七海ひろき「地に足を付けて成長していきたい」絆を深める『KINGDOM』
INTERVIEW

七海ひろき「地に足を付けて成長していきたい」絆を深める『KINGDOM』


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年04月17日

読了時間:約12分

 元宝塚歌劇団の星組男役スターの七海ひろきが4月15日、1stフルアルバム『KINGDOM』をリリース。2019年3月に宝塚歌劇団を退団し、同年8月にミニアルバム『GALAXY』でメジャーデビュー。現在は、アーティスト、俳優、声優、ラジオパーソナリティなど多彩な才能を見せている。今作『KINGDOM』は七海が全曲作詞しバラエティに富んだ全11曲を収録した。インタビューでは『KINGDOM』の制作背景から、ステージに立ちパフォーマンスすることについて、自分の使命感など多岐にわたり話を聞いた。【取材=村上順一/撮影=冨田味我】

みんなで七海ひろきを作って行こう

七海ひろき

――シンガーデビューして約半年が過ぎましたが、宝塚時代とどのような変化を今感じていますか。

 宝塚の時はお稽古があって舞台があってと、1年間のスケジュールが決まっています。その流れに慣れている自分がいました。それをシンガーとしてデビューして改めて、生活リズムに慣れている状態で舞台に立っていたんだなと気づきました。デビューしてから新しいこと、慣れないこともあって、それを感じながらも着実にやっていきたいなと思いました。

――新鮮なことの一つに滝行やバンジージャンプがありましたね。

 確かに在団中にはなかったことです(笑)。以前からやってみたかったことではありました。それを見ていただいて楽しんで頂ける世界軸は面白いなと思いました。

――滝行は実際にやってみていかがでした?

 デビューミニアルバム『GALAXY』の成功祈願としてやらせていただいたのですが、雑念を振り払う感じがあってやって良かったです。成功祈願と滝に打たれる感覚ぐらいしか考えられなくて(笑)。バンジージャンプもあの落ちていく感覚は普段では味わえない感覚で新鮮でした。

――スカイダイビングもやってみたいと話していたのを聞いていたので、次はスカイダイビング期待しています。さて、アルバム『KINGDOM』が完成しましたが、タイトルに込めた想いは?

 デビュー作が『GALAXY』で、宝塚時代に宙組、星組に所属していたということもあって、「次は、みんなで銀河に旅に出よう」ということでこのタイトルになりました。それで銀河に旅に出て、次はどうしようと考えた時に、次は応援してくれる素敵な皆さんと良い国を作りたい、もっと強い七海ひろきを目指して、地に足を付けて成長していきたい、という気持ちから強さを感じる『KINGDOM』にしたいと思いました。

――タイトル候補は色々あったのでしょうか。

『KINGDOM』通常盤(CDのみ)ジャケ写

 他には「SPLASH」や「SPARK」等もありましたね。自分で切り開いて行くような強い言葉が多かったです。最終的に「みんなで七海ひろきを作って行こう」というテーマで『KINGDOM』になりました。

 アルバムジャケットにも設定があって、初回盤と通常盤のジャケットは違う雰囲気のデザインにしました。王族の血を引く双子の王子という設定なんです。初回盤はみんなの人気者でヤンチャな弟、通常盤は頭脳明晰で優しい病弱な兄というものです。それを踏まえて作詞した曲もあります。

――もしかしたらマンガの『キングダム』から連想した部分もあったのではと思ったのですが…。

 『キングダム』は大好きな作品なので、自分のイメージする『KINGDOM(王国)』に通ずるものがあると思います。このKINGDOMというのはまだまだ発展途上で、人との繋がりというのはすごく大事だなと感じていて。宝塚時代にも繋がりはもちろんありましたが、アーティストとして新たに踏み出して、無印の七海ひろきになって、新しい出会いから生まれたものがたくさんあります。スタッフやファンの方も含めた“チーム七海”で七海ひろきを作っていけているのが大きな違いだなと思います。出会いがすごく大切なんです。

皆さんの力を借りて、進んでいけたら

七海ひろき

――さて、オープニングを飾る「花に嵐」は『ロミオとジュリエット』をテーマに書かれたとのことで、七海さんはロミオとジュリエットはどのような作品と捉えていますか。

 自分はこの作品を演じたことはないのですが、宝塚では何度も再演されていて、最高の純愛作品だと思います。一途な愛でお互いが100%同じ想いで恋愛が出来るかというのは難しく、それが出来るだけでも人生は幸せだと私は思っていて、お互いが同じベクトルで向き合えている作品だと感じています。ロミオとジュリエットは結果的に上手くは行かなかったけど、私は幸せだったんじゃないかなと。「花に嵐」はシェイクスピアの『ロミオとジュリエット』というよりは現代版というイメージで作りました。

――なぜ『ロミオとジュリエット』をテーマにしようと?

