串田アキラ「絶対に歌い切る」デビュー50周年を経ても変わらぬ歌手の矜持
INTERVIEW

串田アキラ「絶対に歌い切る」デビュー50周年を経ても変わらぬ歌手の矜持


記者:村上順一

撮影:

掲載:20年03月04日

読了時間:約12分

大切なのは“歌い切る”こと

串田アキラ

――デビュー50周年記念アルバムが昨年リリースされました。どの曲も良いのですが、特に「Orange County」が私のお気に入りです。

 「Orange County」は40年ぶりです。音楽的にはラテンというか明るい感じで、この曲はCMソングなんですけど、関西方面では知られていても関東では流れていなかったんです。当時関東で流れていたのは「富士サファリパーク CMソング」でした。ずっと「Orange County」の音源を探していて、テープが見つかったんです。それを今回おこして、収録しました。

――あと気になったのは、アニメ『戦闘メカ ザブングル』の「乾いた大地」は、作詞は富野由悠季さん(井荻 麟名義)ですが、この曲は歌ってみていかがでしたか。

 僕は「乾いた大地」の詞の意味が凄く難しかったです。どういうことなんだろうと悩みました。それで後からアニメの映像を観て、「大変なことが起きているからこういう詞なんだ」と意味がわかったんです。

――作品を観たら繋がったんですね。ちなみに近年で難しかった曲はありますか?

 一番新しい曲「あっぱれ!ジモトがイチバン!!」でしょうかね。これは全部が同じメロディではないんです。だからこれをステージで全部歌おうと思ったらかなりキツいです。

――8分くらいある曲で、それこそジェームス・ブラウンっぽいソウルですね。

 そうなんですよ。だからフレーズをずっと正確に歌うのはけっこう大変です。イベントで行く土地土地ではフルでは歌わないんですけど。長いからとかフレーズが違うからという難しさはあったんですが、良い作品というのは違う形でありましたね。「宇宙刑事 NEXT GENERATION」にしてもそうですし。違う形で人の優しさを出そうとしているのかなと。

――串田さんのなかでアニソンや特撮ものを歌う時は“優しさ”がキーワードとなっているのでしょうか。

 はっきり言って、自分から見たら聴いてくれる人はいつまで経っても子供ですから、その彼らと一緒になって遊べるくらいの目線で歌っていこうと常に思っています。だからライブでも高い所で歌っているのはあんまり好きじゃないんです。だからステージからよく飛び降りて下のほうに行って近くで歌ったり。

 当初はホテルとかで子供達向けのディナーショーなどがあったりすると、高いステージで照明も凄く良い所なんです。でも、ちょっとしたらすぐに下りて子供の近くで一緒に歌っているとスタッフから「すみません串田さん、ステージで歌ってください」って(笑)。でも「違うんだよな」と思って。やっぱり高い所で歌ってパッと帰っちゃうと子供は来ないです。「俺は歌手だから歌うだけ」ではなくて、やっぱり一緒にならないとダメなんだなと思いました。そうすると、終わった時に子供たちが「ねえねえ、キン肉マンと会えるの?」とか話しかけてくるんです。

――距離感がぐっと縮まって。

 そうなんです。屋外の凄く広い場所で『キン肉マン』とか歌った時があったんですけど、子供たちもいっぱいいて司会のお姉さんが「良い子のみんな集まって!」と言うんですけど誰も来ないんです。だから僕がマイク借りて「コラ! 何やってんだ!」って言ったら、子供たちは口をとがらせてやってきて(笑)。こうやってやんなきゃだめなんだなって。子供の興味というのはもっと違うところにあるんです。それで「一緒に歌ってみろ!」ってそこから始まって。

――(笑)。さて、数々のアニメソングや特撮ものの歌を歌ってきて、他の歌手の方が歌っている曲で「これは自分でも歌ってみたかった」という曲はありますか。

 ライブで1回だけ歌ったのがあるんですけど、『服部半蔵 影の軍団』のエンディング曲だった「光と影のバラード」です。カバーでも出したいくらいお気に入りの曲です。その他にもいい曲はいっぱいあるけど、その人達の歌いかたを知っちゃってるから、それを自分で歌たいというのはないです。洋楽はいっぱいあるんですけどね。

――今、洋楽系の活動はされているのでしょうか。

 バンドは今やっていないんです。この間4、5曲やったんですけど、やっぱりこういったのも歌いたいなと思いました。ファンの方も「どんどんカバーでいいから出してよ」と言ってくれていて。テンプテーションズも自分で憧れて前座でもいいからと思っていたんですけど、過去に一緒に歌うことができたので、これはやり切ったというのがありましたね。ソウルだと歌ってなかった曲がたくさんあるので、また歌っていきたいと思っています。

――さて、50周年を迎えて新たなスタートを切るにあたって、ここからシンガーとしてどんな姿を届けていきたいですか。

 まずソウルフルというのは絶対欠かせないです。そして、大切なのはずっと“歌い切る”ことです。年齢と共に声量など色々落ちていくと思うんですけど、それを落とさないでいこうと思っています。こうして50年歌ってきてもまだまだ落とさないでいける自信があって、そのためにやってきたことは正しかったと思うんです。自分の方法としてずっと大事にケアするんじゃなくて、まず毎日毎日鍛えていくというのが一番だから、歌も鍛え抜くというか、それで歌い抜くと、それをやりたいです。

――以前テレビ番組でお話していたのを聞いたのですが、今でも腹筋1000回というのはやられているのでしょうか。

 今は1000回はやっていないんですけど、左右を300回ずつはやっています。あまり本気でやると筋肉がコルセットになってしまってブレスがしにくくなるので、緩めにやっています。それはツール・ド・フランスの選手が話していたことがヒントになりました。彼らは脚の筋肉は凄いんですけど、実は腹筋はあまりやらないみたいで。もちろんある程度はついているけど、柔らかい腹筋じゃないとずっとブレスができない状態になってしまうんですよね。

――かなりシビアなんですね。

 そうなんです。僕は耐久性をつけるために腹筋をやっていました。みんなの前で歌うのには失礼にあたったら、「自分は終わるぞ」とか思いながらやっていて。歳をとってもちゃんと声は出ているという形で終わりたいんです。聴いてくれる人がいて、場所がある限りはしょぼくれた歌は歌いたくない。絶対に歌い切るという想いが強いです。

(おわり)

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