前作の流れを引き継ぎつつ最新のサウンドを加味
――『Kiss Me』は香港ではテイラー・スウィフトを抜いて1位になったこともあり、その注目度の高さが窺がえました。さて、今作『Tenderly』についてお聞きします。今作のコンセプトを教えて下さい。
前作『Kiss Me』の流れを継ぐものにしたいと思いました。その中で違った姿を見せられるのかというのを考えた時、皆さんと私も聴き慣れている曲、そこに最新のフィーリングを加味していったらどうだろうか、というのを考えました。なので、最近よく使うコード進行だったり、サウンドを使ってアレンジしています。歌い方にも気をつけましたし、ポストプロダクションの作業においても、それらを念頭に置きながら作業していきました。
――The Corrsのカバー「What Can I do」はこのアレンジの解釈は新鮮で、オリジナルの新たな一面を見せて頂いた素晴らしいカバーだと思いました。
ありがとうございます。この「What Can I do」はアルバムの中でも特にアレンジに力を入れた1曲です。カバーをする場合はオリジナルを活かしたものと、ガラリと変えてしまう両方があると思います。この曲はすごく有名な曲なので、そのまま再現するよりも、新たな解釈で歌いたいと思いました。
――新たな解釈として、興味深かったのがグリーン・デイの「Wake Me Up When September Ends」なのですが、この選曲は意外でした。この曲が選曲された背景にはどのような経緯があったのでしょうか。
今作は先ほどもお話ししましたが、大半は自分が歌いたいものを選曲しました。この曲は4年から5年前に、あるラジオ番組で、ギターとデュオで歌う機会がありました。その時の感触がとても良くて、さらに昨年にも別の番組で歌う機会がありました。曲自体ももちろん良いのですが、特に歌詞が胸にくるものがあって、この曲だったらこういう感じで歌いたいというアイデアが出てきました。それを今作にも収録したいということで提案したところ、プロデュースを務めてくださった伊藤ゴローさんが私のアイデアを理解して表現してくれました。
――具体的にはどのように歌い上げようと思ったのでしょうか。
ロックバンドの曲なのですが、ロックっぽく歌おうとはせず。メロディと歌詞に忠実に歌ってみようと思いました。まず私が歌うということでロックっぽい歌い方は皆さん求めていないと思うので、そこでの期待も裏切らないようにと思いました(笑)。良い意味で淡々と歌い上げようと思ったんです。
歌詞が、父が亡くなって時間が流れた後に振り返って恋しく思うという内容なので、そんなシチュエーションになったら自分はどう考えるだろうかということを想定して歌いました。なので、あくまで淡々と、その中に恋しさが内在していることが伝わるようにというのを心掛けました。そして、曲の途中で6/8拍子に変わってバンドが入ってくるので、そこで全体の流れを表現したいと思いました。
――優しいぬくもりも感じられます。
ありがとうございます。すごく楽に歌っている感じなんですけど、そういう風に聞こえるように、悩みながら練習を重ねて歌いました。どの曲も自分の中ではチャレンジが含まれています。よく聴く曲をありふれたものでないように聴かせなければいけないというのがあったので、私自身もそうですし、ゴローさんや演奏して下さった皆さんにとっても挑戦だったんじゃないかなと思います。
――今作で一番、表現方法で悩まれた曲はどれでしょうか。
カーリー・サイモンの「Nobody Does It Better」です。この曲はレコーディングの現場でどう表現しようかとみんなと頭を突き合わせて様々な試みをした1曲です。『Kiss Me』の雰囲気を継いで、今作に臨んだということもあり、コンパクトな編成の曲もあって良いかなと思いました。それでピアノの佐藤浩一さんと2人でスロースウィングな感じで演奏するのはどうだろうと、私から提案しました。
――「Nobody Does It Better」は特にどの部分がポイントだと思いますか。
私とピアノしかないわけですから、お互いがすごく集中することになります。実際のレコーディングでも佐藤さんとは別のブースに入りながらも、お互いにコンタクトを取りながら同時にレコーディングしました。その瞬間瞬間の感情に忠実にうまく流れを作って行く感じで進めていきました。基本的にジャズミュージックというのはそうだと思うのですが、この曲は特にその感覚が強かったと思います。そこに集中してフォーカスを合わせてレコーディングしました。その風景をイメージして聴いてもらえたら嬉しいかなと思います。