Nozomi Nobody(撮影=小池直也)

 6月11日に東京アラートが解除された。これにより、都内の休業要請緩和に向けたロードマップはステップ2からステップ3に移行。さらに18日を以てライブハウスやクラブの自粛要請も解除されたが、なおもソーシャルディスタンスを意識した入場制限などが求められている。何かと名指しされることが多いライブハウスだが、コロナ禍以前の日常は戻るのだろうか。

 音楽の現場のリアルな声に耳を傾ける当連載、第2回目に話を聞いたのはシンガーソングライターのNozomi Nobody。彼女は前回紹介した、下北沢にあるライブバー「路地裏のサーカス」を支援するためのコンピレーション作品『Life is CIRCUS』の発起人だ。文化施設の休業要請に対する国からの助成を求める団体「#SaveOurSpace」にも積極的に参加する彼女は、現状をどの様に感じているのだろうか。【小池直也】

――新型コロナウイルス禍以降の活動はいかがですか?

 3月下旬以降、入っていた予定はすべてなくなりました。表立った活動は先日、配信ライブに出させてもらったくらいです。今は家で制作の仕事をしたり、少しずつ作曲したりしてます。みんなで空気感を共有できるライブハウスのステージが恋しいですね。

 この期間は社会のあり方とか自分の生き方とか、本質的なことについて考える機会になりました。あとは音楽や映画や本などに日々救われていて、文化に生かされているなと感じています。どんな状況の中でも音楽は絶対に生まれ続けていて、その事実自体に希望を感じているし、私も作品を作りたいと思っています。

――Nozomiさんは、コンピレーションアルバム『Life is CIRCUS』の発起人でもあります。これの制作経緯について教えてください。

 「ライブハウスが根こそぎなくなってしまうかもしれない」という危機感は早い段階から感じていました。でもクラウドファンディングなど個人レベルの支援は限界があるし、国からの助成が絶対に必要だと思っています。だから『#SaveOurSpace』に関わるようにもなりました。ただ、それが“大きな視点”だとすれば、それだけでなく、身近な人たちのために出来ることをするという“小さな視点”も大切だなと思って。そこで制作したのが『Life is CIRCUS』でした。

 ただ、もしもサーカスの店主・加藤さんが「店を続けられない」という判断をした場合、このコンピがプレッシャーになってしまうのでは、など葛藤もありました。でも今までの感謝と「もらってきたものを返したい」という想いが強かったんですよ。だから集まったお金はお店の継続だけでなく、必要なことに使ってほしいと伝えました。小さな力ですが、そういう小さなことの積み重ねが結果として多くの人が救われることに繋がるのではないかという希望を持っています。

撮影=鳥居洋介

――『#SaveOurSpace』のメンバーとしては「#SaveOurLife」の記者会見で司会を担当されていましたが、そもそも活動に参画したきっかけは?

 居ても立って居られず、発起人のひとりであるスガナミユウ(LIVE HAUS)さんに「手伝えることがあれば協力させてください」と連絡したのが最初です。司会についてはスガナミさんから打診がありました。経験がないので戸惑いもありましたが、私に出来ることがあるなら一生懸命やろうと。

 記者会見は多くの記者の方が来て下さいましたが、5時間を超える長丁場になりました。様々な業種や職種の方が30人集まってそれぞれの立場から現状を話して下さって、運営も司会もすごく大変ではあったんですけど、とても意味のある一日になったと思います。

――現在、みなさんの活動としては映画と音楽、演劇からの声を集めた「We Need Culture」が活発です。Nozomiさんは11万人が視聴したDOMMUNEの配信でも司会を担当されていましたね。

 5月21日・22日で2日間のキャンペーンを行ったんですが、オンライン上での反響も含めて各分野の想いがたくさん集まって心強かったし「これなら変えていけるかも」という手ごたえがありました。テクニカルな話をすると、演劇は文化庁の管轄ですが、ライブハウスやクラブ、ミニシアターは管轄外なんです。だからある意味で、後者は国に文化として認められてこなかったという歴史があるんですね。

 もともと行政とのつながりが深い演劇分野に対して、ライブハウス/クラブ、ミニシアターというのは各地で自由に育ってきた文化です。特にライブハウスやクラブは数が多い上に全体を取り仕切る団体があるわけでもないので現状が把握しづらいという実情もあります。

 そんな背景から「国からの支援なんか要らない」と言う方もいるし、「さんざん好き勝手にやってきたのに、こういう時だけ国を頼るのか」という意見もあります。確かにそれぞれの判断はあって当然ですが、多様な文化の土台を作ってきたこうした団体が文化芸術に対する支援の枠組から外されてしまうことにはやはり強い疑問を感じます。

撮影=鳥居洋介

――ライブハウスやクラブが道なき道を歩んで文化になった今、きちんと国に認めてもらう段階に差し掛かっているのかもしれません。

 そうですね。これをきっかけにライブハウスやクラブ、ミニシアターも文化庁の管轄に入って文化芸術団体としての支援を勝ち取ることができたら、それは今後に繋がる大きな一歩になると感じています。また、現場の人同士の横のつながりを作っておくことも大事だと思います。

――ほかに『#SaveOurSpace』の活動を通して感じたことなどはありますか。

 社会運動の経験がないので「こういう風になっているのか」と日々勉強ですね。一概には言えないんですが、政治家や省庁の方と実際に話してみると「どうにかしたいという気持ちはあっても、現場の実情が理解されていない」ということが少なからずあるんですね。なのでコミュニケーションを取りながら決めていくことが大事だと思っています。文化芸術に限らず現場の声を抜きにして政策を決められてしまうのが一番よくない。

 活動を通してわかったことは、物事を変えていくためには大勢を巻き込んで世論喚起していくことと、地道なロビー活動の両方が必要だということです。デモやSNSなどで多くの人が声を上げて意思を示し、その上で実際政策を決める立場にいる人たちと具体的な要望や問題点を話し合い、共有する場を繰り返し設けていく。時間をかけて変えていくしかないのだと実感しています。

――「声を上げる」ということについて、SNS上では意見の相違によって分断が生じ、罵倒しあう様な風潮も見られます。

 そこからは距離を置いています。もちろん世の中に対する怒りはずっとあるし、その気持ちは大事。「今は怒る時ではないから一致団結しよう!」と何となく丸く納めて、問題の本質から目を背けることもしたくありません。何が不条理で何に納得できないのか、怒りの原因を理解することがスタートだと思っています。でも意見の違う人への攻撃は意味がないなと感じてますし、平気で誹謗中傷するような人を相手にして何かが生まれるとも思いません。

撮影=鳥居洋介

――今後の音楽や社会はどうなっていくと思いますか。

 音楽や文化というものが私たちにとってどれだけ必要で大切なものかということを、みんな改めて感じていると思います。だから日本における文化のあり方を改めて考えて、みんなで変えていけるチャンスだとも思うんです。同時に、私たちが文化を思う気持ちと同じように、別の何かを大切だと感じている人たちもいて、そういう人たちへの想像力を持つこともとても大事なことだと感じています。そうやって尊重し合うことで社会の多様性は守られていくんだなということを、『#SaveOurSpace』や『We Need Culture』の活動を通して強く感じました。

 政治と生活がどれだけ密接に繋がっているのかとか、声をあげることの大切さも私たちみんなが学んでいるところだと思います。色々なことを変えていくタイミングになったらいいし、していきたいですね。

筆者紹介

小池直也 ゆとり第一世代の音楽家/記者。山梨県出身。サキソフォン奏者として活動しながら、音楽に関する執筆や取材をおこなっている。
ツイッター:@naoyakoike

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