ストレイテナーが8日、シングル「Graffiti」をリリース。シングルとしては「The Future Is Now/タイムリープ」以来2年ぶりとなる作品。また、本作付属のDVDには昨年10月、バンド史上初めておこなった日比谷野外音楽堂でのワンマンライブの模様が収められている。野音公演の感触や「Graffiti」について話を聞き、ストレイテナーの現在の音楽的視点や長年のバンド活動でしか得られない音楽的可能性についてホリエアツシ(Vo/Gt/Pf)と大山純(Gt)に語ってもらった。【取材=平吉賢治/撮影=村上順一】
バンド史上初の野音公演
――今作にはバンド史上初の日比谷野音でのワンマンライブ “Fessy”の模様も収められていますが、ライブの感触はいかがでしたか。
ホリエアツシ けっこうレア曲をやりました。そういう縛りは特になかったんですけど、せっかくアコースティックセットとエレキセットの2部構成でやるから、普段エレキでやっている曲をアコースティックセットにするのではなく、アコースティックでより映えるような曲をやりたいなと思って。それで結果的に「そういえばあの曲しばらくやっていないな」という曲にスポットを当てるという感じになったんです。
――アコースティックとエレキで分ける、というライブはあまりなかった?
ホリエアツシ 分けたことはほぼないですね。
――雨が止んだ後の心地良い湿度の空気感が、凄くライブの雰囲気と合っていると感じました。
大山 純 虹も出ましたしね。素敵でしたね。“Fessy”というタイトルで臨みまして、たぶん僕ら的にお祭り騒ぎというようなニュアンスがあったと思うんです。
ホリエアツシ ステージの装飾もあったりと。日比谷野音でワンマンというのが初めてだったので、それまでやっていなかったのも逆に意外と思われるというか。今回初めてやるからには面白いものにしようと、ライブハウスの延長上ではなくて別なライブにしたいなという思いでやりました。
――とても印象的なライブでした。ところで、ストレイテナーのYouTubeサブチャンネルをいくつか拝見したのですが、色んな企画で色んな面が観られて面白いと思いました。
ホリエアツシ あれはドラムのナカヤマ君がやりたいと言って始まったんです。ストレイテナーの音源やMVは観れるけど、人間がどういう人達なのかってやっぱりライブに来てくれた人とかにしかわからないから。例えば、フェスでライブを観て何となく興味を持ってくれた人が「ライブを観て良かったからもっと知りたい」と思ってくれた時に、知れるようなものがあまりないと言い出して。それでYouTubeをやり始めたんです。
その理想とは違う価値を知る
――「Graffiti」のテーマなどはありますか。
ホリエアツシ 作品のテーマというのは特にないんですけど、「Graffiti」は最近作ってきた中で真っすぐな曲なのでシングルで出してもいいんじゃないかなと思って。最新の曲くらいの感じなんですよ。
――どういった着想で生まれた楽曲でしょうか。
ホリエアツシ ダンスチューンにしたかったんですけど、シンセで構築していくというよりはアンビエントな感じというか、そういう世界観の中でビートが鳴っているという。そこはひとつありました。
――アンサンブルもアプローチ的にも凄くレンジが広い楽曲だと感じました。聴くたびに新たな発見があるというか。最初は歌とビートに注目したけど、何度か聴くと「実はギターでこういうことをしているのか」など。
大山 純 あれはその時の僕の旬のものなんです。日々研究はしているんですけど「こういう音が作れたぞ、出来ちゃったぞ」という。これは面白いじゃないかということでみんなに付き合ってもらったというか、その曲に乗せてしまったというか。絶対ハマりがいいなと思ったので。
――ずっと浮遊するように刻まれているギターパートが凄くハマっていると思いました。
大山 純 その結果、最初に描いていたアレンジの方向とはちょっと変わったかもしれないんですが、ちょっと自信を持って乗せました。
――“ザ・ギタリスト”的な派手なアプローチではなく、さりげなく鋭く光るギターアプローチというか、どう表現したら適切か難しいのですが…。
大山 純 でも、わかります(笑)。
ホリエアツシ 実験というかね。ギターらしい存在感じゃなくて、ギターでしかできないわけじゃないんだけど、あえてギターでやる、みたいな。
大山 純 ロックイズム的なものから離れているギタリストって世界には多くて。そういうところにいてもいいかなと自分で思っています。
――例えばどんなバンドのギタリストでしょうか。
大山 純 わかりやすいところだと、コールド・プレイ(英ロックバンド)のジョニー・バックランドとか。全然ギターロックとは違うことをあの人はやっているんですよね。
――確かに、コールド・プレイは初期の頃からそういったアプローチがあったと感じます。
