LiSA「紅蓮華」とアニメ「鬼滅の刃」との親和性 90秒に込めたストーリー
LiSA
ソロデビュー10年目に突入したシンガーのLiSAが、昨年リリースしたアニメ『鬼滅の刃』オープニングテーマ「紅蓮華」がトリプルプラチナ(80万DL超え)を獲得。フィジカルとダウンロード合わせてミリオンを達成し、ストリーミングは1億回再生を超えた。この曲が1年が経った今も多くの人を魅了する理由は様々あるが、アニメと楽曲の親和性、そこに乗るLiSAの歌声のインパクトだろう。リリースから約1年が経った今「紅蓮華」の魅力を分析したい。
90秒で伝えきるトータリティ
「紅蓮華」は昨年4月のフル配信開始直後から注目され、各配信ストアで配信がスタートするやいなや、配信デイリーチャートで38冠を達成。昨年末にLiSAは同曲で『第70回NHK紅白歌合戦』に初出場し、さらに認知度を高めた。現在LiSAのオフィシャルYouTubeチャンネルも登録者数が100万人に到達し、「紅蓮華」のMVは3700万再生を突破。
この新型コロナウィルス感染拡大の影響で、外出自粛による「おうち時間」が増えたことで『鬼滅の刃』に触れる人が増加。原作コミックも最新刊が発売されると、SNSのトレンドに上がるほどの人気ぶりだ。その『鬼滅の刃』も先日『週刊少年ジャンプ』(集英社)での連載が完結し、“鬼滅ロス”がおこっている。
それに伴いアニメ主題歌の「紅蓮華」もリリースから約1年が経った今も勢いは衰えることなく、5月4日付オリコン週間デジタルシングル(単曲)ランキングで返り咲き1位を獲得し、アニメとの相乗効果でロングヒットとなっている。
さらに、多くのアーティストがこの「紅蓮華」をカバー。X JAPANのToshlやポルノグラフィティの岡野昭仁など広がりを見せている。LiSAが歌うオリジナルとはまた違った表情の「紅蓮華」を堪能できる。
さて、この「紅蓮華」はBメロから始まるという、あまり例を見ない楽曲構成も印象的。人は最初と最後が印象に残るということもあり、歌詞にある<強くなれる理由を知った>というキラーワードを、イントロと1番のサビ前に持ってくることによって、アニメで流れる約90秒という短い時間の中で伝えたいことを明確に提示している。そして、一番盛り上がるサビで<誰かのために強くなれるなら>と答えを出しストーリーを構築していることも、気持ち良さに繋がっている。
ちなみにアニメ版での歌詞はフルサイズ版とでは一部異なり、フルサイズではサビの<ありがとう 悲しみよ>をアニメでは<何度でも立ち上がれ>と変えている。それは『鬼滅の刃』主人公の竈門炭治郎のストーリー前半での心情に寄り添い、作品の世界観と歌詞のシンクロ率を高め、『鬼滅の刃』と「紅蓮華」の関係性を強固にしている。炭治郎の心情だけではなく、LiSA自身と重ねているのも、この曲の魅力だ。フルサイズ版の<ありがとう 悲しみよ>というフレーズはキャリアを重ねた今のLiSAだからこそより強く響く。
サウンド面では、ポルノグラフィティやアイドルまで幅広くこなす、江口 亮のアレンジが光る。LiSAの楽曲では2017年にリリースされた11枚目のシングル「Catch the Moment」でも編曲を担当している。「紅蓮華」はドロップチューニングされたエレキギターのラウドなサウンドに、疾走感のあるドラム、憂いを与えるピアノ、さりげなくも効果的に楽曲を彩るシンセサイザーのシーケンスフレーズ、サビの切れ目に聴けるハウリングのような効果音などが絡み合い、昂揚感を与えサウンドでも歌を後押ししている。
自身の葛藤やバックボーンを感じさせる歌と『鬼滅の刃』のストーリーの融合
さらに楽曲としての新たな一面とLiSAの歌唱スキルの高さをより感じさせてくれたのが、昨年12月に公開されたLiSAとagehaspringsの野間康介(Pf)と2人で臨んだYouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンス。スタジオに置かれた一本のマイクと向き合い、一発撮りのパフォーマンスをするというもので、「紅蓮華」は現在4千万再生を超えている。
ラウドで疾走感のあるロックサウンドをアコースティック・アレンジにすることにより、作曲を担ったシンガーソングライター草野華余子が作り出すメロディの繊細さ、儚さがより際立つ。どこか歌謡曲の持つ哀愁を漂わせ、1発録りの緊張感もスパイスとなり、LiSAの生命力あふれる歌声で心を揺さぶりかける。サウンドと歌が一丸となって響くオリジナルと、言葉とメロディの哀愁をフィーチャーした「THE FIRST TAKE」のバージョンで「紅蓮華」の2面性表現した。
LiSAの歌はトランジェント、リズムに対しての反応速度が良い。特に激しい曲では食いつくようにアグレッシブで、リスナーをグイグイと引っ張っていく力強さがある。ダイナミクスも豊かで、それがエナジーあふれる歌唱に繋がっていると感じた。「紅蓮華」以外の曲でも、3rdシングル「best day, best way」や5thシングル「Rising Hope」などで表情を変えた熱い歌声が聴ける。
そこからの成長も感じられる「紅蓮華」はLiSA自身の葛藤やここまでのバックボーンを感じさせる鬼気迫る歌声と、『鬼滅の刃』のストーリーが見事に融合し、大きなシナジーが生まれヒットにつながったと考察する。
コロナ禍により日本、世界は疲弊してきている。そんな辛い日々も心の支えになってくれるひとつが音楽などのエンタメ。これからもLiSAの言葉と歌は多くの人を勇気づけ、我々の“運命を明るく照らしてくれる”ことだろう。ソロデビュー10年目に突入したLiSAへの期待は高まるばかりだ。【村上順一】