 曲を聴いた時にドラマチックな展開で、『ロミオとジュリエット』のような禁断の恋物語というイメージが浮かびました。ロミオはジュリエットと出会うまでは一人を愛する感じではなかったけど、ジュリエットと出会ったことで変わっていくので、そういう部分をイメージ出来る作品としても良いなと思いました。

――ロミオは七海さん、ジュリエットはファンの方たちという図式も?

『KINGDOM』初回限定盤(CD+DVD)ジャケ写

 もちろんそのイメージでも良いですし、先程お話しした2人の王子でも良くて、聴いてくれた方たちが自由に想像してもらえたらと思います。色んな設定で聴くことで自分の気持ちが変わる歌になっていると思います。

――歌詞はどのようなシチュエーションで、どの部分から書くことが多いですか。

 曲によって変わるんですけど、今作は全曲自宅で「歌詞を書くぞ!」と書きました。時間帯は夜が多いです。「愛し君へ」以外は私がテーマを決めて曲を書いてもらっていて、頂いた曲を聴きながら、メロディが何文字かを数字で書き出していきます。その中で起承転結も考えて、ここでこんな事を言いたいなど、小説のプロットみたいなものをまずは作っていくんです。ここからは曲によって変わるんですけど「花に嵐」はサビから作って行きました。

――「花に嵐」でお気に入りのフレーズはありますか。

 難しいですね...。全てを物語っているのは<花に嵐 月に叢雲>なんですけど、1番を先に考えるんですけど、2番を考えている時に連動できる歌詞にしたいなと思いました。その中で<黄昏時>と<宵闇時>という言葉が出てきて、これが出てきた時に「キタ!」と思いました。対になる言葉を考えていて、類義語辞典などを買ってきて、色々知らべましたから。他にも<恋模様>や<愛模様>もそうです。

――良い言葉が出てくると乗ってきますよね。ペンが走るといいますか。

 そうなんです。乗ってこないとたった2行を書くだけでも、4〜5時間掛かっても全然出来なかったり…。産みの苦しさもありますけど、良い言葉が出てきた時の楽しさがあります。

――この「花に嵐」はMVも作られていますが、撮影はいかがでした?

 東京キネマ倶楽部とコレド室町で行われていたFLOWERS BY NAKEDで撮映させていただきました。レトロな時代を感じさせる場所で、最新の技術、プロジェクションマッピングやドローンやレーザーなどを使用して撮りました。良い意味でのアンバランスさがすごく良い感じになっていると思います。スタッフの皆さんが細心の注意を払って撮影をしていたのが印象的でした。

――細心の注意とは?

 カメラにレーザーが当たると、カメラが壊れてしまうみたいで。なので当たらないように繊細に撮影していて、そのなんとも言えない緊張感がありました。その緊張感が自分の中で力を与えてくれた部分もありましたし、バンドの皆さんが盛り上げてくれた撮影だったなと感じています。FLOWERS BY NAKEDは、時間がタイトだったので、常に一発撮りのような集中力が必要でした。スタッフさんも私もその集中力が持続できていたので、それがシナジーを生んで良い作品が出来たと思います。

――見所は?

 どのシーンも印象的ではあるんですけど、FLOWERS BY NAKEDの万華鏡の演出はすごく幻想的でキレイで、その部屋にずっといても飽きない美しさがあって、おすすめのシーンです。

欲しいものは自分が生きたいように生きていける世界

七海ひろき

――「ラビリンス」は歌詞が他の曲とは違った葛藤を感じるものになっていますが、どのような心境の時に書かれたのでしょうか。

 イメージとしては2人の王子の話なんです。弟が辛いことがあった時に、こういう歌を歌うんじゃないかなと想像して書きました。人間というのはすごく落ち込んだ時に、どんなに「がんばろうぜ!」とか元気な曲を聴いても、気分の上がれない瞬間があると思うんです。逆にそういう時にこの曲を聴いて、同じようなことを考えている人がいること、無理に立ち上がれというのではなく、心に寄り添える曲になったらいいなと思いました。

――他にも2人の王子をイメージして書かれた曲は?

 「KINGDOM」もそうです。でも、最初からそのイメージで描いたわけではないのですが。「君の未来日記」は宝塚の後輩や、新生活を始める方への応援ソングをイメージしていますが、兄が弟に向けて歌っているような曲にもなっているなと思いました。

――色々捉え方はあって。「ラビリンス」の歌詞に<何の為に生きてるか分からなくなって>という言葉がありますが、七海さんもそういったことは考えたりしますか。

 考えたりするときもあります。答えは最後まで出ないのですが。「私はこれをやるために生まれてきたのかな」と思っても、その時々によって変わると思います。その瞬間はそう感じても、次の何かがやってきて、「何のために私は生まれてきたんだろう」とまた悩むと思うんです。人間というのはそういう生き物だと私は思っていて。

