「寄り添う音楽を」andropの思い、“Home”代官山UNITでのツアー最終で体現
撮影=笹原清明
andropが6月22日、東京・代官山UNITで全国ツアー『one-man live tour 2019 “daily”』のファイナル公演をおこなった。昨年12月発売のアルバム『daily』を引っ提げたツアーは東京、仙台、名古屋、大阪、福岡の計6公演。最終地である同所は、彼らが初めてワンマンライブをおこなった思い出の地。予定にはなかったWアンコールにも応えるなど、特別な一夜となった。内澤崇仁がこの日伝えた「皆さんに寄り添うような音楽を作りたい」。近い距離感で届けられた音楽はその言葉を体現するかのように、オーディエンスに寄り添っていた。【取材=木村陽仁】
ライブの序章
「ライブハウスはいいよね」。終盤、柔らかみのある笑みを浮かべ何度もそう語った内澤崇仁。この日のライブはチケットを入手できなかった人も多かったという。彼らなら大きな会場でおこなう選択肢もあったはずだ。それなのになぜライブハウスを選んだのか。この会場が特別な場所だったから、というだけではないはず。しかし、そんな疑問はライブが終わって消えた。「悲しい時や寂しい時があったら僕らの音楽を聴いてほしい。皆さんに寄り添うような音楽を作りたい」。内澤が語った言葉、そして歌詞と音楽が結んだファンとの距離感は、ピンと張った糸電話のように限りなく近く、そして鮮明で、アナログのような温かみがあった。彼らはいつもオーディエンスのそばにいる。それを体現しているだけで、彼らにとっては会場の大きさなどは関係のないものだった。
◇
午後6時前。オーディエンスで埋め尽くされた場内は薄暗く、そのなかで静かに音が鳴っていた。開演を迎える頃、照度は絞られアンビエントな音楽が流れ出す。ステージ後ろからは幾つかのライトが青く光っては消えを繰り返し、程なくして、回転数を上げるエンジンのようにSEのボリュームが上がっていく。白に色が変わっていたライトが激しく点滅を始める。それを合図にメンバーが登場すると拍手に包まれた。しばらくして音がピタリと止まり、一瞬の沈黙ののちに優しいイントロが流れ出す。そして、内澤は大きく息を吸い込むと歌い出した。
「Blue Nude」
それは静かな始まりだった。ここ数年の彼らの音楽はマイナー調のものが多い。それは、喜びの裏返しでもある悲しみにも直視しているかのよう。悲しみを乗り越えた先に喜びがある、ということを、音楽をもって表現するかのようだ。この日の始まりもそうした楽曲が並んだ。幕開けを飾る「Blue Nude」、そして「For you」。その後を紡ぐ「MirrorDance」はクラップ音から始まるアップテンポなナンバーで、暗闇に光を差し込むような世界観だ。展開的にはここで終わってもいいところだが、そのあとにクラブミュージック感が溢れる「Saturday Night Apollo」を届けた。七色に光るライトは街のネオンのよう。跳ねるリズムにオーディエンスは手を挙げ、心地よく体を揺らしていた。「サタデーに披露するのは初めて」と語った佐藤拓也。内澤崇仁も「良いサタデーにしたいですね。みんなで楽しい夜にしましょう」と呼びかけたが、それまでの3曲が一つのショートストーリーで身近にある社会、心模様を表現しているかのよう。いわばこのライブの序章であり、解放感溢れる「Saturday Night Apollo」はその空間から解き放たれるファンファーレともいえる。そうしたドラマティックな展開はこのあとも続く。
ツアーで俯瞰できたアルバム曲
5曲目からはまた異なるドラマが始まる。優しい音色の「Proust」、ピアノの旋律が印象的な「Radio」。そして壮大な「Blanco」。これらは、人との関係性の変化を様々な形で見せているようで、捉え方によっては恋の行方を描写しているようにもみえる。恋が始まり、恋に喜び、恋を抱く。そんな展開だった。そして、この流れはのちに披露される「Koi」にもつながる。1曲1曲が個として存在しているがのちになって全てがつながる、2018年3月リリースのフルアルバム『cocoon』でもみせた壮大なしかけだ。
