藤川千愛「誰かを音楽で救いたい」シンガーソングライターとしての信念
INTERVIEW

藤川千愛「誰かを音楽で救いたい」シンガーソングライターとしての信念


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年04月07日

読了時間:約9分

 シンガーソングライターの藤川千愛が8日、2ndアルバム『愛はヘッドフォンから』をリリース。今作は前作アルバム『ライカ』以来約11カ月ぶりとなるフルアルバム。初回限定盤のDVDには昨年11月16日に新木場STUDIO COASTでおこなわれたソロデビュー1周年記念ライブの模様も収められている。ソロデビューから1年を経た現在の心境について話しを聞くと、あらゆる種類の、音楽に対する追求心が深くみられた。藤川の現在の心境や音楽のバックボーンと本作について語ってもらった。【取材=平吉賢治】

音楽に身を委ねることで救われてきた

『愛はヘッドフォンから』通常盤ジャケ写

――昨年11月のソロデビュー1周年記念ライブの感触はいかがでしたか。

 もう興奮し過ぎてて覚えてないんです(笑)。1周年って節目だとはあまり思ってなく、その数字はあまり気にしていなくて。今はもっともっといい音楽、歌を届けたいと、ただそれだけなんです。10年目とかだったらもっとあると思うんですけど。

――お客さんの様子はどんな感じでしたか。

 アットホームな感じで、一体感も増してきたと思いました。普段より女性のお客さんが多かったんです。

――『愛はヘッドフォンから』をアルバムタイトルにしたのはどういった経緯でしょう。

 『愛はヘッドフォンから』というタイトルは本作13曲目の曲名でもあるんですけど、人それぞれ救われる存在というのがあると思うんです。それがスポーツだったり美味しいものだったり…私は生きてきて、つらい時も立ち直れない時も音楽を聴くことと歌うこと、音楽に身を委ねることで救われてきたという想いが強いんです。「愛はヘッドフォンから」という曲は、私なりの音楽への感謝の気持ちを歌っているので、音楽への感謝を伝えたかったのでアルバムタイトルにしました。

――ちなみに最近はどんな音楽を聴きますか。

 ビリー・アイリッシュやRADWIMPSさんとかです。今は家にいることが多いので、その時間は自分で勉強することを探さなきゃなって思っていてライブDVDを観て勉強しています。最近観たのがRADWIMPSさんのライブDVDです。パフォーマンス面や盛り上げとか凄く勉強になります。曲間の繋ぎかたも「こういうやりかたもあるのか」という感じで勉強になります。ビリー・アイリッシュの映像を観ていても、お客さんが凄い歌うなって驚くんです。

――勉強という視点でもほかのアーティストを観ているのですね。さて、『ライカ』から約1年という間が空いていますが制作にあたってコンセプトはあったのでしょうか。

 繰り返し聴かれるアルバムになってほしいなって思っているんです。最近はスマートフォンで手軽に音楽が聴けるようになって、目当ての曲を聴くまでのワクワク感を感じることが少なくなってるんじゃないかなと思っていて。聴き流される音楽もたくさんあると思うので、だからこそ繰り返し聴かれて世代を超えて聴かれるようなアルバムになってほしいなと願っています。

――今作は色んなテイストの楽曲が収録されているので世代を超えて楽しめると思います。1曲目「東京」は、最初どんな印象の楽曲と感じましたか。

 「このアルバムの中で1曲だけ選んで」と言われたらこの「東京」というくらい、自分のなかでしっくりくるし凄く好きな曲です。でも、悩んだ曲でもあって。R&Bをやりたいという気持ちが凄く強くて、グルーヴ感をどうしたらいいんだろうと。聴いている人も自分も気持ち良いグルーヴ感を生み出したいなと思っています。レコーディングには2日間かかったんです。

――曲に歌詞を乗せる、という制作の流れ?

 歌詞からです。

――歌詞はどのようにして生まれるのでしょうか。

 私は感情の起伏が凄く激しくて…怒りとか悲しいとか悔しいとか、そういう気持ちを歌詞にすることが多いです。そういう時に感じたことをメモして、そこから物語を作ったりとかします。

――歌詞面でのポイントはありますか。

 これは何をやっても上手くいかなくて前に進めないもどかしさを歌っているんです。本音を隠して生きることは虚しいなっていう。学生の頃に、進路相談で「歌手になりたい」ということを先生に言ったら「なれないよ。諦めろ」と言われたんです。

――ちょっと極端な先生ですね…。

 その時に悲しいなと思って。でも今考えたら、学校の先生に「歌手になりたい」って相談しても、歌手になる成功の道を想像すらできないかもしれないし、アドバイスもできないと思うんです。だから、例えばプロ野球選手になりたかったら野球選手に聞けばいいし、俳優になりたかったらその道の人に相談するほうがいいなと。親や先生の価値観に押し付けられて言いなりになって自分の本音を隠して進んだ道で「自分、なにやってるんだろう」と悩む時がくると思うので、そういう時の歌です。

――ある種の葛藤について歌った曲でもあるのですね。

 ちょうど進学した妹がいるんですけど、妹も本当はやりたいことがあるけど親が喜ぶような道を選んでるんだろうなって姉としてわかるんです。「妹がんばれ!」という曲でもあります(笑)。

音楽って自由なんだということを感じたい

――4曲目「私にもそんな兄貴が」は、歌詞が入りやすいし気持ちが伝わってきます。音楽に魅せられた兄貴が色々音楽を教えてくれたら…というような内容でもありますが、ビートルズやニルヴァーナなど色んなアーティスト名が出てきますね。藤川さんが通ってきたアーティストでもある?