――変わっていく中で使命感を持った時期はありましたか。

 ファンの方たちが、お手紙をくださるのですが、色んな悩みを抱えているけど、私の舞台や歌を体験して、物事を決断したとか、気持ちが晴れたと言ってくれる方がいました。「私がその方の人生に少しでも寄り添えたんだな」と思った時に、人の力になるために私は生きているのかな、と思えた瞬間がありました。私自身としては、葛藤しながら、そして皆さんの力を借りて、進んでいけたらと思っています。

――葛藤している時が一番生きていると実感できている感覚もありますよね。さて、今作で歌うに当たって、チャレンジはありましたか。

 「Special summer」は、今までこういったノリの曲がなかったので、チャレンジの1曲でした。曲が引っ張っていってくれる感じで、今まで歌ったことがあまりない曲だった為、最初はこの明るさやノリを出すのが難しかったです。レコーディングしながらテンションが上がっていったので、最初に歌ったところを最後にまた録り直したのを覚えています。けっこうテンションの差ができてしまって(笑)。

――ライブでタオルを回している光景が浮かびます。さて「QQ(※読み キューキュー)」なのですが、これは?

 この曲は私がアザラシ好き、というところから付けたタイトルで、アザラシの鳴き声が“キューキュー”なので、そこからつけました(笑)。昔からアザラシが好きで、大人のアザラシももちろんなんですけど、一番は小さい時の白くてもふもふして、まるまるしているアザラシが好きなんです。もともとは『少年アシベ』に登場するゴマちゃんから好きになって。当時の私はゴマちゃんはリアルに飼えるものだと思っていたんですけど、本物を見てこれは飼うのは無理だとわかって(笑)。

――誰もが一度は思います(笑)。

七海ひろき

 そこからずっと好きだったので、アーティストの方はけっこう好きなものを曲にしているじゃないですか? なので私も書いてみようと思いました。あと11曲の中で勢いのある曲が多かったというのもあって、癒される曲を1曲入れたら良いスパイスになるのではないかなと思いました。

――歌詞にある<白くてふわふわ>はアザラシのことだったんですね。

 そうなんです。でも、アザラシという言葉はあえて登場させていなくて、わかる人にはわかってもらえる曲になったと思います。

――謎が解けました(笑)。そういえば時計もお好きとのことなんですが、時計に興味を持ったきっかけはなんだったのでしょうか?

 最近はあまり買ってないのですが、宝塚時代に役に合わせて時計を考えて選んでいたのがきっかけです。そこから色々買い始めました。

――役からだったんですね。さて、「愛し君へ」は先ほどちょっと毛色が違うというお話がありましたが、コンセプトが違う感じでしょうか。

 この曲は詞を先に作った曲です。メロディも自分で考えてアレンジしていただいた曲です。この曲は前作『GALAXY』に収録されている「片思いの君へ」という曲を作った時に、それが“僕”のラブソングだったので、“俺”のラブソングという強い曲を作りたいと思いました。

――だから<お前>という言葉が印象的に出てくるんですね。

 そうなんです。一人が片思いをしていて、もう一人は両思いの子がいるという設定です。同じ時間軸のなかでこの2曲がリンクしたら、また想像が膨らむのではないかなと思いました。

――最後は「KINGDOM」でアルバムは締めくくられるわけですが、曲順も悩まれましたか。

 チームのみんなで曲順は考えました。「花に嵐」から物語が始まって「QQ」でほっこりとしていただいて、「Special summer」で夏が来て、ここから強い感じの曲が続いて、ラブソングの「愛し君へ」から最後に「KINGDOM」が来ると、色んなストーリーがあるけど、しっかりと私が伝えたいことに着地させてくれるイメージで並べました。

――アルバムならではの流れが出来てますよね。さて、ライブや舞台で好きな瞬間はありますか。

七海ひろき

 舞台で公演中に1〜2回ゾーンと呼ばれるものに入ることがあるんです。それは自分も含め、演者さんもお客様も集中している時、全員の意識が一致してすごい世界軸に入り込む瞬間があって、全てのものがよく見えるんです。お客さんの表情や、演者の動きなど集中しているんですけど、周りもよく見えていて。でも、自分は「すごい集中している」とは思ってはいなくて、すごく自然体なんです。集中しているとわかった瞬間にゾーンから外れてしまうんです。その時の高揚感は本当に気持ちよくて、ライブでもそういった感覚になる時があって、好きな瞬間です。同じことをやっていても、毎回お客様の反応は変わっていて、それはすごく空気でわかります。

――最後に「Never too late」の歌詞にある<覚悟を決め 欲しいものは欲しいと 言葉にして>という言葉がありますが、いま七海さんが欲しいものは?

 物は今はないんですよね…。あるとすればみんなが楽しく過ごせる世界かな。「生まれてきて幸せだったな、生きてきて良かったな」と思ってもらえたら嬉しいです。みんなが楽しく笑って生きたいように生きていける世界があったら、私は幸せです。

(おわり)

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