中島愛「人と人が顔を合わせて積み上げて作る温かみ」歌謡曲に感じる魅力
INTERVIEW

中島愛「人と人が顔を合わせて積み上げて作る温かみ」歌謡曲に感じる魅力


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年02月03日

読了時間:約14分

 声優でアーティストの中島 愛が1月28日、デビュー10周年を記念したカバー・ミニアルバム『ラブリー・タイム・トラベル』をリリースした。2008年にアニメ『マクロスF』のランカ・リー役で声優デビュー。翌年の2009年に「天使になりたい」でソロ歌手としてもデビューを果たした。今作は、昭和のアイドル/歌謡曲が好きであることを公言している彼女自ら、松田聖子、河合その子、安田成美など、70年代~90年代のアイドルの楽曲や歌謡曲から選曲し、セルフプロデュースを務めた。「当時の音楽には、人と人が顔を合わせて積み上げて作る温かみに魅力を感じる」と話す中島。彼女が愛してやまない時代へと、タイムスリップするような1枚に仕上がった。インタビューでは歌謡曲の魅力や歌手デビュー10周年イヤーの意気込みなどを聞いた。【取材=榑林史章】

私にとって王道の選曲

『ラブリー・タイム・トラベル』ジャケ写

――デビュー10年記念カバー・ミニアルバム『ラブリー・タイム・トラベル』をリリース。70年代~90年代のアイドル/歌謡曲を中心にカバーされた作品です。ずっと昭和のアイドル/歌謡曲が好きだと公言していて、念願叶っての作品ですね。

 はい。思い入れがあるからこそ、タイミングを考えてじっくり時間をかけて作りたいと思っていました。そこで今回は10周年のプレゼントとして、スタッフさんから「出しませんか」と言っていただいたんです。

――リアルタイムではない昭和のアイドルソングや歌謡曲に興味を持つようになったきっかけは、何だったのですか?

 『青春歌年鑑』というシリーズのアルバムです。その年の年間トップ30曲くらいが収録されていて、自分が生まれた年である1989年版を聴いたら、工藤静香さんの曲が入っていて。最初は、工藤静香さんはソロだと思っていたんですけど、どうやらおニャン子クラブというグループにいたらしいと知り、そこから遡って調べていって。おニャン子クラブのライブ映像に辿り着き、最初にビビッときたのが「青いスタスィオン」を歌う河合その子さんでした。たぶん、その子さんが卒業されるときの武道館公演の映像だったと思います。

 その頃は2000年代初頭で、音楽シーンでは女性歌手やアイドルはおへそを出した衣裳で格好良いダンスを踊るイメージが強かったんです。そんな時代だったからこそ、髪に大きなリボンを付けてフリフリの衣裳を着て歌う、昔の女性アイドルの姿がすごく新鮮に映って、「私が好きなのはコレだ!」と思って、それからですね。

――楽曲のセレクションもしたそうですが、好きなジャンルだからこそ悩みましたよね。

 だいぶ悩みましたね。もともとは楽曲ごとのアレンジャーさんにその曲のプロデュースもお願いして、選曲も自分からアイデアを出しつつ、スタッフさんと相談して決めたいと思っていたんです。それで、1万曲くらい入っているiPodを全部聴き返して、少しずつ絞っていって。「この曲ならこのアレンジャーさんにお願いしたい」という感じで、カバーのイメージを思い描ける曲を中心にスタッフさんに提案したら、「そこまでやりたいことが決まっているのなら、セルフプロデュースでどうですか?」と言っていただいて、セルフプロデュースもすることになりました。

――セルフプロデュースという部分では、どういうことで悩みましたか?

 プロデュースというのは、自分とは別の視点も必要になるので、とても貴重な経験になりました。いちボーカリストの中島愛としての視点、原曲に対するリスペクトの視点。そして原曲のことや私のことを知らなくても、お金を出してCDを買いたいと思ってもらえるかという視点です。自分自身もリスナーの気持ちになって、「この曲はCDを買って持っていたい」と思ってもらえる価値があるだろうかと、すごく自問自答しました。

――基本的にはどの曲も原曲のアレンジを踏襲しつつ、もともとの雰囲気を壊さないカバーになっていますね。

 はい。原曲キーや全体の雰囲気を大事にする方向で、やりたいと思いました。とは言え、単に“昭和の歌謡曲っぽさ”みたいなことを念頭に置いてしまうと、ちょっと違うのかなと思って。原曲に忠実でありながら、2019年の今だからこそのテイストになるようにしたいと、各アレンジャーさんにお願いをしました。

 組み立てはほぼ同じでも、塗る色を変えたり置く場所を変えるといった考え方で編曲していただいています。みなさん本当に素晴らしいアレンジで、プロの仕事を見せてくださって感謝しています。アレンジがあがるたびに、本当にうれしくて感動の連続でした。

――選曲がすごくマニアックで、ただの「昭和のアイドル/歌謡曲」ファンではないなと思いました。そこはさすがですね。

 いえいえ(笑)。A面曲も入っていますし、私は全部好きな曲だから、私にとってはこれが王道だと思っているんですけどね。

――1曲目は、松田聖子さんの「Kimono Beat」です。歌い方が、すごく似ていると思いました。

 聖子さんの曲は、学生時代から浴びるように聴いて、どこでしゃくるとか、発音の仕方も真似をして、完コピするくらいよく歌っていました。今回歌い方を変えるか悩みましたけど、やはり10代の頃から家やカラオケでたくさん歌い馴染んできた、その成果をみんなに聴いていただこうと思いました。

――愛ですね。

 愛情とリスペクトのたまものです。

――中でもこの「Kimono Beat」を選んだのは?

 聖子さんのアルバムでいちばん好きなのが、1987年のアルバム『Strawberry Time』で、このアルバムは、聖子さんが結婚と出産を終えて復帰してからの作品です。強い女性像を描くようになった最初のころの作品で、ちょうど今の私と同じ20代後半くらいの年齢で作ったという部分でも、私にはすごく響くものがあります。中でも「Kimono Beat」は、歌詞もかわいいけど少し強気なイメージがあって、当時は自分がこうなりたいという理想像と重なって好きだったんだんなと思います。

 それに、作詞が松本隆さん、作曲が小室哲哉さん。当時の編曲は大村雅朗さんですが、今回の編曲でラスマス・フェイバーさんで、ラスマスさんの名前もここに並んだら、最高に豪華だなって。こういうクレジットの並びにしたかった、というのも正直ありますね。実際にこの3人の名前が並んだ曲が他にあったら、誰の曲でも私なら絶対に買います!

――聖子さんの魅力は?

 やはり最初は声に惹かれましたね。少しハスキーさがあるところに陰影を感じたと言うか、元気一辺倒でもなく暗いだけでもない、どちらも持っている感じが魅力的です。それに、ファッションやメイクなどでも、時代を作っていました。強めのソバージュのヘアスタイルがあったり、ジェルで固めたようなショートカットの時代もあったり。そういう何も怖れていない感じや、女性としての強さに今でも魅力を感じています。

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