吉田山田「この2人であることを諦めない」きちんと向き合うことで紡ぐ音楽
INTERVIEW

吉田山田「この2人であることを諦めない」きちんと向き合うことで紡ぐ音楽


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:20年04月11日

読了時間:約12分

 吉田山田が4月8日、自身初となるベストアルバム『吉田山田大百科』をリリース。これまで2009年10月の「ガムシャランナー」でのメジャーデビューから13枚のシングルと7枚のオリジナルアルバムを発表してきた。その中から厳選された楽曲がセレクトされ、さらに現在の吉田山田の最新曲「いくつになっても」も含まれる本作は正に“大百科”と銘打つにふさわしい内容。「胸を張って人生で一番良いライブ」と語る昨年の東京・中野サンプラザホールでの『大感謝祭』の感触についてや本作について話を聞くとともに、ときには衝突もありながら真摯に音楽と向き合ってきた2人の信条について語ってもらった。【取材・撮影=平吉賢治】

胸を張って出せる10周年ベストアルバム

――自身初ベスト盤リリースとなった心境はいかがでしょう。

吉田結威 この10年振り返らず前だけ向いてやってきたので、10年という実感がないんです。昨年の『大感謝祭』までの2、3年というところで「10周年までに納得のいく吉田山田というアーティストでありたい」という目標を立てたのが初めてだったんです。『大感謝祭』は胸を張って人生で一番良いライブでした。そういうことってあまりないんです。気負えば気負うほど肩に力が入っちゃったり浮き足立ったりと。なにか「もうちょっとあそこはああしていれば…」というのが残るはずなんですけど、それがなくて「本当に幸せ」と思いました。

吉田結威

――『大感謝祭』を拝見して、確かにそういった空気感が感じられました。

吉田結威 しかも去年は47都道府県ツアーをまわって、今までリリースしたアルバムを全部ライブでやって、振り返る1年の締めくくりが『大感謝祭』で。ここまでしっかりと締めくくったのは初めてでした。そこからこのベストアルバムの細かい部分に入っていったので、初めて振り返って「ちゃんと10年やってこれたんだな」と感慨深くなりました。あの『大感謝祭』から今年の始めくらいまではそんな時間でした。

――手応え十分だったのですね。

吉田結威 そうですね。5年目にシングルコレクションを出した時は「ベストアルバムでもいいんじゃないか」という案もあったんですけど、当時はまだちょっと心が引けたというか、胸を張って言えなかったんです。10年やって初めて「ベストアルバム」とちゃんと言えると思ったんです。気持ちが全然違うんです。

山田義孝 デビューしてからずっと、何かひとつクリアしても「次はこれ」ってまた新しい扉がどんどん出てくる状態でした。この間のライブもそうだし、『証命』を出し終えた時にひとつゴールテープを切ったような気がして「第1章がこれで終わったんだな」という実感で完結できたんです。その気持ちがあるから胸を張ってベスト盤を出せる心境です。常にどこかで「まだまだ」と思い続けてきたんですけど、いったん自分達を「10年頑張ってきたね」と、ねぎらい合えるのも全部出し切れたからだと思います。

――お2人の気持ちが合致した作品なのですね。今作は3形態で、アニバーサリー盤はCD7枚組、Blu-ray3枚組、フォトブックと豪華内容ですね。

吉田結威 これはベスト盤に選べなかった曲も入っているんです。僕らは全部聴いてほしいというのが素直なところなので、ベスト盤で14、15曲に絞るってつらい作業でもあって。どうしようかという時に、10年に一度のことだしアニバーサリー盤という今までで一番豪華なものも作って、去年の47都道府県ツアーの6アルバムを6ブロックに分けておこなったライブ音源を入れることにより、ライブ音源で全てのアルバムの曲が聴けるという内容なんです。

――全てを収録するという点は、どちらが先に話に出たのでしょう?

