大友良英「観ている人と映像を繋ぐ」大河ドラマ劇伴担当が語るその奥深さ
INTERVIEW

大友良英「観ている人と映像を繋ぐ」大河ドラマ劇伴担当が語るその奥深さ


記者:榑林史章

撮影:

掲載:19年08月22日

読了時間:約14分

AIが劇伴を自動で作る時代がくる

『GEKIBAN 2~大友良英サウンドトラックアーカイブス~』ジャケ写

――『GEKIBAN 2』には、ドラマで最初に手がけた『しあわせ色写真館』が収録されていますが、初めて映画の劇伴をご担当されたのが、『GEKIBAN 1』に入っている、『青い凧』という映画だったそうですね。

 『青い凧』のときは本当に何も分からなくて、1950〜1960年代の北京を舞台にした映画だからと思って、最初のデモで中国風の音楽を作って失敗した経験があります。監督の田壮壮さんから、「これは田舎の音楽だから、不自然に感じる」と言われて。「劇伴は当時の音楽を再現するものではない。今の、中国の文化を知らない人が観ても分かるものにするために劇伴はあるんだ」と、言われたその言葉が今も残っています。そのときは、中国とはまったく関係のないブラジルのバンドリンという楽器と、ピアノと打楽器だけで音楽を作り直しました。

――『いだてん』の、音楽はフィクションでいいというお話に繋がっていますね。

 今考えると、そういうミスをしたことで気づくことができたんです。お芝居はいかにも当時のようにやるけど、現実にはその場面に音は流れていない。そこに伴奏を付けるということは、どういうことなのか。田壮壮監督が最初に言ってくれた言葉で、劇伴は観ている人と映像を繋ぐためにあるものだと気づきました。

――大友さんは、現在も即興演奏やフリージャズのアーティストとしてもご活躍しています。即興音楽はその場で即座に作曲しながら演奏し、その場限りで聴けなくなることに美学があるわけですよね。

 そうですね。劇伴作曲は、やはり即興演奏とは考え方がまったくの別ものです。即興演奏は音楽が主役だけど、劇伴は音楽が主役ではなくドラマを引き立てるための、あくまでも伴奏です。映画やドラマのパーツだから、そこは考え方をがらりと変えています。

――即興演奏をやっていたからこそ、できる劇伴もありますか?

 実際に即興の手法もだいぶ取り入れていて、その場での即興演奏をしてもらって収録することもたくさんやっています。ただその場合は、僕がよく知っている人たちにお願いをしています。そうじゃないと、簡単な譜面だけを渡してあとは即興でお願いしますなんて言ったら、普通は怒られちゃいますからね。

 僕以前の劇伴は、ちゃんと譜面があって、演奏力があればどんなプレーヤーでも弾ける音楽が多かったと思うけど、僕の場合は、自分が選んだミュージシャンじゃないとなかなか難しい。誰でもいいわけじゃなく、演奏者のキャスティングが重要なんです。僕が劇伴をやり始めた当時までの一般的な映画音楽には、あまりなかったやり方だったと思います。

――ちなみに、監督に事前に聴いてもらうために、デモテープ的なものを作ったりするんでしょうか?

 作りますけど、僕はあまりコンピュータで作るのが得意じゃないし、コンピュータで作ったデモは、本番で生演奏するとまったく雰囲気が変わってしまうんです。だから、もし監督からデモを聴かせてほしいと言われたら、スタジオをとってレコーディングする時間をくださいとお願いしています。デモも、生で録らないと伝わらないので。

 たとえば『あまちゃん』のテーマをコンピュータで打ち込んで提出していたら、NGが出ていたと思いますよ。「こんなの面白くない」って。あのシンプルなメロディは、コンピュータでやっても雰囲気は伝わらないけど、ミュージシャンたちの生音で揺らぎながらやるから、あの感じが出るのであって。『あまちゃん』のときは、実際にミュージシャンをスタジオに呼んで、デモのようなものを3回くらい録りました。

――本番は本番で、また生で録るんですよね?

