渕上舞「人生を変えてくれた」様々な出会いで新たに発見した個性と可能性
INTERVIEW

渕上舞「人生を変えてくれた」様々な出会いで新たに発見した個性と可能性


記者:榑林史章

撮影:

掲載:20年04月29日

読了時間:約9分

 声優アーティストの渕上舞が29日、5枚目のシングル「Crossing Road」をリリース。今作は人気TVアニメの第5期『食戟のソーマ 豪ノ皿』のEDテーマとして注目の楽曲で、「曲のどこを切り取るかによって、イメージががらりと変わります」と渕上。またカップリングには本人が作詞を手がけ、女性ならではの内面が表れた「ハラ・ヒラ・フワリ」を収録。制作について話を聞くとともに、出会いや泣いた経験などを語ってもらった。【取材=榑林史章】

出会うたびに新しい自分を気づかせてくれる

「Crossing Road」ジャケ写

――「Crossing Road」はピアノとストリングスのサウンドのドラマチックなナンバーという印象ですが、最初に曲を聴いたときの印象を教えてください。

渕上舞 しっとりとした切なさを感じさせるイメージの導入から、サビに向かって開けていく感じがあり、疾走感や熱さを感じさせる雰囲気もあって。曲のどこを切り取るかによって、イメージががらりと変わる楽曲です。また1番と2番でも印象が変わり、曲のエンディングではみんなで歌えるようなところもあって。曲の入り口とお尻で、同じ楽曲なのか錯覚してしまうような印象の違いがあって、とても聴き応えのある1曲になったなと思っています。

――英語のコーラスも出てきますがこれも渕上さんが?

渕上舞 はい。主旋律と混じり合って、とても厚みのある良い雰囲気になったと思います。ただ英語が得意ではないので、どういう風に発音したらいいか分からなくて。スタッフに確認しながら収録しました。

――ミュージックビデオはこれまでの撮影で一番緊張したそうですね。水を張っているなかに立って歌っている映像で。

渕上舞 水を張ったプールの中央にアクリル台があって、その上に立って歌ったんです。足を乗せるところが狭くて一度立ったら一歩も動けない状態で、それでも「動いて欲しい」という監督の要望に、いかに応えるかが戦いでした。怖いし落ちたら衣装が濡れてしまうし。それに水には少し色をつけてあるので底が見えなくて、それも怖かったです。最初はお湯だったんですけど、どんどん冷めていって足も冷たくなっていくし。

――頑張りのかいもあって、光の差し込み方も含めてとてもすてきな映像になりましたね。

渕上舞 ありがとうございます。映像のなかではいろんな光がいろんな方向から差し込んでくるんです。衣装も光によって色や雰囲気が変わって、完成した映像を見て感動しました。私のシーンだけでなく、ダンサーさんが華麗に舞うシーンやバイオリンの方の演奏シーンもあって、とても幻想的な仕上がりになりました。

――歌詞は、TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDの松井洋平さんが作詞しています。出会いや、人と人の人生が交じり合う場所みたいなイメージですね。今回の出会いによって光がもたらされるような。

渕上舞 そうですね。歌詞には光という言葉がたくさん散りばめられていて、私はそれが印象的でした。光と言うと輝かしくて眩しい希望といったイメージを抱きがちですけど、人それぞれに違った道があるように、光の輝き方も人それぞれで違いがあるんだなと感じました。

――渕上さんにとって、自分の道を示してくれた光のような出会いは何でしたか?

渕上舞 やっぱりアニメ『ガールズ&パンツァー』と、そのキャラクター=西住みほ、そして監督の水島努さんです。自分はこうだという思い込みを取り払って、新しい道を示してくれた出会いでした。

 それまで私は、可愛らしい声を使ってお芝居をしたことがほとんどなくて。低めの声で落ち着いたトーンで演じたり、いわゆるツンデレだったり、強めの役が多くて。西住みほのような可愛い役は、自分のなかで「私はこういうタイプじゃない」って、思い込んでいたんです。でも『ガルパン』に出演して以降は、可愛い役もたくさんいただけるようになって。自分の知らない自分を見つけてくれたという意味では、本当に人生を変えてくれたと思っています。

――そういう話を監督とする機会はあったり?