吉田結威 47都道府県ツアーで6ブロックに分けて、僕らが10年を振り返るという意味で全アルバムを網羅しようというのが先にあって。それだけやるんだったら「凄く大変だから録音しよう」と。それは財産になるということで録っていたんですけど、ツアーの途中でベストアルバムの話が出て「じゃあ、それ入れられるね」ということでこの運びになりました。

――正に“大百科”ですね。

山田義孝 なんかワクワクするフレーズですよね(笑)。

――Blu-ray Disc3の、“吉田山田による副音声付”というのも気になるのですが。

山田義孝 これまで発表したMVを観ながら僕らがああでもないこうでもないと、二人でお喋りしてるというものなんです。

吉田結威 僕は一番推したいポイントです。

山田義孝 メチャクチャいい感じなんです。初めての試みだったけど楽しくて。最初2時間ちょっとだと聞いて「そんなの無理だ」と思っていたけど、気がついたら「これ、いつまでもいけるな」と思って凄く楽しんで出来ました。

山田義孝

――ジャケットはどのようなモチーフでしょうか。

吉田結威 こだわったのは、CGとかを使えばいくらでも楽にできる作業だけど「現物にこだわる」という点です。ボーナストラック盤の石膏像も実物があるんです。石膏像は思ってるよりでかくて(笑)。50種類くらいある石膏像の中から吉田山田っぽいものを選んだというこだわりもあります。

――歌詞が書かれたパネルも現物というのもいいですね。

吉田結威 これは今までの僕らの曲の歌詞が書いてあるパネルが実物としてあるんです。

自分達が作り上げてきたものを壊して

――10年間の活動の中で様々な出会いと別れがあったと思われますが、印象的だったのは?

吉田結威 特別というのを選ぶのは凄く難しいんですけど…今作は時系列の曲順で、9、10曲目くらいまで一番密にディレクションしてくれていた制作の方がいるんです。彼は僕達の一つ年下で、メンバーの一人くらいの気持ちで取り組んでくれていました。彼は会社の人事で異動になったんですけど、僕らからしたらメンバーが一人抜けたようなもので、それくらい頼りにしていました。そこで「どうしよう」と思ったんですけど、逆にそれがあったから「吉田山田は、吉田と山田がしっかりしないとダメなんだ」ということに気付いたんです。

吉田結威

 3人いると何か意見があっても2対1になるから、わりと多数決でスピーディーに決めていけるんです。でも、それって本当はあまり良くなくて。吉田山田として1対1で、本当に納得いくところまで自分達の表現を話し合うことがいかに大事かと、彼を失ったことで気付けました。それが三部作に繋がるんです。誰かが作ってほしそうな曲を作るのではなく、自分達が歌いたい歌を歌うと、そうじゃないと後悔するということに気付けたことは、この10年の間での凄く大きな出会いであり別れがあったからだったと思います。

――凄く重要な方だったのですね。他にもそういった方は?

山田義孝 僕は遠藤賢司さん、レジェントと呼ばれるフォークシンガーの方です。初めてお会いした瞬間に挨拶をする間もなく「お前、自分のために歌えよ」と言われたんです。話す前からそう言われて、その瞬間に自分のモヤモヤしていた感情や曲作りのことが凄くスッキリしたんです。欲しかった答えがその言葉だったというか。生き方は表情にも出るし、そういうものから出たのか、遠藤さんがその一言で表してくれたんだと思うんです。自分自身の表現したいことをちゃんと出していこうと、その時期にフィットしたんです。野外イベントでご一緒させて頂いた4年前くらいのことで、遠藤さんとの出会いは凄く大きかったです。

――大切な出会いもあった10年間の中で、葛藤があった時期もあったのでしょうか。

吉田結威 いま、世の中が揺さぶられている中で凄く気付いたのが「それでも自分がブレないな」って思ったことなんです。「約束のマーチ」を作っている時に東北の震災があって、その時に初めて「音楽をやっている場合じゃないんじゃないか?」とか自分の生きかたを疑ったというか。その頃、その新曲のリリースが決まって制作に入っていたのに、歌詞を書いてはすぐにそれが陳腐に思えて…こんな言葉でお腹もふくれないし人の不安を拭うこともできないしと。音楽ってあんまり必要ないんじゃないかと思ったくらいでした。

