andropの内澤崇仁が12日、2度目となる弾き語り配信ライブ『Takahito Uchisawa「U」 ~Bedtime Stories Vol.2~』を行なった。この配信ライブは新型コロナウイルスによる影響で未だ先行きが見えない状況が続くなかで、“不安な日々を送っているあなたに寄り添い、少しでも元気になってもらえるように”という内澤の思いを込めた企画。この配信ライブの収益の一部は、内澤の生まれ故郷、青森・八戸ROXXのライブハウス支援に充てられる。5月30日に行われた1回目の配信が好評だったこともあり、2回目の開催となった。開催日となった6月12日は延期になってしまったが当初予定していたandropのツアー初日。ライブは「Koi」やヒトリエのカバー「フユノ」から、上白石萌音に楽曲提供した「ストーリーボード」などアンコール含め全10曲を届けた。その弾き語り配信ライブの模様を以下にレポートする。【取材=村上順一】

自分の音楽と出会ってくれてありがとう

androp内澤崇仁

 心地よい眠りについて欲しい、という内澤の想いからライブは音声のみで、23時からのスタートというコンセプトで届けられる『「U」 ~Bedtime Stories〜』。サイトにアクセスすると逆再生のシンセサイザーによるアンビエントミュージックが流れており、その音に酔いしれていると開演時刻にBGMはフェードアウトし、ベルの音が印象的なSEに切り替わった。そして、刹那の無音から内澤の奏でるガットギターによる温もりを感じさせるアルペジオへ。オープニングを飾ったのは昨年リリースされた11枚目のシングル「Koi 」。儚くも温もりのある歌声、そして、指とギターの弦が擦れる音もリアルに響く。

 MCはラジオから流れるメッセージを聞いているようだった。内澤は「眠りにつくまでのしばらくの時間は、一旦全てを忘れて、あなたが一番落ち着ける場所に身を置いてこの声を受け取ってもらえると嬉しいです」と語り、さらに「この時間だからこそ、届けたい音楽が思い浮かんでいます。ゆっくりと身を委ねて下さい」と初の弾き語り披露となった「Blanco」。アコギでパーカッシブなサウンドも取り入れながら、サビではストロークと抑揚をつけたドラマチックな展開で聴かせる。

 内澤はエレキギターにチェンジし「HoshiDenwa」を届けた。<寂しい夜が今延びてゆく>とこの時間と心境に寄り添う歌詞と、ディレイ(やまびこ効果を生み出す機器)が掛かった幻想的なギターサウンドで、目の前に星が見えるかのような情景を映し出していた。歌唱後に内澤は「やっぱりバンドでやりたいなあ…」とポツリ。続いて「好きな曲があります」とヒトリエのカバーで「フユノ」を歌唱。内澤の印象的なファルセットボイスがメロディを生き生きと彩っていた。

 MCではおとぎ話(Bedtime Stories)が好きで弟に読んでいたこと明かした。その話の前後に自作のOP曲とED曲を付けていたという微笑ましいエピソード。続いて「それぞれがいろんなことを感じてきたと思うけど、こんな時期だから気付けたことがきっとあったと思う。そんな色んな考えや感情を音楽にして行こうと思っています。自分の音楽と出会ってくれてありがとうございます」と感謝を述べ、上白石萌音に楽曲提供した「ストーリーボード」をセルフカバー。物語を紡ぐように歌い上げる内澤の歌は、単色の画面越しに演奏する姿が見えるようだった。

 いま6本のギターに囲まれていることを明かし、もともとギタリストでandropでボーカリストとして活動を始めた内澤は「11年、ボーカリストとして生きてるんだなあ…」としみじみ。歌を教えてくれた今は亡き恩師のことを語る。改めて恩師が今の自分と同じ歳で亡くなってしまったことを知り、涙が止まらなかったという。「先生の分まで教えてもらった歌を届けられたらいいなと思っていて…。受け継いだものは今も心に生き続けていると思っている」と想いを述べた。そして、その当時に作ったという「Missing」を披露。その歌声は空にいる恩師へ向けて歌っているようでもあり、自分は何かを探しながら今を生きていく、そんな気概を感じさせてくれた。

未来への希望を提示したい

androp内澤崇仁

 ライブも佳境へ。内澤は「最近泣いたあなたへ――」と投げかけ「Rainbows」、そしてピアノにチェンジし叙情的な歌声を響かせた「Songs」と、この特別な夜を彩るように感情を声に乗せ、時に熱く、時に切なく歌い上げていく。

 延期になってしまったツアーについて内澤は、「もう一度初心に戻ってワクワクするものとか、心に響くようなツアーにしようと思っていました」語り、ツアーを中止ではなく延期にしたことについて「少しでも目標や希望を持つことは大事なんじゃないかなと思いました。中止という判断をすることはできるけど、未来への希望を提示したいと思っています。また大切な場所で音楽を心から楽しめる日が来たら、一緒に楽しみましょう。場所は僕たちが提示していきます」と想いを語った。

 「音楽は無くなりません。また会える日を信じて活動していきますので、待っていただけると嬉しいです」と意気込みを述べた。そして、この音のみという配信ライブについて「音だけで楽しんでくれて嬉しかった。あなたのためだけに場所を作っていきたいと思います」と午前0時を廻り届けられた「Home」。

 <君のために作った場所さ>と再びアコースティックギターの音色と共に、ほとんどリバーブなど掛かっていない、近くに感じられる内澤のほっとするような歌声。聴く人それぞれの安心できる場所を想起させる1曲だが、この日の「Home」は、これまでみんなと作り上げてきたライブ空間を“Home”と見立てているようにも感じられた。また、あの当たり前の日々に戻れることを願い歌い紡いでいく。

 「あれっ? 日付も変わったのに、まだ寝てないか…」と、まだ眠りについてないリスナーへ向けて、内澤が音楽プロデュースを担当した映画『サヨナラまでの30分』に登場するバンドECHOLLの「風と星」を最後に届けた。この時間に聴いてくれている人たちに語りかけるように歌い、「おやすみなさい。いい夢を」と言葉を残し、『「U」~Bedtime Stories Vol.2』の幕は閉じた。

 映像なしという音に集中できる『「U」~Bedtime Stories〜』は、音楽の原点に立ち返らせてくれるような体験をこの2020年に味わわせてくれた。MCで語った「場所は僕たちが提示していきます――」というこの言葉に期待が高まった。
 

セットリスト

Takahito Uchisawa「U」~Bedtime Stories Vol.2~

01.Koi
02.Blanco
03.HoshiDenwa
04.フユノ(ヒトリエ カバー楽曲)
05.ストーリーボード(上白石萌音 提供楽曲セルフカバー)
06.Missing
07.Rainbows
08.Songs
09.Home

ENCORE

EN1.風と星(ECHOLL 提供楽曲セルフカバー)

この記事の写真

記事タグ 


コメントを書く(ユーザー登録不要)