大山 純 そうですよね。日本にはまだあまりいないというか。
――ストレイテナーはそういったアプローチを含んでいますよね。歌詞についてですが、どういった想いで書かれたのでしょうか。
ホリエアツシ 「Graffiti」は、今だからわかるということがブロックごとに書かれています。<本当も嘘も存在すると>、<必要以上に知り過ぎたと>、<「孤独は自由の一部なの?」>と。これが、今だからわかること、生きていく中で描いてきた理想と実際の現実は違うものだけど、それを悲観したり絶望したりするんじゃなくて、現実を受け入れた時に生まれる価値観とか。そこで知った自分から新しい理想が芽生えて、そこに向かってまた前を向いて行けるみたいなことをテーマに書いた歌詞です。それまで追いかけてきた理想が違っても、その理想とは違う価値を知るというか。
――人間は変化していく、ということでもあるのでしょうか。
ホリエアツシ 正しいと思っていたことが必ずしも正解ではなくて、もっと別に正しいと思えることに気づけたとか。逆に、悔しいと思った感情をずっと持ち続けていることで、本当はその場で達成できていたらもっと違う道があったんだろうけど「悔しさを持っていることで達成できていた時よりもっと先に進めたかもしれない」ということを思って書いています。
――凄く希望が湧く内容です。
ホリエアツシ 春っぽいかもしれないです(笑)。
――今のお話を聞くと、失敗というのはないのではないかとも思いました。成功するまでの途中というか。
ホリエアツシ 失敗を「過程」とする、ということですよね。
――失敗したところで止めてしまうと本当に失敗になるような気もします。
ホリエアツシ そうですね。諦めて絶望したら失敗で終わるんですけど。
――失敗しても諦めずに、という気持ちになれます。大山さんがギタープレイで試行錯誤することはあるのでしょうか。
大山 純 音として残るので、失敗と思ったものはやっぱり失敗として残るわけなんです。僕らはライブ盤も大して直しをしないので。そのまま出しちゃうんです。その中で失敗していることもあるし。ただ、続けているのでポジティブな感情なのかな…わからないですけど。
――良い意味でのあきらめという捉えかたもあるのでしょうか。
ホリエアツシ 若い頃のほうがこだわっていました。数を積み重ねていくと「こんな失敗大したことないや」って思えるし。それも思い出だと思えるので。
大山 純 あきらめというか、真実ですね。そこに嘘がないという。
――凄く素敵なスタンスだと思います。大山さんのギタープレイについてですが、「歌とは別のもうひとつのメロディ」というようなギターアプローチが光っていると感じるんです。そこは意識している点なのでしょうか。
大山 純 もうずっと意識していますね。もう1本のフレーズを乗せることによって曲に違う一面を見せる、よりポップなものにするというか。曲の骨組みが出来てから最後に乗せるんですけど、そういうのもロックイズムとは離れているけど、ギターリフとして存在しているというか。ギターリフってもの凄く耳に残るから、印象的なものにしたいんですよね。それはずっと意識していることです。先にギターリフのほうを口ずさんでしまえるというか。結局聴いているのは全体の歌だったり歌詞だったりするけど、歌おうとするとリフが出るみたいな。そこに行きたいんです。
その瞬間に好きと思うものを表現する
――ストレイテナーはロックの可能性を拡張し続けていると個人的には感じています。そのあたりの意識はあるのでしょうか。
ホリエアツシ 良い意味でそんなにとらわれていないというか。好きなものを表現していきたいので。好きってその時々で変わっていくし、ずっと好きなものもありつつ、その瞬間に好きと思うものを自分でも表現できたらなというところかなと。
――こだわらず、その時々のインスピレーションを表現しているんですね。例えばですが、自分が何かをして一度受けたら、そのアプローチをテンプレートのようにして繰り返すという発想があります。ストレイテナーの音楽はそうではないという印象があります。
ホリエアツシ 若い時ほどそれが嫌で、そこに反抗していたところはありますね。同じことをやるというのが嫌だという。同じことをやり続ける格好良さってあると思うし、「俺にはこれしかないんだ」という格好良さって憧れるんですけど。“生き様”みたいな。
――ひとつのスタイルを貫く職人的な格好良さ、というような?
ホリエアツシ うん。僕の音楽に対する姿勢がそうではなく、自分が楽しみたい、自分が好きなことをやりたいということに基づいているから、それは常々変化していって、それは素直なことかなと。
大山 純 だから凄く賛成なんです。周りからの見た目が決めつけられるのが嫌というか「こういうバンドでしょ?」と烙印を押されるというか。
――「あれ系でしょ?」というような?