――相当悩んだ時期だったのですね…。

吉田結威 「やめるか、やるか」というほど悩んだし…メジャーデビューしてから2、3年の、全然自分が固まっていない頃にそれが起きたんです。こういう困窮した場面で自分に何ができるのかということに対して、本当に悩みました。でも、「約束のマーチ」という自分達なりのひとつの答えを出せたことで強くなったなと。音楽は命に直接は関わらないかもしれないけど、目に見えない部分で人の心を救うことは絶対にあるから、僕達がやっていることは意味があるって、ちゃんとそこはブレずにいられた自分に、その当時から比べると成長を感じます。

――「約束のマーチ」は葛藤の中で生まれた楽曲でもあったのですね。

吉田結威 シンプルな感謝の気持ち、人を想う気持ち、それを歌うだけでちゃんと意味があると実感できたことは僕らの10年間の中で凄く大きなことだったと思います。

――山田さんも気持ち的に揺らいだ時期はあった?

山田義孝 僕はその揺らいでいるものをずっと歌にしている感じがあります。頭で「こういう想いを形にしたい」ということよりも、無意識に出てきたものを大事にして曲を作っているので、ずっと自分がわからないまま曲を作っていて。完成して「このメロディいいな」とか、自分では今のところどういう意味かわからないけど使いたいとか、そういうものを繋ぎ合わせて自分というものをだんだん知っていったんです。

山田義孝

 そういう曲の作りかたをしているので、常に自分に振り回されながら曲を作ってきたなと思うんです。でも「もやし」という曲は、ちゃんと自分の人生観や死生観をようやく形にできました。それまでは人生について歌ってもどこか地に足がついていないというか。徐々に地に足がつくようになってきたと思います。

――「もやし」は歌詞が深いと感じます。

山田義孝 これは眉間にしわを寄せて歌うのも少しおこがましく聴こえるし、これを歌えるようになったというのは、気づけば段階を踏んできたなと思うんです。このアルバムには恋、友情、愛、家族についてと色んなものがあるけど、自分自身を掘り下げられるようになった後半の3年間くらいで、ようやく人生について歌が歌えるようになったんです。自分の中では振り回されていると思っているけど、振り返るとちょっとずつ成長していると感じます。

――改めて、ベストなタイミングでの本作リリースなのですね。今作では新曲が2曲ありますが「いくつになっても」はどんな想いで制作したのでしょうか。

吉田結威 これはあまり考えずにスッと出てきた曲でして。発表した曲だけで10年で100曲近く、発表していない曲も含めるともっと多い曲数を作っているんです。「いくつになっても」は去年作った楽曲で、言いかたを恐れずに言うなら少し息抜きの気分で作ったというか。去年は『証命』の制作の中で自分を見つめる作業、特にふたをしがちな部分に焦点を当てて曲を作っていたところもあるんです。そんな中で、山田が最初に作ってきてくれた「いくつになっても」の鼻歌を聴いた時に、久々に楽しく作りたいなと思って僕がギターをつけて、仲の良いアレンジャーさんの家で「こんなアレンジ感でいきたいよね」と、そういう作業が久しぶりだったんです。

 お互い一緒に「こっちのほうが良くない?」みたいな感じで楽しく作れた1曲なんです。「良い曲が出来たな」と、とっておいたんですけど、ベスト盤に新曲も入れたいと選曲する中で「なんかこの曲いいな」と思って入れました。今改めてこれを聴くと、デラックス盤だと「いくつになっても」はアルバムの最後に鳴り響いてメチャクチャいいんですよ! 10周年を迎えた36歳、元同級生の2人が「いくつになっても」を歌っているのって凄く良いなと。この選曲で間違いなかったと改めて思います。今の僕らのリアルな歌として収録できたのは本当に良かったと思っています。

――ボーナストラック盤だと「微熱」が最後の曲ですね。この新曲はどういった心境で制作したのでしょうか。

吉田結威 ここ数年で一番実験的に作った曲です。前作『証命』までは、自分が歌いたいことに着目して曲作りをしていたので、あえて幅広くなく2、3人のアレンジャーさんの中で曲を作るというテーマもありました。音像というよりも歌詞の世界、僕らが紡ぐメロディの世界で表現したかったんです。