7曲を終え、MCに入る。佐藤は「充実したツアーだった」と笑みを見せ、ツアー先のサウナでメンバーの絆を確かめることができたとも語った。そのなかで内澤は『daily』への思いを明かした。
「作っているときは、発売日を延期するぐらいだったから相当追い詰められていて、それでも妥協しないと作っていった音楽がやっとできて、作ったときは俯瞰してみることができなかった部分も、半年経ってツアーを回って曲と向き合っていくにつれてたくさん理解できるようになって。ツアーをまわるごとに自分たちの思いを伝えられるようになっていった。作ったものを常に100%で伝えられるように思っているけど、今日はその集大成を伝えたい」
そう述べて内澤は大きく息を吸い込むと歌い出す。同アルバムの収録曲「Canvas」。この曲を終え、ここからは明るいナンバーが並ぶ。軽快なリズムの「Youth」や「Nam(a)e」。特に11曲目「Singer」はドラマのエンディングのような明るさがあった。
すべての帰結、「Hikari」
MCを挟んで、内澤は「このステージに立てているのは来てくれたみんなのおかげ。この瞬間を共有できるのは奇跡だとライブをやるたびに感じていて。僕たちも音楽を途中で辞めていたらきょうはなかった。楽しいこともつらいことも悲しいこともたくさんあるなかで、いろんな人生を経ていま共有できている、この全員で一緒に楽しむことができることはすごいこと。音楽は寄り添えるものだと思って作っている」と語り、「Hikari」。
この日のライブは、いくつかのドラマがあり、それを飾る重要な曲があった。そのなかでも大きな役割を担っていた一つにこの「Hikari」があった。もともとフジテレビ系ドラマ『グッド・ドクター』の主題歌のために書き下ろした曲で、生と死、出逢いと別れをテーマに書いた。ドラマの主題歌という役割を終えた同曲はこの日、ライブを支える扇の要になっていた。全ての悲しみや喜び、出逢いと別れに差す希望の光。喜怒哀楽がこもる11曲までの物語をすべて飲み込み、そして涙をまとった希望へと変換させた。
『daily』の世界観は「Hikari」をもって帰結されたかのように、ここからアップテンポなナンバーが続き、終盤に向けて盛り上がっていく。そしてラストは「Koi」。初めて内澤が描いたandropの楽曲としての恋愛ソング。希望を得た心は愛に満たされていた。ツアーファイナルの本編はそうして終えた。
アンコールでは内澤が名残惜しそうに、次の曲へいくことをためらった。そのなかで同所への思い、そして音楽への思いを語る。
「ライブハウス、いいですね。ここは思い入れのある場所で、『Voice』のMVを撮ったのもここだし、5周年のライブをやったのもここ。初めてのワンマンライブをやったのもここでした。この距離感だからこそ伝えられる空気感もあって。また良い音楽を届けられるように頑張りたい。(心の再生ボタン)を押してくれたら(僕らの音楽は)すぐ近くに行きます」
そして、最後に届けたのは「Home」。このライブハウスが、andropのホームであるかのように。
アンコールを終えて終演――、のはずだったが、止まない歓声に応え、予定にはなかったWアンコール。内澤は「素敵な明日を…」と語り、「Hana」を届けた。
MCでは終始笑顔だったメンバー。まさしく充実した作品、ツアーだったことはその笑顔からも読み取れた。そして、内澤が語った「寄り添いたい」。それが音楽、歌、ライブにも反映。今のandropの気持ちが集大成となって現れていたのがこの日のファイナルだった。
セットリスト
01.Blue Nude
02.For you
03.MirrorDance
04.Saturday Night Apollo
05.Proust
06.Radio
07.Blanco
08.Canvas
09.Youth
10.Nam(a)e
11.Singer
12.Hikari
13.SOS!
14.Prism
15.Voice
16.Yeah! Yeah! Yeah!
17.Koi
EN01.Home
WEN01.Hana















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