大山 純 「違うけど」って。お前に何がわかるって言いたいから、ある意味ひねくれなのかもしれないですけど(笑)。凄く素直な感情だと思うんです。
――どんどん新しいことをやっていくというバンドのレンジの広さは聴き手としてワクワクします。これからストレイテナーの音楽の可能性を、という考えかたはするのでしょうか。
ホリエアツシ 「これをやったから次は違うことをやろう」とかとはまた違って、頑張って可能性を広げていこうという意識もなくて。バンドができることの可能性に挑むということはあるかもしれないですね。人数を増やして色んな楽器を取り入れて、というのとは違うという。4ピースのバンドができる音楽の可能性みたいな。
――そういった、楽器や人数の制限があったほうが逆に可能性が広がる感覚もあるのでしょうか。
ホリエアツシ 例えば、ソロのアーティストが色んな人達と曲毎に違った人を起用したりするのとはバンドは違うから、制約なのかわからないですけど、枠の中で出来ることの限界を超えるみたいなのって面白いかなと。
――何かを作ったりする時、逆に何でもアリだと広がり過ぎてまとまらないと感じることもありますね。
ホリエアツシ 確かに。捨てるということも大事ですよね。
――引き算的なアプローチは大事だけど、せっかく弾いたし歌ったし、足さないのはもったいないと思うこともあったりするのでしょうか。
ホリエアツシ そうですね。ハモりを入れてみたいなと思ったけど、ハモりを入れた瞬間にめちゃくちゃダサくなるとか(笑)。ガラッと雰囲気が変わったりするので。
――今作でもそういったことはあったのでしょうか。入れてみたけど結果的に外したトラックなど。
ホリエアツシ 最近はもうアレンジしている4人の中で、それぞれが出して弾いてと試行錯誤しているから、レコーディングの時にはもう決まっているというか。無駄なものはなくなっている感じはあります。だから逆に足すことはありますけど。もうちょっとコード感を強めたいとか、動かして、とか。
――大山さんのプレイは引き算がされて締まっているというか、洗練感があると思います。過剰なことをしていないというか。
大山 純 できないのかな(笑)。
――そんなことはないと思いますが(笑)。
大山 純 言葉にすると難しいんですけど、すでにあるものの中を泳いでいくと言うんでしょうか。3人で音楽って実はしっかりと成立しているんですよ。一生懸命頑張るとそこにちょっとした隙間がみえてくるというか聴こえてくるというか。そこをなんとなく狙っていって、そこが結果ポップなメロディに聴こえたら最高だぜ、みたいな考えかたですね。
ホリエアツシ リズムの解釈とかがそれぞれ違ったりするのがアレンジの面白いところで。僕がギターをアレンジしていたら、僕の中で歌というのが強いので、「歌に対してのリズム」でギターを弾くリズムしかたぶん出てこないと思うんです。
――ギターを弾きながら歌いやすいような?
ホリエアツシ そうですね。そこに全然違うリズム感というか、違う譜割りのギターが乗ってくると、単純に広がるだけじゃない意味が足される変化があったりするので、それがバンドの醍醐味だと思います。違う人間がひとつの曲に対して思うことは違うから。
――その点は長くバンドを続けていないとわからない領域な気がします。
ホリエアツシ たぶんそうですね。何でもできるアーティストがこの4人に入ってきて「さあ」ってやってすぐに馴染めるかというか、すぐにプラスになれるかというと難しいんじゃないかなと思います。
――確かに入る隙がないように思えます。ところで、5月のワンマンライブ『ストレイテナー ONE-MAN LIVEテナモバpresents "STRAIGHTENER MANIA"』についてですが、どのような公演になりそうでしょうか。
ホリエアツシ これはマニアックセットリスト、普段のライブでやっていない曲だけしかやらないというもので、2018年以来2年ぶりに大阪でやろうということになりました。
――ファンの方からのリクエストを募ったりするのでしょうか。
ホリエアツシ 募っています。それ通りにやるわけではないのですけど。2年前にやった曲も入るだろうし、この2年間でやっていなかった曲も。去年の野音でもあまりやっていない曲をやったりしたから、そういうのをふまえて。「でも、やっぱりやってないじゃん」という曲が新たに加わってくるかもしれないという(笑)。
――ライブでやりづらい曲というのはあるのでしょうか。
ホリエアツシ けっこうあるんですよ。
――それが観られるかもしれないライブだと。
ホリエアツシ そうですね。あとは、作品を作って出した時にライブでやったけど受けなかった曲とか。
大山 純 (笑)。
ホリエアツシ お蔵入りさせちゃっているから、このライブに来てくれるファンの方は僕ら以上に僕らの曲を聴いているので。「わ! そんな曲もあったな」みたいなのが出てくるんじゃないかなという。
――“マニア”と銘打つ部分もあるこのライブはディープな部分の楽しみもありそうですね。
ホリエアツシ 前回やった時は1曲イントロが始まるごとに歓声が起こるという。
――「これやってくれるんだ!」というような。
ホリエアツシ そうですね。
――それでは最後に、ライブで最も大切にしていることは何でしょうか。
大山 純 俺は昔は「ちゃんと演奏すること」だったんですけど、それってどうやら伝わらないみたいで。「楽しい気持ちを届けたい」「自分を解放したい」というところにシフトしまして。「音楽たのしいぞ」と、全身で言えたらいいなみたいな。
ホリエアツシ そういうことになりますね。やっぱりライブだからという。お客さんがいて、環境も自分達のコンディションとかもその日によって違うと思うんですけど、その時にしかないものになるというのがライブで一番大事なことかなと思います。
(おわり)