 「織田信長がすごい好きなんですよ。ひっちゃかめっちゃかやって自分の決断で好きなことやって最後に明智光秀に裏切られて殺されるときも『是非に及ばず』というのがね。やっぱりその境地ですよね。自分でやりたいことやっているのだから、四の五の言わずにダメな答えが出てもそれを受け入れるよりしょうがない。そこの潔さ、最低限のルールは分かっているつもりですよ」。

 前出のインタビューでは「やりたいことがある、覚えたいことがある。そのエネルギーが生きることの証じゃないですか」とも述べている。

 果たして前出の報道にある理由で引退を決めるだろうか。「キャリアとしてのプライド」が許すだろうか。「潔さ」も、本心では「潔く体力の衰えを認め、次のツアーまで音楽、身体ともにパワーアップをはかる」というものだったのではないか。それが公式サイトにもあった“氷室京介としての”という表現になったのではないか。

新しいものを見出すために移籍

 創作活動についても同じだ。氷室は2011年に長年所属していたレーベルからワーナーミュージックへと移籍した。その理由はワーナー・ブラザーズ・レコードの会長で名プロデューサーのロブ・カヴァロ氏と楽曲を制作するためだったとされている。前出のインタビューで氷室はこう語っている。

 「僕のアーティストとしてのキャリアは何年続くか分からないけど、ロブの下でやることで何か新しいものが見つかるのか試してみたいと思った」。

 氷室は現在、これまでの氷室の延長線上にある新しい音楽、新しい氷室の姿を追い求めている最中なのである。そのなかで生まれた楽曲に、フォルクスワーゲン「Golf Variant」のCMソング『ONE LIFE』がある。サウンドもこれまでは異なるカッコ良さが出ていた。

 ライブ中に語ったとされる「氷室京介としてのコンサート活動を休止」あるいは「氷室京介からの卒業」は引退ではなく、ロブをプロデューサーに迎えて取り組んできた成果が見え始めている、いわば新しい氷室の音楽が表れ始めている、そこでソロデビュー25周年ツアーを“これまでの氷室”の区切りと考えていたのではなかろうか。

 プライドや美学を重んじる氷室だけに好調期における「引退」も彼なりの美学と受け止めたファンもなかにはいただろう。しかし、新しい音楽が見えてきた、ということが事の真相ではなかろうか。

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氷室京介の休止騒動の真相はいかに

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