渕上舞 最近お会いする機会があって、そのときに言われたんですけど「渕上さん、僕と最初に会ったときに何て言ったか覚えていますか?」と。どうも普通の新人は絶対に言わないすごく生意気なことを言ったらしいんですが、私はまったく覚えてなくて。8年越しに「すいませんでした」と謝りました。すごく恥ずかしかったです(笑)。

 でも『ガルパン』に限らず、新しいキャラクターと出会うたびに、ぜんぜん自分とは違っても自分にもそういう一面があったと気づかせてくれることが多くて。もちろん自分と似ているキャラクターもありますけど。そういう部分でも、声優って楽しい仕事だなと日々感じています。

――またカップリング曲「ハラ・ヒラ・フワリ」は、和テイストの曲で、渕上さんが作詞を手がけています。

渕上舞 リリース時期的にも春の終わりを連想できる曲で、今まで触れてこなかったけどいつかチャレンジしたかった和テイストの音を使った楽曲にしたいと提案させていただき、曲を作っていただきました。

――曲の方向性と同時に、歌詞のイメージもできていたんですか?

渕上舞 「Crossing Road」が壮大で光がイメージされるものだから、カップリング曲はその反対に、陰があって小さい世界で完結するようなものが良いなと思っていました。自分のなかだけで始まって、自分のなかだけで終わるような歌詞が良いなと。

――歌詞には<なまぬるい生き方が心地良い>など、インパクトの強い言葉が出てきますね。

渕上舞 ここは、自分の心がダダ漏れしています。私、自分に甘いので(笑)。たぶん男性から見ればすごく面倒くさい女の部分がたくさん出てくると思いますが、女性には分かってもらいやすい感情なのかなって。そういう意味では男性のみなさんの反応が楽しみです。

 男性でも女性でも辛い経験はするし、失恋することもあるだろうし。そういうときに、「次に向かって歩いていこうよ!」とは言わない曲にしたかったんです。「前を向いていこう」と言うのがポジティブなのだとしたら、むしろネガティブと言うか、開き直っているような感じが良いなと。誰かに聞いて欲しいというよりも、自分のなかで全部解決するようなストーリーの歌詞に仕上げたくて。だからと言ってメロディが暗いわけではなくて、温かくてテンポ感のある曲なので、そこにマッチするような言葉選びを意識しています。曲調などの表面的な部分と根底にあるもののギャップや、ちぐはぐさが面白い曲になればいいなと。言うなれば“開き直り系”の楽曲です(笑)!

家では基本的には無音。好きな音は飼ってる鳥の声

――タイトルの「ハラ・ヒラ・フワリ」は桜が舞い散るようなイメージで。

渕上舞 ぱっと見の歌詞は恋愛の歌ですけど、春の終わりの桜の散り際といったイメージも表現しています。桜って咲いているときはみんなにもてはやされるけど、散ったあとは虫がついたりして毛嫌いされることが多くて。あんなにお花見をしたのに、散ると見向きもされなくなる。そういう、もの悲しさも同時に表現できたらいいなと思いました。

――歌詞には<泣きました>というフレーズもありますが、渕上さんは最近どんなことで泣きましたか?

渕上舞 2月に京セラドームで『アイドルマスターシンデレラガールズ』のライブがあって、1日目を終えてホテルに帰ったときに一人で泣きました。大変だったし、単純に体力的な部分で疲れたのもあったし、緊張とか張り詰めていたものから解放された安心感とか、いろんなものが合わさって涙がこぼれてしまったのだと思います。

――次の日は大丈夫だったんですか?

