中島 愛「とりとめのない感覚を声にする」大人だからこそ表現できる曖昧さ
INTERVIEW

中島 愛「とりとめのない感覚を声にする」大人だからこそ表現できる曖昧さ


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年11月06日

読了時間:約14分

レコーディングのテーマは“コントロール”

中島 愛

――【星合盤】のカップリングには、□□□の三浦康嗣さんが作詞・作曲・編曲の「夏の記憶」を収録しています。イントロは軽快なシティポップですが、歌が始まると急に音がなくなって、途中でまたアッパーのリズムが出て来る独特な曲ですね。裏で鳴っているクラップがリズムとズレているのは、わざとなんですよね?

 そうなんです。途中で盆踊りみたいになったりする面白い曲です(笑)。もともと私が□□□さんのファンで、何年も前から曲を書いて欲しいと思っていて。この曲はノンタイアップなので、自分のやりたいことを詰め込みたいと思って、それで三浦さんに書いて欲しいとお願いしました。

――どういう曲が良いとお願いをしたのですか?

 □□□さんは、アルバムによってテーマや曲調がまったく違うので、その中でも歌もの重視の方向性に近づけて欲しいとお願いをしました。それと、ラップがやりたい訳ではないけど、ポエトリーリーディングっぽくしゃべるように歌っているところもあったら嬉しいと。そういういくつかのオーダーをさせていただいて。三浦さんも、「今までの中島さんのレパートリーになかった曲にします!」とおっしゃってくださって、それで出来たのがこの「夏の記憶」という曲です。

――中島さんのレパートリーにもなかったけど、他のJ-POPでも聴いたことがない曲に仕上がりましたね。

 本当にそうです。デモは三浦さんが歌っていたんですけど、初めて聴いた時は飛び上がって喜びました。自分が好きな曲のタイプのど真ん中だったので、「やったー!」という感じでした。

――この曲も、やはり難しそうですね。

 Aメロはラップではないですけど、歌詞が細かく韻を踏んでいて。ディレクションしてくださった三浦さんからは、歌うよりもリズムを大事にして欲しいという指導を受けました。こういう感じはおろか、ラップもやったことがなかったので、本当に難しかったです。急にテンポが変わるし、細かいところまで注意を払わなければいけなくて、頭をフル回転させるのと同時にセンスも問われるレコーディングでした。

――今回は表題の2曲を含めて、難しくてチャレンジする曲ばかりでしたね。

 今回の私のテーマは、“コントロール”だったと言えます。声のコントロール、感情のコントロールなど。ちょっとしたさじ加減で、バランスを失ってしまうので、とても繊細な作業だなと思いながら歌いました。それをどう攻略するか、楽しむ感じでレコーディングしました。あと、マイク選びからこだわり、マイクとの距離も細かく調整して録ったんです。

――マイクは、どういうものを選んだんですか?

 全曲違うマイクを使ったのですが、共通していたのは、息づかいがはっきり聴こえるマイクということ。「夏の記憶」はNEUMANN(ノイマン)というメーカーのヴィンテージのレプリカを使ったのですが、ノスタルジックな雰囲気が出せました。歌詞に<レコード>というワードも出て来るのもあって、どこか懐かしい雰囲気もある曲になりましたね。

――マイクとの距離もこだわったとのことですが、1センチ違うだけでも、そんなに大きく変わるものですか?

 すごく変わります。自分でもそれを感じました。どんなに性能の良いマイクであっても、距離が違えばイメージしたものにはなりません。通常は、ポップガードとマイクの距離にもよりますけど、音に厚みがある時は、ポップガードと口の距離は10センチくらいでしょうか。音が薄くなって声をダイレクトに聴かせたい場合は、ポップガードギリギリまで口を寄せて歌います。「夏の記憶」は、三浦さんと「今どのくらい?」「もう1センチ近づけて」などのやりとりをしながら、絶妙なポイントを探っていきました。

――中島さんの音楽オタクっぷりが、存分に発揮されたレコーディングでしたね。

 はい(笑)。音楽って楽しいです。

――【本好き盤】のカップリングには、「Kailan」を収録しています。これは、ベスト盤の特典映像「Megumi Nakajima in Philippines」のバックに流れていた曲が音源化されたものですね。

 ベスト盤が出た時に、特典映像を少しTwitterにあげたら、フィリピンの方からもたくさんコメントをいただいたんです。海外でのライブでは7、8年前からちょくちょく歌っていましたが、日本では1度しかライブで歌ったことがなかったので、この機会にたくさんの方に喜んでいただければと思って収録しました。

――すごく良い曲ですね。

 片思いの恋の歌なんです。タイトルの「Kailan」はタガログ語で「いつ」という意味で、「いつ私の気持ちに気づいてくれるの?」と歌っています。フィリピンで1990年くらいにヒットした曲で、当時フィリピンで青春時代を過ごした年代の方にとっては、すごく思い入れのある有名な曲です。この機会に、自分のルーツにもっと触れていけたら良いなと思っています。

――今回の2枚は、曲調もさまざまで、音楽的にもすごくチャレンジした面白い作品になりましたね。今回のレコーディングは中島さんにとってどういう意味を持つものになりましたか?

 今回は特に、ひと言では言い表せない曖昧さや、とりとめのない感覚を声にすることにチャレンジしました。こういう表現は、きっとデビュー当時では難しかったと思います。

――大人になると白黒はっきりさせなくても良いことも出て来るし、どちらともつかない気持ちも自分の中に生まれる。つまり、大人の表現を追求し始めたと。

 そうかもしれません。若い時は、がむしゃらに歌うとかしっとり歌うとか、どちからはっきりさせたくなるものです。今回のシングルは、そういう一直線では歌えないものばかりでした。そういうグレーなものを認めながら、歌の表現に反映出来るのは年齢を重ねればこそだなと思います。これよりさらに年齢を重ねると、それはそれでまた違った表現になってくるでしょうから。青春時代がそこまで遠い昔のことではなく、大人になり切れているわけでもない、そういう今の年齢で歌うということが、今回の曲には良かったのではないかと思っています。

(おわり)

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