amazarashiが10日、東京・中野サンプラザで全国ツアー『“Live Tour 2019「未来になれなかった全ての夜に」』”の追加公演をおこなった。4月29日よりスタートした本ツアーは、7月4日の日本特殊陶業市民会館ビレッジホール、7月5日のグランキューブ大阪、そして中野サンプラザの計3会場で追加公演がおこなわれた。ファイナル公演となった中野サンプラザでのamazarashiのライブは、日本語のポテンシャルをまざまざと見せ、心象風景と仮想空間と現実と、絶望と希望を生々しく晒すような、脳裏に焼き付くようなリアリティ溢れる臨場感を醸した。【取材=平吉賢治】

視覚・聴覚にダイレクト侵入する衝動、メッセージ

(撮影=Victor Nomoto)

 秋田ひろむを中心にして5人のミュージシャンが立つステージ。前面は半透明のスクリーンが全視野を包む。音と光と映像、そして次から次へと激流の如く舞い散る明朝体の文字・歌詞・詩が、オーディエンスを覆う。ライブ演奏の臨場感とスクリーンのビジュアルは、オーディエンスの脳内を駆け巡り、デフラグし、amazarashiの世界観が直接注入されるかのようだった。

 「後期衝動」「リビングデッド」と走り出したライブ。スクリーンにはSNSのタイムラインの映像が立て続けに表示された。世風と現代人の心情、amazarashiの歌詞と情念が具現化するように溢れ出された。それは、混沌とした思念と純粋な想いがダイレクトに、モザイクなしで赤裸々に生々しく提示されているような光景、リアルと映画と深層心理のビジュアルとサウンドが混じり合うような、生々しい体験だ。

 「音楽は終わります。今夜のライブも、すぐに終わります。だから、僕らの役目は、この夜を終わらせることです。新しい、始まるもののために――」曲間で秋田は、そうオーディエンスに告げた。

 CGやアニメーションの映像が鮮烈に映し出されるスクリーンはメンバーの演奏姿と奇妙なまでの美しさでリンクする。「たられば」ではスクリーンは歌詞のみの表示となった。アコースティックギターのサウンドと共に紡がれる秋田ひろむの歌が心地良く心に侵入してくる。街の雑踏の風景、ファンタジックともグロテスクとも捉えられそうな、人間の意思そのものを丸裸にしたような映像の描写、飛び交う文字の数々――。文字、言葉の意味が、音と生演奏によって更に明瞭に、脳の言語処理部位を飛ばして意識に直接認識されるような、逆ゲシュタルト崩壊現象に陥る感覚すらあった。

 ピアノの旋律が独特の和音進行を奏でるイントロの「月曜日」では、漫画『月曜日の友達』の映像が映し出され、作品と楽曲の世界観が見事にシンクロする。語り、朗読的な歌唱、そして熱唱が混じり合う「光、再考」では<今君は日陰の中にいるだけ ただそれだけ>という最終節が胸に残る――。

 スクリーンに文字が投影されなかった楽曲「ひろ」は、ピアノと歌というミニマム編成で披露され、視覚的情報の緩急から、歌詞とメロディのエモーショナルな感情が一層際立った。

「言葉を取り戻せ」

(撮影=Victor Nomoto)

 「空洞空洞」ではダンスビートに乗って迫り来る文字の数々が意識を四方八方、縦横無尽に瞬かせる。「空に歌えば」の清涼なギターアルペジオとピアノの音色は、仮想空間と現実を行き来するようにオーディエンスと共に飛び立たせてくれるようだった。

 ほぼ等間隔に挟まれた曲間の転換時には、オーディエンスは芸術作品に拍手喝采するような、奥から涌き上がるような深い情念が込もった反応をみせた。amazarashiは「千年幸福論」まで演奏し、ライブも終盤。秋田は紫の照明に包まれ、アコースティックギター1本で、俳優・菅田将暉への提供曲「ロングホープ・フィリア」をセルフカバーした。本ツアーのセットリストで唯一組み込まれたこの楽曲は、この日のサンプラザ公演にレアな彩りを加えた。

 「昔では言えなかったことを歌いたいと思ってます。今だからこそ、歌えることがあります。あの夜、奪われた言葉を取り戻すために!」。最後のMCで秋田は、そう力強く伝えた。

 言葉、詩、メロディ、映像、あらゆる感覚を再発見させられるようなamazarashi のライブは「未来になれなかったあの夜に」が最終曲。秋田を映し出すスクリーンの人影を、言葉の本質を形どるようにして覆い尽くす。そしてギターノイズとフィードバックのなか、蒼い空間が燃え尽きるようにライブは幕を閉じる。「いま言うべき言葉を…ありがとうございました!」と、秋田は最後に言葉を添えた。

 生きた言葉が姿を形作り、言葉が伝えられ、言葉が生み出される。言葉を見て、想いが生じる。言葉が、音と共に空間を繋いでいく。秋田は最終曲で「言葉を取り戻せ」と、繰り返し告げた――。

セットリスト

『amazarashi Live Tour 2019『未来になれなかった全ての夜に』』
2019年7月10日@東京・中野サンプラザ

01. 後期衝動
02. リビングデッド
03. ヒーロー
04. もう一度
05. たられば
06. さよならごっこ
07. 月曜日
08. それを言葉という
09. 光、再考
10. アイザック
11. 季節は次々死んでいく
12. 命にふさわしい
13. ひろ
14. 空洞空洞
15. 空に歌えば
16. 千年幸福論
17. ロングホープ・フィリア
18. 独白
19. 未来になれなかったあの夜に

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