サザンオールスターズが6月16日、東京ドームで『サザンオールスターズ LIVE TOUR 2019「“キミは見てくれが悪いんだから、アホ丸出しでマイクを握ってろ!!”だと!? ふざけるな!!」』の千秋楽を迎えた。デビュー40周年を締めくくるビッグイベントは、全国6大ドームを含む全11カ所22公演がおこなわれ、55万人を動員。ラストの公演地・東京ドームは2日開催で10万人を集めるなど、まさに大盛況のなか幕を閉じた。MusicVoiceは16日公演を取材。そこで観たものは、サザンの全時代、昭和・平成・令和を跨ぐ40年間を網羅した圧巻のステージ。ハッピーな気分と共に、改めてサザンという文化的存在の大きさに気付かされた。【取材=平吉賢治】

全年齢層に刺さる、粋なセットリスト

サザンオールスターズ

撮影=西槇太一

 言わずと知れた国民的バンド・サザンオールスターズのファンは老若男女勢揃いといった印象だ。この日の会場も、抱きかかえられる子供からシニア層まで様々な世代を見かけた。まさに「全年齢層」と表現しても差し支えなさそうなファン層の広さに改めて驚いた。ここまで幅広い層に愛されるバンドはそうはない。

 40周年イヤーを完結する東京ドーム公演では、最新曲からデビュー曲まで40年以上の重みを感じさせる全36曲の演奏。あらゆるサザン楽曲が惜しみなく披露されたのだが、曲目に着目すると、面白い点に気が付いた。サザンがメジャーデビューした1978年から現在の2019年まで、各年代の楽曲が見事なまでに均一に選ばれていたのである。

・1970年代の楽曲から:3曲
・1980年代の楽曲から:11曲
・1990年代の楽曲から:11曲
・2000年〜の楽曲から:11曲(未発表新曲含む)

 70年代は実質2年の活動、2000年以降の休止期間数回を加味して、2000年以降をひと年代と捉えると、先述のような曲目の振り分けは、ほぼ均一のバランスと感じられる。たまたま、そうなったのかもしれないが、「40周年イベント千秋楽」という大きな節目に対してのセットリストの組み立てだったとしたら、とびきり粋なはからいだ。

 例えば「マンピーのG★SPOT」(1995年作品)あたりからサザンを知った年齢なら、その時代にリアルタイムで楽しんだ楽曲も、それ以前の「ミス・ブランニュー・デイ(MISS BRAND-NEW DAY)」、2000年以降の「東京VICTORY」も、そして最新の未発表曲まで、昭和・平成・令和をまたぐ40年間の網羅という、贅沢なエンターテインメントと感じられたのではないだろうか。

 「自分にとってのサザンのイメージ」というのは、どこかの年代の作品に偏ることもあるかもしれないが、この日の公演でサザンを味わった後は、バンドの歴史とこれからの未来が、来場前の数倍にも膨らみ、興奮覚めやらぬ心境を持ち帰らせてくれた。

 デビュー当時や80年代・90年代の楽曲も現在のサザン・アレンジによって鮮やかに映え、近年の楽曲は活き活きと踊っていた。“サザンオールスターズ”という粋で景気の良いタフな生き物が東京ドームを縦横無尽に遠慮なく暴れ回っているようだった。

 約3時間半の公演の中で特に強く、そして深く感じたのは、サザンの楽曲は、歌詞・楽曲・アレンジ、ライブ演出と、人間の“文化的感覚”というか、そういった器官の隅々に染みわたる要素を感じることができたことだ。それは、意識的には気付いていなかった部分すらも、感情として、表面化させてくれるように昇華される。

森羅万象の辞典を引くように心情をエンタメ化

撮影=西槇太一

 サザンオールスターズというバンドは、まるで人の心を揺さぶる方法、楽しみ・深みが記されている“辞典”を持っているかのような印象すら受ける。言葉や音、アクション、エンタメ性、それぞれをわかりやすく、しかし深く、一つの作品として仕上げた上で聴き手が捉えやすいように伝えること――。

 それは、わからないことを辞典で調べて納得、解決したときのようなスッキリした心境を、エンターテインメントという形でこれでもかというくらい膨らませてくれるようだ。

 歌詞の言い回しや、多岐に渡る音楽色、ライブでの曲の蘇らせぶり、ハッピーな演出面、エロティックな表現や、ダークサイドの魅せ方など、改めて、サザンの持つ文化懐柔の深さを感じたのである。大勢の人間をハッピーにさる、森羅万象のポピュラーミュージックの魅力を一公演で受け取った、という感覚すら湧いてくるのである。

 サザンというハッピーな辞典から引かれ、わかりやすく、素敵な形で表されたエンターテインメント性は、作品の節々に表れている。

 「勝手にシンドバッド」のラテン系のノリに「そんな歌の乗せ方があるのか!」というくらいの豪快でポップなメロディ。日本語の響きの美しさを再確認させてくれる歌詞が綴られる「CRY 哀 CRY」、「マンピーのG★SPOT」の<芥川龍之介がスライを聴いて “お歌が上手"とほざいたと言う>という誰も思いつかないような歌詞を4小節内にサラっとおさめる荒技。

