市原隼人、給食シーンはほとんどアドリブ 振り切った演技の裏側「一生残したい」
INTERVIEW

市原隼人、給食シーンはほとんどアドリブ 振り切った演技の裏側「一生残したい」


記者:木村武雄

撮影:

掲載:20年03月05日

読了時間:約8分

自分のデビュー当時の自身に重ねた、見つめ直せた「あり方」

――神野ゴウ役を演じた佐藤大志さんを始めとした“生徒”との共演はいかがでしたか。

 可愛くてたまらなかったです。モニターで彼らの演技を見るのが好きで、「良い表情をしているな」と思いながら眺めていました。撮影が進むなかで大志の成長も垣間見れて、渡り廊下で泣くシーンがありますが、その時は親心のような、そんな気持ちになっていて、試写後に「大志どこいるの?」と叫んでハグしました(笑)。感情を映像に残すことが僕らの仕事で、まさに彼にはその根底があって。あの表情を見た瞬間にいてもたってもいられず早くハグしたくて。

――佐藤さんの自然体な表情も印象的でしたが、芝居については事前に打ち合わせされたものなのでしょうか。

 監督は“生徒”と同じ目線に立って伝えていて、芝居に入る前に「この現場で色々な事を学んで欲しい。成長していく過程でただただ過ぎていく時間ではなくて、皆さんが成長する場であって欲しい。押しつけではなく、ひと様に観て頂けるものを一緒に作りあげる喜びを感じて欲しい」と説明されて。その姿勢は涙が出るほどに微笑ましくて、監督についていきたいと思わせてくれました。その過程の中で表情などについて細かくお話されていました。

――武田玲奈さんは市原さんから得るものは大きかったと話されています。市原さんご自身は共演者から得たものは。

 武田玲奈さんは、日本人が愛すべき女性だなと。ひたむきに努力する姿が刺激になりました。最後に涙するシーンがあるんですが、芝居に真っすぐに向き合っている武田さんの背中を見てきたから、あそこまで泣けたと思います。本当に素敵な女優さんです。もちろん武田さんに限らず“生徒”やスタッフとの思い出全てあの涙に詰め込まれていたと思います。

――佐藤さんや武田さんのピュアさに惹かれますか。

 惹かれます。壁を作らず、純粋に作品に向かっている姿は心強かったです。

――デビュー当時のご自身に重ねた?

 それはありました。監督は田園のシーンでは、僕のデビュー作(2001年公開の主演作『リリイ・シュシュのすべて』)を思い出すと。僕は当時13歳ぐらいで、大志の今の年齢と同じぐらいなので、大志を見ていると自然と「頑張れ!」と応援したくなって。やらされているのではなく、自分がやりたい道の通過点として『おいしい給食』という現場があってくれたらいいなと思いました。

甘利田幸男(市原隼人)と神野ゴウ(佐藤大志)のシーン(C)2020「おいしい給食」製作委員会

――市原さんにとって今回の現場は初心に戻れたようにも感じます。

 また違う方向から現場に取り組んでみようと思えました。作品に向き合う時、壊して作って、壊して作ってというのが僕の概念でもあります。そのなかでこの作品は、見せ方を捨てて在り方を重視にしたものになっていて、純粋に色々な方に楽しんでいただきたいという思いが沸々と湧いてきました。ドラマで予想以上の反響を頂いて「作品を作る喜びはここにあるんだ」と多く感じさせていただけたので心から感謝しています。

――その喜びは、予想以上の反響があったからですか。

 それもありますが、作品を子供が楽しみにしてくれていることが大きいです。ドラマを見たお子さんが踊って歌って真似している姿がSNSに投稿されていて、それを見たときに涙が出るほど嬉しく感じて。こんなに小さいお子さんも楽しんでくれているということから、映画やドラマを作る喜びが得られました。社会派のテーマを扱っている他の映画のプロデューサーからも「良いですよね、子供がファンなんです」と言ってくれて、本当に嬉しくて。

――ではこの作品に出る以前と以降とでは意識は変わりましたか。

 在り方を大切にしないといけないと思いました。どうしても、見せるために芝居をしてしまいますが『おいしい給食』では甘利田という役を楽しんでいて、感覚としては「撮られてしまった」という感じです。その感覚は凄く学びになりました。映像の中で生きる楽しさを改めて感じました。

――過去に、作品をやるごとに「理想にまだまだ追い付かない」と思い、それが活力になっていると言っていましたが、変わらないですか。

 変わらないです。常に不安も恐怖も期待も同時に押し寄せてきます。だから一つ一つの現場をどう見ればいいのか、何を準備すればいいのか、どう感じればいいのか、と作品ごとに全部違う自分がいます。総合芸術で、チームも違う中で、立ち位置も人間性も、作品によって変わっていくので、楽しいです。

――では今回の作品では100%に近い満足が得られましたか。

 達成感はありますが、100%というのは常に自分の中ではないです。ただこれまでの作品のなかでも高みを目指せて行けた作品です。

市原隼人

(おわり)

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