渕上舞 ひとしきり泣いたら、あとはケロっとしていましたよ。でも1日目が終わって帰るときは、自分のなかで反省点もあったし気持ちがぐちゃぐちゃになっていて、ちょっと機嫌悪そうな顔をしていたと思うんです。だから次の日みんなに「昨日の帰りはゴメンね」と謝りました。みんなは「何かあったっけ?」って、すごく優しかったです。

 やっぱり大きなライブでは、いろいろな感情が入り乱れるなって改めて思いました。2日目の最後の曲はグッとくるものがありましたし、安心感や達成感、もう終わっちゃうという寂しさもあって。普段ならあまり気にしないことがすごく悔しかったり、すごく悲しかったり。嬉しい気持ちと悔しい気持ちが同時にやってくるみたいなよく分からない感情もあって。でもステージに立つと大歓声とともにきれいな景色が見えて、その景色を見るだけで感情が高まるところがあって。本当にいろんな感情が入り乱れた2日間でした。

――ひとりじゃなくて、大勢で一緒に作るものだから余計にでしょうね。

渕上舞 そうそう。あの人はああやっていたけど、私はどうしようって考えることもあったし。みんなはちゃんとやれたのに私は間違えちゃったとか。でも終わって時間が経った今は、そのときの大変さはあまり覚えてなくて。楽しかったことと達成感だけが残っています。人間ってそういうものなんだろうなと思いますけど。

――今回の涙が、次のステージへの糧になるのかな。

渕上舞 そうだったら良いですね。ひとつ一つが良い思い出だし経験だし。観てくれたみなさんにとっても、良い思い出になってくれていたら嬉しいです。

――さて今年アーティストデビューして3年目ですが、アーティスト=渕上舞としてはどんな3年目にしたいですか?

渕上舞 マイペースに、のんびりとやって行けたら良いなと思っています。自分がやりたいことをコツコツと形にしていけたらと。やりたいことのひとつは…過去2回ソロライブをやらせていただいて、それはセットを組んで演出したり、衣装も華やかだったり、みんなで声を出してはじけるものだったんですね。そういうライブもすごく素敵ですが、いろんな楽曲をゆったりと聴いてもらえるような、安らぎの場になるようなライブもやりたいなって思います。

――アコースティックライブみたいな?

渕上舞 そういう感じです。明るく賑やかな曲もアコースティックアレンジして、違った表情で聴いてもらうとか。みんな座ったままで、ちょっとしたトークコーナーもあってという。生で私の歌を聴いてみたいけど、みんなで跳んで拳を上げて盛り上がってという場はあまり得意じゃないという方もいらっしゃると思うんです。そういう人たちにも、楽しんでいただける場を作れたら良いなって思います。

――普段は、明るく元気な音楽とゆったりしっとりとした音楽とどっちをよく聴きますか?

渕上舞 基本的には無音が好きで(笑)。家ではテレビも付けないんです。自然音が好きなので、家で音を流すとしたらヒーリングミュージックを流していることが多いです。川のせせらぎの音とか。それかピアノの曲や、ハワイアンミュージックなど、歌の入っていないもの。だからテレビ番組も、日本テレビで放送している『音のソノリティ ~世界でたった一つの音~』という番組が好きなんです。

――どういう番組ですか?

渕上舞 5分くらいのミニ番組なんですけど、動物の声とかお祭りの喧噪の音、何かを作るときの音にスポットを当てていて。そこに重なるナレーションもステキで、すごく好きですね。

――ASMRとかはどうですか? 咀嚼音とかあるじゃないですか。

渕上舞 咀嚼音はそうでもないですけど、YouTubeも見るので、水を注ぐ音とか好きですよ。「コポコポコポ」って。

――音フェチなのかもしれないですね。いちばん好きな音は?

渕上舞 考えたことがないから分からないですけど…うちは無音にしていても鳥を飼っているので、鳥が何かブツブツ言ってる声が聞こえるので、それはある意味で好きな声なので癒やされますね。たまに「ツカレター」とか言うんですよ、鳥が(笑)!

(おわり)

作品情報

渕上舞
「Crossing Road」
(TVアニメ『食戟のソーマ 豪ノ皿』EDテーマ)
4月29日発売
CD LACM-14996/1200円(税抜)

<収録曲>

1.Crossing Road
2.ハラ・ヒラ・フワリ
3.Crossing Road(Off Vocal)
4.ハラ・ヒラ・フワリ(Off Vocal)

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