 そして、サザンの辞典は常にアップデートされている。それは、「闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて(2018年作品)」の<弊社を「ブラック」とメディアが言った 違う違う>という歌詞からも垣間見える。“ブラック(企業)”という言葉は、最前線を走って時代を見つめていないと、歌詞のフレーズとして抽出できない言葉だ。

 例を挙げれば枚挙に暇がないのだが、歌詞とメロディという点だけでも、特異なアプローチをポップにして、各時代でライブによって曲をその時代のカラーで蘇らせることを、40年間も維持しているバンドであるという凄さを、改めて実感することができたライブだった。

40年間、その時々の時代背景や人間の感情を歌い続ける

サザンオールスターズ

撮影=西槇太一

 各時代の背景や心情、メッセージや風刺が各楽曲に含まれている点も、この日の公演で改めて知ることができた。過去の出来事や栄光をリアルタイムで当時歌った曲でも、ライブという空間では現代のノリに書き換えて何の違和感もなく楽しませてくれる。「この曲きた! 懐かしい!」というよりも「今やるとこうなんだ!」という印象の方が強いのである。

 この日は「壮年JUMP」や「わすれじのレイド・バック」などを、公演日限りの歌詞とタイトルに変えて演奏した。こういったアクションや演奏をサザンは、彼らの全歴史でおこない、これからもやり続けるということを考えると、改めてモンスター級のバンドだと感じる。

 本文では、千秋楽の曲目のみから参照したが、言わずもがな、それら以外にもサザンオールスターズの名曲は数多くある。この日は、それらのなかから選りすぐりの36曲を披露してくれたサザンから40年分の愛を惜しみなくもらうような体験だった。音楽を通して文化と感情のレンジを常に広げてくれる“サザンオールスターズ”という存在自体に、感極まる思いを受けた。

最新形、最前線のサザン

サザンオールスターズ

撮影=西槇太一

 「サザンの40年間の歴史を、一大エンターテインメントとして楽しませてくれた」という点にプラスして、“最新形、最前線のサザン”を感じることもできた。それを最もわかりやすい形で提示していたのは未発表の新曲「愛はスローにちょっとずつ(仮)」の披露だろう。

 その場で新曲を演奏するということだけでも、最前線を走っているバンドのかたちを表すのには十分なのだが、“最新形、最前線のサザン”は、「我々の思う、いつものサザン」という姿をライブで見せてくれるということ自体にも表れていると感じる。それは、曲自体が大きく変わるわけではないのだが、ライブでは“今のかたち”として表現してくれるという点だ。

 「ちょっとやりすぎた」という表現や演出に対し、抗議やクレームを受けたとしても、その点に関しては真摯に受け止め、そこからまた違う形で、スタイルは決して崩さず、「それでこそサザン!」という楽曲やライブ、演出を今もなおやり続けている。見えない何かに忖度するのではなく、作品に演出にいつも通り大暴れするサザンの姿は爽快の一言である。それは、今回のツアータイトルにも表れているように感じられる。

 サザンは、各時代で人の心情を唄い、社会に問題提起し続け、我々の心中を問い、未来を提示してくれる。あくまで、エンターテインメントとして。険はカッコ良く、愛はロマンティックに、エロは下品ではなくエロ楽しく。次の世代が引き継ぐDNAとしても、唯一無二の存在としても、常に最前線にこれからも立ち続けるサザンの姿が表れている公演だった。

 桑田佳祐は最後に「今日来てくれて本当にありがとうね! メンバー一同たいへん、たいへん幸せであります!」「また会おうね!」と、東京ドーム中に声を響かせ、「勝手にシンドバッド」、「旅姿四十周年」と続き、感動のフィナーレとなった。サザンの全時代、昭和・平成・令和をまたぐ40年間を網羅した圧巻のステージは、あまりにも贅沢な時間だった――。

セットリスト

6月16日@東京ドーム

1. 東京VICTORY
2. 壮年JUMP
3. 希望の轍
4. 闘う戦士(もの)たちへ愛を込めて
5. SAUDADE~真冬の蜃気楼~ 
6. 彩~Aja~
7. 神の島遥か国
8. 青春番外地
9. 欲しくて欲しくてたまらない
10. Moon Light Lover
11. 赤い炎の女
12. 北鎌倉の思い出
13. 古戦場で濡れん坊は昭和のHero
14. JAPANEGGE (ジャパネゲエ)
15. 女神達への情歌 (報道されないY型[ケイ]の彼方へ)
16. 慕情
17. 愛はスローにちょっとずつ(仮)
18. ゆけ!!力道山
19. CRY 哀 CRY
20. HAIR
21. 当って砕けろ
22. 東京シャッフル
23. DJ・コービーの伝説 
24. わすれじのレイド・バック
25. 思い過ごしも恋のうち
26. はっぴいえんど
27. シュラバ★ラ★バンバ SHULABA-LA-BAMBA
28. マチルダBABY
29. ミス・ブランニュー・デイ (MISS BRAND-NEW DAY)
30. イエローマン~星の王子様~ 
31. マンピーのG★SPOT
[ENCORE]
1. I AM YOUR SINGER
2. LOVE AFFAIR~秘密のデート〜
3. 栄光の男
4. 勝手にシンドバッド
5. 旅姿四十周年

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