Koji Nakamura「生活音が音楽として結び付く」今こそ求められる多様な音楽
INTERVIEW

Koji Nakamura「生活音が音楽として結び付く」今こそ求められる多様な音楽


記者:平吉賢治

撮影:

掲載:19年06月26日

読了時間:約13分

ビートが音楽にもたらす印象

――極力ビートを入れないという部分が本作にみられますが、ビートが流行を作り出したりするということもある?

 ビートはここ数年ずっと課題というか、ビートの存在によってある種のジャンルというかカテゴライズされてしまうというか。必要な所に必要なビートを入れるというのは別にその通りだと思うんですけど、それがあまりにも定着し過ぎているというか、考えてなさ過ぎて、という瞬間が多々あるから…これだけたくさん音楽があると、「ここで4つ打ちくるでしょ」って思ったら本当にきちゃったりする瞬間とか、そういうのが多過ぎて。そうなるとちょっと危険だなと思って。それで入れない方向で考えてて入れなくても、頭の中で自分でビートを作っちゃうから「けっこう乗れるじゃん」と思って。

――ビートはリスナーに委ねた?

 最近は行ってないですけど、クラブミュージックが流れるような現場に行って、ビートがかかっていると疲れちゃってボーっとしていて…ビートがかかっていないときにDJがノイズとかアンビエントとかを混ぜていく瞬間とかが一番盛り上がるから。その時が一番楽しいし。今の自分は、ビートに対してそこまで興味はないし。ビートに関しては実際みんな難しいと思っていると思いますけどね。

――4つ打ちのビートがメインの楽曲だと、もうハウスというジャンルに捉えることができてしまいますよね。

 本人が「ハウスではない」と思い込んで作っていても、ある人にとってはもう「ハウスだ」とか、テクノのつもり、ダンスミュージックとして機能するように作っていない4つ打ちも「ダンスミュージックなんでしょ?」という捉えられ方しちゃうから。それって聴いていないのと一緒かもしれませんからね。制作者の思いを汲み取る手前の段階というか。危険だなとは思うけど、それが必要だなと思う瞬間もあるからそういう時は入れた方がいいと思います。自分がまず音を聴いてもらいたかったから、「このビートが入っているからこういう系取り入れたんだな」という考え方を持ってもらいたくないというのはありますけど。

――確かに、今作の各トラックの特徴をメモしようとしたときに、ジャンル名などがなかなか出てきませんでした。

 自分も、こういうアルバム作業とかではないCM曲の仕事のときに、要望を聴いて「ダンスミュージックね」とか書くことはあるんです。そのときはCMの仕事だから、仕事としてやるという感じなので、別にそれは苦でもなんでもなくて。監督の絵に合わせて音楽が作れるって面白いよねという頭ではいるんですけど、自分の作品までそれになるのはちょっと違うなと思って。とはいえ、現状そういう音楽が蔓延しているので。「なんか違う」と思って。だから違うものをやろうと思ったんです。

――今作のプロデューサーであるトラックメイカーのKazumichi Komatsu(madegg)さんについてですが、どのように制作が進んでいったのでしょうか?

 彼は今京都に住んでいるから一回京都に行って、僕は彼の音楽のファンだから、今これまで話したような音楽を一緒に作りたいという話をしつつ、自分の方から今回の曲の下地になるような、わりと簡単なメロディと背景の音だけみたいなのを彼に送って、彼からまたデータが返ってきて、構築されたものもあったり、自由に作られたものもあったし。それをこっちでまとめて整理して構成を作り変えたりしてまた彼に送って、そこから「ここは壊してほしい」とか、注文は色々ですけど。自分にないセンスを持っている人だから、彼だったら自分が考えてもいない料理の仕方をしてほしいという感じで提案して、そういう作業をしていました。

――歌詞に関してもそのような感じでしょうか?

 今回歌詞を書いてくれたArita shohei君と会ったのは、このアルバムがスタートしていて、詞を書く人を探さなきゃと思ってたら、たまたま自分が演奏したライブの対バンが彼で。リハーサルで聴いていたら「この人良い曲を書くし言葉が入ってくるな」と思って。本番も凄く良かったから、初対面だったけど「今アルバムを作っているから歌詞を書いてほしい」とオファーして。実際どうなのかというのは最初わからなかったんですけど、最初に「Lotus」という曲を彼が書いてくれて、それが最初に少し形になった曲だったんです。「Lotus」の歌詞がきて、そうしたらもう何の問題もなくて。歌ってみたら自分も問題ないし。とは言え、こういうコンセプトだから自分が歌ってみて音が出来上がってから「Arita君が歌詞直したいとかあったら全然やっていいよ」って言ったんですけど、直しはなかったですね。

――自身の歌の役割、立ち位置的にはどういった感じと捉えていますか?

 やっているときは、このトラックの上で乗っている自分の声の音が馴染んでくれたらいいというか、音として良い音で鳴っていればいいなと思ってやっているので…音の部分でmadegg君がけっこうやっている時間もあったし、自分は自分でより歌を精査する時間というか、歌を何回も構築していく時間が今回は一番多かったかもしれないですね。

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