 録ります。だけど、デモもしっかり録っているから『あまちゃん』のときは、デモ音源の一部がそのまま劇伴として使われています。『いだてん』も同じで、スタジオにミュージシャンを呼んで、本番と言っていいクオリティでデモを録りました。それくらいのデモを作らせてもらえるなら、いくらでもデモを作りますという感じですね。でも僕みたいな劇伴作家は、今や絶滅危惧種的な古いタイプです。だから、僕と仕事をするのは手間も経費もかかるんです(笑)。

――手間と経費をかけても、大友さんに頼む価値がある。でも今は、業界全体でもかけられる予算が、だんだん減ってきている現実がありますよね。

 低予算ドラマだと、数十万円くらいで1クール分の劇伴を作っていて。でも、それだと僕は、スタジオすら押さえられないんで無理なんです。でも、たまに話が来ますよ。若い監督で僕のやり方を知らない方から、これくらいの予算でやってもらえませんかって。でも勘違いしてほしくないのは、僕のギャラが高いとかそういうことではなくて、あくまでも作り方が違うということでお断りしています。

――長年やってきて、映画やドラマの制作で変わったなと思うことはありますか?

 昔は、アナログのマルチのこんなぶっといテープで録音していましたよね(笑)。それがいつの間にかデジタル化していて。映画も最初のころはフィルムに光学録音をしていて、それがデジタル化してコンピュータ化していくのを全部観てきました。でも基本的にはデジタルのほうが、便利だし実際にすごくやりやすいです。録音は基本、僕も全てデジタルですし、そこは今の方法がいいです。アナログで録るなんて逆にすごく贅沢なことで、お金もかかるし今はめったにはやりませんね。でも、両方の良さがあって、デジタルではあるけれど、生で録るってところは変えられないですね。

――きっとそういう生やアナログの良さが、ドラマにいいものを与えて、キャラクターを活き活きとさせているのかもしれない。

 そう思ってくれる人がいるうちは、まだ仕事があると思うけど、いずれはなくなるでしょうね。僕は劇伴が本職ではないけど、劇伴の仕事も好きだから、なくなったら寂しいです。

 きっとそのうちAIが発達して、AIが劇伴を作る時代になるんじゃないかな。楽しくて明るい曲と設定すると、そういう曲が自動作成されるみたいな。ちょっとしたバラエティ番組なら、それで十分になるんじゃないかな。1970年代ハードロック風とか、1990年代ジャーマンテクノ風とか指定して、テンポを設定すると勝手にできあがるみたいな。

――そこからヒット曲が生まれるかも?

 そうなるかもしれないですね。昔リズムマシーンができたときは、結局人間が出す“味”は出せないよねって言っていたけど、あっと言う間に世の中の音楽がリズムマシーンで作られるようになったし。

 僕が80歳になったころには、今と同じような劇伴の仕事はほぼ絶滅してるんじゃないかと思うことありますよ。「大友良英風」とか「あまちゃん風」と設定すれば、AIが僕より上手に曲を作っちゃうかもしれないし、どんどん人間が出る幕がなくなっていくかもなって。そうなったらもう、“伝説のじじい”になって生き残ろうかと(笑)。

(おわり)

作品情報

大友良英
『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編』
7月24日発売
アルバム VICL-65225 3000円(税抜)

『GEKIBAN 2~大友良英サウンドトラックアーカイブス~』
7月24日発売
アルバム VICL-65226 3000円(税抜)

イベント

大友良英『大河ドラマ「いだてん」オリジナル・サウンドトラック 後編』『GEKIBAN 2 -大友良英サウンドトラックアーカイブス-』リリース記念イベント開催

9月9日 21時〜東京・タワーレコード新宿店 7F
※詳細はタワーレコードHPを参照

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