 『証命』のあと、47都道府県ライブにも来てくれたあるプロデューサーさんに、「吉田山田にこういう曲を歌ってほしいというイメージが今日湧いたんだよね」と言われてコード譜を頂いたんです。それは僕だったらあまり作らないようなマイナー調だったんです。久々にプロデュースしてもらうって面白いなと感じました。学ぶ姿勢での物作り、師匠ができたみたいな感覚で。今までと違って「この歌いかた、節回しでいいのかな?」と思いながらも、プロデューサーさんが「それがいいんだよ」と言うのを信じて作業を進めたんです。それで出来上がったのを聴いて「なるほどな」と、新たな自分達に気付きました。

――最新の楽曲でそういったことがあるというのはいいですね。

吉田結威 それって少し怖い部分もあるんです。せっかく10年積み重ねてきたものを壊されるという部分もあるけど、多分ずっとその繰り返しなんですよね。自分達が作り上げてきたものを壊して、また新たな観点でものを作っていくという。それは10年やってきた経験の中で頭ではわかっていたので、あまり恐れずと。

――確かに、新たな世界観が伝わってきました。ところで今作には『証命』の楽曲が収録されていませんね?

吉田結威 そこまでの意図はないんです。11年目の吉田山田の初のベストアルバムで、どの曲が入っていないと嫌かという意見をスタッフさんに聞いて、プラスアルファで今だからこそ聴いてほしい僕らのルーツとなる曲は入れたいというわがままな数曲と、それでこの選曲になったんです。『証命』は最近のアルバムだからベストに入れなくていいという考えもなく、今この気持ちだったということなんでしょうか…一番聴いてほしいのは新曲で、いつだって新しいアルバムなんです。だけどベストアルバムって一回振り返って、第三者的な目線でピックアップするという凄く難しい作業した。

吉田山田であることを諦めないでここまで来た

――長く活動するにはそれなりの覚悟や想いが必要だと思うのですが、お2人が活動する中で最も大切にしている信条はありますか?

山田義孝 「吉田と山田が作る」というところです。お互い作詞作曲もするけど「ちゃんと吉田山田」という。お互いに違う方向を向いていたりする時期もあったりするけど、それでもお互いが納得して進んでこれたんです。衝突やすれ違いもあるけどこの2人で続けて行くこと、吉田山田であり続けること、そんな2人が紡ぐ音楽、そこが核だと思います。

――衝突することもあるのですか。

山田義孝 ありますけど、“ちゃんと”という感じです。でも、吉田山田であることを諦めないでここまで来たというのが核なので、これから先もこの2人であることを諦めないということです。

――素敵な信条だと思います。さて、全国5カ所を巡るツアー『吉田山田ホールツアー 2020「大百科ツアー」』を控えていますね。

吉田結威 やっぱり生で音楽を聴いてもらうのは、そこにしかないものがあるのでライブをやりたいというのが素直な気持ちです。

――最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

吉田結威 時に頼りなく、時に迷いがちな2人ですが、色んな人の力のおかげで10年やってこれたその歩みが詰まったベストアルバムになりました。お気に入りの曲、今はあまり響かない曲、色々あると思うんですけど、いつかどこかでちゃんと響く曲が入っているので、これを聴いた人の人生の糧になってもらえたら、僕らが必死で生きてきた10年にも意味があるのかなと思うので是非聴いてほしいと思っています。

山田義孝 この10年、たくさん迷いながらも曲という形で答えを出してきました。でもそれが残っているということは、今後自分達もまた迷うだろうし、現在迷っている人もこれから壁にぶつかる人もいると思うけど、僕らが当時出した答えの音楽がその瞬間に役立つような気がして。だから僕達自身も、これを手に取ってくれる人にも何度でもこの先も聴き返してもらいたい1枚が出来たと思っているので、僕らの音楽とともに歩んで行きたいと思います。

(おわり)

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