ピアノ連弾ボーカル姉妹ユニットのKitri(キトリ)が1月29日、1stフルアルバム『Kitrist』をリリースする。。Kitriは、2019年1月23日に大橋トリオによるプロデュースで、1st EP『Primo』でメジャーデビューした姉のMonaと妹のHinaの姉妹によるユニット。現在の音楽シーンでは稀有なピアノ連弾で弾き語るスタイルで、注目を集めている彼女たちの魅力に迫りたい。

『Kitrist』ジャケ写

 25日の深夜に放送されたTBS系音楽番組『COUNT DOWN TV』に出演しデビュー1st EP『Primo』と1stフルアルバム『Kitrist』に収録されている「羅針鳥」を演奏した。放送後のSNSでも、「めちゃ声綺麗!!!!透き通るような声」、「最近にない不思議な雰囲気」など、興味を持った人も多かったようだ。

 2人は幼い頃よりクラシックピアノを習い始め、大学では作曲を専攻していたMonaが妹のHinaを誘い、2015年から京都を拠点にキトリイフとして活動。2017年に大橋トリオプロデュースでパイロット盤『Opus 0』のリリースを機にKitriと改名した。ユニット名はクラシックバレエの『ドン・キホーテ』で登場する空想の中の少女、キトリと、フランス語で意気地なしの意味もあり、自身が勇気を出していきたいという気持ちが込められている。

 デビューのきっかけは、家族全員が好きなアーティストとあげる大橋トリオにデモ音源を渡すところから始まった。父親の積極的なアプローチが、スタッフから大橋の手に渡りそこから彼女たちの運命が大きく変わっていた。まさか、本人たちも敬愛する大橋トリオにプロデュースしてもらうことになろうとは、思いもよらなかったという。

 Kitriの魅力は、ピアノの連弾から生み出される2人ならではのアンサンブルと、MonaとHinaの歌声のハーモニーが特徴的で、大きく捉えるとその2つの柱が、他にはないオリジナリティに繋がっている。そこに姉妹という息のあった演奏、無意識の中で生まれる相性の良さが他にはない武器になっている。連弾について2人は「2人で別々の音を弾いて、一曲になるという魅力があります」とインタビューで話してくれた。

 楽曲は2人のルーツになっているクラシック音楽をポップスに取り入れている。例えば「羅針鳥」では交響曲第9番 ホ短調 作品95『新世界より』のフレーズを取り入れ、デビューし“新世界”へ羽ばたく、という楽曲のメッセージをより強固なものにしている。西洋音楽特有のウェットさと優雅で荘厳な雰囲気を醸し出しながらも、ポップスの持つ大衆性を取り入れた。

 大胆にクラシックをサンプリングし、90年代後期にヒットしたSWEETBOX(独音楽グループ)の手法とはベクトルの違うやり方で、さりげなく楽曲にクラシックのフレーズを取り入れるスタイルは自然。インパクトのあるフレーズを上手く自身の楽曲に組み込んでいる。

 基本的には姉のMonaが作詞・作曲を行ない、曲によってHinaが作詞を行う。2nd EP『Secondo』と1stアルバム『Kitrist』にも収録されている「矛盾律」でみせた固定観念を取り外した、哲学的な要素を感じさせるMonaの詞と、2ndEP『Second』に収録された「Dear」で感じさせた日常、誰もが経験したことを経験を切り取ったかのようなHinaの詞、2人の歌詞の世界観の違いが音楽の幅を広げている。

 様々な情景を映し出す歌詞の世界観は、彼女たちの生い立ち、生活環境が強く影響していると感じさせた。父親の仕事の関係で日本は滋賀、京都、大分と様々な場所で過ごし、Hinaは3歳で幼すぎて断片的にしか覚えていないと以前行った小媒体のインタビューで話していたが、カナダにも住んでいたこともある。いろんな地域の文化を肌で感じたことが、彼女たちの感性に大きなプラスとなっていると感じた。

 サウンド面ではピアノを主体としているが、Hinaが他のアコースティック楽器を演奏することでバリエーションは豊か。パーカッション、アコースティックギター、コンサーティーナ(アコーディオン族に属するフリーリード楽器で、蛇腹楽器の一種)などマルチに演奏できる。2人は弾き語りをメインとしているが、楽曲が単調にならないように、ライブも含め様々な工夫をこらし音楽と向き合っている。

 そして、メロディもノスタルジックなものから、斬新さを感じさせるものまで多彩さをみせる。先にも話したがクラシック音楽の持つ優雅さ、ポップスの持つ耳馴染みの良さを上手く融合し、1stアルバム『Kitrist』に収録された「Akari」では、Monaがクラシックと歌謡曲に共通点を見出し、日本人の琴線に触れるメロディに、西洋音楽のエッセンスを取り入れマッシュアップし、そのシナジーで聴かせる曲に仕上がっている。

 常に挑戦し続ける姿勢が新しい作品からも垣間見れ、進化していくKitri。フルアルバム『Kitrist』でここまでの集大成を感じられる1枚に仕上がっている。没入感のある音の世界感、中毒性のある清流のように澄んだトランスペアレントな歌声は、静かに内側から燃え上がるような説得力に満ち溢れていた。【文=村上順一】

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