 いえ、私は長女でお兄ちゃんもいないしお父さんもあまり音楽を聴かないんです。ほかのアーティストさんのインタビュー記事とかを読むと「ビートルズの影響です」とか「兄貴の影響で洋楽を」とかが多くて。私はそうではなかったので、そういう環境に憧れがあるんです。もし自分にそういう人がいたら、今の自分はどんな歌を歌っていたんだろうという気持ちから作った曲です。

――6曲目「悔しさは種」はTVアニメ『デジモンアドベンチャー:』EDテーマですね。疾走感があってストレートな曲調ですね。

 ほかの曲と比べてもストレートですね。これは子供達の夏休みの秘密の冒険が歌詞の土台になっています。「冒険を通しての成長」というのがテーマになっています。私にしては珍しく前向きな曲ですね。

――12曲目の「田中が彼氏だったなら」は昨年12月におこなわれたライブタイトルにもなっていましたね。ところで田中さんって誰なんでしょうか。

 実は深い意味はなくて(笑)。「田中」は発音するとき母音が全部「あ」だと歌いやすくて。あとは日本で多い苗字が「田中」で全国に田中さんがいっぱいいるので、その田中さんたちが全員この歌を聴いて良い思いをしてくれたらなって(笑)。

――なるほど(笑)。ボーナストラックにASIAN KUNG-FU GENERATIONのカバー「遥か彼方」がありますね。この経緯は?

 『ソラニン』(2010年公開)という映画が凄く好きで、そこからASIAN KUNG-FU GENERATIONさんの「ソラニン」も凄く好きになってほかの曲も聴いて「遥か彼方」を聴いた時にめちゃめちゃ格好良いなと思って、ライブでやったら盛り上がりそうだなと思ってカバーさせて頂きました。

――レコーディングでこだわった点はありますか。

 さっきもお話しした「東京」ではグルーヴ感という正解のないものに対して、もっとみんなが乗れるようなグルーヴ感を生み出したいとけっこう悩みました。ボイストレーナーの方とケンカしたりもして(笑)。

――わりと揉めた?

 揉めた曲でしたね(笑)。途中で自分の中の完璧な答えがない中でまわりから褒められると、まだ自分はもっといけると思っていたりするので「なんでこれでOKなんですか!」という感じで。だからもっとできるって思っているのに「それでいいんじゃない?」って言われると揉めたりします(笑)。グルーヴって難しいです。制作はだいたい1年くらいあったんです。だから後半には自分の歌の新しい引き出しができてきて、1年くらい前にレコーディングした曲を聴いた時に「録り直したい」となるんです。

――なるほど。今ならもっといけるという感触があると。

 それが1カ月前のテイクでもやっぱり録り直したいという気持ちになったりして。それでも揉めたりします(笑)。

――藤川さんの意識の高さの表れだと思います。さて、ソロデビューから1年過ぎていますが、ここまで変化していると思う点はありますか。

 もっと良くしたいということは常に考えています。「変わった」とよく言われるんですけど、自分ではよくわからないんです。

――昨年の夏にライブを拝見したのですが、その頃とは違う?

 絶対その時より良いライブができると思っています。

――ライブでレスポールギターを演奏されていたのが印象的でしたが、ギター演奏面での現在の調子はいかがでしょうか。

 ギターを始めて1年半くらいなんですけど、弾ける曲がだいぶ増えました。今は『愛はヘッドフォンから』の収録曲もバンドメンバーと一緒に弾いています。どうしても歌いながら弾いていると何かがおろそかになってしまう気がして、まだまだ目指す場所までの道のりは長いですね。もっともっともっと体に染み込ませなきゃいけないなって思います。

――ギターのほかに、新たにチャレンジしていることや構想していることはありますか。

 海外に行ってグルーヴ感をもっと勉強したいって思っています。

――グルーヴの追求は深そうですよね。

 リズムのとりかたが違うと聞きました。それを肌で感じたいんです。今は譜面通りとかで音楽をやっているんですけど、自由度という点ではもっと色んなことができるじゃないですか? 無限大にあると思うので、もっと誰とでもセッションできるような「音楽って自由なんだ」ということを感じたいです。それを感じられることでもっと色んなものが生まれるんじゃないかなって思うんです。今までは「音楽は自由なもの」というよりは「譜面通り歌わなきゃ」とか「綺麗に歌いたい」という思いが強かったんですけど、最近はアドリブもできるようになりたいなって思っています。

――「譜面通り歌う」「綺麗に歌いたい」という部分に対して不自由を感じることもあるのでしょうか。

『愛はヘッドフォンから』初回限定盤ジャケ写

 自分が聴いてこなかったジャンルの音楽がたくさんあるので、自分の引き出しがまだ少ないなと思っているんです。もっともっと引き出しを増やしたいなという思いから、今作ではR&Bやジャズに挑戦したんです。

――現在、藤川さんは引き出しを増やすという時期でもある?

 そうです。この1年とかは特にそう思って色んなアーティストの音楽を聴いています。

――藤川さんがシンガーソングライターとして強く抱いていることなどはあるのでしょうか?

 私がたくさん音楽で救われたように、私も誰かを音楽で救いたいと思ってやっています。

――具体的にどんな音楽に救われた?

 いっぱいあって難しいな…ぱっと思いついたのは、お母さんと車でよく聴いていたんですけど、尾崎豊さんです。尾崎豊さんの息子さんの尾崎裕哉さんと共演させて頂いた時に、普段言わないんですけど「写真撮りたい」と言って、母親に自慢しました。尾崎豊さんの感情的な歌いかたが凄くいいなって思います。

――最後に、読者にメッセージをお願いします。

 デビューして1年半くらいでアルバム2作目を出すことができるのはファンのみなさまのおかげです。いつもありがとうございます。これからも良い音楽を届けていけるように頑張るのでよろしくお願いします。

(おわり)

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